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火と月
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「さぁ、どういう事か説明をしてくれ!」
カイルの凛とした声が、王太子宮の彼の自室に響いた。
その声は、少しだけ…
少しだけ、誰かを責め立てる様な、そんな声色をしていた。
現在、この部屋にいるのは3人。
部屋の主人であるカイル、賓客であるハルシオン、そして洗濯物が入ったカゴを抱えるココことセリーナだ。
カイルから発せられた一声に、まるで同調するかの様にハルシオンからも疑問の声が上がった。
「私も聞きたい。何故、カイルの側でメイドになどなっているのか」
そう、話すハルシオンの声は優しくはあるものの、決して誤魔化すことは許されないと感じさせられる威圧感があった。
2人の真っ直ぐな強い視線を、全身で浴びたココであるセリーナは、ふぅーっと息を吐くとスッと姿勢を正した。
そして、ゆっくりと視線を前に立つ2人へと向ける。
その姿は、もはや一介のメイドではない。
歴とした王族としての姿だった。
セリーナは、2人に向けてゆっくりと言葉を紡いだ。
土の国の王族として、堂々と、全ての表情をコロシテ。
「まず始めに。
カイル殿下、ハルシオン殿下。
お二人に、土の国を代表致しまして、心からの謝罪と感謝を申し上げます。
クロノスを…土の民をお救いいただき、ありがとう存じます。皆様のお陰で、最小限の犠牲で争いに終止符を打つことができました。この御恩は、必ずやお返しいたします。
そして、この度の争いは全てわたくしに責がございます。他国を巻き込み、祖国を滅ぼし、家族を…、陛下を始め…っ、王太子までも失ってしまいました。
全ては、私が、彼の国との婚約を拒否した為でございます。」
「それは、違う!!!」
セリーナの声を、断ち切るそうにハルシオンから声が上がった。
「絶対に違う!セリーナの所為ではない!」
「あぁ、君の所為ではない。あの国が愚かだったのだ」
ハルシオンの発言を肯定するかの様に、カイルからも声がかけられた。
しかし、セリーナはそれを頑として受け入れなかった。
「いえ、この度の件は、私に責任がございます。
私の我儘の所為で、周りに被害が出てしまいました。当事者である私が生き延びて、関係のない者達が血を流したのです…。
本当に、本当に…
申し訳ございませんでした…」
そう震える声で、最後まで言葉を紡いだセリーナは、2人に向かい深々と頭を下げた。
いち早く、セリーナの肩を抱いたのはハルシオンだった。
彼女を、ぎゅっと抱きしめながら彼は言う。
「そんな筈、ある訳ないだろう」と。
ハルシオンの腕の中で、言葉にならない声で、必死に首を振るセリーナに対し、カイルも声をかけた。
「ココ…いや、セリーナ嬢。
君が生きていてくれて本当によかった。
これで、少しはセスも安心できるだろう」
ハッとして、セリーナが顔を上げた。
その目には、静かに涙を流すカイルの姿が写っていた。
カイルの凛とした声が、王太子宮の彼の自室に響いた。
その声は、少しだけ…
少しだけ、誰かを責め立てる様な、そんな声色をしていた。
現在、この部屋にいるのは3人。
部屋の主人であるカイル、賓客であるハルシオン、そして洗濯物が入ったカゴを抱えるココことセリーナだ。
カイルから発せられた一声に、まるで同調するかの様にハルシオンからも疑問の声が上がった。
「私も聞きたい。何故、カイルの側でメイドになどなっているのか」
そう、話すハルシオンの声は優しくはあるものの、決して誤魔化すことは許されないと感じさせられる威圧感があった。
2人の真っ直ぐな強い視線を、全身で浴びたココであるセリーナは、ふぅーっと息を吐くとスッと姿勢を正した。
そして、ゆっくりと視線を前に立つ2人へと向ける。
その姿は、もはや一介のメイドではない。
歴とした王族としての姿だった。
セリーナは、2人に向けてゆっくりと言葉を紡いだ。
土の国の王族として、堂々と、全ての表情をコロシテ。
「まず始めに。
カイル殿下、ハルシオン殿下。
お二人に、土の国を代表致しまして、心からの謝罪と感謝を申し上げます。
クロノスを…土の民をお救いいただき、ありがとう存じます。皆様のお陰で、最小限の犠牲で争いに終止符を打つことができました。この御恩は、必ずやお返しいたします。
そして、この度の争いは全てわたくしに責がございます。他国を巻き込み、祖国を滅ぼし、家族を…、陛下を始め…っ、王太子までも失ってしまいました。
全ては、私が、彼の国との婚約を拒否した為でございます。」
「それは、違う!!!」
セリーナの声を、断ち切るそうにハルシオンから声が上がった。
「絶対に違う!セリーナの所為ではない!」
「あぁ、君の所為ではない。あの国が愚かだったのだ」
ハルシオンの発言を肯定するかの様に、カイルからも声がかけられた。
しかし、セリーナはそれを頑として受け入れなかった。
「いえ、この度の件は、私に責任がございます。
私の我儘の所為で、周りに被害が出てしまいました。当事者である私が生き延びて、関係のない者達が血を流したのです…。
本当に、本当に…
申し訳ございませんでした…」
そう震える声で、最後まで言葉を紡いだセリーナは、2人に向かい深々と頭を下げた。
いち早く、セリーナの肩を抱いたのはハルシオンだった。
彼女を、ぎゅっと抱きしめながら彼は言う。
「そんな筈、ある訳ないだろう」と。
ハルシオンの腕の中で、言葉にならない声で、必死に首を振るセリーナに対し、カイルも声をかけた。
「ココ…いや、セリーナ嬢。
君が生きていてくれて本当によかった。
これで、少しはセスも安心できるだろう」
ハッとして、セリーナが顔を上げた。
その目には、静かに涙を流すカイルの姿が写っていた。
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