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火と月

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「…カイル、何か情報はあるか?」


「いや、特にはこれといって無い」


「そうか…」


陛下達への挨拶を済ませた後、ハルシオンは案内された別室でカイルと話し込んでいた。
話の内容は、もちろん消息が掴めない"セリーナの行方"である。

どこかに身を潜めているのなら、それでいいのだ。
ただ…、あの忌々しい雷の国ブロンデー風の国アウラに居るのだとすれば、何としてでも助け出したい。


あの日、駆けつけた土の国クロノスで、大切なあの子の遺体を見た。
無残にも、顔の確認が出来ない程、ズタズタに切り裂かれた遺体を…

悲しみと怒りが湧いた。
しかし、それと同時に疑問も浮かんだ。

"ここまで、痛めつける必要があったのか?"

その理由だ。

以前、セリーナに魔力色の識別方法を聞いたことがあった。自分にも見ることはできるか?と。
セリーナは、「はっきり見えるかは分からないけれど、感じることはできると思うわ!」と、言ってハルシオンにコツを教えてくれた。
結果として、ハルシオンには見えなかったが、僅かに感じることはできた。
そして、セリーナは「みんなの魔力を感じてみて!違いがわかると思うわ!」と言って、ハルシオンに、その場にいた全員の魔力を…感じさせていた。

その時に、感じた魔力がこのズタズタの遺体からも、ほんの僅かに感じ取れたのだ。

これは、恐らく…
セリーナの母、クロノスの王妃の魔力だった。

だとすれば…
王妃は、セリーナの遺体を痛めつけたことになる。

___何故か?

そう、考えた時。

一筋の希望が持てた!

もしかすると…

いや、きっと…


"セリーナは生きている"


その希望が、ハルシオンを前に向かせた。
絶対に、助けなければ。
探し出して、セスの分まで、自分が守らなければ!

それからというもの、ハルシオンは内密にセリーナの捜索にあたった。

絶対に、あの2カ国にはセリーナが生きていると知られるわけにはいかないのだ。

ハルシオンは、月の国王夫妻、及び数名の信頼できる上官、そして諜報部隊にのみ"セリーナ生存の確率"について話をした。

そして、その内容に真っ先に頷いたのは、ハルシオンの母、月の国セリニの王妃だった。

母上は、仰った。

「彼女なら、アナスタシアなら絶対に娘を守るわ!
セリーナは、きっとアナの手で逃がされてるわ!」


アナこと、土の国の王妃:アナスタシア

彼女もまた、ハルシオンの母であり月の国の王妃:ラスティリアの心友だった。


父上である月の国王も、命じた。

「何としてでも、セリーナを見つけ保護せよ!」と。

誰もが、セリーナの無事を願っていた。
それだけを信じて、ハルシオン達は今も手がかりを求めて探し回っている。

あの子に…セリーナに、もう一度会えるのなら何でもしよう。

ハルシオンは、妻の生家であるアレースの国王にも掛け合った。
そして、セスに聞いた、セリーナの婚約者候補筆頭にも声をかけた。

妻ルミナの兄であり、
火の国アレースの王太子:カイル・グイード・アレース


そして、あれから…もうすぐ4年が経つ。

俺たちは、まだセリーナを諦めてはいない。





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