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火の国【アレース】
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「まっ…待ってっ!!
どうか、おっ…お待ちください!
殿下…っ!!」
ココの腕を引いて歩くカイルには、もはや静止の声など聞こえなかった。
『俺が抱いたのは、お前だなココ』
そう、カイルに問われた直後、完全にフリーズした様子のココ。
そんな彼女の変化をカイルは見逃さなかった。
そして瞬時に、全てを確信に変えた。
カイルは、ココの腕を掴むと無言で歩き出した。
何度、「お待ち下さい」とココが言ってもカイルは止まること無く進み続ける。
そして、王太子宮へと連れてこられたココは真っ青になった。
己の目を疑いたくなる人物が、待っていましたとばかりに立っているのだから…
「お掛けなさい」
その一声に、抗うことは許されない。
そう思わせるほどの威厳を持った一声に従って、ココは黙って指定された場所に座る。
誰も声を発しない雰囲気に、恐る恐る顔をあげると、じぃーっとココを見つめる目と視線がぶつかる。
そして、これまで見たことの無いような笑顔を返されてしまい、再び視線を足下へと戻した。
笑ってる…
なぜ?どうして?
普段、普段笑顔など向けない方が、満面の笑みされていたら…
正直言って、驚怖でしか無い。
しかも、何故かこの場にいる全員が、笑顔なのだ。
…やはり、驚怖でしかない。
そもそも、何故この場に貴女様がいらっしゃるのですか!?
___総統括侍女長様!!!!
ココは、一人心の中で大きく叫んでいた。
***
時は遡り、夜会二日前。
この日、王太子であるカイル殿下のもとにある報告がなされた。
「…これは、間違いないのだな?」
「はい」
その報告とは、"王女宮専属侍女ココの身辺調査"についてだった。
その調査報告書には、確証を得たものから推測とされるものまで、調べた内容全てが記されていた。
曖昧な報告は無意味ではないかと、考えられるかもしれないが今回の調査相手はクロノスの出身者だ。
クロノスは、大昔よりその持つ力のせいで様々な危機に直面してきた。その為、他国の密偵などと比べても身辺を隠すことにとても長けており、口も堅い。
その為、噂話や何気ない日常会話から少しでも情報を得る必要があった。
もちろん、それも全てカイルの指示だ。
報告書に一通り目を通すと、カイルはフッと笑みをこぼした。
「セル、やはり君の国には驚かされるよ・・」
その言葉に、報告を上げた密偵が申し訳なさそうに頭をさげた。
何故なら、その報告書には必要とされる情報が一切記載されていないからだ。
クロノスが隠蔽に長けていることは、重々承知していたが、まさかココのクロノスでの様子を知る手がかりが全くないとは思わなかった。
「ここまで来ると、高位貴族だと認めざる得ないな」
「恐らく、間違いないかと…。
それと殿下、こちらをご確認下さい」
そう言って、密偵が示したのは、以前開催された晩餐会で給仕していたメイド達の雑談内容だった。
その会話の内容までもが、一語一句報告書に記載されていたのだが、密偵が指したのはその中の数人の会話だった。
『昨晩、泥酔状態の方にお水を…って、ココが持って行った相手って誰だったのかしら?』
『あの時、会場からいなかったのは宰相様とヤスエルズ公爵様でしょ?あとは…、酔っ払ったら直ぐ触ってくる変態息子!』
『あ~、あの変態なら隣の控室で寝てたわよ!ミルドレット様もご息女様も近衛が付いていったから違うわね』
『じゃぁ、あとは~…』
『『『カイル殿下!?』』』
『まっさかぁ~、それにカイル殿下はお酒強いし!』
『いや、でもカイル殿下のこと介抱したいかも!!』
『『『キャー!!』』』
報告書のメイド達の会話はそこまでで、深くは関心を寄せてなかった。
しかし、この文面を見たカイルには当時の様子が少しずつ思い出されてきていた。
確かにあの日、自分は誰かから水を受取り飲んだこと‥
その者に支えられて宮に戻ったこと‥
そして、戻ると言った彼女の腰を引き寄せ唇を奪い、抱いたこと‥
お酒が回り、ぼんやりとした思考の中で抱いた彼女の顔は思い出せない。
しかし、優しく受け入れてくれる声も、あのとき触れた柔らかな肌も思い出した。
そして、あの甘く心が柔らぐような温かい匂い___
そう思った瞬間、カイルの中でピースがはまったかのような感覚がはしった。
どうか、おっ…お待ちください!
殿下…っ!!」
ココの腕を引いて歩くカイルには、もはや静止の声など聞こえなかった。
『俺が抱いたのは、お前だなココ』
そう、カイルに問われた直後、完全にフリーズした様子のココ。
そんな彼女の変化をカイルは見逃さなかった。
そして瞬時に、全てを確信に変えた。
カイルは、ココの腕を掴むと無言で歩き出した。
何度、「お待ち下さい」とココが言ってもカイルは止まること無く進み続ける。
そして、王太子宮へと連れてこられたココは真っ青になった。
己の目を疑いたくなる人物が、待っていましたとばかりに立っているのだから…
「お掛けなさい」
その一声に、抗うことは許されない。
そう思わせるほどの威厳を持った一声に従って、ココは黙って指定された場所に座る。
誰も声を発しない雰囲気に、恐る恐る顔をあげると、じぃーっとココを見つめる目と視線がぶつかる。
そして、これまで見たことの無いような笑顔を返されてしまい、再び視線を足下へと戻した。
笑ってる…
なぜ?どうして?
普段、普段笑顔など向けない方が、満面の笑みされていたら…
正直言って、驚怖でしか無い。
しかも、何故かこの場にいる全員が、笑顔なのだ。
…やはり、驚怖でしかない。
そもそも、何故この場に貴女様がいらっしゃるのですか!?
___総統括侍女長様!!!!
ココは、一人心の中で大きく叫んでいた。
***
時は遡り、夜会二日前。
この日、王太子であるカイル殿下のもとにある報告がなされた。
「…これは、間違いないのだな?」
「はい」
その報告とは、"王女宮専属侍女ココの身辺調査"についてだった。
その調査報告書には、確証を得たものから推測とされるものまで、調べた内容全てが記されていた。
曖昧な報告は無意味ではないかと、考えられるかもしれないが今回の調査相手はクロノスの出身者だ。
クロノスは、大昔よりその持つ力のせいで様々な危機に直面してきた。その為、他国の密偵などと比べても身辺を隠すことにとても長けており、口も堅い。
その為、噂話や何気ない日常会話から少しでも情報を得る必要があった。
もちろん、それも全てカイルの指示だ。
報告書に一通り目を通すと、カイルはフッと笑みをこぼした。
「セル、やはり君の国には驚かされるよ・・」
その言葉に、報告を上げた密偵が申し訳なさそうに頭をさげた。
何故なら、その報告書には必要とされる情報が一切記載されていないからだ。
クロノスが隠蔽に長けていることは、重々承知していたが、まさかココのクロノスでの様子を知る手がかりが全くないとは思わなかった。
「ここまで来ると、高位貴族だと認めざる得ないな」
「恐らく、間違いないかと…。
それと殿下、こちらをご確認下さい」
そう言って、密偵が示したのは、以前開催された晩餐会で給仕していたメイド達の雑談内容だった。
その会話の内容までもが、一語一句報告書に記載されていたのだが、密偵が指したのはその中の数人の会話だった。
『昨晩、泥酔状態の方にお水を…って、ココが持って行った相手って誰だったのかしら?』
『あの時、会場からいなかったのは宰相様とヤスエルズ公爵様でしょ?あとは…、酔っ払ったら直ぐ触ってくる変態息子!』
『あ~、あの変態なら隣の控室で寝てたわよ!ミルドレット様もご息女様も近衛が付いていったから違うわね』
『じゃぁ、あとは~…』
『『『カイル殿下!?』』』
『まっさかぁ~、それにカイル殿下はお酒強いし!』
『いや、でもカイル殿下のこと介抱したいかも!!』
『『『キャー!!』』』
報告書のメイド達の会話はそこまでで、深くは関心を寄せてなかった。
しかし、この文面を見たカイルには当時の様子が少しずつ思い出されてきていた。
確かにあの日、自分は誰かから水を受取り飲んだこと‥
その者に支えられて宮に戻ったこと‥
そして、戻ると言った彼女の腰を引き寄せ唇を奪い、抱いたこと‥
お酒が回り、ぼんやりとした思考の中で抱いた彼女の顔は思い出せない。
しかし、優しく受け入れてくれる声も、あのとき触れた柔らかな肌も思い出した。
そして、あの甘く心が柔らぐような温かい匂い___
そう思った瞬間、カイルの中でピースがはまったかのような感覚がはしった。
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