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火の国【アレース】

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「兄様!!それは、私が持ちますわ!」


「ダメだ!シエルは、治ったばかりなんだから!ここは僕に任せて!」


「でも‥シエルのお花なのに‥」




シエルの体力も徐々に戻り始めた頃、宮廷医師であるゲイゼルの了承も得られたため、殿下一行は予定よりもだいぶ伸びた避暑地での滞在を終え、王都へと帰ることになった。

そして、現在。
花を誰が持つかで揉めているのは、もちろん…シエル王女とクリス王子だった。

因みに、シエルが『私のお花』と言っている白い花は、言葉通りシエルを治癒した際に咲いた花のことだ。
この花は、土の国では昔から【癒やしの花】と呼ばれていて、咲かせたシエル本人の体調が整うまでは枯れることなく咲き続ける。
側に置いておくだけで、癒やしの効果が得られる他、傷や痛みも軽減してくれるのだ。

しかし、何度も言うが…
当事者であるシエルが完治すれば枯れてしまうので、他者がその恩恵を預かれるのは一瞬だ。

それでも、目覚めた後、シエルは未だ足下がふらつく中、屋敷中の使用人達一人一人に花を配り歩いた。

ココから聞いた、花の効能を伝え感謝を述べながら‥


「メリッサ、ミミリー、ずっとお世話をしてくれてありがとう!この花を持っていて!あかぎれが治るわ!」

「カイル兄様、心配掛けてごめんなさい。このお花飾って、ご公務頑張って!」

「クリス兄様、言うこと聞かなくてごめんなさい!膝のお怪我‥この花を持っていて!」

「ゲイゼル、お薬甘くしてくれてありがとう!腰痛いの治るって!」

「マット、美味しいご飯をありがとう!腕痛かったの治るよ!」

「ソル爺!いつもお庭、綺麗にしてくれてありがとう!ソル爺のお庭を散歩するのが大好きよ!」



両手いっぱいに花を抱え、嬉しそうに歩くシエルの姿は、まるで花の妖精を思わせるほど可愛らしかった。
そして、そんなシエルに、屋敷の者達は皆メロメロである。

つい数日前まで、生死を彷徨っていたとは思えないほど明るい笑顔を見せるシエルに、直ぐ側でお世話をしていた者達は花を受け取ると堪えきれず涙ぐんでいた。


そして、出発の日___

王都に戻る者もいれば、この別邸に留まる者達もいる。
そんな者達に向かって、シエルは元気いっぱい宣言した。

「みんな~お花が枯れたら安心してね!それは、シエルが治った!ってことだから♪」

そう言って、馬車の中から大きく手を振り別れを告げる姿は、楽しげにやって来たときと何ら変わらぬ様子に見えた。
どんどんと遠ざかっていく馬車を見送りながら、別邸に残る者達はシエルから渡された花を眺めながら思う。


"すこしでも早く、"

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