上 下
13 / 58
火の国【アレース】

13

しおりを挟む
「シエルの容態は?」

「はっ、それが…未だ熱が下がらず毒消しの薬が全く効いていない状態でございます」

「そうか…国中の土の民に声をかけ、少しでも治癒力を持っているものを探し出せ!」

「はい、かしこまりました」



シエルが突然倒れて、既に5日が経とうとしていた。
王族の避暑地として利用している国の南東に、小さな島がある。
毎回、こちらに遊びにきてはシエルは数人の従者を引き連れて色々な場所へと遊びに出掛けていた。

帰ってくるやいなや、一目散に駆け寄ってきては「あそこに行ってきたわ!」「あちらでは、こういうの食べたのよ!」と、手振り身振りで教えてくれる。

今回も、同様だった。
しかし、朝出かけて日が傾く前に戻ってきたシエルの様子は、明らかに違っていた。
本人も「疲れたから、すぐ休みます」と言い、すぐに寝所へと向かった。

しかし、翌朝容態は悪化していた。
高熱を出し、意識がない。
急ぎ、医師に診てもらうと「毒の反応が見られる」との事だった。
しかし、一体何の毒かが分からない。

寝る前の食事はとっていない。
ならば、毒を盛られたのは出先でのはずだ。
すぐに、調べさせたものの毒を盛られた形跡を見つけることはできなかった。
そうなると、残る可能性はだった。

噛まれたのか、刺されたのか、触れただけなのか…
それすらも、症状が出ておらず判断できなかった。
そして、3日間程経つと高熱でうなされているシエルの身体から発疹のようなものが出始めた。

その症状から、ヤドクガエルという毒ガエルに接触した可能性が有ると診断された。

ヤドクガエルの体に触れた直後で有れば、すぐにその種類を確認し、解毒できるので問題ないのだが、丸一日経つと体内に毒がまわってしまう為、毒の強さの判別がつかなくなる。ましてや、カラフルなヤドクガエルは体の色により使用される解毒剤が変わってくる。
シエルが、どの色のヤドクガエルに触れたのか分からない今、下手に解毒剤を使用することができないのだ。

だから、俺は賭にでた。

"土の民の治癒力"を求めて。

国内にいる土の民の捜索を開始させた。
土の民は保護した、この火の国を思ってくれているはずだ。

しかし、こちらに来た時ほとんどの者が力を隠したとされている。

その力が原因で祖国が滅んだのだ。
隠そうとして、当然だろう。

恐らく、探し出すのは難しいだろう。

セスが良く言っていた意味が、今なら良くわかる。

『なぁ、カイル。
土の国うちの民とは、仲良くしておけよ~。能力を持たない者でもいい。だが、1人だけでも顔見知りができれば、土の民は絶対に見殺しにはしない』

『それなら、大丈夫だ。セスお前がいるからな♪』

『だから、俺じゃなくて…民とだよ』

『まぁ、いざとなればセリーナもいるしな』

『幻姫ね…そうさせてもらうよ!』


半信半疑で聞いている俺に対し、セスは最後まで"うちの民と触れ合っとけよ"と何度も釘を刺していた。
それでも、俺は心のどこかで"セスがいるから"と思っており、楽観視していた。

ふと窓の外に視線をやると、誰もいない庭が見える。
いつもこの時間なら、シエルが走り回っているのに…

「…なぁ、セス。お前の言うとおりだった。
お前も幻姫もいなければ、俺は…妹さえも助けてやれない。
ただの、愚兄だ…」


そう呟くと、カイルは悔しそうに拳を打ち付けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

処理中です...