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第6話 真っ黒な落下物
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「分かんないんだよねー。いつものように診察してたらさー、急に窓の外見て固まったと思ったらさー、心拍数が上がって冷や汗を流し出して、声にならないような声でウーウー喚き散らし出したと思ったらさー、呼吸不全になっちゃって、ほんとビックリしたよ。取り敢えず今は容態安定しているけど、また急に発作起こすと大変だからさー、急いでお薬持ってってもらえる?」
という感じで、いつもお世話になっている近隣のクリニックの医師から依頼が入った。
これは月に一回お薬を届けに行っている足立さん(仮)が急に容態が悪くなったとのことで、臨時でお薬を持って行って欲しいと言われた日の出来事です。
その日は朝から蒸し暑くお昼に向けどんどん気温は上昇し、今年の最高気温を記録した日でした。
日中はグダるような暑さだったが、夕方から天気は急変し雷が鳴り響き大雨となった。こういう急激に気温や気圧が変化する日は体調不良を訴える人が多くなる。
体の弱い方にとっては急激な気温の変化や気圧の変化は負担のかかる嫌な日であろう。足立さんもその影響を受け体調を崩してしまったのだろう。最初はその程度としか考えていなかった。
足立さんのご自宅は駅近のタワーマンションの高層部分の一角にあった。なんとも羨ましいところにお住まいだと思ったが、実際住んでみるとそうともいえないらしい。
眺めは最高で開放的な空間が広がっているとのことで入居を決めたとのことだが、ご自宅のある階の上にはまだ数階有り、タワーマンションの上の下ほどに位置していた。
最寄りの駅を発着する特急列車の本数はそれほど多い訳ではないので、朝の通勤時間帯ともなると皆さん同じ時間帯に集中してしまい、エレベーターは混雑し何かと不便なことが多い環境とのことだ。
エレベーターが自分の階まで来たときにはいっぱいになっていて乗れない事も多々あり、待ち時間が億劫になり、リモートワークで済ませることが多くなり、出不精になり、運動不足になり、不健康になり現在に至るとのことだ。
急いでお薬を用意し薬局を出る。薬局を出た時は物凄い土砂降り、ゲリラ豪雨ともいえるような降り方だったが、マンションに到着する頃には雨はすっかり止んでいた。
マンションに到着するとインターホンを鳴らす。足立さんの旦那さんが対応してくれた。
いつもは爽やかな印象を受ける方なのだが、今日は何だか暗い感じがする。エントランスへのドアを開けてくれたのでエレベーターに乗りご自宅へ向かって上がって行く。
自宅前まで行ってインターホンを鳴らすと、鍵は開けてあるので中に入って来て欲しいと言われたのでお邪魔しますと挨拶し、靴を揃えご自宅に上がらせてもらった。
中に進むと旦那さんはソファに横になっていて、自分も体調が悪いから薬の説明は直接本人にしてくれと頼まれた。
もし本人が寝てしまっていたら手紙書いて帰ってくれていい、わからない事があったら後で電話すると付け加えて動かなくなった。
相当具合が悪かったのだろう。どうりで暗い感じがしたわけだ。
僕は遠慮せずに中へ入って行く。初めて来たわけではないので勝手は分かっている。奥に入り込みベットルームを覗き込むと足立さんは頭まで布団を被っていた。
声をかけてみたが返答が無かった。熟睡しているのだろうか?
そこから見える窓の奥には夕陽が見える。完全に雨は上がったようで、厚い雲も無くなっていた。
窓から中にオレンジ色の光が入り込んできていて、部屋の中を赤く染め上げていく。
夕陽は趣味の良いご夫婦が買い揃えた小物を照らし上げ、何ともいえない幻想的な空間となっていった。
僕はしばらくその光景に見惚れてしまっていたが、今日中に片付けなくてはならない業務が残っていることを思い出し、急いでペンを走らせると必要そうなことを記入し、足立さんに声をかけ部屋を出ようとした。
その時、影が目の前をスゥーッと通り過ぎた。
窓の外を何かが通ったのかと思い窓の外に目を向ける。しばらく見ていたが何も無かったので、窓の外を見るのを止め帰り支度を始めた。
するとまた目の前を影がスゥーッと通り過ぎた。何が通り過ぎたのだろうと思い窓の外を見続けていると、上から下へスゥーッと黒いものが落下していった。
急に何か黒い物体が通過していったように見えた。上の階の住人が何か落としたのだろうか?
こんな高層階から何か落としたとなると大変な事になるぞと思い、窓の方に向かって一歩踏み出すとまた何か黒いものが通過していった。
何が起こっているのだろうか?
今度また黒いものが通過していこうものなら何が落ちていっているのか確認してやろうと思い、見逃さないよう窓を注視しながら近づいていくと、また何か見えてきたので目を凝らし集中した。
後から考えるとそんなことしなければ良かったと本当に後悔した。繰り返し上から落ちてきている黒い物体は人の形をしていたのだ。
しかも目が合ってしまった。
全身真っ黒なのになぜか白目だけはっきりしていた。
しかも目が合った瞬間少し口角が上がったような気がした。
僕はその部屋を早々に退散した。下に降りると下では特に何の騒ぎにもなっていなかった。
人通りはそれなりにある。もし人が落ちていたら大騒ぎになっている事だろう。あれはやっぱり見てはいけないものだったらしい。
そういえばクリニックの医師が、窓の外を見て急に固まったとか言っていたことを思い出す。
もしかしたら足立さんは、あの時僕が見たのと同じものを見てショック状態に陥ってしまったのではないのだろうか?
それだけではなく旦那さんが体調を崩していたのも、同じ理由だったのではないのだろうか。
その後は特に何の異常も見せることなく、お過ごしになられているとのことだ。後日ゆっくり話せる機会があったので、あの日のことを尋ねてみたのだが全く覚えていないとの事だった。
あまりの恐怖体験だったために、脳が記憶を消去してしまったのだろうか?
その後足立さんのご自宅に何度も足を運んでいるが、同じような黒い物が見えることはなかった。
一体あれはなんだったのだろうか?
たまたま医師が診察している日の出来事だったので適切な対応をしてもらえたのだが、また現れてしまったら足立さんはどうなってしまうのだろうか。不安で仕方がない。
という感じで、いつもお世話になっている近隣のクリニックの医師から依頼が入った。
これは月に一回お薬を届けに行っている足立さん(仮)が急に容態が悪くなったとのことで、臨時でお薬を持って行って欲しいと言われた日の出来事です。
その日は朝から蒸し暑くお昼に向けどんどん気温は上昇し、今年の最高気温を記録した日でした。
日中はグダるような暑さだったが、夕方から天気は急変し雷が鳴り響き大雨となった。こういう急激に気温や気圧が変化する日は体調不良を訴える人が多くなる。
体の弱い方にとっては急激な気温の変化や気圧の変化は負担のかかる嫌な日であろう。足立さんもその影響を受け体調を崩してしまったのだろう。最初はその程度としか考えていなかった。
足立さんのご自宅は駅近のタワーマンションの高層部分の一角にあった。なんとも羨ましいところにお住まいだと思ったが、実際住んでみるとそうともいえないらしい。
眺めは最高で開放的な空間が広がっているとのことで入居を決めたとのことだが、ご自宅のある階の上にはまだ数階有り、タワーマンションの上の下ほどに位置していた。
最寄りの駅を発着する特急列車の本数はそれほど多い訳ではないので、朝の通勤時間帯ともなると皆さん同じ時間帯に集中してしまい、エレベーターは混雑し何かと不便なことが多い環境とのことだ。
エレベーターが自分の階まで来たときにはいっぱいになっていて乗れない事も多々あり、待ち時間が億劫になり、リモートワークで済ませることが多くなり、出不精になり、運動不足になり、不健康になり現在に至るとのことだ。
急いでお薬を用意し薬局を出る。薬局を出た時は物凄い土砂降り、ゲリラ豪雨ともいえるような降り方だったが、マンションに到着する頃には雨はすっかり止んでいた。
マンションに到着するとインターホンを鳴らす。足立さんの旦那さんが対応してくれた。
いつもは爽やかな印象を受ける方なのだが、今日は何だか暗い感じがする。エントランスへのドアを開けてくれたのでエレベーターに乗りご自宅へ向かって上がって行く。
自宅前まで行ってインターホンを鳴らすと、鍵は開けてあるので中に入って来て欲しいと言われたのでお邪魔しますと挨拶し、靴を揃えご自宅に上がらせてもらった。
中に進むと旦那さんはソファに横になっていて、自分も体調が悪いから薬の説明は直接本人にしてくれと頼まれた。
もし本人が寝てしまっていたら手紙書いて帰ってくれていい、わからない事があったら後で電話すると付け加えて動かなくなった。
相当具合が悪かったのだろう。どうりで暗い感じがしたわけだ。
僕は遠慮せずに中へ入って行く。初めて来たわけではないので勝手は分かっている。奥に入り込みベットルームを覗き込むと足立さんは頭まで布団を被っていた。
声をかけてみたが返答が無かった。熟睡しているのだろうか?
そこから見える窓の奥には夕陽が見える。完全に雨は上がったようで、厚い雲も無くなっていた。
窓から中にオレンジ色の光が入り込んできていて、部屋の中を赤く染め上げていく。
夕陽は趣味の良いご夫婦が買い揃えた小物を照らし上げ、何ともいえない幻想的な空間となっていった。
僕はしばらくその光景に見惚れてしまっていたが、今日中に片付けなくてはならない業務が残っていることを思い出し、急いでペンを走らせると必要そうなことを記入し、足立さんに声をかけ部屋を出ようとした。
その時、影が目の前をスゥーッと通り過ぎた。
窓の外を何かが通ったのかと思い窓の外に目を向ける。しばらく見ていたが何も無かったので、窓の外を見るのを止め帰り支度を始めた。
するとまた目の前を影がスゥーッと通り過ぎた。何が通り過ぎたのだろうと思い窓の外を見続けていると、上から下へスゥーッと黒いものが落下していった。
急に何か黒い物体が通過していったように見えた。上の階の住人が何か落としたのだろうか?
こんな高層階から何か落としたとなると大変な事になるぞと思い、窓の方に向かって一歩踏み出すとまた何か黒いものが通過していった。
何が起こっているのだろうか?
今度また黒いものが通過していこうものなら何が落ちていっているのか確認してやろうと思い、見逃さないよう窓を注視しながら近づいていくと、また何か見えてきたので目を凝らし集中した。
後から考えるとそんなことしなければ良かったと本当に後悔した。繰り返し上から落ちてきている黒い物体は人の形をしていたのだ。
しかも目が合ってしまった。
全身真っ黒なのになぜか白目だけはっきりしていた。
しかも目が合った瞬間少し口角が上がったような気がした。
僕はその部屋を早々に退散した。下に降りると下では特に何の騒ぎにもなっていなかった。
人通りはそれなりにある。もし人が落ちていたら大騒ぎになっている事だろう。あれはやっぱり見てはいけないものだったらしい。
そういえばクリニックの医師が、窓の外を見て急に固まったとか言っていたことを思い出す。
もしかしたら足立さんは、あの時僕が見たのと同じものを見てショック状態に陥ってしまったのではないのだろうか?
それだけではなく旦那さんが体調を崩していたのも、同じ理由だったのではないのだろうか。
その後は特に何の異常も見せることなく、お過ごしになられているとのことだ。後日ゆっくり話せる機会があったので、あの日のことを尋ねてみたのだが全く覚えていないとの事だった。
あまりの恐怖体験だったために、脳が記憶を消去してしまったのだろうか?
その後足立さんのご自宅に何度も足を運んでいるが、同じような黒い物が見えることはなかった。
一体あれはなんだったのだろうか?
たまたま医師が診察している日の出来事だったので適切な対応をしてもらえたのだが、また現れてしまったら足立さんはどうなってしまうのだろうか。不安で仕方がない。
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