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第5章 悪徳霊媒師をやっつけろ!

第5話 アイドル好きな娘に悪い娘はいない

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 増田梨花は震えているような様子だった。とても霊媒師として多くの人からお金を巻き上げているような、悪党にはとても見えない弱々しい姿がそこにあった。

「大丈夫?もうすぐ警察来るから安心して」

「きっと、梨名さんの迫力が凄すぎたので震えているんですよ」

「はー?こんな清楚で可愛らしい私のどこに迫力があるんだよっ!」

「迫力大ありでしょ」

 そう言うと増田梨花は少し微笑んだ様子となった。

 飛奈がいたら可愛いって言って抱きついていきそうなくらい、穏やかに可愛い仕草でクスクスと笑いだす。

 駅員に帰りたいと言うと、こういうことをすると大変なことになるんだぞって見せしめるためにも、警察が来るまで待って頂いて、ぜひ被害届を出して欲しいと言ってきた。

「お願いします。私どもも痴漢や盗撮が全然減らなくて困っているんです」

 こっちは利用している客なんだから、客の安全くらいそっちで何とかしろよ。

「まあ確かにあんな姑息な手段でこられたら、被害に遭ったことすら分からないかー。見せしめは必要かも」

 私の言葉に一瞬、増田梨花が反応したような気がした。が、私は気付いていない振りをして話を進めた。

「あー、面倒くっさっ!なんで私達があんなクソヤローのために、大事な時間を浪費しないといけないんだよ。なんか腹立ってきた。アイツもう一度、捻り倒しておこうかな」

「梨名さん、次やったら完全にただの暴力行為です」



「今日は本当にありがとうございました」

 警察の事情聴取を終えると私達に向かって増田梨花は深々と頭を下げてきた。

「本当に大丈夫?まだ震えてるよ?」

 家まで送って行くと提案したのだが、キッパリ拒否されてしまった。遠慮する必要はないと何度か押し問答をしたのだが、全く折れる様子はなく拒否され続けてしまった。

 何か家に来てほしくない理由でもあるのだろうか?

 家まで付いていけばお礼と言われて中に通され、探りを入れられるチャンスをもらえるかと思ったのだが、そう上手く事は運ばないようだ。

「なら、親に迎えに来てもらったら?」

 その提案も拒否されてしまった。親に取り行って入り込もうと思ったのだが、それもダメだったようだ。

 うちの親はそういうことはしないのだとか。娘が盗撮被害に遭ったというのに何もしない親なんているのだろうか?

 ならばせめて降りる駅まで付いていかせてと言うとそれは了承してくれた。

「ったく、男ってなんでそんなに盗撮したがるんだろうねー」

 と言いながらスマホを取り出すと、増田梨花は私の待ち受け画面を見て驚いた表情になった。

「えっ!梨名さん、あなたも女性アイドル好きなの?」

 瞳を輝かせて向けてくるものだから、私はドキッとしてしまった。

「もって?あなたも好きなの?」

「はい、大好きなんです。特にこの娘が所属しているグループが大好きで、落ち込んだ時とか、動画見たり、曲を聴いたりしていつも癒されているんです」

 意外な言葉に私は一気に親近感を覚えてしまった。

「ほら、私、可愛い顔してるでしょ。おまけに音楽の才能もあるから、一時はアイドル目指したりもしてたのね。だからアイドルめっちゃ好きなの」

「梨名さん、可愛い顔のとこは突っ込んでいいんですか?」

 天衣がそう言ってきたので、ダメという意味も込め小突いてやった。

「梨花ちゃんはアイドル目指したりしてないの?」

「なるのはちょっと、見たり、聴いたりするだけで十分です」

「顔も可愛いし、声もいい声しているんだから目指してみなよ」

 そんな会話をしていると最寄り駅に到着してしまったようで、電車を急いで降り、駅を出たところで約束通り増田梨花と別れ見送った。

 私達はこっそり後をつけて行く。そして、駅から10分ほど歩いた先のとある一軒家へ増田梨花が入っていくのを見届けた。

「ここって絶対、組織関係の家って感じですよね?」

 なるほど、どうりで自宅まで付いてこられることを頑なに拒否していた訳だ。それに加え、家族の人が警察に迎えにきたくない理由にも頷ける。

「天衣、私、彼女に感情移入してしまったかも」

「いきなりどうしたんですか?」

「アイドル好きな娘に悪い娘はいない」

「何ですかその理論?」

「天衣、気付いていた?私達が駅員室にいた時、『まあ確かにあんな姑息な手段でこられたら、被害に遭ったことすら分からないかー』って言った時、増田梨花が一瞬反応見せたの?」

「ええ、私も思ってました」

「あの娘、自分が姑息な手段使って被害に遭わせている人がいるって思って反応したんじゃないかな?」

「そうだと思いますよ」

「なら、罪悪感を抱えて苦しんでいるかもしれないってことじゃない?」

「いや、そこまでは分からないですけど、梨名さんがそう言うならそうなんじゃないですか?」

「それにもしかしたらあの娘、本当はアイドルになりたいって思っているのに、今の自分の境遇では絶対無理って諦めているんじゃないかなー?」

「ほんと梨名さんの前では嘘はつけないですね。それで、どうしたいんですか?」

「私、あの娘のこと救いたい」

「ほんと梨名さんといい、華鈴さんといい、お節介焼きすぎません?」

 華鈴がどう思っているのかは分からないが、私はアイドルになりたいと思っているあの娘に自分のことを重ね、応援してあげたいと思っているのかもしれない。

 私にはもう絶対にアイドルになるような世界線は訪れない。だから応援してあげたいと思っているのかもしれない。
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