上 下
44 / 96
第2章 悪徳麻薬捜査官をやっつけろ!

第12話 華鈴の方が怖い

しおりを挟む
「なんとか振り切れんのか?」

「ダメです。中に避難しましょう」

「応援は呼べんのか?」

「ダメです。携帯も無線も通じません」

「この役立たず共が!」

 盗聴されているとも知らず、バカ共のそんな声が聞こえてきた。

 石井康静を他の警護者達から引き離すことに成功した私達は、数名の身辺警護者と共に廃工場の中へと追い詰めていった。

 こちらの狙い通りになっているとも知らず、廃工場の敷地内の奥へどんどん入り込んでいく。


「全くあんな奴の警護に税金が使われているなんて信じられないわ。SPは4人よ。注意してね」

「了解」

 状況報告とともに私が溜息混じりの声でそう言うと飛奈達も呆れた感じの声で了解と言ってきた。

 自分の立場を利用し外遊先から違法薬物を持ち込もうとしている。そんな奴の身の安全確保のために国民の血税が使われている。そんなふざけた話はない。

 適度なところで車両に仕掛けておいた発煙筒を作動させる。車からモクモクと煙が上がり出し、車内が慌てふためきだしたのが分かった。

 車をゆっくり停車させると近くのドアから建物内へ侵入していく。

 建物内に入り身を隠したつもりなのだろうが、こちらは赤外線センサーを準備している。向こうの位置など手に取るように分かる。

 そうとも知らず、バカな奴らだ。

 赤外線センサーを搭載したドローンを舞い上がらせ、反応のある方向へ向かわせる。5人は固まって建物内の奥へと進んでいるようだ。

「華鈴さんどうしたらいいんですかー?」

「天衣と梨名はそのまま後ろから追いかけて行って、飛奈と保乃はまわり込んで」

「了解」

「リーダー、コケないでくださいね」

「なんでよ!コケないわよ!」

「飛奈、足引っ張るなよ」

「引っ張らないわよ!」

 飛奈はリーダーのクセにいつも通り、梨名、天衣に弄られていた。

「あなた達こそ、中で迷子にならないようにね」

「それは天衣次第だな」

「こっちから音がするからって向かって、行き止まりに出たのは梨名さんじゃないですかー!」

「コラ!早くしないと逃げちゃうわよ」

 こんな状況でもいつも通りに戯れ合いはじめた3人を、私は一括した。

「3人が暴走したら止めて欲しいって言ってたけど、もしかしたらこの状況を止めることも含まれているの?」

 保乃からそんな言葉が飛んできた。

「そうよ。ちゃんとそのおバカ三姉妹を制御してちょうだい」

「何笑ってるんですか?保乃先輩、余裕ですね」

「笑わせたのはあなた達でしょ。じゃあ行くわよ」

 そんな言葉が聞こえた後、保乃は走り出した。飛奈は残った2人に手を振ってから保乃を追いかけ走り出した。

「じゃあ、私達も行こっか」

「はい」

 飛奈と保乃を見送ると梨名と天衣も行動を開始する。

 私から全員奥に進んで行ったと聞いているので梨名は入口のドアを躊躇なく開ける。

 ドアを開けるとすぐそこは事務所になっているようで、事務机がいくつか並んでいた。その部屋を抜け、奥にあったドアを開けるとガランとした空間が広がった。

 あちこちに廃材が転がり、天井は所々剥がれてきていて、壁際には錆びれ果てた機械らしきものが並んでいる。

「足元に注意しながら進むのよ」

 私がそう言うと了解とだけ言ってきた。

「どこまで行っちゃったんだよ、アイツ等?」

「あー、2人ともストップ」

 私が足元に注意しろと言っているのに、2人は敵の姿が全く見えないので急足を止めようともしないので、止まるよう指示した。

「何だよ?」

 向こうは二手に別れたようだった。3人はそのまま奥に進んでいて、2人は追ってくる者を待ち伏せているようだった。

「梨名、天衣、奥に小部屋が見える?そこに2人が身を潜めている。注意して」

 梨名と天衣は二手に分かれ両端の壁際まで走った。壁際にある物陰に身を隠しながらゆっくり、ゆっくり進んでいく。

 だいぶ接近したところで銃を構えた。あなた達は知らないでしょうけど、いくら身を隠し息を潜めても私にはあなた達の位置が手に取るように分かるのよ。

 先に梨名が射程圏内に到着したようだったので、遠慮しないで撃てと指示を出した。

『ダン、ダン、ダン、ダン』

 息を潜めている場所に向かって容赦なく銃弾を発射した。

 中から大きな物音と共に男性の声が響き渡った。

 銃弾は壁を貫通しなかったようだ。中にいた2人とも無事のようでお互いに声を掛け合っている。

「相変わらず下手くそですねー、その距離で外したんですか?」

 状況を分かってない天衣が梨名を揶揄うような声を上げた。

「違うわよ!壁が硬くて貫通しなかったのよ!」

「本当ですかー?」

「!!伏せてー」

 私は向こうの動きを察知しそう叫んだ。反撃の銃弾が梨名を襲う。

「梨名、大丈夫?」

「あのヤロー、警察のくせに発砲しやがって上司に言い付けるぞ!」

 梨名は憎まれ口を叩けるほど元気のようだ。

 急な銃撃を受けたが特になんともないようなのでホッと胸を撫で下ろす。

「こっちから撃ったんだから、そりゃー、撃ってくるわよ」

 天衣も射程圏内に到着したので二人での銃撃が始まった。

 が、繰り返し何度か銃撃したが、効果は得られなかった。

「梨名さんあと何発残ってますか?」

「弾切れー」

「どうするんですかー?」

「どうするって殺るしかないでしょ?」

「違いますよ!華鈴さんにまた怒られますよ!」

「そっち?そうだねー、何発無駄弾撃ってるのよってまた言われちゃうねー、って違うでしょ。アイツ等より華鈴の方が怖いんかい!」

「そりゃそうでしょ、あんな奴らより100万倍華鈴さんの方が怖いですよ」

「コラコラ、全部聞こえているんですけど!」

 全くアイツ等は、緊張感というものがないのか?

「敵も弾切れだと思うけど、十分注意して近づくのよ」

「了解、私が引き付けるから、天衣は隙を窺って攻撃して」

「分かりました」

 梨名は手を挙げ降参のポーズをし、銃を高く放り投げた。

 天衣も同じようにし物陰から出て梨名の後に続く。梨名が『弾切れなので降参します』と言うと向こうも警戒しながらゆっくりこちらに姿を現してきた。

 銃口を向けたまま周りに仲間がいないか警戒し、いないことを確認すると『貴様ら何でこんなことしたんだ!』やら『こんなことして許されると思っているのか!』やら色々怒号が飛んできた。

「たまたま落ちていた拳銃を撃ってみたくなっちゃったんですー」

 人を小馬鹿にしたような甘い声と甘い仕草をして、梨名は得意の相手の感情を逆撫でするような行動をとる。

 敵はその言葉と態度に怒りの感情を露わにし、さらに罵声を浴びせてきた。

 拳銃を突きつけ梨名に詰め寄り掴みかかろうとした時、天衣は自分から注意が逸れた一瞬を見逃さなかった。

 二人並んで拳銃を突き出している腕を左足で薙ぎ払い、拳銃を弾き飛ばすとそのまま回転し左足を地につけ、その左足を軸にし相手に背後を見せたまま右足で顎を踵で蹴り上げた。

 蹴り上げられたSPは血を吹き出し、弾き上げられ意識を失い膝から崩れ落ちる。

 振り上げた足を素早く地につけるとそのまま回転し左足の甲をもう一人のSPの後頭部に打ち付けた。

 そのまま前のめりになり意識を失いその場に倒れ込んだ。

「よし!」

 天衣はSP2人を瞬殺し軽くガッツポーズをし、梨名の方にVサインをしていた。

「なんで!引いてるんですかー!?」

「なんか、やっぱ、凄すぎて引く」

「梨名さんが殺れって言ったんじゃないですか!やらしといて引くとか酷いですよー!」

「マジ無理、私の半径3メートル以内に入ってこないで」

「ちょっと、それは酷くないですかー!」

「酷くないだろ、お前がいつも飛奈に言ってるセリフだろーが」

「それとこれとは別じゃないですかー」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Sラン魔法学校に落第したけど、Fラン魔法学校に入学してから本気出す。いまさらSランク魔法学校に来てくれと言われてももう遅い。

新人賞落選置き場にすることにしました
ファンタジー
名門オーディン魔法学校。 優秀な弟フォルテ・アンダインは、合格。兄のフェレス・アンダインは落第した。 Fランクで有名な、ロキ魔法学校にフェレスは入学することになった。ロキ魔法学校の学園生活のなかで、フェレスは実力を発揮する方法を見出だすのだった。  ※この作品は、新人賞に応募したものではありません。

魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。 そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。 30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。 カクヨムで先行投稿中 タイトル名が少し違います。 魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~ https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。 さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!? 人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに… ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。

異世界オークションへようこそ〜優秀なオークションスタッフたちは数々の難題と災難に立ち向かう〜

のりのりの
ファンタジー
アナタの欲しいモノはなんでしょう? 異なる世界の名品、逸品を知り尽くした優秀なオークションスタッフが、アナタの望みを叶えてさしあげます。 たまに迷品、珍品が競売の舞台に登場することもありますが、これもまた一興。 アナタの世界にない品も、異なる世界には存在するかもしれません。 異なる世界と異なる世界との縁をつなぐ異世界オークション。 異世界の珍しい品を求めて、月に一度とある場所に集う高貴な人々と、それを迎える優秀なオークションスタッフたち。 オークションを見守るガベルとサウンドブロック。オークションハウスのオーナーや、オークションの進行役である、ベテラン、中堅、若手、見習いという世代の違うオークショニア。 そして、なにやらいわくありげなオークション参加者。 世にも珍しく、高価な異世界の品を手に入れたいと願う人々が集う、世界的に有名なザルダーズのオークションハウスでの愉快で不思議な出来事です。 ※他の小説投稿サイトにも掲載しております。

第31回電撃文庫新人賞:3次選考落選作品

新人賞落選置き場にすることにしました
SF
SFっぽい何かです。 著者あ:作品名「boolean-DND-boolean」

婚約破棄、国外追放しておいて、今さら戻ってきてほしいとはなんですか? 〜今さら戻るつもりなどない私は、逃げた先の隣国で溺愛される〜

木嶋隆太
恋愛
すべての女性は15歳を迎えたその日、精霊と契約を結ぶことになっていた。公爵家の長女として、第一王子と婚約関係にあった私も、その日同じように契約を結ぶため、契約の儀に参加していた。精霊学校でも優秀な成績を収めていた私は――しかし、その日、契約を結ぶことはできなかった。なぜか精霊が召喚されず、周りからは、清らかな女ではないと否定され、第一王子には婚約を破棄されてしまう。国外追放が決まり、途方に暮れていた私だったが……他国についたところで、一匹の精霊と出会う。それは、世界最高ともいわれるSランクの精霊であり、私の大逆転劇が始まる。

カノンの子守唄【完結】

虹乃ノラン
SF
《第17回ファンタジー小説大賞応募作》  忘却の都ノア――カノンの民が二度と帰り着かなかったという伝説の都。  ノアはその伝説から名をとった縮れた黒髪の少女だ。ノアがタテガミと森で過ごしていると、背中に大きなネジのついたロボットが空からふってきた。五〇〇前に地質調査のため歩いていた彼は、やがて停止し長い年月とともに空へと絡め取られていた。  ノアの家系は代々冒険家だ。父も長老である祖父も、ノアの都を探し求め世界中歩いた。ロボットは忘却の都ノアを知っていて、カノンの民の祖先が生きていると言う。しかもたった十二日ほど歩いた距離に……。  彼をネジ式と命名しついていくことにしたふたりは、カニバルに幕屋を襲われ森の端で意識なく倒れていたモヒに出会う……。 《目次》 序 プロローグ 第一章 空からふってきたロボット 第二章 忘却の都〝ノア〟 第三章 カニバルの爪あと 第四章 初めての〝狩り〟 第五章 復讐の螺旋 第六章 同族喰い 第七章 ゆらゆらと、そしてまたゆらゆらと 第八章 エスペランサ博士の遺志 第九章 オメガの子守唄 エピローグ 青空へと続く螺旋 ◇登場人物 ノア タテガミ ネジ式 モヒ 長老 アブニール フトゥーロ カニバル マザーアマル エスペランサ博士 オメガ

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

処理中です...