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七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)

76 結成! 熟成調理同盟

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指さされた先、僕達はキョトンとする。

「こら、ベン。私のお客様に失礼だろ!」
「だってこいつら! うちの縄張りで密猟してたんですぜ!」

密猟と聞いて周囲がざわつく。
ロンローンの密猟は違法、暗黙のルールを破る奴は敵だ、とざわついた。

「あの、密猟ってなんの話ですか?」

野生の川魚を釣るだけのクエストなのに密猟の疑いをかけられた。はっきり言って酷い言いがかりだと思う。

「そう言えばルーク氏はこの街に初めてきたのだったね。ここ、エス=タックではロンローンを釣る場所に規定があるんだ。我々冒険者には専門の釣り場がある。もちろん市民や商人にも釣って良い場所と悪い場所があるんだ」

面倒臭いなぁ。なんでそんなことになっちゃってるの?

「あの、そもそも野生の川魚を釣るだけなのにどうしてそんな規定が付くんですか?」

小さく挙手して質問した。

「奪い合いが起きてるのよ」

僕の質問に答えてくれたのはいつのまにか受付から出てきたキューテンさんだった。ロキぐるみを定位置に起き、僕の疑いを晴らそうとしてくる。この場での心強い味方だ。

「奪い合い?」
「ええ。ロンローンはこの街の名物だと言っても過言ではないほどの売り上げを出してるの。しかし足が早いから日持ちがせず、街の中でしか扱われない。それに憤りを覚える方達がいる」
「それが帝国貴族だ。別に全部が全部というわけじゃないが、一握りが秘密裏に密猟して街の供給を著しく下げる要因になって、この規定が出来たんだ」
「なるほど、知らなかった事とはいえごめんなさい。良ければ何匹かお返ししましょうか?」
「いや、大丈夫だ。ルーク氏はロンローンを気に入ってこのクエストを受けたんだろう? それは地元を愛する私としても光栄な事だ。もしそれよりも前に出会っていたら私がその縄張りに招待していたほどだ。順番は変わってしまったが、あんな急勾配の場所で釣り上げた実力は買わせて貰うよ」

急勾配って何のこと?

「ストナさんの縄張りでの釣りですか。確かに常人には真似できませんね。その上で本人のご許可は頂きました。ギルドとしてはこの件は不問とします!」

ギルド側からの声明によって僕達の疑いは晴らされた。
それとは別に改めて自己紹介をしてもらう。

僕たちと同様に、奥の部屋でのやり取りになったのは、周囲に知らされたくない事情があるからみたいだ。

「改めて紹介する、私の契約獣魔のベン、ザブロックだ」

そこに現れたのはリカント姿のベンさんではなく、僕たちに襲いかかってきた青い瞳と毛並みのブルーウルフだった。

「あの時の!」
「こっちの姿の時は私のテリトリーから外れてしまうからね。弱体化してしまうんだ。ザブロックの方はまだ適応してないのでそこまででもないが」
「それって……」
「ああ、私は契約獣魔を二足歩行させる『擬人化』スキル持ちだ。全く別の種族にさせることはできないが、適応化できたら凄まじい戦力になる」

そういう事か!

「ストナさんもルーク君同様にユニークスキル持ちなんですよ」

キューテンさんの説明に納得した。

「ルーク氏も、私以外のユニークスキルを持っていると?」
「ええ、ご紹介しますね、ニャンゾウさん」

僕の影が横に伸びて、その中からシュバッと飛び上がる。
ニャンジャーの姿を見たのは初めてなのか、ストナさんは目を丸くした。

さらにニャンゾウさんの影が伸びてそこから現れるロキ、ソニン、プロフェン、インフィ、ルエンザ、ピヨちゃん。
今回インフィも潜んでもらってるのは、モンスターのスペシャリストには看破されてしまうという恐れがあったから、九尾形態で待機してもらった。

「尻尾が九本! 九尾の狐?」
「そんなに警戒しないでください。この通りおとなしい子です。インフィ、もう人化して良いよ」

ボワンと煙が上がり、魔女っ子姿のインフィが現れる。

「あら? もう良いの。影の中って時間経過がないから一瞬だったわね」
「しゃべった!?」
「そりゃ喋るわよ。あたしを何だと思ってるわけ?」

いつも以上にツンツンインフィだ。
九尾の姿を見られてるので警戒してるのかもね。

「大丈夫、この人は味方だよ。襲ってこないから安心して」
「あんたがそういうなら、まぁ信用してあげても良いわ」
「いや、済まない。傾国級のモンスターを見るのは初めてでな。少し動揺した」
「まぁそうでしょうね。でもうちのメンツに比べたら、あたしは弱い方よ?」
「いやいやいやいや!」

顔の前で両手をブンブン振るストナさん。

「まぁこの子達は普段、僕のスキル『伸縮』で抱っこできるサイズになってますので。本当の姿に戻したらギルドハウスは崩壊しちゃいますからね」

あはは、と乾いた笑みを浮かべるとストナさんどころか、キューテンさんまでも目を丸くしていた。
あれ? ここら辺はコエンさん辺りから通達済みだと思ったけど。

「わかった、もうこれ以上聞くまい。もしかして毛皮の入手先って?」
「そこら辺は守秘義務なので。もうこの時点でお察しでしょうが」
「わかった。君は今回の闘技大会にエントリーしてないのだけ分かれば大丈夫だ」

額から汗をダラダラ流しながらストナさんが何度もその場で頷いた。やだなぁ、僕達はまだDランクですよ?
前提条件を満たしてませんよ。
それにAランクなんて面倒臭い事はごめんです。

「僕も兄さん達を応援しにきただけなので。あ、よかったら僕のスキル『熟成調理』で作ったロンローンの蒸し焼きでも食べますか? うちの子用に少し多めに拾っておいたんです」
「良いのですか? そちらの取り分でしょうに」
「知らずとはいえ、本来の狩場を横取りしてしまったようなので。それに美味しいものは皆さんで共有すべきですよ」

そう締めくくると、ストナさんは嬉しそうに笑った。
喧嘩両成敗でもないけど、同じテイマーとしての協力者は多い方がいい。

飼い主同士が仲直りしても、獣魔側はもやもやすることは実際多い。
一度矛を収めたが、ベンのモヤモヤも分かるんだ。
うちの子達も大概血の気の多い子が多いから。

「うわ、こう来たか。人間用の味付けは濃すぎると思ってたが、獣魔用のは美味いな。これは食が進む!」

リカント形態になったベンさんがロンローン蒸しにガツガツ食いついた。

「ピヨヨー!」
「くわー!」

ザブロックとピヨちゃんが皿の上のロンローンの蒸し焼きを仲良く啄んでいる。

そこに浮遊させた水飲み場を設けたらあとはトークが弾んで仕方ないという感じ。
内容は主人の獣魔使いが荒いという愚痴だったのでストナさんには伝えないでおく。

ロキ達もこれは食べたことのない味だと夢中になった。

「で、こちらが人間用です。宿で食べたのに比べたら調味料が不足してるので心許ないと思いますが」
「頂きます」
「ふわっ、こんなに柔らかいロンローンは初めてよ。でも皮身の脂が程よくて、これはライスが欲しくなるわね!」
「私はこいつでエールをグッと呷りたくなるな。塩味でこうまで化けるか。だがそれ以上に……」
「ええ、いつも以上に味に深みがあります。これがルーク君のスキルなのね」
「これは余計に貴族が食いつくぞ?」
「ええ、絶対に明るみに出しちゃダメね!」

何やら二人で結託してるご様子。
悪い企をしてる時の兄さんみたいな顔だ。

「ライスは美味いんだが、持ち運びに不便だよな」
「ああ、それはあるよね。スープ皿に平らに置いてあったけど、あれも食べづらかったよね」
「いっそ専用のお皿とか作っちゃえばいいのに」
「それだ!」

僕たちは僕たちで盛り上がる。
インフィはいつの間にか九尾に戻ってルエンザと一緒に蒸し煮を奪い合っていた。人間形態での食事法は飽きたのか、それともこの状態の方がお世話してもらえるからなのか、そこはわからないが本狐は楽しそうなのでよしとする。

僕達は午後はお店を回ってそれらしい深皿を探す旅に出る。
他には新しいロンローン食の追求だ。
観戦に向く、日持ちを重視した包装を吟味して作り上げたのは……

「へぇ、ライスを薄く伸ばして蒸し煮を包んだのか。面白いね」
「はい。しかもロンローンが直接空気に触れないので、カビもすぐにつきません。冷めても美味しく、こうやって切りつけてスープに落としても……」

深皿に浸した熱々のスープにロンローン巻きを落とすと、花が開いたようにライスが開き、そこからロンローンの蒸し煮が広がった。

「ああ、これはいいね。外に持っていくのにちょうどいい。ウチの獣魔たちもロンローンは好きだが、人間形態でないと食べにくいことからどうにかして持ち歩けないかと模索してたんだが」
「実際にこの商品はルークしかできない発想とスキルの応用だしな。辿り着けなくたって仕方ないっていうか」
「そうなのかい?」

僕の説明に仕切りに感心するストナさんに、キサムが余計な一言を付け加える。

「ええ、まあスキルを応用しまくって作ったものですから。まず炊いたライスを浮遊で浮かせて平らにします。この時ライスは炊き立てであるのがベストです。手で触ると菌がつくので御法度です。続いてそこに僕のスキルで作った蒸し煮をダイブ。あとは端から巻いていけば完成です」
「ほら、真似できないって顔してる」

どうせ僕達が外で食べたいから良いんだよ。

「わかった。つまり欲しかったらルーク氏にロンローンを直接持ち込むか交渉すれば入手が可能という事だな?」

それで決着がついた。僕は別に設けたいわけでもないからね。
串は串で美味しいけど、蒸し煮のロンローンはライスが合う。ただ、それだけのことだった。

交渉成立だね、と僕たちと同じタイミングでエス=タックを旅立つ。というかなぜかウチの馬車に世話になる気満々でついてきた。道中の警戒は任せてくれ! だなんて言ってるが、その瞳の先にあるのはロンローンの蒸し煮であるのは誰の目にも明らかだった。
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