496 / 497
5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
441.お爺ちゃんとAtlantis Word Online
しおりを挟む
妻と会話を終えて、私はそのままログアウトする。
すぐにコールが入り、繋げば妻の声。
施設についての詳しい情報を教えてくれた。
内容は省くが、年寄りを年寄り扱いせずに接してくれる事。
そして能力に見合って生活する居住区が変動する事。
一緒に住みたければ努力しろと言わんばかりだ。
そして一番面白いのがゲームの様にステータスが割り振られ、それで得意分野と苦手分野が明確に分かれるところくらいか。
私はご近所さんが多く参加してるからと了承したが、普通に全国から人が集められてるとのことで全く同じ場所に住める可能性が無いことを通告されたのだ。
「アナタならどこに行ったってやっていけると思うけど、私は不安よ」
「ならば私が合わせよう」
「VRを繋げば今まで通り会えるのに?」
「それはそれだよ。せっかくなら同じ空間で生活したいからね」
「そう……なんだか今更顔を突き合わせるなんて照れるわね」
「そんなにかい?」
「だって私すっかりお婆ちゃんよ? 一緒に暮らしていた時よりメイクも手抜きしてるもの。見られるのは恥ずかしいわ」
「そんな事はないさ」
「言い切るのね?」
「私は君の顔に惚れたんじゃないもの。それに素の姿を晒してくれた方が嬉しいさ」
「それ、メイクしてる女性に絶対に言っちゃいけない言葉よ?」
「そうなの?」
「ええ。人には誰だって一つや二つ、親しい人にも隠したい秘密があるもの。好きな人には尚更ね」
「分かった。なら君のメイク術に期待しよう」
「ええ、期待してて。それでAWOの事なんだけど」
「うん」
なんて事のない会話を挟んだ後に本題へと入る。
人々はドリームランドへと次々に招待され、今では数百人規模への移入が済んでいる。
あっというまだ。
ただでさえ現実の3倍速で進むのに、ドリームランドに至ってはその30倍速で進むのだもの。
一回のログイン権を既に二つ分無駄にした私は、妻から今日はログインできないことを聞かされた。
どうやら孫の球技大会の応援に行くらしい。
私はVRでの活動域をゲームと井戸端会議しか持ってないが、彼女はもっと幅広く取り揃えていて。
世界の広さを教えてくれた。
私にとっての世界は、彼女にとっては選ぶべき選択の一つ。
絶対にログインしないといけないわけではないとの理由を告げられ、少し入り浸るのを躊躇した。
寺井さんや長井君もそうなのだろうか?
バージョンアップしたのをきっかけにコール一覧から直接送信すると、普通に繋がる。
今まではどこかログインしなければ繋がらないと思い込んでいたのが嘘のように世界が広がるのを感じた。
「君から掛けてくるなんて珍しいね。何? AWOの話?」
長井君は相変わらずそれと決めたら一直線でそれなのだろう。
彼の話を聞いた私はまたAWO熱が再燃するのを感じた。
聖典側は新たに施設を開設し、神保さんに負けず劣らずの職人達が入って来たようだ。とりもち君も頑張っているようだが、未だにその差に落ち込んでいるらしい。職人の中では上位に君臨してるのに、気持ちの感情がブレすぎる事で制作物が安定しないんだって。
「そうなんだ」
「そうそう、君が隠居を決め込んでる間に新しいプレイヤーが注目され始めてるよ」
「隠居って。一日ログインしてないだけだよ?」
「その一日が仇になるのがAWOの世界なのさ。世界は目まぐるしく回ってるよ?」
新しいプレイヤーの台登。
アップデートを皮切りに私とのリンクが切れた何かが次に見つけた指標だろうか?
もしかしたら、私の次に主人公級の活躍を見せるのはそのプレイヤーかも知れないね。
「なんてプレイヤーなの?」
「あ、知りたい?」
「意地悪しないで教えてよ」
「意外に身近な人だよ。ほら、一度君の配信にも登場した」
長井君は煙に巻くが如く詳しい情報を教えてくれなかった。
ヒントだけはやたらと豊富で、しかし実態が掴めない。
彼は昔からこうなのだ。
神保さんとはコールが繋がらずにいた。
相変わらずというか、家族でさえも彼のコール嫌いに手を焼いてるそうだよ。
さて、噂の新人を鑑賞しに行きますかね。
随分とログインするのに前準備を置いた私はアキカゼ・ハヤテになり、システム欄から配信一覧を選択する。
今や私は時から忘れられた人。
しかし今でも私のファンは居てくれるらしく活動再開は待ち望まれている。
ほとんどが身内なのは言うまでもないが、新人とは全く違った茶番劇が好評を博してくれたようだ。
「スズキさん、居る?」
「|◉〻◉)はい」
「何やら私が留守の間に注目を独り占めするプレイヤーが現れたようだよ」
「|ー〻ー)それは解せませんね。いっちょ下剋上でも?」
「なんでそう考え方が物騒なのさ」
「|◎〻◎)僕はハヤテさんに染められたんですー」
「なら私が君の責任を取らねばいけないかな?」
「⌒〻⌒)ええ!」
「ではどうする? 番組の企画などは?」
「|◉〻◉)ふっふっふ。そう言うと思って今話題沸騰の情報を集めてきましたよ!」
この子はいつまでも私の味方のようで安心する。
呼べばいつでも来てくれるし、私に似たというように私の考えに賛同してくれるんだ。
だからついつい頑張り過ぎてしまう。
その悪巧みする姿勢が長井君、探偵さんと繋がった。
どうも私はスズキさん越しに長井君を見ているようだった。
今の彼ではなく、中学生時代の彼を。
突拍子もなく、それでいて奇抜。
彼はそんな少年だった。
だからかクラスからも浮いていて、友達らしい友達は私以外知らない。そんな彼に声をかけたのは興味本位だったと思い出す。
だからきっと、スズキさんにも声をかけたんだ。
そこからなんの因果か芋づる式にクトゥルフさんにまで気に入られてしまって、現在に至る。
「──さん、ハヤテさん!」
「うん?」
「|◉〻◉)どうしたんですか! 急に黙りこくっちゃって。お話を無視するなんて酷いです! 僕、泣いちゃいますよ?」
いつもならここまで感情豊かに縋り付いてくる事なんて無かったのに、スズキさんの様子が少しおかしい。
「何泣いてるのさ。大丈夫、私はここに居るよ?」
「|>〻<)だって急に僕の話を無視してて! いつもならどんなにくだらなくたってお付き合いしてくれるのに!」
この子、分かっててくだらない話を振ってたの?
それは酷すぎない?
彼女だけ他の人の幻影とはあまりにも違いすぎるんだけど。返品した方がいいかな?
「ごめんごめん、少し考え事をしてたんだ」
「|◉〻◉)そうなんですか? 今日のハヤテさん少し変ですよ。クトゥルフ様の声も聞こえないみたいだし」
「え、彼今何か言ってる?」
意識して声の発信源を探ると、確かに言葉が聞こえてきた。
あのリンクの先はクトゥルフさんだった?
いや、だったら私の主人公的活躍に説明がつかない。
どうやらアップデートによる弊害がまた別にあるのやもしれないね。
[こちらには久しぶりすぎて感覚が鈍ったのではないか?]
「|◉〻◉)そうなんですかねー? 僕はよくわかんないですけど」
[うむ。我らは変わらずとも、人の時間はあまりにも短い。いつの間にやら別人のようになっていたとも聞いたことがあるぞ?]
「⌒〻⌒)クトゥルフ様、博識ですね!」
やいのやいのとお話ししている様子が聞けてほっこりする。
相変わらず彼らは彼らだった。
私としたことが、神格とのリンクの繋がりにくさをアップデートの所為にするなんてらしくないな。
コールのアップデートなんて、ゲームにまで影響を与えるはずないのに。何を考えているんだか。
落ち着きを取り戻し、クトゥルフさんやスズキさんと例の知り合い……新進気鋭のプレイヤーの配信を除いた。
「こん、ばん、わっっっっ!!!!」
「うるせぇよ! 少しはだまれねぇのか、お前」
「だって凄い勢いでリスナーさん増えていってますよ? これは拙者の時代が来たと言っても過言ではないかと!!」
「逆にそうであっても、嬉しさと音量を比例しなくてもいいからな?」
「またまたぁ、モーバ殿は照れ屋でござるな?」
「お前のひたむきな前向きさに呆れてるだけだよ」
それは聖典と魔導書の二人組。
ボケ担当の村正君と、ツッコミ担当のモーバ君がどつき漫才をしながらあれこれ紹介していく配信番組だ。
今や始めたてのプレイヤーでさえ腰にベルトが巻かれるのが珍しくもない時代において、開拓とは全く関係ない情報がもてはやされている状況らしい。
『|>〻<)こんな奴らに僕の出番が……』
[落ち着くのだ、まだ巻き返せる]
『|ー〻ー)クトゥルフ様が言うんだったら落ち着きますけどー』
私に言われても暴れ出しそうな気配のままスズキさんが居ても立っても居られないという顔をした。
彼女は隙あらば誰かを出し抜こうとするのだけがいただけないよね。生まれた時から下剋上する気満々みたいな、謎の行動力に支配されすぎているきらいがある。
「そういやお前、侵食度どんな感じ?」
「黙秘するでござる」
「いいじゃんよー教えろよー」
「どうせ拙者の情報を探って放たれたスパイなのでござろう? 教えて欲しいならば先にモーバ殿から話されよ」
「俺? 俺はその、あれだ。ほれ……言わせんなよ?」
「どうして照れてるでござるかー?」
照れるモーバ君に縋り付く村正君。
そのイチャイチャぶりを見せつけられたリスナーからは【末長く爆発しろ】との御礼コールが続いていた。
世はまさにVR内恋愛時代とでも言うべきか。
そう言う点ではわたしは優遇されすぎていた。
美咲、マリンなどもここで恋人を見つけるのだろうか?
娘の前では発表していないだけかもしれないと思いつつ、そうだといいなと邪推する。
『青春だねぇ』
『|◉〻◉)よくわかりません』
[我らの支配とはまた違うのだろう]
彼ら神格と幻影は支配者と奉仕者によって支え合っている。
人類の恋愛観を見せつけられても理解できないように、彼らの奉仕活動もまた理解されづらいのだ。
私は家族みたいなものだと理解できるのだけど、やはり一定数から否定的な意見が漏れ出ているようだ。
コールをアップデートする前までなら気にしなかったコメントも、した後ではやたらと記憶に残った。
どうもあのアップデートによって私は価値観を縛り付けられていたことを自覚する。
今まで自分に都合の悪い事が意図的にシャットダウンされているようだった。
「ならば次の企画は……」
配信の閲覧をやめ、絵図を引く。
今までは攻略のような開拓を一手に引き受けていたけど、新たに見えてきた情報を機に、本当にプレイヤーが求めて止まない情報を発信しようと心がける事にした。
そもそも人気云々なんてどうでもいいのだ。
私はやりたいことをやって自己満足したいだけ。
スタンスは最初からそれ一辺倒。
変に人気が集まりすぎて撮れ高に執着してしまっていたが、それは本来の私のスタイルではなかったはずだと気付かされた。
配信スタイルは生配信を取りやめ、編集しての公開にした。
例の如く砂嵐のおまけ付きだ。
取り上げた番組情報は支配者と奉仕種族の関係性について。
突撃◯の晩御飯スタイルで街頭インタビューの如く展開していく。
最後には衝撃の事実も出しつつ、終始茶番で幕を閉じる。
ここに今の私を詰め込んだ。
スズキさんやクトゥルフさんも満足してくれている。
ただ人気が下がったのもあり、攻略をしない私にかけられた期待を裏切る形になったのは申し訳なく思った。
そんな私の行動なんて気にも止めずに村正&モーバコンビは情報を掻っ攫っていく。
今ではどこで耳を傾けても彼らの話題で持ちきりだ。
野に埋もれていく感覚を感じつつも、それでもいいかと思う私もいた。
昔のように、自分の趣味に没頭すればいいだけさ。
孫たちとも積極的に絡めるようになった。
そう思えば十分だった。
すぐにコールが入り、繋げば妻の声。
施設についての詳しい情報を教えてくれた。
内容は省くが、年寄りを年寄り扱いせずに接してくれる事。
そして能力に見合って生活する居住区が変動する事。
一緒に住みたければ努力しろと言わんばかりだ。
そして一番面白いのがゲームの様にステータスが割り振られ、それで得意分野と苦手分野が明確に分かれるところくらいか。
私はご近所さんが多く参加してるからと了承したが、普通に全国から人が集められてるとのことで全く同じ場所に住める可能性が無いことを通告されたのだ。
「アナタならどこに行ったってやっていけると思うけど、私は不安よ」
「ならば私が合わせよう」
「VRを繋げば今まで通り会えるのに?」
「それはそれだよ。せっかくなら同じ空間で生活したいからね」
「そう……なんだか今更顔を突き合わせるなんて照れるわね」
「そんなにかい?」
「だって私すっかりお婆ちゃんよ? 一緒に暮らしていた時よりメイクも手抜きしてるもの。見られるのは恥ずかしいわ」
「そんな事はないさ」
「言い切るのね?」
「私は君の顔に惚れたんじゃないもの。それに素の姿を晒してくれた方が嬉しいさ」
「それ、メイクしてる女性に絶対に言っちゃいけない言葉よ?」
「そうなの?」
「ええ。人には誰だって一つや二つ、親しい人にも隠したい秘密があるもの。好きな人には尚更ね」
「分かった。なら君のメイク術に期待しよう」
「ええ、期待してて。それでAWOの事なんだけど」
「うん」
なんて事のない会話を挟んだ後に本題へと入る。
人々はドリームランドへと次々に招待され、今では数百人規模への移入が済んでいる。
あっというまだ。
ただでさえ現実の3倍速で進むのに、ドリームランドに至ってはその30倍速で進むのだもの。
一回のログイン権を既に二つ分無駄にした私は、妻から今日はログインできないことを聞かされた。
どうやら孫の球技大会の応援に行くらしい。
私はVRでの活動域をゲームと井戸端会議しか持ってないが、彼女はもっと幅広く取り揃えていて。
世界の広さを教えてくれた。
私にとっての世界は、彼女にとっては選ぶべき選択の一つ。
絶対にログインしないといけないわけではないとの理由を告げられ、少し入り浸るのを躊躇した。
寺井さんや長井君もそうなのだろうか?
バージョンアップしたのをきっかけにコール一覧から直接送信すると、普通に繋がる。
今まではどこかログインしなければ繋がらないと思い込んでいたのが嘘のように世界が広がるのを感じた。
「君から掛けてくるなんて珍しいね。何? AWOの話?」
長井君は相変わらずそれと決めたら一直線でそれなのだろう。
彼の話を聞いた私はまたAWO熱が再燃するのを感じた。
聖典側は新たに施設を開設し、神保さんに負けず劣らずの職人達が入って来たようだ。とりもち君も頑張っているようだが、未だにその差に落ち込んでいるらしい。職人の中では上位に君臨してるのに、気持ちの感情がブレすぎる事で制作物が安定しないんだって。
「そうなんだ」
「そうそう、君が隠居を決め込んでる間に新しいプレイヤーが注目され始めてるよ」
「隠居って。一日ログインしてないだけだよ?」
「その一日が仇になるのがAWOの世界なのさ。世界は目まぐるしく回ってるよ?」
新しいプレイヤーの台登。
アップデートを皮切りに私とのリンクが切れた何かが次に見つけた指標だろうか?
もしかしたら、私の次に主人公級の活躍を見せるのはそのプレイヤーかも知れないね。
「なんてプレイヤーなの?」
「あ、知りたい?」
「意地悪しないで教えてよ」
「意外に身近な人だよ。ほら、一度君の配信にも登場した」
長井君は煙に巻くが如く詳しい情報を教えてくれなかった。
ヒントだけはやたらと豊富で、しかし実態が掴めない。
彼は昔からこうなのだ。
神保さんとはコールが繋がらずにいた。
相変わらずというか、家族でさえも彼のコール嫌いに手を焼いてるそうだよ。
さて、噂の新人を鑑賞しに行きますかね。
随分とログインするのに前準備を置いた私はアキカゼ・ハヤテになり、システム欄から配信一覧を選択する。
今や私は時から忘れられた人。
しかし今でも私のファンは居てくれるらしく活動再開は待ち望まれている。
ほとんどが身内なのは言うまでもないが、新人とは全く違った茶番劇が好評を博してくれたようだ。
「スズキさん、居る?」
「|◉〻◉)はい」
「何やら私が留守の間に注目を独り占めするプレイヤーが現れたようだよ」
「|ー〻ー)それは解せませんね。いっちょ下剋上でも?」
「なんでそう考え方が物騒なのさ」
「|◎〻◎)僕はハヤテさんに染められたんですー」
「なら私が君の責任を取らねばいけないかな?」
「⌒〻⌒)ええ!」
「ではどうする? 番組の企画などは?」
「|◉〻◉)ふっふっふ。そう言うと思って今話題沸騰の情報を集めてきましたよ!」
この子はいつまでも私の味方のようで安心する。
呼べばいつでも来てくれるし、私に似たというように私の考えに賛同してくれるんだ。
だからついつい頑張り過ぎてしまう。
その悪巧みする姿勢が長井君、探偵さんと繋がった。
どうも私はスズキさん越しに長井君を見ているようだった。
今の彼ではなく、中学生時代の彼を。
突拍子もなく、それでいて奇抜。
彼はそんな少年だった。
だからかクラスからも浮いていて、友達らしい友達は私以外知らない。そんな彼に声をかけたのは興味本位だったと思い出す。
だからきっと、スズキさんにも声をかけたんだ。
そこからなんの因果か芋づる式にクトゥルフさんにまで気に入られてしまって、現在に至る。
「──さん、ハヤテさん!」
「うん?」
「|◉〻◉)どうしたんですか! 急に黙りこくっちゃって。お話を無視するなんて酷いです! 僕、泣いちゃいますよ?」
いつもならここまで感情豊かに縋り付いてくる事なんて無かったのに、スズキさんの様子が少しおかしい。
「何泣いてるのさ。大丈夫、私はここに居るよ?」
「|>〻<)だって急に僕の話を無視してて! いつもならどんなにくだらなくたってお付き合いしてくれるのに!」
この子、分かっててくだらない話を振ってたの?
それは酷すぎない?
彼女だけ他の人の幻影とはあまりにも違いすぎるんだけど。返品した方がいいかな?
「ごめんごめん、少し考え事をしてたんだ」
「|◉〻◉)そうなんですか? 今日のハヤテさん少し変ですよ。クトゥルフ様の声も聞こえないみたいだし」
「え、彼今何か言ってる?」
意識して声の発信源を探ると、確かに言葉が聞こえてきた。
あのリンクの先はクトゥルフさんだった?
いや、だったら私の主人公的活躍に説明がつかない。
どうやらアップデートによる弊害がまた別にあるのやもしれないね。
[こちらには久しぶりすぎて感覚が鈍ったのではないか?]
「|◉〻◉)そうなんですかねー? 僕はよくわかんないですけど」
[うむ。我らは変わらずとも、人の時間はあまりにも短い。いつの間にやら別人のようになっていたとも聞いたことがあるぞ?]
「⌒〻⌒)クトゥルフ様、博識ですね!」
やいのやいのとお話ししている様子が聞けてほっこりする。
相変わらず彼らは彼らだった。
私としたことが、神格とのリンクの繋がりにくさをアップデートの所為にするなんてらしくないな。
コールのアップデートなんて、ゲームにまで影響を与えるはずないのに。何を考えているんだか。
落ち着きを取り戻し、クトゥルフさんやスズキさんと例の知り合い……新進気鋭のプレイヤーの配信を除いた。
「こん、ばん、わっっっっ!!!!」
「うるせぇよ! 少しはだまれねぇのか、お前」
「だって凄い勢いでリスナーさん増えていってますよ? これは拙者の時代が来たと言っても過言ではないかと!!」
「逆にそうであっても、嬉しさと音量を比例しなくてもいいからな?」
「またまたぁ、モーバ殿は照れ屋でござるな?」
「お前のひたむきな前向きさに呆れてるだけだよ」
それは聖典と魔導書の二人組。
ボケ担当の村正君と、ツッコミ担当のモーバ君がどつき漫才をしながらあれこれ紹介していく配信番組だ。
今や始めたてのプレイヤーでさえ腰にベルトが巻かれるのが珍しくもない時代において、開拓とは全く関係ない情報がもてはやされている状況らしい。
『|>〻<)こんな奴らに僕の出番が……』
[落ち着くのだ、まだ巻き返せる]
『|ー〻ー)クトゥルフ様が言うんだったら落ち着きますけどー』
私に言われても暴れ出しそうな気配のままスズキさんが居ても立っても居られないという顔をした。
彼女は隙あらば誰かを出し抜こうとするのだけがいただけないよね。生まれた時から下剋上する気満々みたいな、謎の行動力に支配されすぎているきらいがある。
「そういやお前、侵食度どんな感じ?」
「黙秘するでござる」
「いいじゃんよー教えろよー」
「どうせ拙者の情報を探って放たれたスパイなのでござろう? 教えて欲しいならば先にモーバ殿から話されよ」
「俺? 俺はその、あれだ。ほれ……言わせんなよ?」
「どうして照れてるでござるかー?」
照れるモーバ君に縋り付く村正君。
そのイチャイチャぶりを見せつけられたリスナーからは【末長く爆発しろ】との御礼コールが続いていた。
世はまさにVR内恋愛時代とでも言うべきか。
そう言う点ではわたしは優遇されすぎていた。
美咲、マリンなどもここで恋人を見つけるのだろうか?
娘の前では発表していないだけかもしれないと思いつつ、そうだといいなと邪推する。
『青春だねぇ』
『|◉〻◉)よくわかりません』
[我らの支配とはまた違うのだろう]
彼ら神格と幻影は支配者と奉仕者によって支え合っている。
人類の恋愛観を見せつけられても理解できないように、彼らの奉仕活動もまた理解されづらいのだ。
私は家族みたいなものだと理解できるのだけど、やはり一定数から否定的な意見が漏れ出ているようだ。
コールをアップデートする前までなら気にしなかったコメントも、した後ではやたらと記憶に残った。
どうもあのアップデートによって私は価値観を縛り付けられていたことを自覚する。
今まで自分に都合の悪い事が意図的にシャットダウンされているようだった。
「ならば次の企画は……」
配信の閲覧をやめ、絵図を引く。
今までは攻略のような開拓を一手に引き受けていたけど、新たに見えてきた情報を機に、本当にプレイヤーが求めて止まない情報を発信しようと心がける事にした。
そもそも人気云々なんてどうでもいいのだ。
私はやりたいことをやって自己満足したいだけ。
スタンスは最初からそれ一辺倒。
変に人気が集まりすぎて撮れ高に執着してしまっていたが、それは本来の私のスタイルではなかったはずだと気付かされた。
配信スタイルは生配信を取りやめ、編集しての公開にした。
例の如く砂嵐のおまけ付きだ。
取り上げた番組情報は支配者と奉仕種族の関係性について。
突撃◯の晩御飯スタイルで街頭インタビューの如く展開していく。
最後には衝撃の事実も出しつつ、終始茶番で幕を閉じる。
ここに今の私を詰め込んだ。
スズキさんやクトゥルフさんも満足してくれている。
ただ人気が下がったのもあり、攻略をしない私にかけられた期待を裏切る形になったのは申し訳なく思った。
そんな私の行動なんて気にも止めずに村正&モーバコンビは情報を掻っ攫っていく。
今ではどこで耳を傾けても彼らの話題で持ちきりだ。
野に埋もれていく感覚を感じつつも、それでもいいかと思う私もいた。
昔のように、自分の趣味に没頭すればいいだけさ。
孫たちとも積極的に絡めるようになった。
そう思えば十分だった。
0
お気に入りに追加
1,977
あなたにおすすめの小説
VRMMOで神様の使徒、始めました。
一 八重
SF
真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。
「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」
これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。
「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」
「彼、クリアしちゃったんですよね……」
あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。
VRMMOを引退してソロゲーでスローライフ ~仲良くなった別ゲーのNPCが押しかけてくる~
オクトパスボールマン
SF
とある社会人の男性、児玉 光太郎。
彼は「Fantasy World Online」というVRMMOのゲームを他のプレイヤーの様々な嫌がらせをきっかけに引退。
新しくオフラインのゲーム「のんびり牧場ファンタジー」をはじめる。
「のんびり牧場ファンタジー」のコンセプトは、魔法やモンスターがいるがファンタジー世界で
スローライフをおくる。魔王や勇者、戦争など物騒なことは無縁な世界で自由気ままに生活しよう!
「次こそはのんびり自由にゲームをするぞ!」
そうしてゲームを始めた主人公は畑作業、釣り、もふもふとの交流など自由気ままに好きなことをして過ごす。
一方、とあるVRMMOでは様々な事件が発生するようになっていた。
主人公と関わりのあったNPCの暗躍によって。
※ゲームの世界よりスローライフが主軸となっています。
※是非感想いただけると幸いです。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~
虎柄トラ
SF
音ゲーが大好きな高校生の紫乃月拓斗はある日親友の山河聖陽からクローズドベータテストに当選したアーティファクト・オンラインを一緒にプレイしないかと誘われる。
始めはあまり乗り気じゃなかった拓斗だったがこのゲームに特典として音ゲーが付いてくると言われた拓斗はその音ゲーに釣られゲームを開始する。
思いのほかアーティファクト・オンラインに熱中した拓斗はその熱を持ったまま元々の目的であった音ゲーをプレイし始める。
それから三か月後が経過した頃、音ゲーを全クリした拓斗はアーティファクト・オンラインの正式サービスが開始した事を知る。
久々にアーティファクト・オンラインの世界に入った拓斗は自分自身が今まで何度も試しても出来なかった事がいとも簡単に出来る事に気づく、それは相手の攻撃をパリィする事。
拓斗は音ゲーを全クリした事で知らないうちにノーツを斬るようにパリィが出来るようになっていた。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~
オイシイオコメ
SF
75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。
この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。
前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。
(小説中のダッシュ表記につきまして)
作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。
後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜
黄舞
SF
「お前もういらないから」
大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。
彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。
「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」
「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」
個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。
「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」
現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。
私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。
その力、思う存分見せつけてあげるわ!!
VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。
つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。
嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。
異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)
朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。
「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」
生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。
十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。
そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。
魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。
※『小説家になろう』でも掲載しています。
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる