469 / 497
5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
417.お爺ちゃんのドリームランド探訪27
しおりを挟む
「あの話、蹴っっちまって良かったのかよ?」
ダン・ウィッチ村からアーカムシティに向かう道中、金狼氏が思い出したかのようにアザトースさんが持ちかけた案を振る。
話というが、裏切りの提案だ。おいそれと決められるものじゃない。
「流石にアザトースさんの意見だけ聞いて裏切るのって後味悪くないです?」
「俺はヨグ=ソトースも悪意の塊だと思ってるんだが。と言うか、そんな超常的な相手に気後れしない時点で爺さんのやばさが窺えるんだが?」
「え、普通にお話ししてるだけで?」
「俺やくまは脂汗たっぷりかいてたぞ?」
「まぁそこら辺は場数を踏んでもらうとして。そう言えばスズキさん」
「|◉〻◉)はいはい」
「この街、アーカムシティだったよね。ミスカトニック大学とかあったりする?」
「|◉〻◉)あー、あの図書館ですか?」
【図書館?】
【ぜってーやべー文献眠ってる蔵書行く気だこの人】
【決めつけるなよ、まだそうだと決まったわけじゃない】
「あれ、大学だよね。今図書館になってるの?」
「|◉〻◉)はい。誰も何も学びませんから。オリエンテーション広場兼図書館ですよ、あそこ」
【おい、この町の識字率どうなってるんだ!】
【経済も破綻してそう】
【言うて経済必要か? 住んでる奴ら奉仕種族だろ?】
【王様の命令には絶対とか楽な政治だな】
「へぇ、統治者が変われば歴史も置き去りにされたりするんだね。じゃあそこに案内してもらっていい?」
「|◉〻◉)はーい5名様ごあんなーい」
スズキさんの案ないのもと、町のそこかしこで寛いでるスズキさんにそっくりなサハギンを眺めつつ、例の図書室へと足を向けた。
禁書の類が大切に封印されてると噂の場所までやってくる。
「爺さん、今更こんな場所で正気度削りかよ」
「ああ、いえ。ここなら世界の明確な地図とかないかなって」
「マップか。まだ判明してないのか?」
「してないですねぇ。現代とあまりに違いすぎて場所の特定ができてないんですよ。だから少し拝借して、そこへ逐一書き足していこうかなと。私もアーカムやダン・ウィッチ村の発展を止めてしまった以上、そこから先はこちらで引き受けないといけないですし」
「まぁな」
「よくわからないけど、神格を拠点に据えると歴史は止まるくま?」
「止まる、と言うよりは人類として築いてきた歴史は終止符が打たれますよ。以降、その神格と奉仕種族の時代が生まれますので人間の頃のようにいかなくなりますよね。言うなれば発展し続ける世界から置いていかれることになる。人類の進化とは真逆に進むわけですからね」
「つまり、ここに来た目的は歴史的蔵書の回収?」
「そう捉えてもらって構いません。発展途上ではありますが、ダン・ウィッチ村から比べれば随分と近代的ですからねアーカムって。きっと多くの役立つ文献が転がってることでしょう」
すぐ隣でトランプで競うサハギンを横目にしつつ蔵書を漁る。
なんで大学の図書館でトランプしてるんだろう、この子達。
姉がコタツでくつろいでるから今更か。
思考を放棄して図書館の禁書庫で反応のあった蔵書を取り上げることにする。
「お、これとかどうです? 正気度ロールがビンビン反応してますよ!」
手に取った書物は不思議な感触のするカバーがかけられたものだった。
【その書物、人皮でカバーされてません?】
【触ると手が焼け爛れるやつ!】
【ルルイエ異本かな?】
「|◉〻◉)僕?」
【ご本人がおった!】
【そう言えばそうじゃん、御大がいるじゃんここ】
【随分と見慣れちまったからなー】
【もはや正気度減る可能性なくないか?】
【いや、ワンチャン水神クタァトの可能性も】
【今更そんな中ボス出されたって】
【うるせー、グラーキも中ボスだろ】
「はいはい喧嘩しないの。言語は……アトランティス言語ですね。水神クタァトについて書かれた文献のようです。一冊持っていきましょうかね。大丈夫ですかね、スズキさん」
「|◉〻◉)ハヤテさんが持っていくならお咎めなしですねー」
「第三者だとヤベーのか?」
「|◉〻◉)そりゃ泥棒したら僕の妹達が黙ってませんよ」
「妹ってさっきそこでトランプしてたサハギンくま?」
「|ー〻ー)あれは警備ですね」
【警備ザルすぎない?】
【ビーチでくつろいでるのはそのままの通りで、図書館でトランプしてるのは警備とはこれ如何に】
「|ー〻ー)あれは偽装です。真剣勝負をしてるフリをして見知らぬ御一行を注視してるんですよ。ふふふ」
「でもさっきご飯食べに行ったくまよ? 図書館はくま達以外もぬけの殻くま。負けた子の奢りだそうくま。警備してたんじゃないくま?」
「|◉〻◉)こ、交代の時間ですから!」
【リリーちゃん必至じゃん】
【いや、あんなにドヤった後にただ遊んでただけなんて言い出しづらいだろ】
【それより地図は見つかりました?】
「それっぽいものならあったよ。ほら」
【らくがきで草】
【これ、どこを示してるんですか?】
【それをマップとして扱ったら迷いそう】
古代言語で描かれた地図はあまりにも古すぎて地殻変動が起きる前の地球を示していた。
今現在の地図というよりは太古の地図の書き写しと言った感じ。使い道なんてあるわけがない。
「ふん、こんな蔵書焼き払った方が世のためじゃない? ここは悪意が強くて気分悪いわ」
アール君が表情を顰めながら鼻をつまむ。
そんなに嫌悪感剥き出しにしなくても良いじゃない。
ほら、アーシェ君が縮こまってるよ。
それを金狼氏が慰めてる。
「|◉〻◉)無断で焼き払ったら袋叩きにしますけどね。その覚悟があるならどうぞ」
「冗談を真に受けないでよね。性格悪いわよ?」
「この子の場合素なんですよね。性格が悪いのは褒め言葉ですよ、ね? スズキさん」
「|>〻<)僕は性格悪くないですー」
【どの口がそんなこと言うんですかねぇ?】
【飼い主から見放されてる幻影がいるってマ?】
【金狼と比べりゃ一目瞭然だよなぁ】
「|>〻<)うわぁん、みんながいじめます」
「よしよし。でも今回はスズキさんも悪いからね? ごめんなさいしてきなさい」
「|◉〻◉)あれ、これ僕慰められてなくないですか?」
【自業自得乙】
【あの状況でアキカゼさんが救ってくれるわきゃあない】
【大丈夫?】
そんな茶番を挟みつつ、禁書庫を分担作業で手分けして探していると……
「ここ、懐かしい感じがする」
アーシェ君が一冊の本を手に取った。
正気度を削りながらも金狼氏が読み込んだものは……
「あ、これ断片だわ、ページ数増えた。正気度は少し減っちまったが」
「え、こっちにもあるの?」
「そうみたいだな。俺はもう必要ないが、これって後続のために使えないだろうか?」
「だったら市場で卸してみたら? こんなに住民から必要とされてない図書館、いつ壊されてもおかしくないし」
【市場、開拓出来てたんですか? 聖典側だけのものだったはずじゃ】
【出来てるよ、お義父さんが開拓したんだと思う】
【今どんなものが並んでる?】
【僕が出した素材か、お義父さんの出したステータスポイントぐらいしかないよ。断片とかおいた方が賑やかしになるんじゃない?】
【まぁそうそうためになるアイテムを取得できるやつとかいないしな】
【ハンバーグさんやん】
「確かに見慣れない項目あるくま。市場なんて普段から使かわないから頭から抜け落ちてたくま」
「俺にも見えたな。ここに登録すれば場所が違くても流通できるのか」
「そうだと思います」
「あれ、でも断片は突っ込めねーわ。なんでだ?」
「|◉〻◉)一応それ、貸し出しものなので。取引するなら所有主になる必要があるんじゃないですか?」
「そうか、じゃあアキカゼさん、頼む」
「頼まれました。題名はどうしましょう?」
「題名なんているか?」
「間違って買ってしまう人を減らすための売り文句ですよ」
「じゃあ【断片】屍食教典儀で」
「シンプルですね、お値段は?」
「値段も決められるのか?」
「と言っても、ここでは素材の物々交換、それに準ずる情報、割り振ってないステータスポイントのやり取りだけが判明してます。後続に受け取りやすくするためにどれを選択するかですね」
「じゃあ情報だな。受取人はどうせ爺さんだろ? だったらその情報をうまく扱える人物に渡った方が得だ」
「ついでに私の方でも情報を売りに出しておきましょうかね。求めるものは素材でどうかな?」
「素材なんてそうそう見つかるか?」
「なんだって良いですよ。???の鉱石でも、得意分野の人に渡せば判明しますし、そうやって色んな人の手を伝って文明は作られるもんです。情報だって一人で抱えてるより拡散した方がいいに決まってますって」
「爺さんに言われるとそう思っちまうな。だからってみんながみんなそういう考えじゃねーって覚えておいた方がいいぜ?」
金狼氏が意地の悪そうな笑みを貼り付ける。
今までの経験上、クラン同士での揉め事とかもあるんだろうね。心得ているさ。
「もちろん、言われっぱなしの私じゃないよ。ただ私の場合、掲示板に顔を出すことが稀でね。こうやって情報提供をしているつもりだけど、どうしたって漏れが出てくるんだ」
「そのための配信だったか。で、漏れとはなんだ?」
「私の配信って、魔導書陣営以外には砂嵐にしか見えないらしいんですよ」
「魔導書の後続育成にはこれ以上ないくらいのもんじゃねーか。聖典側に情報がいかない安全策でWin-Winじゃねーのか?」
「それだと平等ではないでしょ? 私の配信は魔導書や聖典も分け隔てなく見てもらいたい。そういうのを心がけてるよ」
「爺さん……親父以上に変わりもんだな!」
「兄ちゃん、言い過ぎくま」
【良いこと言ってるのにこの言われよう】
【MMOだと正直もんはバカを見るからな】
【秘匿してなんぼなところは確かにある】
【そんな奴らにそれをやれってのは酷でしょう】
【金狼とかAWOじゃ古参だもんな】
【古参ならシェリルだってそうだろう?】
【古参がポッと出のアキカゼさんに先越されりゃ、クるもんがあるのは分かる】
【ただのゲームにムキになりすぎ】
【ゲームは遊びじゃないんだよ!】
【遊びだぞ】
【言い合いになってて草】
【この議論ばかりは平行線だからしゃーない】
取り敢えず頂ける物は頂きつつミスカトニック大学を出る。
水神クタァトにまつわる蔵書の他に、アーカムシティの周辺地図、そこに空撮したダン・ウィッチ村の風景を掌握領域で一つにまとめてみる。
【力技of力技】
【そんな技使えるんならさっさと使っておけばよかったじゃないですか】
【これ、空ルートまた来るか?】
【この前変なの引っ掛けなかったっけ?】
【バックベアード様かな?】
【そう、それ】
「爺さん、またとんでもなくなってねーか?」
金狼氏の呆れ声に、苦笑するリスナー達。
もはや配信では見慣れた状況になるつつある掌握領域だが、初見だとこうも反応が新鮮なのは良いね。
ついつい余計な動きを取り入れて披露したくなる。
【アキカゼさんの配信見てたらこれぐらい普通だよな?】
【もっととんでもねーことしてるし】
【雑談枠ってなんだっけっていつも思うもん】
【普通なら大見出しついててもおかしくないネタを雑談ですますのがアキカゼさんだし?】
「実際雑談でしょ? アザトースさんやナイアルラトホテプとの会談もあったけど」
【それだけで視聴率爆上がりなんだよなぁ】
【なんでもない風にいうのやめろ】
【それが出来ない子もいるんですよ!】
【それ以外のことスルーしすぎなんよ】
【さらっと市場開拓してるし】
【これ、後続が来ても目立たないまま終わるのでは?】
【ありそう】
【今からそっち行くのが怖くなってきたぜ】
【まずベルトが現れないことにはな】
【それ】
ダン・ウィッチ村からアーカムシティに向かう道中、金狼氏が思い出したかのようにアザトースさんが持ちかけた案を振る。
話というが、裏切りの提案だ。おいそれと決められるものじゃない。
「流石にアザトースさんの意見だけ聞いて裏切るのって後味悪くないです?」
「俺はヨグ=ソトースも悪意の塊だと思ってるんだが。と言うか、そんな超常的な相手に気後れしない時点で爺さんのやばさが窺えるんだが?」
「え、普通にお話ししてるだけで?」
「俺やくまは脂汗たっぷりかいてたぞ?」
「まぁそこら辺は場数を踏んでもらうとして。そう言えばスズキさん」
「|◉〻◉)はいはい」
「この街、アーカムシティだったよね。ミスカトニック大学とかあったりする?」
「|◉〻◉)あー、あの図書館ですか?」
【図書館?】
【ぜってーやべー文献眠ってる蔵書行く気だこの人】
【決めつけるなよ、まだそうだと決まったわけじゃない】
「あれ、大学だよね。今図書館になってるの?」
「|◉〻◉)はい。誰も何も学びませんから。オリエンテーション広場兼図書館ですよ、あそこ」
【おい、この町の識字率どうなってるんだ!】
【経済も破綻してそう】
【言うて経済必要か? 住んでる奴ら奉仕種族だろ?】
【王様の命令には絶対とか楽な政治だな】
「へぇ、統治者が変われば歴史も置き去りにされたりするんだね。じゃあそこに案内してもらっていい?」
「|◉〻◉)はーい5名様ごあんなーい」
スズキさんの案ないのもと、町のそこかしこで寛いでるスズキさんにそっくりなサハギンを眺めつつ、例の図書室へと足を向けた。
禁書の類が大切に封印されてると噂の場所までやってくる。
「爺さん、今更こんな場所で正気度削りかよ」
「ああ、いえ。ここなら世界の明確な地図とかないかなって」
「マップか。まだ判明してないのか?」
「してないですねぇ。現代とあまりに違いすぎて場所の特定ができてないんですよ。だから少し拝借して、そこへ逐一書き足していこうかなと。私もアーカムやダン・ウィッチ村の発展を止めてしまった以上、そこから先はこちらで引き受けないといけないですし」
「まぁな」
「よくわからないけど、神格を拠点に据えると歴史は止まるくま?」
「止まる、と言うよりは人類として築いてきた歴史は終止符が打たれますよ。以降、その神格と奉仕種族の時代が生まれますので人間の頃のようにいかなくなりますよね。言うなれば発展し続ける世界から置いていかれることになる。人類の進化とは真逆に進むわけですからね」
「つまり、ここに来た目的は歴史的蔵書の回収?」
「そう捉えてもらって構いません。発展途上ではありますが、ダン・ウィッチ村から比べれば随分と近代的ですからねアーカムって。きっと多くの役立つ文献が転がってることでしょう」
すぐ隣でトランプで競うサハギンを横目にしつつ蔵書を漁る。
なんで大学の図書館でトランプしてるんだろう、この子達。
姉がコタツでくつろいでるから今更か。
思考を放棄して図書館の禁書庫で反応のあった蔵書を取り上げることにする。
「お、これとかどうです? 正気度ロールがビンビン反応してますよ!」
手に取った書物は不思議な感触のするカバーがかけられたものだった。
【その書物、人皮でカバーされてません?】
【触ると手が焼け爛れるやつ!】
【ルルイエ異本かな?】
「|◉〻◉)僕?」
【ご本人がおった!】
【そう言えばそうじゃん、御大がいるじゃんここ】
【随分と見慣れちまったからなー】
【もはや正気度減る可能性なくないか?】
【いや、ワンチャン水神クタァトの可能性も】
【今更そんな中ボス出されたって】
【うるせー、グラーキも中ボスだろ】
「はいはい喧嘩しないの。言語は……アトランティス言語ですね。水神クタァトについて書かれた文献のようです。一冊持っていきましょうかね。大丈夫ですかね、スズキさん」
「|◉〻◉)ハヤテさんが持っていくならお咎めなしですねー」
「第三者だとヤベーのか?」
「|◉〻◉)そりゃ泥棒したら僕の妹達が黙ってませんよ」
「妹ってさっきそこでトランプしてたサハギンくま?」
「|ー〻ー)あれは警備ですね」
【警備ザルすぎない?】
【ビーチでくつろいでるのはそのままの通りで、図書館でトランプしてるのは警備とはこれ如何に】
「|ー〻ー)あれは偽装です。真剣勝負をしてるフリをして見知らぬ御一行を注視してるんですよ。ふふふ」
「でもさっきご飯食べに行ったくまよ? 図書館はくま達以外もぬけの殻くま。負けた子の奢りだそうくま。警備してたんじゃないくま?」
「|◉〻◉)こ、交代の時間ですから!」
【リリーちゃん必至じゃん】
【いや、あんなにドヤった後にただ遊んでただけなんて言い出しづらいだろ】
【それより地図は見つかりました?】
「それっぽいものならあったよ。ほら」
【らくがきで草】
【これ、どこを示してるんですか?】
【それをマップとして扱ったら迷いそう】
古代言語で描かれた地図はあまりにも古すぎて地殻変動が起きる前の地球を示していた。
今現在の地図というよりは太古の地図の書き写しと言った感じ。使い道なんてあるわけがない。
「ふん、こんな蔵書焼き払った方が世のためじゃない? ここは悪意が強くて気分悪いわ」
アール君が表情を顰めながら鼻をつまむ。
そんなに嫌悪感剥き出しにしなくても良いじゃない。
ほら、アーシェ君が縮こまってるよ。
それを金狼氏が慰めてる。
「|◉〻◉)無断で焼き払ったら袋叩きにしますけどね。その覚悟があるならどうぞ」
「冗談を真に受けないでよね。性格悪いわよ?」
「この子の場合素なんですよね。性格が悪いのは褒め言葉ですよ、ね? スズキさん」
「|>〻<)僕は性格悪くないですー」
【どの口がそんなこと言うんですかねぇ?】
【飼い主から見放されてる幻影がいるってマ?】
【金狼と比べりゃ一目瞭然だよなぁ】
「|>〻<)うわぁん、みんながいじめます」
「よしよし。でも今回はスズキさんも悪いからね? ごめんなさいしてきなさい」
「|◉〻◉)あれ、これ僕慰められてなくないですか?」
【自業自得乙】
【あの状況でアキカゼさんが救ってくれるわきゃあない】
【大丈夫?】
そんな茶番を挟みつつ、禁書庫を分担作業で手分けして探していると……
「ここ、懐かしい感じがする」
アーシェ君が一冊の本を手に取った。
正気度を削りながらも金狼氏が読み込んだものは……
「あ、これ断片だわ、ページ数増えた。正気度は少し減っちまったが」
「え、こっちにもあるの?」
「そうみたいだな。俺はもう必要ないが、これって後続のために使えないだろうか?」
「だったら市場で卸してみたら? こんなに住民から必要とされてない図書館、いつ壊されてもおかしくないし」
【市場、開拓出来てたんですか? 聖典側だけのものだったはずじゃ】
【出来てるよ、お義父さんが開拓したんだと思う】
【今どんなものが並んでる?】
【僕が出した素材か、お義父さんの出したステータスポイントぐらいしかないよ。断片とかおいた方が賑やかしになるんじゃない?】
【まぁそうそうためになるアイテムを取得できるやつとかいないしな】
【ハンバーグさんやん】
「確かに見慣れない項目あるくま。市場なんて普段から使かわないから頭から抜け落ちてたくま」
「俺にも見えたな。ここに登録すれば場所が違くても流通できるのか」
「そうだと思います」
「あれ、でも断片は突っ込めねーわ。なんでだ?」
「|◉〻◉)一応それ、貸し出しものなので。取引するなら所有主になる必要があるんじゃないですか?」
「そうか、じゃあアキカゼさん、頼む」
「頼まれました。題名はどうしましょう?」
「題名なんているか?」
「間違って買ってしまう人を減らすための売り文句ですよ」
「じゃあ【断片】屍食教典儀で」
「シンプルですね、お値段は?」
「値段も決められるのか?」
「と言っても、ここでは素材の物々交換、それに準ずる情報、割り振ってないステータスポイントのやり取りだけが判明してます。後続に受け取りやすくするためにどれを選択するかですね」
「じゃあ情報だな。受取人はどうせ爺さんだろ? だったらその情報をうまく扱える人物に渡った方が得だ」
「ついでに私の方でも情報を売りに出しておきましょうかね。求めるものは素材でどうかな?」
「素材なんてそうそう見つかるか?」
「なんだって良いですよ。???の鉱石でも、得意分野の人に渡せば判明しますし、そうやって色んな人の手を伝って文明は作られるもんです。情報だって一人で抱えてるより拡散した方がいいに決まってますって」
「爺さんに言われるとそう思っちまうな。だからってみんながみんなそういう考えじゃねーって覚えておいた方がいいぜ?」
金狼氏が意地の悪そうな笑みを貼り付ける。
今までの経験上、クラン同士での揉め事とかもあるんだろうね。心得ているさ。
「もちろん、言われっぱなしの私じゃないよ。ただ私の場合、掲示板に顔を出すことが稀でね。こうやって情報提供をしているつもりだけど、どうしたって漏れが出てくるんだ」
「そのための配信だったか。で、漏れとはなんだ?」
「私の配信って、魔導書陣営以外には砂嵐にしか見えないらしいんですよ」
「魔導書の後続育成にはこれ以上ないくらいのもんじゃねーか。聖典側に情報がいかない安全策でWin-Winじゃねーのか?」
「それだと平等ではないでしょ? 私の配信は魔導書や聖典も分け隔てなく見てもらいたい。そういうのを心がけてるよ」
「爺さん……親父以上に変わりもんだな!」
「兄ちゃん、言い過ぎくま」
【良いこと言ってるのにこの言われよう】
【MMOだと正直もんはバカを見るからな】
【秘匿してなんぼなところは確かにある】
【そんな奴らにそれをやれってのは酷でしょう】
【金狼とかAWOじゃ古参だもんな】
【古参ならシェリルだってそうだろう?】
【古参がポッと出のアキカゼさんに先越されりゃ、クるもんがあるのは分かる】
【ただのゲームにムキになりすぎ】
【ゲームは遊びじゃないんだよ!】
【遊びだぞ】
【言い合いになってて草】
【この議論ばかりは平行線だからしゃーない】
取り敢えず頂ける物は頂きつつミスカトニック大学を出る。
水神クタァトにまつわる蔵書の他に、アーカムシティの周辺地図、そこに空撮したダン・ウィッチ村の風景を掌握領域で一つにまとめてみる。
【力技of力技】
【そんな技使えるんならさっさと使っておけばよかったじゃないですか】
【これ、空ルートまた来るか?】
【この前変なの引っ掛けなかったっけ?】
【バックベアード様かな?】
【そう、それ】
「爺さん、またとんでもなくなってねーか?」
金狼氏の呆れ声に、苦笑するリスナー達。
もはや配信では見慣れた状況になるつつある掌握領域だが、初見だとこうも反応が新鮮なのは良いね。
ついつい余計な動きを取り入れて披露したくなる。
【アキカゼさんの配信見てたらこれぐらい普通だよな?】
【もっととんでもねーことしてるし】
【雑談枠ってなんだっけっていつも思うもん】
【普通なら大見出しついててもおかしくないネタを雑談ですますのがアキカゼさんだし?】
「実際雑談でしょ? アザトースさんやナイアルラトホテプとの会談もあったけど」
【それだけで視聴率爆上がりなんだよなぁ】
【なんでもない風にいうのやめろ】
【それが出来ない子もいるんですよ!】
【それ以外のことスルーしすぎなんよ】
【さらっと市場開拓してるし】
【これ、後続が来ても目立たないまま終わるのでは?】
【ありそう】
【今からそっち行くのが怖くなってきたぜ】
【まずベルトが現れないことにはな】
【それ】
0
お気に入りに追加
1,982
あなたにおすすめの小説
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
いや、一応苦労してますけども。
GURA
ファンタジー
「ここどこ?」
仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。
気がつくと見知らぬ草原にポツリ。
レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。
オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!?
しかも男キャラって...。
何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか?
なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。
お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。
※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。
※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜
双葉 鳴|◉〻◉)
SF
向井明斗25歳。通院中、会社からかかってきた要件は、これ以上業務を休むならもう来なくていいと言う実質上の首切り宣言だった。
就職難で漸く拾ってくれた会社にそれこそ身を粉にして働き、その結果が通院処分。精神と肉体を磨耗した明斗は、通院帰りに立ち寄ったゲームショップで懐かしいタイトルを発見する。
「New Arkadia Frontier」
プレイヤーを楽しませる要素を徹底的に廃し、しかしながらその細かすぎるくらいのリアルさに一部のマニアが絶賛するクソゲー。
明斗もまたそのゲームの虜になった一人だった。
懐かしさにそのタイトルをレジに持っていこうとして立ち止まる。あれ、これって確かPCゲームじゃなかったっけ? と。
PCゲームは基本、公式ホームページからのダウンロード。パッケージ販売などしていない筈だ。
おかしいぞとパッケージを見返してみれば、そこに記されていたのはVR規格。
たった五年、ゲームから離れてるうちにあのゲームは自分でも知らない場所に羽ばたいてしまっていた。
そもそも、NAFは言わずと知れたクソゲーだ。
5年前ですらサービス終了をいつ迎えるのかとヒヤヒヤしていた覚えがある明斗。一体どんなマジックを使えばこのゲームが全世界に向けてネット配信され、多くのプレイヤーから賞賛を受けることになるのか?
もはや仕事をクビになったことよりもそっちの方が気になり、明斗は当時のネーム『ムーンライト』でログインする事に。
そこでムーンライトは思いがけずそのゲームの根幹を築いたのが自分であることを知る。
そこで彼が見たものは一体なんなのか?
──これはニッチな需要を満たし続けた男が、知らず知らずのうちに大物から賞賛され、大成する物語である。
※この作品には過度な俺TUEEEE、無双要素は設けておりません。
一見して不遇そうな主人公がニッチな要素で優遇されて、なんだかんだ美味い空気吸ってるだけのお話です。
なお、多少の鈍感要素を含む。
主人公含めて変人多めの日常風景をお楽しみください。
※カクヨムさんで先行公開されてます。
NAF運営編完結につき毎日更新に変更。
序章:New Arkadia Frontierへようこそ【9.11〜9.30】19話
一章:NAF運営編【10.2〜10.23】23話
二章:未定
【お知らせ】
※10/10予約分がミスで11/10になってたのを10/11に確認しましたので公開にしておきました。一話分飛んでしまって申し訳ありません。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる