440 / 497
5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
392.お爺ちゃんのドリームランド探訪4
しおりを挟む
港町を抜けると、緑豊かな草原に出た。
ここら辺は荒野と違って動植物も豊かでいろんな動物を目撃する。コメント欄ではその動物などに強い興味を示すものがちらほらある。画像以外で実際に動いてるところを見たことない人も多く、動きを見せるたびにコメントがついていた。
私も思わずカメラを向けたほどだ。
ただ、写し込んだ先に良くないものも写ったのさえ除けばね。
「あちゃー、また変な怪異が写り込んだ」
「|◉〻◉)何が写ったんです?」
バナナの皮を剥きながら聞いてくるスズキさん。
剥いたバナナをクトゥルフさんに食べさせてる光景は非常にシュールだ。
ただこのパターン、画像を見せるとその怪異が飛び出てくる仕掛けを知ってるから私は口頭のみで説明する。
もし限定条件のプレイヤーに配信中の視聴者も含まれるとしたら、大惨事になりかねないからね。
クトゥルフさんが居てくれるから平気とは思いたいけど、だからと言って面倒ごとはごめんだよ。
「動物霊みたいな奴だね。特定の動物に憑依してるようで、それを写すと高確率でその動物から湧き出てくる感じなんだ」
「|◉〻◉)へー、もしかしたらそうやって魂を分けて存在する神格もいたりするかもしれませんね。あ、クトゥルフ様。バナナの皮は食べ物じゃないです」
[美味かったぞ?]
「|ー〻ー)なら大丈夫ですけど」
【リリーちゃん、気苦労が絶えないな】
【クトゥルフ様は雑食かー】
[口に入り、腹が満たされれば何を摂っても問題なかろう?]
「胃腸が健康で羨ましい限りですよ。スズキさん、だからと言って皮ごと輪切りにしたバナナを私の皿に乗せるのはやめて」
「|◉〻◉)え?」
【草】
【クトゥルフ様の言葉を真に受け過ぎやろこの子】
【幻影は神格の忠実なる部下だもんなぁ】
【アキカゼさんも中くり抜いて食べればいいだけでは?】
【そうそう、別に皮ごと食べ路なんて言ってないし】
「|◉〻◉)え?」
【こら、そこ! こっちがフォローしてんのに違いますよって顔すんな!】
【リリーちゃん、クトゥルフ様好き過ぎやろ】
【幻影だからなぁ】
【そこら辺はブレないか】
そんなやり取りで時間を潰しつつ、動物霊的な存在を横に置いていく。このフレーバーが一体何を指すのかもちろん興味はあるが、そればかりにかまけている時間はない。
勿論、目的なくこちらに観光しに来ている私としては調べる価値はあるにだけど、今は一緒に回る相手がいるのでそちらを優先するつもりで居た。
こたつに入れるサイズに肉体を縮小させたクトゥルフさん。
もしかしてこの人ってムーの関係者なんじゃないか?
なんて言葉が喉元まで出かけている。
海の支配者といえども拡大縮小を操る手腕はムーの特性。
もしくはムーの祖先の一人ではないかと思っている。
そもそもムー人もアトランティス人もレムリア人でさえ、どこから地球にやって来たかも定かじゃない。
何億年も生きてるあたりで末裔ではないだろうけど、何かに関係してるのかもねと話題を振ってみた。
クトゥルフさんの逸話ってよく聞くけど、それ以前は全く聞いたことがないもんね。せっかく仲良くなったんだし、こう言う思い出話も聞き出せたらいいなって、それだけ。
「そう言えばクトゥルフさんの縮小能力を見て思い出したんですけど、クトゥルフさんはムーの民って知ってますか?」
[聞いたことはあるが、直接は知らんな。其奴らがどうした?]
「いえね、彼らは不思議なことに肉体の拡大と縮小を操って一時期大陸を支配していたそうなんですよ」
[ほう、余が眠っているうちに栄えた種族か]
口調こそ穏やかなクトゥルフさんだったが、表情が強張っていく。自分の代わりに台登した人類に対して強い怒りを感じるようだった。
「と、言っても巨大化して殴りつける、数を持って踏み潰すくらいしかしてないのですが」
[野蛮だな。しかし理に叶っている]
「ええ。実際にそれで実力の拮抗していた相手を滅ぼして君臨した種族ですから」
[ふむ。だがそれが貴殿の祖先だとは言わないのだな?]
「そうですね。悲しい事故があり、彼らは一夜のうちに絶滅しました。まるでその大陸だけ抉られてしまったかのように地図上から消えてしまったんです」
「|◉〻◉)その話長いですか?」
「もうちょっとで終わるから待って」
「|ー〻ー)はーい」
[ふふふ、そのような種族が居た事と余の存在を結びつけているのだな、貴殿は]
「いいえ、違いますよ。問題はそこではなく、神格なら誰でも拡大縮小を使えたのかなと引っかかりを覚えたんです。クトゥルフさんの逸話ってよく聞くんですけど、それより前の昔話ってあまり聞かないなって思ったもので」
[ふむ、眷属達には必要のない事柄故伝えてはおらぬが気になるか?]
「お話するのが恥ずかしいなら詳しくは聞きませんが、そうでなければ興味はありますね」
[その興味が自分の最後の言葉だとしてもか?]
「ええ。私の命一つで情報が得られるならば安いと、そう思ってしまう男ですよ、私は」
「|◉〻◉)ハヤテさんはブレませんよね」
[別に隠すことのものでもないのだがな。あまり聞かれたことがない故、照れるものよ]
【おっとぉ、クトゥルフ様のデレ期到来か?】
【↑不敬だぞ?】
【単純にアバターが死んでもログアウトするだけだから言ってるんだぞ、この人】
【大した覚悟がなかった件】
【それでも俺らに情報は伝達されるからな】
【そのための配信】
「|◉〻◉)流石に砂嵐案件ですので配信先に流すかどうかは僕が決めますね?」
【あの砂嵐リリーちゃんの仕業か!】
【実際ファインプレーなんだよなぁ】
【まず間違いなくSAN値が死ぬぅ!】
そんな失礼なコメントにもめくじら立てずに付き合ってくれるクトゥルフさんはやっぱりあの時であった当人より随分と丸くなっていた。
彼の語りは、まるで田舎から一人上京して来た様。
手探りで敵対種族を滅ぼし、眷属を用いてお気に入りの場所を決めた。
その数々が輝かしい歴史に至るまでの踏み台。
しかしお気に入りの寝床だけは最後まで手放すことはなかったそうだ。
それを聞いてスズキさんが照れながらお茶汲みを始めた。
彼的には故郷を思わせる懐かしい色艶が気に入ったとかなんとか。
出会いこそ運命的で、ずっと使い続けているうちに魂が宿ったのがスズキさんだと思えば照れ臭くなるのも納得だった。
と、そこまで語らって思い至るのが先ほどの動物霊だ。
もし神格の気に入った物が場所ではなくその動物だった場合、そこに意思は宿るのだろうか?
「そう言えばさっきの写真、これなんですけどね」
視聴者には見せずに、コタツの上に置いたそれをスズキさんとクトゥルフさんが覗き込む。
カンガルーを思わせる動物から何かが守護霊の様に浮き出してる画像だ。
ポケットの中にもそれらしき霊体が生えてるあたり、妙に気になる映像だ。
「|◉〻◉)確かになんか生えてますね」
[そうであるな。余はあまり地上の種族に詳しくない故、何かはわからぬが、同胞の匂いはしているな。貴殿はこれに同胞の何かを感じ取ったか?]
「ええ、クトゥルフさんがスズキさんをお気に入りな様に、神格によっては動物を気にいる事もあるのではと思いまして」
【なになに、気になる見せて見せて】
【こっちにわざわざ流さないってことは、見るとやばい系なんだろ? 察しろ】
【そっち系かー】
「|◉〻◉)ちなみに前回それでグラーキ召喚したって聞いたら皆さんどう思います?」
【あ、はい黙ります】
【グラーキ召喚はやばいな】
【え、もし俺らがその写真見たらこっちにグラーキ現れんの?】
「|ー〻ー)可能性はなきにもあらず。そのための配慮です」
【はーい】
【了解です】
【しかも神格のお気に入りとか絶対やばい未来待ったなしじゃん】
【あ、アキカゼさん見せなくていいです。全然興味ないので】
【こっちが否定した途端に急にイキイキして見せようとすんのやめろ!】
【草】
私がそんな素振りをしたら一斉に牙を剥いてくるのなんなの?
見せろって言うから見せてもいいかなって思っただけなのにさ。
「さて、このまままっすぐいくと森ですね」
「|◉〻◉)なんかさっきからコタツが謎の引力に吸い込まれてる気がしますが」
[間違いなくその動物霊の仕業であろうな]
【ふぁーー!?】
【写真見たそばからそれかよ!】
【そもそも揚力で浮いてるから方向転換自分でできないんやろ】
【今まで風の吹くまま木の向くままで流れてきた件】
【どっちみち目的無かったしいいのか】
【問題はその相手の神格が魔導書に連なる方か聖典に連なる方かなんだよな】
「|◉〻◉)コタツなら一枠あいてますよ?」
【聖獣キラーが通用する相手ならいいな】
【聖獣キラーwww】
「ショゴスなら召喚出来るけど、する?」
【やめろ!】
【無理に枠埋めなくていいから】
「なら暗黒のファラオでも呼ぶ?」
【ナイアルラトホテプじゃねーか! 黒幕さん呼べるの?】
【2Pカラーなんだっけ、あの人】
【出た、輝くトラペゾヘドロン!】
【普通見ただけで発狂するんだけど】
【ああ、SAN値直送のフルコースで俺らにも耐性出来たよな】
[ふむ、彼奴か。呼んでも構わぬぞ?]
「じゃあ呼びますねー」
「|◉〻◉)じゃあ僕はお迎えの準備をしますか」
私が腕輪をかざして窓を配置すると、スズキさんが回収業車の如くその窓を乱暴に揺すった。
前回それをやって怒られたんじゃなかったっけ?
空いた窓の先から、随分と機嫌の悪そうな私のそっくりさんが現れた。
もし呼び出した相手がもりもりハンバーグ君だった場合、彼のそっくりさんが現れるのだろうか?
[またお前か。なんの用だ人類?]
[久しいな、ナイアルラトホテプよ]
[クトゥルフまで居るのか……何やら嫌な予感がして来たぞ]
「立ち話もなんですしまぁ座ってください」
「|◉〻◉)良いですか? ここにこうやって座るんです、そうそうクトゥルフ様と向き合う様にして、それでオッケーです」
スズキさんのセッティングを終え、私達は謎の引力に導かれるまま浮遊するコタツに豪華メンバーを乗せて赴いていく。
コメント欄は一時期謎の発狂をするが、少し経てば落ち着いたのかゆっくりとだが意識回復の報告を入れてくる。
私の2Pカラーを見て発狂とかやめて欲しいね。
[さて、何が出るやら]
[おい待て、その先に何があるか知らずにいくのか? なんて無駄な時間の使い方だ]
[それもまた良し。余はそうやって新しい知見を得ることができたぞ? 貴殿も付き合え]
神格同士がまるでコントの様なやり取りを交わす。
その姿はまるで私と探偵さんの様な凸凹具合。
心底楽しむクトゥルフさんと、面倒ごとに巻き込まれたナイアルラトホテプという図がまた面白い。
本来なら彼は掻き回す方だからね。
私も学生時代、よく探偵さんに振り回されてたからこの歳になって意趣返し出来るとは思いもしなかったな。
それを今度は歳上のクトゥルフさんがやり込める形でナイアルラトホテプを振り回す。
物おじしない二人だからなんでも片付けてしまいそうだけど、そこに視聴者まで加わればまた面白いコンテンツが出来上がるのではないかと私の直感が囁いてくるのだ。
この二柱はどちらかと言えば中間管理職の様な立ち位置だからね。上司のアザトースやヨグ=ソトースに頭が上がらないんだ。
アザトースはGMであるかの様に振る舞ったが、ヨグ=ソトースはそうではないんだよね?
一方でアトランティス人の彼もGMであるかの様に振る舞っている。
思うに格が上だからとGMになれるとは限らないのか。
条件の一つに暗躍するにが大好きとかあるんだろうか?
だったらナイアルラトホテプとかも条件に一致するんだけど。
[どうした、人類。薄気味悪い笑みを浮かべおって。不快だぞ?]
「ああ、いや。アザトース様はGM、この世界のゲームマスターだとおっしゃっていたんですけど、あなたもそのうちの一人なんじゃないかと思って」
[その様な邪推をしておったか。我は所詮父上の手駒の一つでしかない]
【ナイアルラトホテプの親父ってあのアザトース?】
[様をつけぬか不届き物め!]
【ぐえー、死んだンゴー】
【視聴者にダイレクトアタック!】
【超☆エキサイティング!】
【なんだこの流れ】
【ツンが過ぎるぞニャル様!】
[頭が痛い]
「|◉〻◉)プークスクス。良い様ですね!」
[追い討ちはよせルリーエ。だが気分がいいのは同意だ]
この二人もなんだかんだ似た物夫婦なんだよねぇ。
私に似た? またまたぁ。
だからって私に恨みの矛先を向けるのはやめて欲しいですけどね、そこのナイアルラトホテプさん?
「さぁ森が開けてきましたよ。何が出てきますかね。ワクワクしませんか?」
それより気になる相手が右と左にいるだろとツッコミを受けつつも私たちの乗るコタツは動物霊の待つ森の最奥へと誘われた。
ここら辺は荒野と違って動植物も豊かでいろんな動物を目撃する。コメント欄ではその動物などに強い興味を示すものがちらほらある。画像以外で実際に動いてるところを見たことない人も多く、動きを見せるたびにコメントがついていた。
私も思わずカメラを向けたほどだ。
ただ、写し込んだ先に良くないものも写ったのさえ除けばね。
「あちゃー、また変な怪異が写り込んだ」
「|◉〻◉)何が写ったんです?」
バナナの皮を剥きながら聞いてくるスズキさん。
剥いたバナナをクトゥルフさんに食べさせてる光景は非常にシュールだ。
ただこのパターン、画像を見せるとその怪異が飛び出てくる仕掛けを知ってるから私は口頭のみで説明する。
もし限定条件のプレイヤーに配信中の視聴者も含まれるとしたら、大惨事になりかねないからね。
クトゥルフさんが居てくれるから平気とは思いたいけど、だからと言って面倒ごとはごめんだよ。
「動物霊みたいな奴だね。特定の動物に憑依してるようで、それを写すと高確率でその動物から湧き出てくる感じなんだ」
「|◉〻◉)へー、もしかしたらそうやって魂を分けて存在する神格もいたりするかもしれませんね。あ、クトゥルフ様。バナナの皮は食べ物じゃないです」
[美味かったぞ?]
「|ー〻ー)なら大丈夫ですけど」
【リリーちゃん、気苦労が絶えないな】
【クトゥルフ様は雑食かー】
[口に入り、腹が満たされれば何を摂っても問題なかろう?]
「胃腸が健康で羨ましい限りですよ。スズキさん、だからと言って皮ごと輪切りにしたバナナを私の皿に乗せるのはやめて」
「|◉〻◉)え?」
【草】
【クトゥルフ様の言葉を真に受け過ぎやろこの子】
【幻影は神格の忠実なる部下だもんなぁ】
【アキカゼさんも中くり抜いて食べればいいだけでは?】
【そうそう、別に皮ごと食べ路なんて言ってないし】
「|◉〻◉)え?」
【こら、そこ! こっちがフォローしてんのに違いますよって顔すんな!】
【リリーちゃん、クトゥルフ様好き過ぎやろ】
【幻影だからなぁ】
【そこら辺はブレないか】
そんなやり取りで時間を潰しつつ、動物霊的な存在を横に置いていく。このフレーバーが一体何を指すのかもちろん興味はあるが、そればかりにかまけている時間はない。
勿論、目的なくこちらに観光しに来ている私としては調べる価値はあるにだけど、今は一緒に回る相手がいるのでそちらを優先するつもりで居た。
こたつに入れるサイズに肉体を縮小させたクトゥルフさん。
もしかしてこの人ってムーの関係者なんじゃないか?
なんて言葉が喉元まで出かけている。
海の支配者といえども拡大縮小を操る手腕はムーの特性。
もしくはムーの祖先の一人ではないかと思っている。
そもそもムー人もアトランティス人もレムリア人でさえ、どこから地球にやって来たかも定かじゃない。
何億年も生きてるあたりで末裔ではないだろうけど、何かに関係してるのかもねと話題を振ってみた。
クトゥルフさんの逸話ってよく聞くけど、それ以前は全く聞いたことがないもんね。せっかく仲良くなったんだし、こう言う思い出話も聞き出せたらいいなって、それだけ。
「そう言えばクトゥルフさんの縮小能力を見て思い出したんですけど、クトゥルフさんはムーの民って知ってますか?」
[聞いたことはあるが、直接は知らんな。其奴らがどうした?]
「いえね、彼らは不思議なことに肉体の拡大と縮小を操って一時期大陸を支配していたそうなんですよ」
[ほう、余が眠っているうちに栄えた種族か]
口調こそ穏やかなクトゥルフさんだったが、表情が強張っていく。自分の代わりに台登した人類に対して強い怒りを感じるようだった。
「と、言っても巨大化して殴りつける、数を持って踏み潰すくらいしかしてないのですが」
[野蛮だな。しかし理に叶っている]
「ええ。実際にそれで実力の拮抗していた相手を滅ぼして君臨した種族ですから」
[ふむ。だがそれが貴殿の祖先だとは言わないのだな?]
「そうですね。悲しい事故があり、彼らは一夜のうちに絶滅しました。まるでその大陸だけ抉られてしまったかのように地図上から消えてしまったんです」
「|◉〻◉)その話長いですか?」
「もうちょっとで終わるから待って」
「|ー〻ー)はーい」
[ふふふ、そのような種族が居た事と余の存在を結びつけているのだな、貴殿は]
「いいえ、違いますよ。問題はそこではなく、神格なら誰でも拡大縮小を使えたのかなと引っかかりを覚えたんです。クトゥルフさんの逸話ってよく聞くんですけど、それより前の昔話ってあまり聞かないなって思ったもので」
[ふむ、眷属達には必要のない事柄故伝えてはおらぬが気になるか?]
「お話するのが恥ずかしいなら詳しくは聞きませんが、そうでなければ興味はありますね」
[その興味が自分の最後の言葉だとしてもか?]
「ええ。私の命一つで情報が得られるならば安いと、そう思ってしまう男ですよ、私は」
「|◉〻◉)ハヤテさんはブレませんよね」
[別に隠すことのものでもないのだがな。あまり聞かれたことがない故、照れるものよ]
【おっとぉ、クトゥルフ様のデレ期到来か?】
【↑不敬だぞ?】
【単純にアバターが死んでもログアウトするだけだから言ってるんだぞ、この人】
【大した覚悟がなかった件】
【それでも俺らに情報は伝達されるからな】
【そのための配信】
「|◉〻◉)流石に砂嵐案件ですので配信先に流すかどうかは僕が決めますね?」
【あの砂嵐リリーちゃんの仕業か!】
【実際ファインプレーなんだよなぁ】
【まず間違いなくSAN値が死ぬぅ!】
そんな失礼なコメントにもめくじら立てずに付き合ってくれるクトゥルフさんはやっぱりあの時であった当人より随分と丸くなっていた。
彼の語りは、まるで田舎から一人上京して来た様。
手探りで敵対種族を滅ぼし、眷属を用いてお気に入りの場所を決めた。
その数々が輝かしい歴史に至るまでの踏み台。
しかしお気に入りの寝床だけは最後まで手放すことはなかったそうだ。
それを聞いてスズキさんが照れながらお茶汲みを始めた。
彼的には故郷を思わせる懐かしい色艶が気に入ったとかなんとか。
出会いこそ運命的で、ずっと使い続けているうちに魂が宿ったのがスズキさんだと思えば照れ臭くなるのも納得だった。
と、そこまで語らって思い至るのが先ほどの動物霊だ。
もし神格の気に入った物が場所ではなくその動物だった場合、そこに意思は宿るのだろうか?
「そう言えばさっきの写真、これなんですけどね」
視聴者には見せずに、コタツの上に置いたそれをスズキさんとクトゥルフさんが覗き込む。
カンガルーを思わせる動物から何かが守護霊の様に浮き出してる画像だ。
ポケットの中にもそれらしき霊体が生えてるあたり、妙に気になる映像だ。
「|◉〻◉)確かになんか生えてますね」
[そうであるな。余はあまり地上の種族に詳しくない故、何かはわからぬが、同胞の匂いはしているな。貴殿はこれに同胞の何かを感じ取ったか?]
「ええ、クトゥルフさんがスズキさんをお気に入りな様に、神格によっては動物を気にいる事もあるのではと思いまして」
【なになに、気になる見せて見せて】
【こっちにわざわざ流さないってことは、見るとやばい系なんだろ? 察しろ】
【そっち系かー】
「|◉〻◉)ちなみに前回それでグラーキ召喚したって聞いたら皆さんどう思います?」
【あ、はい黙ります】
【グラーキ召喚はやばいな】
【え、もし俺らがその写真見たらこっちにグラーキ現れんの?】
「|ー〻ー)可能性はなきにもあらず。そのための配慮です」
【はーい】
【了解です】
【しかも神格のお気に入りとか絶対やばい未来待ったなしじゃん】
【あ、アキカゼさん見せなくていいです。全然興味ないので】
【こっちが否定した途端に急にイキイキして見せようとすんのやめろ!】
【草】
私がそんな素振りをしたら一斉に牙を剥いてくるのなんなの?
見せろって言うから見せてもいいかなって思っただけなのにさ。
「さて、このまままっすぐいくと森ですね」
「|◉〻◉)なんかさっきからコタツが謎の引力に吸い込まれてる気がしますが」
[間違いなくその動物霊の仕業であろうな]
【ふぁーー!?】
【写真見たそばからそれかよ!】
【そもそも揚力で浮いてるから方向転換自分でできないんやろ】
【今まで風の吹くまま木の向くままで流れてきた件】
【どっちみち目的無かったしいいのか】
【問題はその相手の神格が魔導書に連なる方か聖典に連なる方かなんだよな】
「|◉〻◉)コタツなら一枠あいてますよ?」
【聖獣キラーが通用する相手ならいいな】
【聖獣キラーwww】
「ショゴスなら召喚出来るけど、する?」
【やめろ!】
【無理に枠埋めなくていいから】
「なら暗黒のファラオでも呼ぶ?」
【ナイアルラトホテプじゃねーか! 黒幕さん呼べるの?】
【2Pカラーなんだっけ、あの人】
【出た、輝くトラペゾヘドロン!】
【普通見ただけで発狂するんだけど】
【ああ、SAN値直送のフルコースで俺らにも耐性出来たよな】
[ふむ、彼奴か。呼んでも構わぬぞ?]
「じゃあ呼びますねー」
「|◉〻◉)じゃあ僕はお迎えの準備をしますか」
私が腕輪をかざして窓を配置すると、スズキさんが回収業車の如くその窓を乱暴に揺すった。
前回それをやって怒られたんじゃなかったっけ?
空いた窓の先から、随分と機嫌の悪そうな私のそっくりさんが現れた。
もし呼び出した相手がもりもりハンバーグ君だった場合、彼のそっくりさんが現れるのだろうか?
[またお前か。なんの用だ人類?]
[久しいな、ナイアルラトホテプよ]
[クトゥルフまで居るのか……何やら嫌な予感がして来たぞ]
「立ち話もなんですしまぁ座ってください」
「|◉〻◉)良いですか? ここにこうやって座るんです、そうそうクトゥルフ様と向き合う様にして、それでオッケーです」
スズキさんのセッティングを終え、私達は謎の引力に導かれるまま浮遊するコタツに豪華メンバーを乗せて赴いていく。
コメント欄は一時期謎の発狂をするが、少し経てば落ち着いたのかゆっくりとだが意識回復の報告を入れてくる。
私の2Pカラーを見て発狂とかやめて欲しいね。
[さて、何が出るやら]
[おい待て、その先に何があるか知らずにいくのか? なんて無駄な時間の使い方だ]
[それもまた良し。余はそうやって新しい知見を得ることができたぞ? 貴殿も付き合え]
神格同士がまるでコントの様なやり取りを交わす。
その姿はまるで私と探偵さんの様な凸凹具合。
心底楽しむクトゥルフさんと、面倒ごとに巻き込まれたナイアルラトホテプという図がまた面白い。
本来なら彼は掻き回す方だからね。
私も学生時代、よく探偵さんに振り回されてたからこの歳になって意趣返し出来るとは思いもしなかったな。
それを今度は歳上のクトゥルフさんがやり込める形でナイアルラトホテプを振り回す。
物おじしない二人だからなんでも片付けてしまいそうだけど、そこに視聴者まで加わればまた面白いコンテンツが出来上がるのではないかと私の直感が囁いてくるのだ。
この二柱はどちらかと言えば中間管理職の様な立ち位置だからね。上司のアザトースやヨグ=ソトースに頭が上がらないんだ。
アザトースはGMであるかの様に振る舞ったが、ヨグ=ソトースはそうではないんだよね?
一方でアトランティス人の彼もGMであるかの様に振る舞っている。
思うに格が上だからとGMになれるとは限らないのか。
条件の一つに暗躍するにが大好きとかあるんだろうか?
だったらナイアルラトホテプとかも条件に一致するんだけど。
[どうした、人類。薄気味悪い笑みを浮かべおって。不快だぞ?]
「ああ、いや。アザトース様はGM、この世界のゲームマスターだとおっしゃっていたんですけど、あなたもそのうちの一人なんじゃないかと思って」
[その様な邪推をしておったか。我は所詮父上の手駒の一つでしかない]
【ナイアルラトホテプの親父ってあのアザトース?】
[様をつけぬか不届き物め!]
【ぐえー、死んだンゴー】
【視聴者にダイレクトアタック!】
【超☆エキサイティング!】
【なんだこの流れ】
【ツンが過ぎるぞニャル様!】
[頭が痛い]
「|◉〻◉)プークスクス。良い様ですね!」
[追い討ちはよせルリーエ。だが気分がいいのは同意だ]
この二人もなんだかんだ似た物夫婦なんだよねぇ。
私に似た? またまたぁ。
だからって私に恨みの矛先を向けるのはやめて欲しいですけどね、そこのナイアルラトホテプさん?
「さぁ森が開けてきましたよ。何が出てきますかね。ワクワクしませんか?」
それより気になる相手が右と左にいるだろとツッコミを受けつつも私たちの乗るコタツは動物霊の待つ森の最奥へと誘われた。
0
お気に入りに追加
1,982
あなたにおすすめの小説
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
いや、一応苦労してますけども。
GURA
ファンタジー
「ここどこ?」
仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。
気がつくと見知らぬ草原にポツリ。
レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。
オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!?
しかも男キャラって...。
何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか?
なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。
お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。
※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。
※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜
双葉 鳴|◉〻◉)
SF
向井明斗25歳。通院中、会社からかかってきた要件は、これ以上業務を休むならもう来なくていいと言う実質上の首切り宣言だった。
就職難で漸く拾ってくれた会社にそれこそ身を粉にして働き、その結果が通院処分。精神と肉体を磨耗した明斗は、通院帰りに立ち寄ったゲームショップで懐かしいタイトルを発見する。
「New Arkadia Frontier」
プレイヤーを楽しませる要素を徹底的に廃し、しかしながらその細かすぎるくらいのリアルさに一部のマニアが絶賛するクソゲー。
明斗もまたそのゲームの虜になった一人だった。
懐かしさにそのタイトルをレジに持っていこうとして立ち止まる。あれ、これって確かPCゲームじゃなかったっけ? と。
PCゲームは基本、公式ホームページからのダウンロード。パッケージ販売などしていない筈だ。
おかしいぞとパッケージを見返してみれば、そこに記されていたのはVR規格。
たった五年、ゲームから離れてるうちにあのゲームは自分でも知らない場所に羽ばたいてしまっていた。
そもそも、NAFは言わずと知れたクソゲーだ。
5年前ですらサービス終了をいつ迎えるのかとヒヤヒヤしていた覚えがある明斗。一体どんなマジックを使えばこのゲームが全世界に向けてネット配信され、多くのプレイヤーから賞賛を受けることになるのか?
もはや仕事をクビになったことよりもそっちの方が気になり、明斗は当時のネーム『ムーンライト』でログインする事に。
そこでムーンライトは思いがけずそのゲームの根幹を築いたのが自分であることを知る。
そこで彼が見たものは一体なんなのか?
──これはニッチな需要を満たし続けた男が、知らず知らずのうちに大物から賞賛され、大成する物語である。
※この作品には過度な俺TUEEEE、無双要素は設けておりません。
一見して不遇そうな主人公がニッチな要素で優遇されて、なんだかんだ美味い空気吸ってるだけのお話です。
なお、多少の鈍感要素を含む。
主人公含めて変人多めの日常風景をお楽しみください。
※カクヨムさんで先行公開されてます。
NAF運営編完結につき毎日更新に変更。
序章:New Arkadia Frontierへようこそ【9.11〜9.30】19話
一章:NAF運営編【10.2〜10.23】23話
二章:未定
【お知らせ】
※10/10予約分がミスで11/10になってたのを10/11に確認しましたので公開にしておきました。一話分飛んでしまって申し訳ありません。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる