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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

閑話 氷の心を溶かすのは

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 思えば私は幼少の頃より人より優秀である事が義務付けられていたように思う。
 そんな私は自分勝手な父親が嫌いで、何かにつけて対抗心を燃やしていた。

 女だからと舐められないように、強くなりなさいとは母の言葉だ。母はどうして父と一緒になることを決めたのか。
 それを聞くといつも照れ臭そうに笑ったのを覚えている。
 

「きっと、情が移ったのね。あの人って私がいないと何もできないのよ。口では偉そうなこと言っておいて。だから私が相手をしてあげてるの」


 そんな風に父との馴れ初めを話す母に、やはり父は敵だと子供ながらに思っていた。
 
 妹が出来て、私は姉となる。
 妹は可愛いが、私と母の時間を奪ってしまう。
 母はお姉ちゃんなんだから少しは妹に時間を分けてあげなさいと言うけれど、私だって母にお話を聞いて欲しかった。

 そんな時、決まって母はこの言葉を使う。
 その言葉は私の中でいつまでも響き続ける。

 お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい。
 あなたは私の自慢の娘よ。自信を持ちなさい。

 それは私の内側で芽吹き、幼き弱い心を雁字搦めにした。

 三番目の妹ができた頃には、私は姉として率先して母の負担を減らす役割を受け持つ。
 姉だから弁えてないといけないと、自分に課して次女である真希へ姉の心得を言い聞かせた。

 けど次女の真希は、三女の由香里に対して嫉妬してしまう。
 私が一時期それをしてしまったように、彼女もまた自分の物だった母を奪われて悲しい思いをしているのだ。
 
 私達家族には父親が足りない。
 友達の吉江ちゃんにはお父さんもお母さんもいるのに、わたしにはお母さんしかいない。
 お父さんは、私たちのためにお仕事を頑張っているとは言っても、もう何ヶ月もあって居ないから本当に私たちを愛しているかすらわからなくなってくる。

 そんな時に母の言葉がぐるぐると胸の内側で回り続ける。
 強くなりなさい。お父さんが居なくたって大丈夫だと。
 女一人でもへっちゃらだと。
 舐められないように感情を殺して、己を律して。

 私は、今まで生きてきたのだから。



 ◇


 ふと目が覚める。
 どうやら長いこと眠りについていたようだ。


「随分と懐かしい夢。あの当時の夢を見るなんて、何時ぶりかしら?」


 寝起きに軽く屈伸をし、グラフボードに届いたメールを速読で斜め読み。頭の中で仕事の優先順位を並び替え、そのまま洗顔を終える。


「真希、その……先日は残念だったね」

「別に気にしてないわ」


 夫の裕樹が残念そうに表情を曇らせている。
 先日というのは聖魔大戦のことだろう。
 私はそのイベント会場で空回りして神格から愛想をつかれてしまった。そしてポイントが振るわなかったことに対して私達を快く思って無い連中からいくつか暴言を頂いた。それだけの事だ。


「本当に無理してないか? 数日休んだ方がいい。仕事のことは俺がしておくから」

「私がそんなか弱い女に見えるの?」

「見えないよ。でも、夫として心配するのもダメか?」

「ダメではないわ、ごめんなさい。まだ少し不調のようだわ。成績が振るわなかった程度でここまで心を乱すなんてダメね」

「真希はもう少し俺に甘えてもいいんだぞ?」

「ごめんなさい、こればかりは性分なのよ」

「わかっているよ」

「それより母さんは?」


 普段なら自分の事を優先していいと言っているのに家事のあれこれに首を突っ込んでくる私の目標である母。
 それが今日に限ってキッチンに姿を現さなかった。


「ああ、さっき義父さんから電話があってそれの対応をしてるよ」

「父さんから?」

「なんでも急に声が聞きたくなったそうなんだ」

「何それ。いつでもゲームの中で聴けるじゃない」


 私の言葉に、夫が「そうだけどね」と少し暗い顔をした。
 何か言いたいことがあればはっきり口にすればいいのに、彼は私の言葉をあまり覆すことはない。

 私がこうと決めたら頑なにそれを貫くのを知っているからか、彼はそれを受け止めることで私を理解していると思っているようだ。
 そうじゃないと私が思っても、彼が私の心に踏み入ることはなかった。

 父さんのように、土足でズカズカ上がってこない。
 私を心配しているポーズだけの彼にヤキモキすることもあるけど、そういう男性を選んだのは他ならぬ私である。

 父に似てない異性を選んだのは私だ。
 心の奥底で勝手に父を重ねて比べて、いったい私は何がしたいのか。自分でもよくわからないことがある。

 そんな何処か気分がむしゃくしゃしてる朝食時、支度が終わりかけた時に母さんがキッチンにやってくる。


「あら真希起きてたの。ごめんなさいね、食事の準備を任せてしまって」

「いいのよ、これくらいこっちでやるから。母さんは自分の趣味を優先してねって言ってるじゃない」

「ふふ、怒られてしまったわ。裕樹さん、あの子がどうして怒っているか分かる?」

「そうですね、ゲームの中でお義父さんにコテンパンにやられたのが原因ではないでしょうか」

「まぁそうなのね。主人たらさっき電話ではそんなこと一言も言ってなかったのよ。後で詳しく聞いておかなきゃいけないわ」

「あれ、そうなんですか?」


 意外だ、とでも言いたげに夫が母との会話に相槌を打つ。
 私はただその会話が聞こえなかったように朝食の支度を済ませた。
 子供達を起こす。
 上の子のはもう高校生だからとっくに起きてるのだけど、誰に似たのか寝ずにゲームに入り浸ってるゲーム廃人だ。
 そういう意味でも朝食の時間に間に合わなかったらVRカプセルを強制的にオープンする家族ルールが我が家にはある。

 案の定、ベッドはもぬけの殻でVRカプセルが唸りを上げて居た。ログイン時間は5時間以上。
 文字通り睡眠を削っての強行軍である。

 普段から自分がそうだから子供が真似してそうやって遊ぶのだ。自分がしている以上強く言えないのが悔しい。
 けどそれとこれは別の話。


「こら、弘路起きなさい! 起きなきゃ電源引っこ抜くわよ!」

「わーー、起きる! 起きるからそれだけはやめて!」

「朝起きたらおはようでしょう?」

「おはよう母さん」


 息子の弘路は着替えるから出てってくれよと言いたげに自室の扉に目配せした。
 もう一人の娘は兄の状況を察して既に着替えを済ませて居た。
 こっちも誰に似たのか澄まし顔で食卓で今日やるべき科目に目を通していた。


「あら、陽子は早起きね。お兄ちゃんとは違って」

「お兄ちゃんは要領が悪いのよ。私はきっと母さんに似たのね」

「そうだといいのだけど」


 なら息子は夫に似たのだろうか?
 彼は頼りないところもあるが、朝遅刻してくるような抜けた態度は表さない。

 その日の朝食は質素にトーストにした。
 付け合わせのサラダはレンジで温めるだけのものだけど、栄養価はどれで十分取れる。あとは食べ盛りのお兄ちゃんの為に肉料理をいくつか揃えてそれをお弁当箱に詰めた。
 母さんだったら全部一から仕上げてしまうけど、私は効率的に全てインスタントにしてしまう。
 使い切りでゴミが出ないのが嬉しいのよね。
 でも母さんは違う考えのようだ。


「「「「「いただきます」」」」」


 食事は家族で一緒に。これが我が家の掟。
 どんなに忙しくたってそれくらいの時間の余裕はあるのだ。
 食事をしながらメールチェックをしてしまうのは許して欲しい。
 母さんはお行儀が悪いわよと悲観するけど、母さん以外の全員が私を見倣って何かをチェックしながら目を左右に動かして居た。

 食事中ですらそうだから食後も変わらず。
 食器は食洗機に入れておけば取り出す時にしっかり乾燥しているからいいとして、全ての準備を終えてから会社へ行こうとした時、母さんから声がかかった。


「真希、少しいい?」

「何?」


 母さんがこんな風に私に相談事を持ちかけてくるのは珍しい。
 あれは父と別居、もとい私の家に転がり込んでくる前日以来か。
 今度は一体どんな裏があるのかと思考を揺らしながらその言葉に耳を傾けた。



 ◇



「ごめんね、今日は無理言って来てもらって」


 母さんの相談とは父さんと例の場所__VR井戸端会議__で直接会えないかという相談だった。
 ただ呼び出すのが私だけじゃなく私の家族事と言うのだから事情は異なる。
 私も忙しい身の上だが、休みがない訳ではない。
 
 どちらかと言えば数ヶ月先まで予定を詰め込んでいた息子の弘路を誘い出す方が困難だった程。


「別に。ただどうして急にそんな事を言って来たのか分からないわ」

「別に大した理由ではないんだけど、こうして顔を合わせる場所があるのに、君の家族と顔を突き合わすこともなかったなって思ってね。せっかく会えるのに、ずっと絵葉書でしか孫の状況を知れないって嫌じゃない?」

「そんな事で呼び出したの? 呆れるわ」

「君からしたら非効率的かもしれないけどね、私からしたら一大事なんだよ」


 父さんはどこか寂しそうな顔で私を見る。
 何よ、いきなり。


「私だって気持ちは若いつもりだけど、いつ体が動かなくなるかわかったもんじゃない。だからこうやって体が元気なうちに会っておきたいと思うのはそんなに変な事じゃないだろう?」

「冗談でもそんなこと言わないで」

「はは、悪い悪い。本気にした?」

「この人は殺したって死なないわよ」

「ちょっと母さん!」


 父の言葉に母が噛み付いた。
 もういい歳なのに、別居してるのに。
 会って話せばこんなに若々しい会話を繰り出すのだから侮れない。母は父を毛嫌いしてると思ってた。
 別居した理由もそういう理由だったと伺ってる。
 でも、今話し合う二人は仲が良さそうで。
 私だけが勘違いしてるみたいで馬鹿みたいだ。


「それで、要件は? ただ会いに来ただけじゃないんでしょ」

「うん、もちろんだよ。こうして実際に会って目を見て話すことがあったんだ」

「何かしら」


 言葉を促した時、父は……私にとって絶対に叶わないと思った父は、その場で跪いて頭を地面に擦り付けていた。


「ちょ、何をしてるのよ!」

「済まなかった、真希。私は君にとってダメな父親だった。謝って済む問題でもないのはわかっている。でも今の私にはこんな事しか出来ることはないんだ」


 何度も何度も土下座する父に、私はこんな事望んでないと辞めさせるべくその腕を引っ張って起き上がらせようとした。


「辞めてよ、もう済んだことで謝ってなんか欲しくないわ」

「君はそう言うだろうけど、君をそこまで頑なにさせてしまったのは間違いなく私だ」


 聞きたくなかった、そんな言葉。
 父はいつだって真っ直ぐに私を見ていてくれたことは何より私が知っている。
 私はただ、それを認めたくなくて片意地を張っているだけだ。
 だってそれを認めたら、強い女になれと願った母の言葉を覆すことになるから。

 母は、母さんは私の目標だった。
 今、私はその目標にようやく辿り着いたのだ。
 強くなって一人で生きていける。
 家族を持って母のように子供達から尊敬される母になったと思っていた。


「私はね、ひどい思い違いをしていたんだ。君が優秀だから、お姉ちゃんだから、子供扱いするのはどこかで失礼派なんじゃないかって思っていた。けど違うんだ。私はドリームランドでダン・ウィッチ村に飛ばされた。そこで父親に会いたがってるウィルバーと言う少年と出会った。彼は本来なら私が手伝わなくたってどんどんと大人びていく、本当に手がかからない子供なんだ。でもね、私が少しお手伝いをしたら子供のように懐いてくれた。そこでもし、私が君が幼少時に手を差し伸べていたら、ここまで君との関係がこじれる必要がなかったんじゃないかって思ってしまったんだ」


 ああ、そこから先の言葉は聞きたくない。
 幼少の頃に捨てた弱さが、甘えが再び私の中に芽生えてしまうから。
 父の言葉を遮断するように私は両手で耳を塞いだ。
 そんな私の目の前で、母が、強い女になれと言っていた母が頭を下げた。

 異性に舐められないように振るいなさいと教えてくれた母が、申し訳なさそうに私を見た。


「ごめんなさいね、真希。私が間違っていたのね。この人から話を聞いた時、確かに私はお姉ちゃんにそんな理想をぶつけたわ。まさかそれを鵜呑みにしてるなんて思わずに身勝手な言葉を浴びせていたのだと気付かされたの。だからこの人同様謝って済む問題ではないのはわかっているの」

「わぁああああああああ」


 私は、今まで信じて来た理想が仮初のものなのだと両親から告白されて自暴自棄になっていた。
 強い女であれ。それは自らがそうであればどれだけ良かっただろうと言う母の理想。
 私から見れば十分強い女だった母ですら、社会に打ちひしがれていた。
 そんな経験から私に同じ轍を踏まぬように呪文のように唱えていた言葉を、いつしか私は自分の目標に定めていたのだ。


 砕かれる。
 メキメキと音を立てて私の理想が瓦解する。
 父と母が謝罪の言葉を述べるたびに、私は自分がわからなくなっていく。


「だから真希、もう自分を誤魔化さなくていいんだ。取り繕わなくていいんだ。家族に甘えたっていいんだよ。今までよく頑張って来た。ありがとう。私はただそれを君に伝えたかった。そして不甲斐ない父親でごめんね」

「あぁ、うぁああああああ!」


 私の心の中心で築き上げた全てが砕け散った。
 そして何も無くなった心の隅っこで、当時甘えたい盛りの駄々っ子の私がこっそりこちらを覗いていた。
 そしてトテトテと歩いて来て袖を引っ張るのだ。

 一緒にお父さんとお母さんのところに行こうと。
 そして甘えようと。
 弱いと思っていた心に促されて、私はそのまま抱きつくように母の胸で泣き喚いた。

 周囲に弱みを見せないように必死に生きて来たのに。
 ダメだった。ずっとどこかで無理をしていたんだ。
 それに気付いた夫が心配してくれたのに、私は片意地を張って大丈夫だと言い続けた。

 父親が不甲斐ない姿を見せ続けてる家庭環境では、子供はまっすぐに育たない。
 どんなに母親が優秀でも、男女でバランスが取れてないとどこかで相手を舐めるようになってしまう。

 実際、うちの家庭は母である私が強すぎて、父である夫の立場が弱かった。子供達にすら馬鹿にされて、それでも彼はそれをヨシとして受け入れていた。

 そんな当たり前の事に今の今まで気づけない私こそダメな親だ。父のことを言えないダメ親だ。
 だと言うのに私は自分を棚上げして父に対抗意識を燃やすばかり。
 実質父と同じ道を歩いていたのではないかと今になって気がつく。

 散々泣いたあとは、スッキリした気持ちで父と母を受け入れられた。


「済まなかったね、真希。何でもかんでも任せてしまって」

「本当よ。お姉ちゃんだからってものには限度があるわよ」

「そうよね。私達がもっと優れた親だったらよかったのに。今になってそう思うわ」

「それは仕方ないわよ。母さんだって父さんに頼りたいのに頼れなかった時もあるでしょ? そんな時に私を心配させまいと強い自分を見せていたのでしょ?」

「そうかもね。でもね、誰もが強い自分になれる訳ではないわ。真希は才能があり過ぎたのが問題ね。難なくこなせてしまったからお母さんそれに頼り切ってしまったわ。重ね重ね申し訳ない事をしたと思ってるのよ」

「だからもういいってば」


 こちらが隙を見せればすぐに頭を下げようとする両親に、私は何に対抗意識を燃やしていたのだろうと内心で苦笑した。

 仮想敵を作ってそれを倒す事で大人になっていると思い込んでいた幼少期。
 そのまま大人になった私は隙を見せない完璧な自分こそが理想とどこかで思い込んでいたのだ。


「真希、もう大丈夫か?」

「ええ、平気よ。ねぇ裕樹さん」

「ん?」

「少しだけぎゅっとしてもらっていいかしら?」

「そんな事でよければいくらでもするよ」

「ありがとう」


 ただぎゅっと身体を両手で抱いてもらうだけで、無限に力が湧いてくる。
 なんで私はこれに頼らずに生きていけるだなんて思ってたのかしら。自分でもよくわからない感情に支配されていたように思う。


「もういいわ、ありがとう」

「どういたしまして」


 あれほどどこか頼りないと思っていた夫の顔が、急に頼りがいのある男の顔に思えた。
 いつの間に?
 いいえ、違うわね。
 私が心を開いただけ。
 
 彼は私が心を開くのをずっと待っていてくれたのだわ。


「ねぇ裕樹さん」

「うん」

「次の大戦までに色々相談があるの。お時間頂ける?」

「俺でよければいつでも。と言うか、その為に同じクランに居るんだが?」

「ふふ、そうだったわ」


 そんな事すら見落としていたなんて。
 私ったらこんなにうっかりしていたかしら?


「母さん、あんな風に笑える人だったんだな」

「うん、意外」


 息子と娘が遠巻きに私を見つめていた。
 私はあの子達に間違った母親像を見せつけ過ぎていたから。
 だからどこか卑屈に育ってしまったのだわ。
 これじゃあ父さんばかりを悪く言えない。


「弘路、洋子! 貴方達もいい加減AWOに戻って来なさい。お母さん、手伝って欲しい案件があるの」

「えー、母さん一人でなんでもできるじゃん。俺らいらなくね?」

「そうも言ってられなくなったのよ。洋子、洋子はどう? 他のゲームに残りたいのなら無理強いはしないけど」

「なんだか母さんらしくないよ。いつもだったらもっとこう、私達のことに興味なんかなさそうにしてるのに」


 娘の一言に図星を突かれる。
 そう、今までの私は常に誰かの手本であろうとしていた。
 その為に心を殺して隙を見せないようにして来た。
 その結果が今の子供達に悪影響を与えていると今になって知るあたり、本当に追い込まれていたのだと知る。
 だから今度は間違えないぞと心を入れ替えてこう誘うのだ。


「そういうのは辞めたの。なんだか疲れちゃった。今度からは全力であなた達を振り回すから、覚悟しておきなさい」

「げぇー、どうする洋子? なんだか母さんパワーアップしてるぞ」

「そうだね、でも。今の母さんならついていっていいかもって思えるんだよね」

「へー、飽きっぽいお前が随分と確信的に言うじゃんか」

「私だってまだ不確定要素が多くて信じていいかわからないよ。でもね、今の母さん心から楽しそうにしてるから」

「なんだそれ」

「お兄ちゃんが友達とゲームで遊んでる時とおんなじ顔だよ」

「なるほど。それなら納得できる」


 子供達は私に聞こえないように相談をしていたようだったけど、その表情を見ただけで彼らの気持ちが透けて見えた。


「父さん!」

「うん」

「次の大会、トップを取って見せるから」

「ああ、少し先で待っているよ。家族全員でかかって来なさい」

「言われなくたって。その為にもまず作戦会議よ!」


 少し前だったならここまで心が弾むことはなかっただろう。
 ただ淡々と心を殺して作業化することに心血を注いでいたように思う。
 でも今は、そんなつまらない単純作業に見向きもせず。
 根拠のない自信に振り回されるようにして気持ちを奮い立てた。

 父さんはきっと普段からこんな気持ちなのだろう。
 それで周囲に迷惑を振りまいている。
 誰であろう家族で一番被害にあって来た私だからこそわかる感情だ。
 私にきっと足りないのはそういう、楽しんでやろうという感情に違いない。

 今まではどこか義務感のように感じていた作業が、考え方を一つ変えるだけでこうまでワクワクとするのだから、人の感情とは本当に解明しきれぬものだと歳を重ねた今でも思う。


 そして……



[主、少し成長されたか?]


 あれだけ呼びかけても返事ひとつ返さなかったシヴァが、向こうから言葉をかけて来た。
 大会終了後、私はシヴァからの信頼を失った。
 結果だけ見れば惨敗。
 けど信頼を失ったのはそこではなく、大局を見失った精神をコントロールできなかった未熟さ。それに尽きる。

 だから向こう側から声をかけて来た時、ようやく認められたという気持ちになった。


「少し、気持ちを入れ替えたのよ。世話をかけたわね」

[良い面構えになった。それでこそ我の認めし人の子である]

「言ってなさい。地に落とした信頼もすぐに取り返してやるわ」

[期待しておるぞ]


 シヴァは、もう一人の相棒は私の横で優雅に漂う。
 目の前に表示されたカウントの前で、静かにその時が来るのを待っていた。
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