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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

379.お爺ちゃんと聖魔大戦23

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 アンブロシウス氏を連れてヨグ=ソトースさんと面会する。
 ただやっぱり耐性が低いのかアザトースさんが出張ってきた時と同じように固まってしまっていた。

 クトゥルフさんもヨグ=ソトースさんには頭が上がらないみたいだし、私だけが唯一話に割って入れる感じだ。


「それで、新たにここへ同盟参加希望者を連れてきたのですがどうでしょう?」

[ふむ、メンツは悪くないが練度がな]

「お眼鏡に敵いませんか?」

[貴殿程の練度、適性を望むのは高望みが過ぎるとは思っている。しかしこの程度では問題にならない。だが名前くらいは覚えてやっても良い。あとはそれぞれ励むのだな]


 あら、意外と優しい面もあるんだ。
 ウィルバー君の手前、良いところを見せようとしたのかな?


「なるほど。では私からも伝えておきます。それはさておき、陣営に入るのは良いのですが、あれこれをしてくれ的なミッションなどはあるのでしょうか?」

[いいや、特にはないな。だがこのシェアワールドはいつ何処でどの神格が台登してくるかわからん。だから今のうちに唾をつけとこうというわけだ]

「成程、理解しました。では我々クトゥルフ陣営はヨグ=ソトースさんの軍門に下りましょう」

[そうしてもらえると助かるな。貴殿程の影響力、新たに探し出すのは少し骨だ]

「おじさん、お父さんにここまで認めてもらえるなんて凄いことだよ!」

「本当にね。ウィルバー君と仲良くしておいてよかったよ」

「僕だけじゃなく、弟やお母さん、お爺ちゃんとも仲良くしてくれたのが大きいと思うなー」


 ウィルバー君は触手に塗れた弟、母、祖父に振り返ってそう言った。どれがどれだか私にはわからないが、振り返った時に反応した相手がどうなのだろう。


「それはもりもりハンバーグ君のおかげだね。私では少しファンキーな種族を生み出してしまうところだった」

「|◉〻◉)それ、僕のこと言ってます?」

「あはは、確かにスズキみたいになってたらちょっと嫌だったな」

「|>〻<)ムキーーッ」

「冗談、嘘だよ、嘘。ごめんねスズキ」


 ウィルバー君ともすっかり仲良しになってるし、やはりスズキさんのコミュ力は化け物だと思う。
 ちなみに今のウィルバー君も触手生命体だ。
 普通に喋ってくるから判別できるが一目見ただけでは誰が誰だかわからない。嫌悪感を持たないだけだからと人物判定はできないんだよね。プレイヤーなら頭に名前が浮かぶけど。


「僕は逆に何もしてないんですけどね。それよりもくま君が見つかったって話を聞きましたけど彼は何処に?」

「そこで伸びてる獣人がそうだよ」

「えっ」


 アール君と一緒に泡吹いて気絶してるのがそうだと言ったらもりもりハンバーグ君が驚いていた。
 そりゃ以前までは肉食獣の風体だったもの。
 イメチェンしたら誰が誰だかわからなくなるよ。

 ちなみに今のもりもりハンバーグ君も触手生命体だ。
 もうすでにすっかりその肉体に馴染んでしまったのか、特に発狂することなくヤディス君と打ち解けてる。

 ガタトノーアさんも神格として君臨してから王としての自覚が出てきたのか、見た目の似ている住民に対して愛着を持つようになっていた。

 今までヤディス君ぐらいしか理解者がいなかった彼に、今はこんなにも尽くしてくれる人(?)がいるからね。
 癇癪もだいぶ治ったように思う。前までは目につくもの全て破壊するか食べてたからね。十分おとなしくなってるよ。


「ガタトノーアさんもすっかり統治者としての気概が出てきたんじゃない?」

「どうでしょうか? まだヤディスを通してしか意思の疎通ができてませんから。でも僕にも彼の気持ちがわかるんですよね。僕も妻に会うまで一人の時間が多かったもので」

「初耳だなぁ。それで娘に誘われて今があると?」

「そんなところです。僕はね、彼女によって救われたんです。普段ツンケンしてる彼女ですが、心の中は優しさで満ち溢れている。だからそんな娘さんを育てたお義父さんには頭が上がらない」

「私は何もしてないんだけどね? 妻も同じこと言うと思うよ? 私は仕事人間だったから。でも娘たちはいつでも目に入れたって痛くないぐらいに可愛がったつもりだ。残念ながらその愛情は娘たちに届かなかったようだが」

「しっかり届いてますよ。ただ彼女も素直じゃないですから」

「そうだといいんだけどねぇ」

「そうですって」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)話に割り込んで悪いが、お前ら。よくヨグ=ソトースの御大のオーラを直接浴びて正気を保ってられるな?」


 おっと、いち早く復帰した( ͡° ͜ʖ ͡°)氏が雑談を交わす私達に文句を言ってくる。
 アンブロシウス氏やくま君はいまだに気絶中だ。
 固まるどころか泡吐いて倒れたからね。正気度がごっそり減ったのだろう。可哀想に。


「慣れだよ、慣れ」

「慣れ、ですねぇ」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)お前らの血筋やっぱおかしいわ」

「僕は直接血を引いてませんが」

「シェリルはむしろビビってた方だよ?」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)じゃあ可笑しいのは爺さんの方か」

「|◉〻◉)言われてますね、ハヤテさん」

「おかえり、スズキさん。シェリル達は今どこら辺?」

「|◉〻◉)アーカムシティでクトゥルフ様とツァトゥグァ様、ハスター様と手を組んで聖典陣営を押さえ込んでますよ」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)草。うちの神様が率先して動くのって相当珍しいぞ?」

「あれ? アンブロシウスさんはそこで伸びてるようですけど。神格の方は大丈夫なんですか?」

「ああ、彼らは神格呼んだはいいけど暴走させた口で肉体乗っ取られたんだよね」

「え、じゃあなんでここで呑気に雑談してるんです? 辻褄が合いませんよ?」

「私がツァトゥグァさんとハスターさんをパーティ組んで無理矢理アーカムまで引っ張ってきたんだ。そしてクトゥルフさんに合わせて正気を戻し、肉体の管理権限を戻して今はここにいる」

「成程、神格とは分離したまま神格の意識を残して……ちょっと待ってください、理解が追いつきません」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)あんたはまだこっち側なようでよかったぜ」


 触手生命体のもりもりハンバーグ君に( ͡° ͜ʖ ͡°)氏が肩ポンする。
 そこが肩かどうかは定かではないが、なぜかみんなして私の話が理解できないような態度を取るんだ。
 おかしくない?
 ここは仲を取り持った私が感謝される場面だよ?


「なんでみんなして私が悪いふうに言うんでしょう?」

「|◉〻◉)そりゃ、ハヤテさんですし?」

「説明になってないんだよなぁ」

「くまー、怪物はもうどこか行ったくま?」


 くま君が正気を戻したようでその図体を起き上がらせた。
 マスターが気絶から復帰すると同時に幻影のアールも起動する。


「その怪物がヨグ=ソトースさんを指すならもうここには居ないよ。あの人もあの人で忙しいみたいだし」

「貴様、よくもマスターに騙し討ちをしおったな!?」


 正気を戻すなりアール君がなぜか私に吠えかかる。
 騙し討ちってなんの事?
 ひどい言いがかりを言われてる気がする。


「やめるくまアール。アキカゼさんだって別に悪気があったわけじゃ……」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)悪気なく神格に面会させられたんじゃ溜まったもんじゃないよなぁ?」

「えー、ヨグ=ソトースさん気さくでいい人だよ?」

「そうですね、見た目で誤解されがちだけど家族思いの良い方ですよ」

「信じらんないわこいつら、既に正気を失ってるんじゃないの?」


 それを聞いてもりもりハンバーグ君がぐにゅりと触腕を捻った。あーあ、いじけちゃった。
 なんとなく、仕草だけで感情がわかるようになったのは慣れだろう。いまだに顔の見分けがつかない。
 なんせ顔がないからね、この人達。全部触手だ。見分けがつく方がどうかしている。慣れたってそこまでは判別できないよ。


「そんなことより、聖典陣営が私達の拠点で大暴れしてるらしいよ。私は助太刀に行くつもりだけど君らはどうする?」

「聞いた話じゃ見ただけで正気度を削られる神格が少なくても三体居るのでしょう? パスするに決まってるじゃない」

「居るけど仲間だよ。アール君はなんで私たちをそこまで目の敵にするのかわからないな。直接ひどい目にでも遭わされたの?」

「そうじゃないけど、普通は人の世に仇をなす悪じゃないの。あたしは、それを許しちゃいけない気がするのよ、悪い?」


 どこかつっけんどんとした態度のアール君。
 別に悪くはない。
 悪くはないけどその正義思想は脆くひどく不安定に思えた。


「君も同じ意見かな、くま君?」

「アキカゼさんに挑む前だったらきっと同意していたくま」

「ちょっと、マスター?」

「今は違うと?」

「正義なんて100人居れば100通りあるくま。悪なんてそれこそ、正義にとって都合の悪い相手に押し付けてるだけのものなんだと聖典陣営を見ていて気がついたくま。くまの正義は間違っていたんだとようやく腑に落ちたくま」

「マスター……」

「アール。今までは君の言葉に踊らされていたけど、くまはくまだけの正義を貫くことにしたくまよ」

「分かったわ。我が折れれば良いだな?」

「折れるかどうかじゃなく、自分の気持ちをを信じればいいだけくま。誰かに言われたから善い悪いではなく、自分の目で直接みて、正義を執行するか手助けするに止めるか決めるくま。今までは見た目が悪だからと決めつけてかかってたくまね」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)へぇ、成長したじゃねぇかくま公」

「アキカゼさんのおかげくま」

「私はただ相手をしてあげただけなんだけどね?」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)相手にならずに死んでったプレイヤーが可哀想な初言をどうも」


 本当にこの人は私の発言を茶化してくるな。
 確かにそれで犠牲になったどざえもんさんには悪いと思ってるけどそのフィールドってアザトース、又はナイアルラトホテプの領域内だったんでしょ?

 つまり言い換えれば魔導書陣営の拠点に等しく、聖典陣営に多大なデバフがかかってる状態。彼なら勇敢に挑もうとするが、即座に逃げを選択する探偵さんだからこそ誘導に成功したと思っていいだろう。
 あの人フットワークだけは軽いからね。
 どざえもんさんとは相性が悪すぎただけだと思うんだよね、暴走状態のくま君は。

 そして一番の問題は私がボケ役になってることだ。
 心外だ。
 どちらかと言えば私がツッコミ役だよ?
 今はボケキャラが少ないからこうなるんだとはわかっているが。腑に落ちない。


「|◉〻◉)ハヤテさんがそう思うんならそうなんでしょうね」

「含みのある発言どうも」


 スズキさんてば自分の事を棚に上げて発言するんだもんな。
 君ほどボケに向いてる人も居ないでしょうに。
 すーぐ揚げ足取りをするんだから。


 アンブロシウス氏が気絶から回復するのを待ち、私達は一路アーカムへと進む。
 しかしそこではすでに戦闘は終了していて。


「あれ、もう終わってる?」

[遅かったな、アキカゼ・ハヤテ。獲物は全て排除してしまったぞ]


 余裕たっぷりなクトゥルフさんに、ピンピンとしているツァトゥグァさん。風を支配して生き生きしてるハスターさんが居た。


「聖典陣営は?」

[あやつらならすでに逃亡しておるよ。余の支配域でも逃げ果せる手管。少し見直したほどだぞ?]

「あ、逃げたんですね。排除したというからてっきり」

[余とて貴殿の信用を裏切るわけにもいかぬからな。それに人であるならまだ未信仰者だ。いくらでもチャンスはあるだろう]

「ですねぇ、私としてもそう願うばかりです」

[それでは余は休息に入るぞ。久しい顔との対面もあるでな]


 言うだけ言ってクトゥルフさんはその姿をかき消した。
 それに倣ってツァトゥグァさん、ハスターさんも消える。
 消滅したのではなく、気配が消えただけだ。
 呼び掛ければ普通に胸の中から返事がくるし。


「一件落着かな?」

「|◉〻◉)街の復旧作業がありますねー。それは僕の妹達が進めてます」


 確かに周囲を見やれば忙しなく動くスズキさんシスターがそこらを駆け回っている。
 ちらほらサボってるのも見かけるけど、目を向ければ気まずそうな顔して作業に戻るあたり彼女の妹らしい。


「スズキさんは手伝わなくていいんだ?」

「|◉〻◉)僕はハヤテさんのサポート役ですからね」

「私の幻影はルリーエなんだけど」

「|◉〻◉)あ、お姉ちゃんは次の契約者の引き継ぎに行きました。クトゥルフ様もそうボヤいてましたよ?」


 はて? 引き継ぎとは一体なんの事だろう。


「やっぱり来るだけ無駄だったんじゃない」

「アールは怒りん坊さんくまねー」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)引き継ぎだぁ? 知ってるかサイ?」

「マスターにはまだ関係ない話だねー」

「そうなのであるか、ドーター」

「そうね、プロフェッサーには少し早いお話。アキカゼ・ハヤテがおかしいだけ」

「|◉〻◉)言われてますよ、ハヤテさん」

「なんでか私が悪くなるこの風潮が大嫌いだよ」



 そうして二日ぐらいの復旧作業を見届けた後、滞在期限のカウントが遂に0になった。
 プレイヤーの肉体が揺めき、元のフィールドに集約する。

 そこは、ドリームランドに行く前に貝を合わせていた探偵さんの顔があり、彼はニヒルに笑っていた。


「お疲れ様、少年」

「はい、お疲れ様でした探偵さん。せっかく行きがけに協力しましょうねって言ったのに、君ったら向こうで会うなり陣営や派閥がどうのこうの言い出すし流石の私も困ったよ」

「別に僕は聖典陣営だからと君に襲い掛かってはいないよ? ただその行動をすると貢献値の伸びが良かったからやっただけだ。僕が思うにみんなもそうやって行動してたんじゃないの?」

「貢献値稼ぎ? なにそれ。私のログには何もないよ?」

「あれ、メニューの左上に数字なかった? 100という数値から始まって、神格によって定められた行動を起こすと貢献値が加減されるんだ。僕は+になる数値に従って行動してただけさ。君は違うの?」

「えぇ、知らないよ。知ってる、スズキさん?」

「|◉〻◉)ハヤテさんは貢献値稼ぐもなにもとっくにカンストしてましたから。だから多分アザトース様を前にしても平気だったんだと思いますよ」

「ああ、あれってそういうやつなんだ。僕もまだまだ幻影との絆が足りなかったという事だ」

「私だけ理解してないんですけどそれは……」

「そら、そうこうしてるうちにランキングが発表されたぞ? 報酬がどんなものになるのか楽しみだね。上位には間違いなく君がいるだろうけど」


 くつくつと肩を揺らして笑う探偵さん。
 もう敵対していた時の悪い顔ではなく、親友の少年の顔がそこにあった。

 そしてアナウンスが再度走る。



<ワールドアナウンス:本日開催した第一回聖魔大戦の結果発表が行われます>


 ワールドアナウンスだと言うのに、反応してるのは相変わらず参加したプレイヤーだけっぽい。


<貢献値ランキング>

一位:アキカゼ・ハヤテ
 532pt

二位:もりもりハンバーグ
 320pt

三位:森のくま
 102pt

四位:秋風疾風
  96pt

五位:( ͡° ͜ʖ ͡°)
  75pt

六位:どざえもん
  50pt

七位:トロサーモン
  43pt

八位:シェリル
  25pt

九位:とりもち
  10pt

十位:アンブロシウス
   5pt

 •
 •
 •


 桁、そんなに違うの!?
 何が何だかわからないんだけど。


「はは、やはり少年がトップだったな。一体なにをしたらそうなるんだか」


 ソファに腰を落として膝を組み、こちらを伺うような視線を走らせる探偵さん。


「なにってただヨグ=ソトースの召喚の手助けをしたり、ちょっと仲を取り持つ行動をしただけだよ?」

「はいダウト。原因、それ。多分桁違いなポイントの原因はそれだね。普通は行動するたびに神格からの査定がされて今の行動はベルト所持者にそぐわないと評価を下されるんだ。それでも僕はポイントを落とし続けた」

「えぇ」

「シェリル君を見れば一目瞭然だろう?」

「うーん、でももりもりハンバーグ君は?」

「彼の神格は確かガタトノーアだったね。見た目的に相性が良かったとか?」

「えぇ……じゃあクトゥルフさんはどうするのさ」

「もちろんそれだけではそこまでポイントは伸びないだろう。僕だって君に喧嘩を売ってまで稼いでこれだ。他には彼は何かやってない?」

「ああ、そう言えば拠点化したダン・ウィッチ村に神格を置いたね。それで住民が眷属化してヨグ=ソトースさんが気に入ってくれたんだった」

「それそれ、めちゃくちゃ貢献してるじゃないの。それ以前に神格を拠点に添えるって何? 僕初めて知ったんだけど」

「あれ? てっきりシェリルあたりがとっくに試してると思ったんだけど」

「神格召喚? 憑依の方は割とやるけど神格を降ろす方は博打が強すぎてうちの陣営は誰もやってないよ。君らのとこだけだよ、そんな無茶するのは。僕もメカに憑依させるだけで手一杯さ。それすらも破壊されて逃走したほどだ」

「えぇ……」


 それからも世界に影響を及ぼしたランキングでも堂々の一位。
 結局陣営でいがみ合ってるだけじゃ対してポイントにならず、私のように自分の直感に赴いた行動こそが大量特典に繋がってる気がした。

 そこにはプレイイングの旨さや観察力の高さは関係なく、そして上位三名にはポイントに関わらずとあるフレーバーアイテムが贈呈された。

 それは……


「銀の鍵?」

「曰く付きのアイテムっぽいね」

「これってやっぱりドリームランドに行くためのものだよね?」


 そしてアイテムを受け取ったと同時に私の腰からベルトが消えた。まるで役目を終えたように、今では普通のプレイヤーとなんら変わりなく。


「なるほど、このイベントの趣旨が概ね理解できた」


 一人頷く探偵さん。


「その心は?」

「プレイヤーの誘致。ただし素質のないものには参加資格がない。イベント開催ごとに上位三名にフリーパスを渡し、空いた席に新たなプレイヤーが置かれて再度競い合う。そうやってプレイヤーを少しづつイベント会場に誘致しようと言う試みではないかな?」

「ああ、そう言う。そういえばGMさんも言ってましたね。ここまではチュートリアルでドリームランドからが本番だと」

「言い得て妙だが、実際に体感した僕らなら確かにわかる。あの場所は今までの常識が一切通用しない本当の地獄だと」

「私はそうは思いませんでしたけど?」

「それは君だからだよ、少年。しかし次までには僕もフリーパスを手に入れてみせる。それまであまり先に行かないでおくれよ?」

「確約しかねます」

「ふっ。君のそう言う自分に素直なところ、嫌いじゃないよ」


 それだけ言って探偵さんはクランルームを後にした。
 相変わらず自由な人だ。
 長いことかかったイベントの趣旨が見えてきて、ようやく腰を据えて考えることができる。


「スズキさんの言っていた引き継ぎってそう言うことか」

「|◉〻◉)ですねー。お姉ちゃんとクトゥルフ様はその時々のプレイヤーについて回ります。僕だけですよ、ハヤテさんと一緒に行動できるのは」

「その為だけに分裂を?」

「|ー〻ー)さて、どうでしょう。それよりお茶飲みます?」

「頂こうかな」


 久しぶりにいただく彼女のお茶は、やっぱりどこか磯の香りがした。
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