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4章 お爺ちゃんと生配信

279.お爺ちゃんとアイドル戦国時代⑤

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「さて、いきなりぶっつけ本番でやれと言われても困ってしまうだろう。ここで一度私なりの戦いをお見せしよう」

「お爺ちゃん、まさかソロ?」

「ソロと言って良いのか、私にはプレイヤー以外にも心強い仲間がいるからね。テイムモンスターというのだけど」

【ヘビー相手にピョン吉と山田家解禁するのか】
【草】
【そこらへんのプレイヤーどころの戦力じゃないんですが、それは……】

「まぁそれ以前にレムリアの器だってあるし、大丈夫だよ。ダメだったらマリンが仇を打ってくれないか?」

「お爺ちゃんなら勝つって信じてるよ!」

「それは良かった。じゃあサクッと倒してこようか」

【ひどい煽りを見た】
【まだアイドル達は越えられてないんだよなぁ】
【プロデューサーとして、実力を見せておく必要があったんじゃない?】
【実際シェリルは30秒切ってるし、ワンチャンあるだろ】
【普通にショートワープとレムリアの器のビームサーベルモードが凶悪なんですけど、本人の戦闘力0とかどの口が言うのか】
【なお、テイマーの模様】
【手懐けてるペットが悉く凶悪なんですがそれは……】
【って言ってる側からビームを切り払ってるしwww】
【ヤマタノオロチ戦から見ればヘビー戦は緩く見えるんでしょ】
【首一本しかないしね】
【動き回るのもピョン吉で無理矢理押しつけて首を切ってクリアしてるのは草】
【普通に1分切ってるのはなんなの?】
【シェリルのタイムはソロのタイムじゃないんやで?】
【おっかないのはテイマーと言う事か】
【テイマーよりも個人で古代獣翻弄する人がテイマーなことの方がおっかないわ】


 タイムは52秒。
 ソロとしてのタイムで見ればなかなか早い方じゃないかな?
 色々と考えて動いていたけど、ヨルムンガンドってこんなに弱かったっけ?
 どうもヤマタノオロチで連戦しすぎて感覚が麻痺してしまったようだ。


「ただいま。ま、こんな感じでスキルをパッシヴに振ってても対処の仕様はあると言う一例だよ」

「アキカゼさんのは参考にならないと思いますよ」

「然り!! しかしその気持ちは受け取ったでござる」

「お爺ちゃんの真似は一朝一夕じゃ出来ないよ。でも頑張るから応援しててね!」

「……ねぇ、あかりちゃん」

「なに、みくるちゃん」

「あたし達、師事する人間違えたかしら?」

「そうね。でも、違う人に教えを乞うていても、きっとここまで自分の殻を破れることはなかったと思うの」

「そうね。あたしもなんだかんだ昔より今の自分が好きだし、いっちょやってやろうかしら」

「だね! 私も本気出すよ。媚びた演技じゃない本当の力ってやつをさ。ついてきてよね」

「上等!」


 私の戦闘で火がついたのか、アイドル達の心は一つになったようだ。あとはコメント返をしながら彼女達の応援をしていく。



 ◇



 パーティーリーダーをみくるさんに任せたのは正解だったようだ。
 遊撃をマリン、村正君に任せ、それぞれのサポートをユーノ君、あかりさんが受け持つ。
 みくるさん自体はアイテム係とスタミナの見極めを兼任し、マリンと村正君のスタミナ切れを起こさない配置移動で攻撃を仕掛け続けていく。
 
 その隙をついてユーノ君が攻撃魔法。
 飛んでくるレーザーを電磁バリアを用いたガードであかりさんが防御に回る。
 彼女、今まで稼いできた資金を投入して七の試練で手に入る電磁バリアを買い込んでいたらしい。
 今でこそそれほど珍しいものではないが、数を買えばそれなりに良いお値段をする筈だ。
 それだけこの試練の攻略に本気になってくれたのだろう。
 普段の天然っぽさは見せず、苛烈なまでの表情でユーノ君への攻撃を防ぎ、みくるさんからナイスアシスト! と声をかけられていた。

 遊撃部隊は魔法で怯んでいるヨルムンガンドに追撃しようと前に出るが、みくるさんはそれを止めて後ろへ下がらせた。

 一定体力低下による発狂モード。
 それを見抜いての後方待機である。

 ここでもあかりさんのアイディアが光る。
 それは穴を掘って全画面攻撃をやり過ごすと言うものだ。
 どこでそんな物を仕入れたかと言えば、アトランティスに陣営入りしたファンにお願いして作ってもらったとのこと。
 お願いされたファンも上機嫌でそれに対応したと言う。
 
 やり過ごしてる間もファンへの感謝を忘れない。
 数字でしか見ていなかった彼女はここ数日でものすごい変化を遂げていた。
 みくるさんも同じく。今回の作戦もファンと一緒に考えた物だそうだ。どのプレイヤーが入っても回るように彼女が司令塔になるやり方。

 アイドルに直接指示出ししてもらえるのはファン冥利に尽きることらしい。
 そんな先輩アイドルの姿勢を見て、ランキングでは上に位置するマリンやユーノ君も意識を変えていく。
 村正君はどうだろう?

 彼女は二重人格なのではないかと言うほど周囲と私に見せる態度が違うからね。

 そして、ついに彼女達は成し遂げる。
 タイムはお世辞にも早いとは言えないけれど。
 
 これはタイムアタックではない。
 煌びやかな世界でチヤホヤされながら生きてきたアイドルである彼女達が泥臭い戦闘の果てに勝ち取った勝利だった。


「勝った? 終わったの?」

「的確な指示出しありがとうございました。私、ソロだったら多分ダメージ覚悟で突っ込んでたと思います。ミスなく来れたのは間違いなくみくるちゃんのおかげだと思うから」


 戦闘終了後、合流するなりマリンはみくるさんへ右手を差し出した。能力的には劣ると言い切った彼女に対し、別の信頼を勝ち取ったのだと理解して、みくるさんはその手を握り返す。


「こっちこそ。あんたの火力と回避力には世話になったわ。今回勝てたのは間違いなくあんたが居てくれたお陰よ」

「某は?」

「あんたはもうちょっとこっちの命令聞きなさいよね。戻れって言ってるのに突っ込むし」

「むぅ。しかしあの場では斬りつけた方がこちらのダメージが少なく済むと思ったのでござるが」

「あんたらはそう思うでしょうけどね、でもそれで突然発狂モードになった場合の対処はできたかしら? あの時は残りの耐久ゲージが危うかったのよ。ただでさえあんたの獲物はビームソード。火力が段違いなのよ。そこんところわかってる?」

「面目ない」

「そのくらいにしてあげなよ、みくるちゃん。一応勝ったのはその子の力も大きいんだし」

「あかりちゃんはそう言うけどね、何度こっちの作戦が暗礁に乗り上げたか分かってる? 12回よ、12回!」

「かたじけない」


 村正君はその場で正座をしながら切腹のポーズをし出す。
 って、周囲は誰も渾身のボケに突っ込んでくれない。
 今の時代に切腹を知ってる中学生はいないでしょ。
 半ば彼女の行動は放置され、怒り心頭のみくるさんを宥める方向で話が転がっていく。


「それにしても今回はあかりさんのお助けアイテムに何度も助けられました。改めてお礼を」

「いーよー、あの子達もアイドルの勝利に貢献できて誉だろうし」

「あかりちゃん、素が出てるよ?」

「出してるの。今更ぶりっ子したってファンが離れることなんてないわよ。それよりも今でもついてきてくれるファンを大事にしないとね。私気づいたんだ。ううん、プロデューサーさんに気付かされた。取ってつけた個性で勝負をするのはファンを馬鹿にしてるって。だからこれからは素直な自分で勝負しようって、そう決めたの」

「そう。そのギャップ萌えハマってくれると良いわね」

「みくるちゃんだって相当だよ? 自覚ある?」

「うっさい!」


 なんだか終わった後も賑やかな彼女達に微笑ましくなってしまう。すぐに駆けつけてそれぞれアドバイスを送ろうと思ったが、彼女達はすでに答えを見つけてるようだった。

 一皮剥けたアイドル達が、私に気づいて駆け寄ってきた。


「プロデューサー、一つ目の課題は終わったわよ。次の課題はなに?」


 みくるさんがリーダーらしく質問をしてくる。
 もう彼女達は私の指導なしでも大丈夫だろう。
 そんな気持ちにさせてくれる良い表情だった。


「そうだねぇ、次のステップはと言いたいところだけど……まずは課題クリアのご褒美をあげなくちゃね」

「ご褒美?」

「自分でも無理難題を課した自覚はあったからね。今回は特別ゲストありでのクリアだったけど、それありでも討伐は難しいと思っていた。だからクリアしたのは君の成長あってのものだよ。なので私は君達を焚きつけた対価を払う義務がある。それがこれだ」


 私はなにが良いかなと考え抜いた結果、彼女達がより高みに登れる為の土台づくりに協力する事にした。
 それがクラン『朱の明星』での衣装7割引チケット(半永久)である。趣味に振り切った衣装というのは高くつく。
 特にエンチャントしたものは目が飛び出るほどだ。
 しかし金額の7割を出してくれるスポンサーが居たら?
 私は彼女達の足長おじさんになってあげようと思った。

 
「これは貰えないわ」

「そうかい。でも私はせっかく作ったのだから受け取って欲しいけどね」

「だってこれ以上受け取ったらお返しできなくなるもの」

「ならばそうだね。衣装を作る時に私の名前を出せば少しおまけしてくれるサービスに変えるというのはどうだろう?」

「それなら」

「私はありがたく受け取りますよ」

「ふふ、あかりさんならそう言ってくれると思ったよ。君達はこれからどんどん自分磨きにお金を使うだろう? そして新しい衣装で新規ファンを掴んでいくと思う。私はその時のお手伝いがしたいんだよ。これは先の短い年寄りの楽しみなんだ。是非活用してくれ給え」

「あかりちゃんが受け取るなら、あたしも。あとでなかった事にしてくれって言っても遅いんだからね!」


 ツンデレご馳走様です。
 でもこれは計算じゃないんだよね。
 彼女はどうにも大人ぶろうとして周囲に甘えきれない。
 周りがそうさせたのか、本人がそう思ったのかは定かではないけど。あんなもので彼女のやる気が変えたのなら良い投資だと思うよ。

 ダグラスさんの趣味よりかかるものでもないだろうし。

 あの人放っておくと数百億の赤字出すしね。
 8割自分のポケットから出すからなんとかなってるし、その後の成果で取り戻すけど金額聞いてる時は気が気じゃない。
 本人にとっては笑い話なんだよね。
 私も最近金銭感覚が麻痺してるけど。

 そのあとはできたらで構わないよと次の課題を出す。
 ヨルムンガンドをクリアしたんならセカンドルナの古代獣に挑戦して欲しいよね。
 なんだったらこのままユニット組んじゃっても良いだろうし。
 そんな未来を語ったら、彼女達は割と乗り気で未来を見つめていた。

 前を走る彼女達を見送り、一人残された村正君の肩をポンと叩く。


「介錯いる?」

「かたじけない」


 いや、しないよ?
 そんなして欲しそうな顔されても困るよ。
 そういうのはカメラ回ってないところでやってほしいなと思いつつ、もしかしてこの子スズキさんの親戚じゃないのと肩を竦めるのだった。
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