上 下
312 / 497
4章 お爺ちゃんと生配信

274.お爺ちゃんと釣り人の集い⑥

しおりを挟む
 それからゲーム内時間で9日間、配信を続けた。
 私達的には楽しい催しだったのだけど、どうも視聴者からは困惑の色が強いメッセージを多く頂く。


【俺たちは一体何を見せられているんだ?】
【アキカゼさんの配信だから見てたのに、気がついたら名状し難い何かをおこなっていた】
【いいや、アレはもっと冒涜的な何かだぞ!】


 などなど、打ち込まれるコメントは要約すると理解不能であるかの様に騒ぎ始める。
 ただ深海の特産品だったりご飯をいただいて飲んで騒いでいただけなんだけどね。

 それでも人間のままでその様子を見てるだけの彼らはひどい混乱に陥って居た。

 配信失敗かな、と思ったけど私からすればコレほどの経験はないと思う。
 だってファストリアの奥に隠されて居た文明の切れ端ではなく、ここには生きた証明があるのだから。

 お陰で私は二つの派生スキルと称号、種族進化先が生えた。
 まずはスキルから。

 一つ目は『鰓呼吸』
 体験的に種族を強制変更したおかげで、これがスキルとして行える様になった。
 意外なことに『低酸素内活動』から生えてきた。
 私はともかくルアーさんやカイゼルさんは喜んでたね。

 もう一つは『深海適応』
 『水圧耐性』からさらに派生したスキルだ。
 単純に体を覆う粘膜が海の底と空雄のものに一新される様だ。

 そして称号が<深きもの>
 この称号は特定の種族と友好を結ぶともらえるものらしい。
 とりあえずこれを持ってればいつでも竜宮城に出入りできる様だ。


 最後に種族進化先にマーマンが現れる。
 もしかしなくてもマーマンに強制的にされたからロックが外されたのだろうか?

 だとしたら他の種族にも変更できる可能性も生まれてくるかも知れないね。
 それはそれで夢が広がると思う。
 でも私は人間の姿が気に入っているからね。
 当分はこのままでいさせてもらおうか。


 そして最終日。
 私達が魚人でいられる最後の日がやってきた。

 人間に戻ったからと別れる必要はないのだが、やはり水棲系のNPCから他所者を見る様な目で見られるのは憚れる。

 9日間も楽しくやってきたからね。
 別れの儀式くらいはやっておきたい。

 竜宮の都の皆さんから盛大に見送ってもらい、私達の10日間は様々な思い出を残して終えた。
 過去最大の配信期間だったこともあり、良くも悪くも新鮮なものだった。

 数日間の出来事を振り返りながら雑談をしていく。

 あの竜宮城、オツヒメさんが作ったものらしいよ。
 でもそれが最終目的じゃなくて、目的のための仲間集めのための街らしいんだ。
 その目的とは、深海に眠る都市の復活に尽力しているらしい。
 その目的地は今まで認識できなかったのに、ハイドラに進化した瞬間に認識できる様になったとか。

 アトランティスの遺跡の他にそんな遺跡があるなんて知らなかった。


≪ルルイエだっけ? オツヒメさんの復興させたい街って≫

≪そう聞いてますね。使命だって言ってました。あの子があんなふうに一つのことにのめり込むのは珍しいので僕も協力してあげるつもりです≫

【やめて!】
【その都市の復活だけはやめろ】
【その人起こしちゃダメーー】

≪視聴者さんはやめて欲しそうだけど?≫

≪僕達を止めたかったら海底に来てください。話はそこからだ!≫


 スズキさんがコメント欄に啖呵を切りながらドヤ顔する。
 コメント欄も対抗する様にそのネタで盛り上がっていた。
 どうもネタ的に人類と敵対してるっぽいね。
 ゲーム内に人類は数えるほどしかいないけど。


≪それでですね。実は今回の宴に参加したおかげで進化先に彼女と同じ種族が出てきたんですよ≫

≪へぇ≫

≪今の僕と、大きくなった僕。ハヤテさん的にはどっちがタイプですか?≫

≪うーん、あんまり大きくなられるとうちの小さなクランハウスには収まらないなぁ。でもスズキさんが進化したいというのなら私は止めないよ? 進化ってクランに縛られるものじゃないでしょ?≫

≪そうですね。じゃあ僕はこのままでいます≫

≪良いんですか?≫

≪なんだかんだこのボディも気に入ってますから。それにハヤテさんは僕に強さを求めてない。だから良いんです。進化しちゃうとそういうのも求められちゃうかなーって≫

≪私はクラメンさんと遊べればそれで良いんだけどね。どうも他のクランでは違う様だね≫

【耳が痛い】
【そもそもクランの目的なんてプレイヤーがどうするかなんだよな】
【攻略だって楽しいだろ?】
【それを楽しめない奴に強制する面もあるじゃん?】
【最初は楽しかったけどノルマができて楽しめなくなったなぁ】

≪ノルマなんてあるんだ。うちは特に設けてないよね、スズキさん?≫

≪聞いたこともないですね。お金も払えって言われたことないですよ≫

【なにーー!?】
【アキカゼさんのクランて借金しまくってるイメージあったのに】
【飛空艇で数十億使ったって昔話されてる時も?】

≪ないですよ?≫

≪趣味の投資にクラメンさんを巻き込めないよ。そこは私のポケットマネーでなんとかしました≫

【かっけーー】
【どうすればそんなにお金貯められるんですか?】
【戦闘しないから装備代がかからないだけだぞ?】
【戦闘してるんだよなぁ】
【戦闘できないビルドでも戦闘できるとはこれ如何に】

≪お金はいつの間にか貯まってたからね。どうやって貯めるかと聞かれても上手く答えられないよ。ただ、そうだね。もっと広い視野で仲間を信じること。そうやって結んできた絆を軽んじないこと。私はクラメンさんに自由にさせていた。その結果が見返りとして返ってきたのだと思ってる≫

≪と、言いつつ見返りなんて期待してませんよね?≫

≪当たり前じゃない。元々このクランがフレンドさんやご近所さんと一緒に楽しく遊ぶために作ったものだし、それ以外のなにものでもないよ?≫

≪だから居心地がいいんですよねー。ここほど上下関係がなく和気藹々としているクランも珍しいと思いますよ≫

【いいなー】
【実際クラマスになればわかるけど、こんなクランはアキカゼさんとこぐらいだからな?】
【そうそう。クランマスターのやる事は絶対! だなんて言うのは論外だけどクラン運営費だってタダじゃないんだし、マスターがイベント開催してかないとクラメンが飽きてやめてっちゃうし繋ぎ止めるのもやっとだよ】

≪ウチは優秀なクラメンさんがいてくれるのでお金には困ってないからね。その優秀なクラメンさんがどこにも所属できない問題児ばかりなんだけど≫

≪と、一番の問題児が申しております≫

≪スズキさん!?≫

【速攻クラメンにダメ出し受けてら】
【魚の人、ブーメランだぞ?】
【この人が一番の問題児だろ】

≪ひひひ≫

【分かっててやってるからタチ悪いんだよなー】


 と、ある程度泳いで来たところで魚人化の効果が切れて人間に戻る。


≪おかしいね、人間に戻ったのに鰓呼吸できるんだけど≫

≪それ≫

≪スキルで取ってしまったから特にマーマンになる必要性は感じないな≫

≪ですよねぇ≫

【マーマンになると体が乾いたらダメになるんだっけ?】
【デメリットしかねーな】

≪しかしアキカゼさんを呼んでから予想外のことが立て続けに起きて、びっくりだ≫

≪本当にな。イベントも何もなく釣りして終わると思ってたのに≫

≪私もですよ≫


 海面が見えてきた。
 ざばりと防波堤の近くに浮き上がり、そのままジャンプして防波堤に登った。


「はい。地上に無事到着しました。当時はあんな長旅になるなんて思ってもいませんでしたが、いい経験をさせて貰いました。おかげで私のスキル派生も50になってとうとうランクBに上がれます。と、言っても上げませんけどね」

「おめでとうって言っていいのかわからんが、取り敢えずご苦労さん」

「ありがとうございます。ルアーさんも私の配信に付き合わせてしまってすいません」

「いや、あんな経験はそうそうできるもんじゃねぇから得難いものだぜ? な、サブ?」

「ですねぇ。鰓呼吸が生えたので今度泳いで浮島見つけて釣りでもしてみます。今までは落ちたら終わりだって感覚の方が強かったですが、今はもう海は守ってくれるものって意識の方が強いですから」

【一度魚人になると考え方変わるのかもな】

「そうかもね」

【そのイベントって釣りしまくれば生えてくるの?】

「生えねぇな。俺ぁ、β組だがあんなの初めてだぞ」

「私だって知りませんよ」


 そこで防波堤に足を出してぶらぶらさせてるスズキさんを見た。私の視線に気がついて、つぶらな瞳を向けてくる。


「なんですか?」

「いや、今回のイベント発生の条件てスズキさんだったのかなって」

「かもしれませんね~。でも僕はハヤテさんの配信を近くで見にきただけですし?」

「あれは生き地獄だった」

【草】
【いつまで経っても釣れない状況で正面で変顔しながら浮き沈みされてたら集中できるものもできなくなるのは仕方ない】

「えっ」

【魚の人にとっては平常運転やで?】
【本当の変顔は九の試練の暗闇の中で急に浮き出るアレだよ】
【あれはクッソ笑ったわ】

「僕、ハヤテさんのお邪魔でしたか?」

「いやいや、とても助かったよ。スズキさんが場を和ませてくれたから一向に釣れないと言う放送事故にもなりうる場面も見事乗り切ることができたし。よくぞ来てくれた、ありがとうね」

「そっか。お役に立てたんならよかったです。あ、家族に呼ばれたんで今日はここまでにしておきます。ではまた」


 そのまま海の中にチャポンと消えてログアウトする。


「それじゃあスズキさんもログアウトした事ですし、今回の配信はこれまで! ルアーさん、カイゼルさん。この度はありがとうございました」

「おう、また釣りしたくなったらいつでも来い。それまで竿はあんたに預けとく」

「宜しいのですか?」

「その代わり、次会う時までに腕は磨いてこいよ? それによっちゃあ船釣りも楽しそうだ」

「精進いたします」

「お達者で。次の配信も楽しみにしてます」

「うん、ではお疲れ様でした」

「「お疲れ様」」

【お疲れ様ー】
【88888】
【次回は何が来るんだろ】
【分からん】
【趣味枠らしいけど】
【今回は釣りに見せかけた冒涜的なアレだったしな】
【次も無事に終わらせられるんだろうか?】
【何かあるのは間違いない】
【アクシデントを呼ぶ男】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

もう初恋の夢は見ない

あやむろ詩織
恋愛
ソフィアは初恋の相手である1つ上のクリフと婚約関係にあった。 しかし、学園に入学したソフィアが目にしたのは、クリフが恋人と睦まじくする姿だった。 嘆き悲しむソフィアは、同じ境遇の公爵令嬢カレナに出会って……。 *小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しております。

【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。

西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。 路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。 実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく――― ※※ 皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。 本当にありがとうございました。

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

カティア
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...