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4章 お爺ちゃんと生配信

270.お爺ちゃんと釣り人の集い②

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 配信自体はスズキさんの渾身の芸で持っては居るけど、私の塩梅はあまり良くなかった。

 こうなると少しばかりまずいことになる。
 コメント欄も煽ってくる発言が目立った。

 普段ならこんな日もありますと言えるのに、なまじスズキさんが身体を張ってくれているから悪目立ちしてしまう。

 そこで私に悪魔的思想が思い浮かんでしまった。
 それはズル……スキルを使うことである。

 だがそれをしてしまったらルアーさんから信用を失ってしまう。それだけはやっては行けなかった。
 このゲームを初めてからずっと世話になってるブログ主さんだ。配信のために縁を切るなんてあってはならない。

 ではどうするか?
 魚の習性を利用するほか無い。
 確かキラキラ光る珍しいモノに食いつきやすい、だったか?

 私はルアーに陽光操作を用いて、薄ぼんやり光らせてみた。
 これも一種のテクニックである。ズルと言えばズルだが、魚に直接何かするわけではないので見逃してもらえた。
 すると先ほどまでは掠りもしなかった竿に反応があった。


「お、ヒットしましたな?」

「どうすれば?」

「言葉で教えても飲み込めん。だから自分で試行錯誤するんでぇぇ。アキカゼさんはそういうのが得意だったろ?」

「はい!」


 竿を引いたり、リールを巻いたりしながら魚を弱らせて引き上げる。ここだ!
 勢いよく竿を引いて引き上げると、目の前に見慣れた赤い物体が現れた。
 うん、スズキさんだった。


「釣られちゃいました」

「何してんの、スズキさん!」

「見てられなかったモノで」

「余計恥ずかしいよ!」


 しかも重力操作で私に負担をかけない気遣いまで追加されていて、本当に泣きそうだった。

 仕方ないので横に座ってもらって一緒に竿を握ってもらう。
 スズキさんが海中に居ると、格上が居るから魚が寄ってこないらしいことが判明したため緊急措置である。
 決してまたスズキさんが針に食いついてたらどうしようとか思ってない。
 ないったらない。
 

 ルアーに陽光操作を使って再チャレンジ。
 スズキさんはタモ(手網)を持って構えてくれている。
 その絵面がまたひどいモノで、コメント欄は大いに賑わう。

 しかし食いつきには成功したのか竿はチョンチョンと浮き沈みする。慎重に、慎重に氷製作で魚の体力を奪い、頃合いを見て釣り上げた!

 しかしそれはスズキさんの力が必要もない小さめなモノで、私の視界に入るなりフレーバー情報としてデータ化された。
 どうやら初回はデータ化されて、食べられるのは二回目以降になる様だ。

<食材:セイゴを獲得しました>
 品質:S
サイズ:21センチ
 特徴:出世魚で30センチまでをセイゴ、60センチまでをフッコ、それ以上をスズキと呼ぶシーバス。


 しかも成長するとスズキになるそうだ。
 ふと横にいたスズキさんと目が合う。
 名前はスズキでも鯛の魚人である彼女をみて胸を撫で下ろした。もしここでスズキを釣って食べようモノなら揚げ足を取るコメントが打ち込まれるのがありありと想像できた。


「セイゴか。初めてにしては大物だな」

「そうですね。次はフッコを釣ってみたいです」

「まずは安定してセイゴを釣り続けることから始めたほうがいい。大物を狙うのもいいが、奴らはサイズがデカくなるほど体力も増えていく。スズキクラスになると特に暴れん坊だ。初心者には御し難い」

「なるほど。まずはセイゴのサイズアップからですね」

「それがいい。あんまり躍起になりすぎても疲れてしまうからな。そもそもノルマなんてないんだ。一投一投を楽しむのが長く続けるコツだな」

「はい」


 そのあとヒットした魚はアオリイカ、イワシと秋頃沖に流れてくる物が多いようだ。獲得したフレーバーデータが蓄積されて、釣った数だけ魚への理解が深まった。本当に面白い仕掛けだ。
 これは釣りがやめられないルアーさんの気持ちもわかるぞ。


 そこでルアーさんの竿が思い切り真下に引かれた。
 その勢いたるや大物以外のそれではない。
 だと言うのにルアーさんは微動だにせず、ぐいぐい引かれてもルアーを巻かずにいた。
 すぐ横ではカイゼルさんがタモを構えている。


「ルアーさん、この反応は?」

「多分タチウオだろうな。しかしここまでの引きは記憶にねぇ。大物サイズだ気合が入るぜ。サブ、タモより先に俺の体を支えな! 今は耐えちゃ居るが向こうさんが本気を出せば俺なんかじゃ引っこ抜かれちまう」

「タチウオというのは?」

「100から130センチ前後の大型魚類ですよ。その細長い姿が刀剣に似ていることから太刀魚だなんて呼ばれてます。俺も釣ったことありますがここまでの反応は見たことないですね。多分ヌシでもヒットしたのかも知れません」

「ヌシ?」

「生存競争で勝ち抜いた大物のことをヌシと呼びます。ヌシは通常個体よりも大きいことが多く、それだけ釣りではヌシが釣れると大騒ぎされます」

「なるほど、説明ありがとうございます」


 ヌシってどんなのだろう?
 自分のことではないのにワクワクとしてしまうのは仕方ないことだろう。

 十数分にも続く魚との戦いを制したルアーさんが竿を引き上げ、カイゼルさんが海中から救うようにしてタモを引き上げた。
 中に入っていたのは……どう見ても亀だった。


<シークレットクエスト:竜宮城への誘いを開始しますか?>
 YES/NO

 同時にアナウンスが走った。
 どうやら一定確率で出現する亀を釣ることでシークレットクエストが発生するようだ。
 でもこれって有名な御伽噺の奴ですよね?
 虐められてた亀を助けたわけではなく、釣っただけでイベントが開始していいものか。


「それ、どうするんです?」

「どうするも何もフレーバーデータとして吸い込まれちまったからな。どうせ暇なんだ。新しい釣り場を発見したら御の字。なきゃないでいつも通りさ。しかし竜宮城と来たか。カイゼル、水泳系のスキルの持ち合わせは?」

「ありますよ。船釣りするときにあったほうが便利ですし」

「アキカゼさんは?」

「そっちの方が得意ですね」

「そっちのクラメンさんは聞くまでもないか」

「はい。水中がメイン生活圏ですね」


 しれっと肺呼吸しながら防波堤に足を放り出してぶらぶらさせてるスズキさん。
 私達はシークレットクエストの赴くまま海中に身を委ねた。


 ◇


「はい、皆さん見えているでしょうか。右手に見えるのが海中のスズキさんです」

「どーもどーも」

【普通に泳いでる魚の人を初めて見る】

「さっきも泳いでたでしょ?」

【魚が背泳ぎやバタフライしているのを認めていいものか悩んでるんだよ】
【なんだったら犬かきもしてたぞ】
【陸の生活が長すぎて泳ぎ方忘れたのかと思ったわ】

「そんなわけないじゃないですかーぷーくすくす」

【それよりアキカゼさん普通に喋ってるね】
【そう言えば】
【何かのスキル?】
【多分そう】

「そう思ってしまうのも仕方ありませんが、実は水中内では普通に会話出来ます」

【えっ?】
【えっ?】
【はい?】

「お食事も出来るんですよー。僕はアキカゼさんから教えてもらったんです」

【それは草】

「私は鴨南蛮そばを、うちのサブマスターはうどんを水中で食べたことがあります。特に濡れることなく調理アイテムを頂くことができるので覚えておいて損はないテクニックですよ」

【水中で食事ができるのは朗報なのか?】
【分からん。水中に潜ることもねーし】
【魚の人はわかるけど、アキカゼさんがどうやって息継ぎしてるんだ?】

「あ、それはですね。実は水中で呼吸は普通にできます。その代わりスタミナ消費があっという間に消えてしまうので呼吸メーターというので息を継いでスタミナを回復させる必要があるんです。私はスタミナゲージが無いので特に問題なく行動できますね」

【ん?】
【どう言うこと?】
【今サラッと重大発言したような気がするけど】
【スタミナゲージって消えるの?】
【草】
【おい! それマジか】

「マジですよ。派生方法はマナの大木ソロ到達で変化する〇〇の呼吸を8種類達成すると無の呼吸と言うのが生えますので、それの条件を達成すればなんとスタミナゲージが消えます!」

【通りで動き回ってても休憩なしで行動できるわけだ】

「もともと私のスキルはスタミナ軽減系で特化されてましたが、これのおかげでスキルの半分以上が死んだんですよ。酷くないですか?」

【それは……ご愁傷様です】
【なのにあまり困ってなさそうなのがなんとも】

「おーい、こっちの準備は終わったぞー」

「と、向こうの支度が終わったので私たちも参りましょうか」


 案内はルアーさんがしてくれるので、カイゼルさん、私、スズキさんが後に続く。
 
 そう言えば釣った魚を置きっぱなしだ。
 誰かに食べられてはしないだろうか?
 何故か口元をモゴモゴしてるスズキさんが気になるけど、まさかその口の中に私の釣った魚たちが入ってることなんてないですよね。ね?
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