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3章 お爺ちゃんと古代の導き

171.お爺ちゃん達と[七の試練]③

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 妻やランダさんがのんびりと錬金で何かのアイテムを作ってる横で、私達は縦横無尽に動き回ってエネミーの討伐に邁進していた。陽光操作★が影に特攻が付いてからのみんなの動きは華麗に、そして戦闘を重ねるほどに余計な動きが増えていった。
 普通は減らしていくものだろうけど、ウチは変わり者の集団だからね。そして守る相手がいるからこそ、余裕が生まれれば良い格好をしたがるのだ。


「じぃじ!」

「だから貴方にじぃじと呼ばれたくない!」


 連携……にしては無駄な動きのオンパレード。
 ワザと一匹横に逸らしたスズキさんが、煽りながらジキンさんに声を掛け、答えるようにバットでシャドウ型の真芯を捉えて打ち上げる。それを探偵さんが空中で受け流すように私へ逸らし、私が影を踏んづけながらスズキさんにパスする流れを繰り返す。
 要はチェインアタックなのだけど、ここのエネミーは特定回数のチェインでドロップするアイテムが変わるらしく、最低でも7ヒット以上当てる事で通常ドロップが。
 12ヒット以上でレアドロップが出ると検証が出ている。

 普段なら探索なら探索に全振りする私達だけど、生産のできる女性陣が加わった事。思いの外足場が安定していたことがこの行動につながった。
 女性陣がドロップ素材を元に生産を始め、必要素材を提供するために戦闘を長引かせて必要素材を吐き出させているわけである。こんな遊び方もできるのだなと妻に尋ねてみると、普通はここまで気前よく生産させてくれる戦闘プレイヤーはいないと言われた。寄生だなんだのと叩かれるので、素材を集めるときはそっちに集中するのだそうだ。
 通りで今までこんなことやらないと思ったよ。


「よし、だいたい揃ったよ」

「お疲れ様。こっちは染色アイテムが出来たわ。今着ている服の上に垂らすだけで特定の部位が染められるのよ」

「へぇ、でも部位で?」

「そ。それはそれで非常に助かるのよ? 部分染めって結構手間がかかるものだし、攻めたくない場所まで滲んで残念なことになるのってよくあるの」


 妻の言ってることは半分くらいよくわからなかったが、作り上げた品が偉大なことはよく理解できた。
 服飾関連では特にオリジナルで作った衣装でもない限り素材の色が前面に出てしまうらしい。そこでおしゃれに着飾りたいプレイヤーはこの染色アイテムを駆使してオリジナルの組み合わせを作って自分の色を出しているんだって。
 それは非常に興味深いと探偵さんが食いついていたっけ。
 形から入るもんね、彼。


「こっちは調理アイテムさ。アキにも調理しなよって提案したのに突っぱねられてさ。一人で黙々作らされたよ」


 ランダさんは被害者面をしながらいい笑顔で笑っている。
 妻は何かを含んだ視線をぶつけて黙らせていた。


「またそうやって私を矢面に立たせようとする。比べられる身になってください」

「別にアタシと比べる必要なんてないのにさ。ゲームのシステム上ではアタシの調理の方が上みたいになってるけど、アタシはアキの料理好きよ?」

「それはそれで嬉しいですけど、やっぱり私はこっちで勝負します」


 子供のようにぶりぶりと頬を膨らませて憤る。
 妻のそんな姿を見るのはいつぶりだったか。結婚してからはまず見てないし、となると結婚する前の学生時代か。過去を振り返りながら自分のしでかした過ちに気付かされた気持ちだ。
 つまり今の彼女は気持ちだけ学生時代に戻っているのだ。
 アバターに引き寄せられてか、普段よりも笑顔が多い。


「──なた。あなた?」

「うん?」

「もう、声をかけてるのに心ここに非ずなんですから。聞いてくださいよ、ランダさんたら酷いんですよ?」
 

 それでいてしっかり私に縋ってくるのは夫婦という関係性があっての事だ。定年退職をした当時、私と彼女の心は冷え切っていて、こんな風に頼ったり頼られたりする関係性を築けないでいた。それが今はどうだ。ゲーム内でとはいえ、いい方に向いてきている。
 これは誰のおかげ?
 それはランダさんとの出会いだろう。
 彼女と出会い、ようやく彼女は老いさばれていく自分を見直して本来の自分に戻れたのだ。


「私としては君はもう少し前に出ていいと思うんだけど?」

「ほら、旦那様のお墨付きだよ。覚悟を決めな」

「う、裏切るの?」


 ニシシとはを見せて笑う彼女に煽られるままに情緒不安になっていく彼女。私が彼女にできることは背中を押してあげることくらいだ。もっと自分に自信を持ってもいいんだよ。
 結婚して40年。彼女にかけてあげられなかった言葉を、今ここで添えた。


「裏切るなんて、そんな。私は自信を持って君の料理は最高だと思っているよ。システム上でどちらが上とかどうでもいい。もし値段を見ずにどちらを食べるかと問われれば私が手を付けるのは君の料理だ」

「な、なななな。何言ってるんですか、こんな場所で」


 後方で探偵さんとスズキさんが口部をを吹いたりやんややんやと囃し立てている。妻は耳まで真っ赤にしながらキレ気味に返答した。


「もう、みんなして揶揄うんですから。その代わりあなたは責任持って私の料理を食べること。良いですね?」

「もちろん。妻の試食は旦那の特権だからね」


 言質は取りましたからね、と戯けて笑う彼女に少し心臓が跳ねた気がした。惚れ直した……とは違う、なんとも甘酸っぱい感情が胸を締め付ける。


「青春してるなぁ」


 そのすぐ後方で、二組の夫婦のやり取りを見てニヤニヤする男女がいた。


「青春に年齢は関係ないって教えてもらいました。これを機に秋風さんももっと頑張ってみては?」

「はっはっは、無理だ!」

「そこで即答するから向こうもその気になってくれないんじゃないんですかー?」

「どうだかな。ただ、僕としては今彼女は自分のやりたいことに一生懸命だから、それをそっと見守るのが今まで振り回してきたもののケジメでね」

「あれあれ? 秋風さんてば後方腕組み勢でしたか?」

「愉悦勢とも言う。僕は彼女の才能を認めているからね。そしてその道の険しさも。教えてくれって頼み込んできたら教えてやらなくもないけど」

「だめだこの人。何も学べるものがない」

「まぁどんな夫婦がいても良いじゃないか。反面教師の自信はあるが」

「威張るところじゃないよーな?」


 大笑いを上げながらエネミーとエンカウント。
 妻からの応援を受けて張り切る夫に探偵少年と魚人が加わり、少しづつ部屋を移動していく。
 終わりのない質問の数々をまるっと無視しつつ、虱潰しにドロップアイテムとアイテムの錬金、調理に勤しむ私達。

 決して進捗はよくないが、ただそこにはいつも以上に笑顔が溢れていたように思う。良いところを見せようとスクリーンショットで女性陣を写し込めば、そこに浮かび上がる奇怪な文字。
 あれ、これは一体なんだ?


「どうかしましたか? スクリーンショットの姿勢のまま固まって」

「ああ、いや。君とランダさんの作った作品に古代語が浮かび上がってさ」

「素材の方には無かったんだよね?」

「はい。そっちは既に確認済みです。まさか加工品から浮かび上がるとは思いもよらず」

「それでなんて書いてあったんだい?」

「戻り進んで進み戻れ……」

「なんだい、そりゃあ?」


 ランダさんが妻お手製のモドリ草の天ぷらを摘み上げながら顔を顰める。


「もしかしたら意図的にモドリ草を使ってスタート地点に戻る必要があるのかも?」


 妻が何かに思い至ったのかそう口にした。


「でも戻り草を持ってると進めないよね?」

「じゃあアタシの作ったこっちかい?」


 ランダさんは入り口にワープできる巻き物を取り出した。
 すかさずスクリーンショットを掲げると、そこには違う言葉が記されていた。

「右右左左後右」

「なんかの暗号かい?」

「これって古代語持ってることで余計に迷わせてくるやつじゃないの? ヒントに見せた罠とか」


 あまりの意味不明さに探偵さんが閃いたとばかりに口を挟んでくる。確かにその線も考えたけど。


「悩んでても仕方ない。どちらにせよ進んでる気がしないんだ。これを頼りに進んでみよう」


 まずは天ぷらに出た暗号通りモドリ草を使って特定のルートを戻る。すると……突然エンカウント。
 そして、現れたエネミーに既視感を覚える。


「みんな、気を付けて。これは強化型です!」


 私の網膜に映り込んだ情報は、あの時ファストリアに現れたエネミーの耐久を更に10倍にした化け物だった。
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