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3章 お爺ちゃんと古代の導き

151.お爺ちゃん、ライバル宣言を受ける

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 既に数回の敗北を喫した乱気流一行は、途中離脱の際の救援に、落下予測地点を割り出して、そこへ飛空挺を配置するというやや強引な手段に出ていた。いや、気持ちはわかるけどね?


「進捗はどんな感じですか?」

「あの太陽光を塞がん限り何ともならんわい」


 師父氏の言葉からはいつもの強い感情が抜け落ちていた。
 数度のリテイクでは屈しない我慢強さが自慢の彼らでさえ面倒だと、無力だとその拳を握り込んでいる。
 やはり太陽光が一番の敵。それをを如何に隠すかが最善手だと滞空時間最長を誇る乱気流のマスター自身がそう思っている。
 なぜかと言うと……


「道はあるのにゴールがない。それはどんな状況だと思う?」

「まさか……ゴールから先に溶けてると言う事ですか!?」

「それがワシらの判断じゃな。どこにゴールがあるかもわからないのに、途中で道が断絶されとる。メタを張れば方角こそわかるが、ゴールがわかったとしてもどうしようもない。これはタイムアタックの類じゃないぞ、アキカゼさん」

「いやはや困りました」


 だが同時に、どう攻略してやろうかと胸が高鳴る。


「そう言う割に顔は困ってなさそうだ。やりようはあると?」

「私たちの場合はダメで元々が最初につくので、失敗して当たり前なんですよ。ですがね、なにぶん諦めの悪い連中ばかりが雁首を揃えている。自分のアイディアだけが通用しなくとも、メンバーの誰かのアイディアでここまで進められてきてしまった。じゃあ行けるだけ行こうじゃないか。それが根底にあります」

「強いな。ワシらとはまた違うベクトルの強さじゃ。ライバルとして申し分ないわい」

「戦闘では無力もいいところですが……」

「それでもアイディア次第でここまでたどり着けた。三の試練にもエネミーで言えば強敵だって沢山いたはずだ。なのにそれを悠々と突破してきている。アキカゼさん、貴方達が悲観するほど貴方達は弱くない。ワシはそう思っとりますよ」

「それは非常に心強い言葉だ。そうか、私達はそれほど弱くはなかったのか」

「このゲームにおいてのヒエラルキーでは最下層であることには間違いないんじゃがの。ワシらだって力強さとは無縁のスキル骨子じゃて。それでも戦闘クランの中堅を張れる。戦闘スキルだけが強さの根底ではないと、そう思っとる」

「お互いに頑張りましょう」

「そうじゃな。ワシらはアキカゼさんに海よりも深い感謝を捧げておる。その為にもこのくらいの試練で負けてられん。ワシらにあるのはそんな気持ちじゃよ。乗り越えて、導いてこその仲間じゃ。そうは思わんか?」

「ええ、私もあの時師父氏を誘って正解でした。みんなが天空ルートに期待を寄せていた。でもみんなはそこにゴールを求めてしまった。だから私は彼らを選ばなかった」

「するとワシ達が選ばれたのは偶然ではなかったと?」


 師父氏の細められた目が開かれる。
 偶然……偶然でしたよ、最初はね。
 ですが話しかけて、そのあり方を聞いた時に私の求めていたものを全て持っていたことに気がついた。
 天空ルートはゴールじゃない。地上ルートと趣旨が違うだけなので、先に導くための布石が用意されてるだけの場所。
 だからそれすらを過程として昇華できる人物を欲していた。
 ここで終わりじゃない、これから先を求める探究心の強さを根底にしていた。
 金狼氏はクランメンバーの修行場所として。
 オクト君は更なる錬金術の可能性を広げる為に。
 イスカ氏はこのゲーム世界の不明瞭なワールドマップを明らかにする為。
 山本氏は飛空挺を起点として様々な乗り物の開発に着手する為。
 そして師父氏は自らの編み出したスキル骨子とその鍛錬法に更なる飛躍をもたらす為に参加してくれた。

 今回のクラン協定は決して莫大な利益を生むものではない。
 少なくない金額の赤字を出してでも、それを糧に前を向ける者達が結果を導き出すためのものだ。
 一部儲けを出してる人達はいるが、逆に言えば彼らは先行試験で大赤字を出している。今の稼ぎも黒字になる前に使い果たしてしまうだろう。その癖稀代の博打打ちだ。
 ここでは止まらない、彼らの目標はまだまだこんなものじゃない。

 ワクワクする。まだ始めたてペーペーの私達が、この世界の先人たつと触れ合い、その多くのプレイヤーに感化されて私達自身が成長していると確信している。
 私達は彼らに出会いときっかけを与えたに過ぎない。
 その見返りが私達にとってはなによりも欲した冒険につながるのだ。まっていろよ、古代文明。いずれ私達がそこに眠る全てを解明してやるからな。

 だから……


「偶然という出会いが必然を生む時だってあるのだと師父氏に教わった気持ちです。私達は出会うべくして出会った。今ではどう思えます。ありがとう、ありがとう」

「アキカゼさん。だったらワシらも頑張らにゃいけませんな」

「ええ、どちらが先に攻略するか勝負といきましょう」

「既にワシらが負け越して居ますが?」

「回数じゃあないんですよ。四の試練では抜け駆けされてしまいました。勝ち逃げは許しません。私は非常に負けず嫌いでして」

「そっちが本性ですかな? 普段は勝ち負けなんかに拘らない温厚な性格だと思っとりましたが……ならばその勝負、いち武闘家として引き受けましょう。面白くなってきましたな」

「ええ、同じ高みを目指すもの同士。ライバルがいるといないでは頑張りが違いますからね。攻略する上でも過剰に頑張る事でしょう」

「どこまでが計算でどこまでが本性かわかりませんな。ですが……次の勝負も我らが頂きます故」


 師父氏がここまで他者に挑発的な態度を見せたのは初めてだ。
 ライバルという言葉がより深く私の心に染み渡る。
 この人は本当に私たちのクランをライバルだと認めてくれているのだと確信する。


「勝ち逃げは許しません。次に勝つのは、私達だ!」


 師父氏への宣戦布告は、ジキンさんや探偵さん、スズキさんにも響いていた。


「まーたあとに引けないこと言い出しましたよ、この人は」


 そう言いながら楽しそうに、ライバルなんてこの十年以来初めてです。だなんて愉快そうに笑うジキンさん。


「少年、大きく出たね。だが、それでこそだ!」


 探偵さんが、少年探偵アキカゼの決めポーズで賛同してくれた。


「ハヤテさん、絶対勝ちましょうね!」


 スズキさんも次は負けないぞと応援してくれた。
 今までは何処かバラバラだった私達は、この日初めて結束できたような気がした。
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