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3章 お爺ちゃんと古代の導き

121.お爺ちゃんとクラン協定2

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「さて、今回招集をかけた理由はひとえに今回空のルートに行くための検証も兼ねての事だ」


 空の旅から帰ってすぐ、協定相手のクランマスター達に連絡を入れ、もう一度集まれないかと打診した。
 少し時間はかかってしまったが、打診して4日後には集まってくれた。その上で出発前の挨拶として言葉をかける。


「検証ですか?」

「うん。君達も知っての通り、空のルートを進むにはマナの大木の頂上まで自力到達しなければならない。普通であれば木によじ登る方法しかない。そう思っていたのだが……」

「違う結果が出たと?」


 オクト君の問いかけに私は機嫌良くうなずいた。


「報告は聞いている。うちのメンバーが世話になったそうだね」


 クラン『鳥類旅行記』のマスターであるイスカ氏が片手を上げながら話に入ってきた。私は彼に会釈しながら話を進める


「そう、つまるところ彼のクランのメンバーさんも種族補正の飛行、羽ばたきの応用で達成したんだ。逆に言えば上に行くまで己の能力をフルに使えばスキルを使おうとなんだって構わない。その検証をするつもりでいるよ」


 私の言葉に納得する顔としない顔が出た。
 反対意見を掲げたのはクラン『AWO飛行部』の山本氏。


「どうして“今”なんだ?」


 その質問はご尤も。彼にとって空へ至る道筋は己で乗り越えてこそ。だから私の話に耳を貸してくれない。
 うちの職人のダグラスさんと一緒で頑固なんだ。
 でもそんな彼に耳寄りの情報がある。だから早く教えたかった。


「空導力、というゲージはご存知ですよね?」

「聞いた事はある。それが何だってんだ?」

「あれの力はモノを浮かせることに特化している」

「何が言いてぇ?」

「山本氏、今、如何にしても飛空船を浮かせようかで悩んでませんか?」

「知った風な口を……だが悔しいがその通りだ」

「私としては、あなたにこそあのゲージを使って貰いたいと、そう思っています。私では宝の持ち腐れだ」

「随分と担いで来るじゃねぇか。そんなにスゲェのか?」

「ええ、まず助走をつけて飛び立った時の飛距離からして変わります。ですが飛空挺はエンジンですよね? そのエンジンの噴射でどれだけ飛び上がるのか、今から楽しみなんです。私はそれを見てみたい」


 私の言葉を聞き、山本氏は想像したのか瞳を輝かせ始めた。
 やっぱりね。彼もダグラスさんと一緒で、とことん自分の好きなことに夢中だ。


「お前さんがそこまでいうなら付き合ってやる」

「ありがとうございます」

「ワシからも一つよろしいか」

「どうぞ」


 クラン『乱気流』マスターの師父しーふ氏が挙手をする。


「あなたの説明を聞いて、それはワシ達が求めてやまないモノだと知れた。是非手に入れたい。よろしく頼む」

「そう言ってくれてよかったです」


「お義父さん。僕としてはマナの大木の頂上で店を開いてみたいんだけど、何か良い案はないかな? 前回の出店の時、お義父さんは頂上で出さなかったじゃない? 理由を聞いて頷いたけど、上がったり降りたりするのが手間なので。前線基地として構えたいのでその労力はなんとかならないものでしょうか?」

「ならば尚更空導力を手に入れなさい。おまけでもらえるフレーバーアイテムが、例の聖獣様のヘイトを切ってくれる」

「あー、そういう理由で今日の召集があったんですね。納得しました」

「ウチとしてはメンバーから聞いてるから把握してる。私が手に入れるよりは、他のメンバーに分け与えてあげたいくらいだよ。でもマスターとして持ってないのも恥ずかしいのでついでに持っておきたい感じです」


 オクト君に続いてイスカ氏も賛同してくれた。
 そして最後に金狼氏が締めくくる。


「と、言うわけだ。そろそろ出発しよう」


 それ、私のセリフ。喉まで出かかった言葉を飲み込んで、パーティーを組んでマナの大木のふもとまでやってきた。
 道中は私は空に浮き上がり、滞空して見せるとみんな驚いてたっけ。
 金狼氏はどこか羨ましそうな瞳を向けていたけど、その鬱憤をエネミーで晴らすことで精算したようだ。



「さて、まず登って見る前に私は『輸送』のスキルを使わせて貰う」

「また聞いたことないスキルが出てきたぞ」

「はいそこ、ツッコミを入れない。ちゃんと説明しますから、まずは自分の身に起こったことを確認してください」


 私は『輸送』のスキル説明を掻い摘んで教える。
 要は私の取得した『重力無視』をパーティーメンバー全員にかけると言うモノだが、内容をうまく飲み込めてない人が殆どだった。なので行動する事で体に教える。習うより慣れろ。
 その方針で行くことにした。


「行きますよー、風操作」


 勢いは弱め。
 けれど浮き上がる体に皆が戸惑う。


「うわ、なんだこれ! フワフワしてて落ち着かねぇ!」

「おお、僕の体が浮き上がってる。ジャンプでもない、しかし重力によって落ちることもない。非常に興味深い」

「おお、おお、私の体が浮いてる! 空を飛ぶことを諦めた私の体が!」

「この安定感……あんたが伝えたい能力はこれか? 確かにこいつを手にすれば行けるかもしれんな」

「感謝しますアキカゼ氏。ワシの覇道はこの能力を経て一歩近づいたことでしょう」


 全員がそれぞれの言葉で驚きとも感謝とも呼べない声をあげ、それでもなんとか姿勢制御して体勢を持ち直す。
 一度スキルを切って地面に落とす。
 

「さて、今の皆さんには体重が一切なく、ほんのちょっとの風の力で浮き上がれる軽さが宿ってます。要はこの力を使って登り切り、無事妖精の加護が貰えるかの検証にお付き合いして貰いたいのです」


 体重が0。つまり腕の力をほぼ使わずにぐんぐん上に登ることができる。それで加護が無事に貰えたらラッキーだなと思う。


「しかしこのスキル、強力な分、それなりにデメリットがあるんだろ?」


 金狼氏の言葉に私は頷く。


「勿論。使ってる間スタミナがガンガン減っていくよ。でもまぁ、私は調理アイテムをバッグにガン積みしてるので心配は無用さ」

「デメリットの方が無視できないじゃねーか。しかしパッシヴ特化の爺さんがそこまで言うんだから俺たちは御相伴に預かろうか」


 金狼氏の言葉に全員が頷く。
 きっと他のだれかが聞きたかった質問を彼がまとめてしてくれたのだろう。やはり彼のカリスマ性はこの中ではダントツだな。



 全員が木にしがみついて大体30分ぐらいだろうか?
 特にスタミナ切れすることなく中腹まで辿り着く。


「お疲れ様。少し休憩して食事にしようか。うちの妻の手製の調理だよ。値段は見て見ぬ振りしてくれ」


 私は妻に採算度外視で作ってもらった料理を自慢する様にみんなの前に並べた。無論、素材はこっち持ちである。
 なーに、これぐらい記念コイン作るよりは全然さ。


「なんっだ、これ。美味い美味くない以前に口の中から消えたぞ? その上で口の中にいつまでも風味が残ってる。ああ、喋ってる時間も惜しい!」

「お義父さん。いつもこんなの食べてたんですか? ズルイです」

「君も娘に食べさせて貰いなさいよ。あの子もなかなかどうして達者だよ?」

「彼女の腕は僕も認めてますよ? ですがこんなの出された日には……どうしても比べてしまいます」


 金狼氏が鴨南蛮蕎麦をかきこむ横で、オクト君がジトッとした目で訴えかけてくる。難儀だね。味と値段で言えばうちの妻より、ジキンさんの奥様の方が格上なんだが言わないでおこう。
 みんなが満腹になったであろうことを見計らって、出発する。

 この料理の凄いところは、食事バフにある。
 私にも嬉しい効果だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

[調理アイテム:鴨南蛮蕎麦・極]

 上級シェフが制作した二面性のある極上の逸品。普通に食べても美味しいが、付け合わせの練り梅を合わせると口の中の脂分が消滅する。
 腹持ちもいい。ツルツルしこしこの蕎麦だけでなく、汁、鴨肉にも別の味わいになる仕掛けが施してある。

 ■制作難易度:120
 EN回復120%
 効果1:LP、SP、STが食事後30分間50%ブースト
 効果2:スキル使用時、威力20%上昇/30分間
 価格:ゲーム内通貨100,000相当

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 STどころかSPも回復するので、新しく覚えた水操作も使える優れもの。ただ空導力/APを回復させる調理アイテムは今のところない。困ったモノだ。


 全員が頂上まで到着すると、みんなして黙りこくった。
 もしかして成功したかな?
 全員がシステムからスキルを確認し、なんだか驚きの声を上げていたのを見ながら安堵した。

 ここから先は個人の努力次第だ。
 全員が重力無視に辿り着けるわけではないとわかってるが、それでも。スキルが新しいものに生まれ変わったことを喜ぶ姿は楽しいものだ。
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