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3章 お爺ちゃんと古代の導き

109.お爺ちゃんと空中散歩①

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 雲の上を歩くのは久しぶりだ。
 ここは妖精の国より下の雲。所謂中層と呼ばれる世界。
 前に行くと途中で途切れてしまう場所だが、ある意味ではマナの大木まで直通で行けるルートなのだ。
 以前落ちた場所もここら辺と当たりをつけて登ってみたが、うまく辿りつけたということはビンゴのようだ。
 同じ空域では鳥たちも賑やかに追いかけっこしていて……

 ……ん? 鳥?

 雲の上に鳥が存在するなんて聞いたことがない。
 もしかしたら彼らは例のクランの一員かもしれないね。
 クラン『鳥類旅行記』。
 クランリーダーを除く全員が鳥(野生)のプレイヤー。
 森のくま君と同じ野生プレイヤーが他にもいたことに驚きを覚え、少し後を追うことにした。


 ◆


 びっくりした。
 いつものルートを調査していたら、下から人間がやってくるのだから。確かあの下に、人間が出入りできるルートは無かったはずだ。なのに当たり前のようにやってきて話しかけてきた。

 相棒の燕種であるムッコロさんにアイコンタクトを取ってみると、すぐにパーティチャットで返事が返ってきた。


『僕も知らないね。リーダーに聞いてみたら?』

『それが良いか』


 確かにそうだとコンタクトを取ると、もしかしたらととある人物の情報をくれた。
 それがアキカゼ・ハヤテ。
 ビッグネームが出てきて驚いた。
 なんせ、我々空に生きる鳥類の独壇場であるこの空を、今まで地べたに這いつくばっていたその他のプレイヤーに知らしめた存在である。

 オレは意を決してコンタクトを取ることにした。
 相棒のムッコロさんもそれに納得してくれたように頷いてくれた。


 ◆


 これは無駄かな? と思いつつもしつこく話しかけること数分。ようやく向こうから反応が返ってきた。個人宛のチャットで。


『失礼だがあなたの名前はアキカゼ・ハヤテで間違いないか?』


 驚いた。個人名すら当てて見せる。
 いや、もうすでにクランマスターのアララギさんに連絡した後なのかもしれないね。


『その通りだよ。では君たちの所属は『鳥類旅行記』で間違いないね?』

『ああ』


 バン・ゴハンと記されたジュウシマツのプレイヤーがクリッと首を曲げて肯定してくれた。
 以降、私の探索に二羽がついてきてくれることになる。
 もう一羽の燕のプレイヤー、ムッコロ氏と共に。
 彼らは私と話す時にパーティチャットを使って話す。
 基本的に彼らは話すことができないから……

 そこまで考えて、どうして以前、森のくま君は普通に話していたのだろうかと思い至る。
 そこでムッコロ氏から聞いた情報によると、エリアコールというのがあるらしい。
 それならば普段の声で喋れる反面、エリア全体に無作為に声が届く為、内緒話には向かないらしいことを教えてくれた。
 成る程。私との会話をしつつ、彼は自分の存在を周囲に示していたわけか。威嚇という意味では効果的だ。
 
 そこまで考えて足を止める。
 いったんの目的地であるマナの大木に到着したのだ。


『ここまでくると空気が違いますね。一気に濃密になってくる』


 木から吐き出された酸素で満たされているからね。二羽は毛繕いしながら空気の密度に喜びを感じているようだ。
 今の所在地は中腹も良いところ。頂上に至るには地上から登ってくるのと同じくらいの努力を要する。


「最近はここも結構賑わってきたね」


 みやれば周囲には以前出店を開いてた場所で休息をする幾人かのプレイヤーを見つけた。


「やぁ、若人達。頑張っているかね?」

「あ、アキカゼさん。ちわーす」

「うむ」


 流石にここまでくるプレイヤーは根性が腐ってなくて良いね。
 根性が腐ったプレイヤーは木に上る行為自体に難色を示す。
 なんだったら連れて行けと無理難題を突きつけてくるほどだ。
 さっきまで騒がしかった二羽はこちらに気を使って鳴くのをやめて、肩から降りて木の上に降りて少し羽休めするようだ。


「頂上までの進捗はどんな感じだい?」

「五分五分ってところですねー。あーあ、またどこかのクランが出店してくれたらな~」


 チラチラとした視線を受けながらも微笑んでやり過ごす。
 言い出した本人も有れば望ましいと思いつつ、無理強いするつもりもないらしい。


「あれはある種のサービスだったからね。ずっとやると赤字で経営が回らなくなってしまうんだ。それに、奥さんをそれだけの為にずっと拘束してしまうのも気が引けてしまうしね」

「あー、やっぱりあれ赤字だったんですね」

「むしろ食事よりも記念コインの方が真っ赤っかだ」

「あはははは」


 苦々しく言ってやると、若者達は腹を抑えて苦しそうに笑っていた。どこかに思い当たる節があったらしい。


「道理で。無駄に凝りすぎだと思ってました。鑑定したら価値なしって出ましたけど、でも赤字なんですね」


 そう言って懐から三枚のコインを取り出した。
 それだけで彼らの実力が窺える。
 なんとなしに出店してた場所に来てしまうのは、それだけ彼らに強いイメージを植え付けたと言うことだね。


「それを聞いたらうちの職人が喜ぶよ」

「そう言えばアキカゼさんは空の攻略しないんですか?」

「んー」


 ここ最近クラン活動にばかりかまけていたことを指摘され、痛いところを突かれたと呻く。そこで彼らに向き直り、提案した。


「これから行こうと思ってね。一緒に行くかい?」


 問いかけた3人の若人たちが目を合わせる。
 旅は道連れというしね。


 こうして私の旅に、道中で居合わせたプレイヤーが巻き込まれた。
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