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3章 お爺ちゃんと古代の導き
108.お爺ちゃんと飛空挺
しおりを挟む「さて、今日ウチがそちらのクランに呼びかけたのは、今後の布石として受け取ってもらいたい」
クラン協定を結んだ帰りの席。
私達は一番最初に『AWO飛行部』へと話かけた。
用件はただ一つ。技術提携しませんかと言うものだ。
彼らは単独で飛行機を作って飛ばす情熱を持つ人達。
そんな彼らを悩ませるのは、単純に今の技術体系じゃ欲しい素材が手に入らないと言う問題にぶち当たっているらしい。
じゃあそれらを賄ったら何ができるのだろう?
ウチならば足りない何かを埋める一助になるかもしれないと相談に乗った。
しかし飛行部のリーダーである山本氏は話ができすぎていると訝しげな表情でこちらを見つめ返した。
何度かこの手の話に騙されてきた。そんな反応だ。
だからこその説得力として私はシステムを開いてとあるアイテムを取り出して提示する。
記念コインだ。
これひとつ作るのに馬鹿げた資金をかけている事をウチのメンバー以外は誰も知らない。
「これがなんだって言うんだ」
「なんだと思います?」
「コインだろう? なんの価値もない」
そう、アイテム詳細に出る価値は全くの無価値。
そもそも価値なんて求めてないのだ、この手のものに。
「そうです。無価値のコイン。これをひとつ作るのにウチがいくら使ったか聞きたいですか?」
「ハン、大方素人が手を出して大損したってとこだろう。1千万ってところか?」
「惜しい、1億です」
「おい、桁がずれてるぞ? 惜しいも何も……待て? 億も使ったコインが無価値? あんたら価値観がぶっ壊れてるなんてもんじゃないぞ!?」
「壊れてるのはうちの技師ですね、私達は普通です。因みに300枚仕込んで9000万の負担。これでも3割で、もう7割をその技師が負担してます」
「……もうなんて言えばいいかわからんがご愁傷様?」
「お気遣いなく。1億で済んで良かったと皆が安堵してます」
「本当にランクCなのか、あんたら?」
「お金だけは困ってないんですよね、みんなが優秀なので楽させてもらってますよ。それで技術提携の話ですけど」
相手の疑心を晴らしたところでこちらの提案を持ち出す。
「貴方たちに作っていただきたいのは飛行船です」
「船と来たか! まだ単機ですら浮かすこともままならんと言うのに」
山本氏は苦々しく表情を顰める。
「勿論、最終的にはってお話ですよ。それまではウチがお金や素材を提供すると言う形です。なんせ記念品のコインに1億もかけるような無謀な経営者が回してるクランですよ? ドーンと頼ってください。それとも他に問題でも?」
「そうだなぁ、問題があると言えばある。そいつが船を覆う素材だ。残念なことに今出回ってる鉱石じゃ重たくて仕方ない。もっと軽く、それでいて頑丈なもんが欲しいが……こればかりはない物ねだりだろう? 金で解決できる問題でもない」
「ほう?」
つまり素材さえ解決すれば割と早く出来上がる問題なのか。私は提示したコインを持ち上げて山本氏の前にかざして見せる。
「因みにこれ、なんの素材でできてると思います?」
「素材? そんなもん……」
無価値であると言うことは分かっても、素材までは言い当てられない。なんせウチの技師の採算を無視して手掛けた最高の物だから。
「あれ? なんだこれ。こんなもん他所じゃ見たことない。コスト3割で30万もかかってる時点でミスリル以上……しかしこの光沢はどう見たって銅やアダマンタイトのような深みがかった茶色に金が映える。だがこの軽さはなんだ? アダマンタイトだったらここまで軽いのもおかしい。銅にしたって脆すぎる。なんだこの素材は! 見れば見るほど訳が分からなくなる!」
反狂乱に陥る山本氏に、私はにこりとしながら説き伏せる。
「正解は合金です。ウチの技師はトップの鍛治クランが一目置く御仁でね、そんな人が軽さだけを求めてこの合金を作り上げた。興味出ません? 既存の鉱石だけでなく、見たこともない素材を作り上げる技師を。私達はそう言う人材も提供できる」
山本氏はようやく息を呑んでこちらを見上げた。
そして深々と頭を下げる。
「失礼な態度を取って済まない。まさか結成したてでそこまでのことができるクランだとは思わず」
「顔をあげてくださいよ山本氏。ランクFなんですから舐められるのは分かっていました。だからそう畏まらないでください」
「いや、でも……」
「クランメンバーについては偶然ですよ。偶然幼馴染のお子さんがトップ鍛治クランに居ただけです。偶然ウチの娘婿のクランが生産で中堅だったり、友達のお子さんが情報統括してただけ。そう、すべては偶然です」
両手を広げながら大袈裟に言ってやる。
「その上あんた自身が情報の爆弾魔。問題児の自覚はあるか?」
「はて、なんのことでしょう? 私はただの素人ですよ。孫と一緒に遊ぶためにゲームをやってるだけの年寄りです」
とぼけてみせると山本氏の表情にようやく笑みが浮かんだ。
獰猛な笑みだ。吊り上げた口角から覗いた歯をむき出しにし、くくくと笑う。そしてパンッと片足に平手を落とすと今までの表情を一転させて笑顔を浮かべた。
「気に入った。お望みどおり飛行船は作ってやる。だが遠慮なく素材の申請は出すぞ? 勿論、金だってバンバン飛ぶ。覚悟しておけよ?」
「望むところです。そのかわり半端なもの持ってきたら突き返しますからね。ウチはとにかくディティールに拘る人が多いですから」
「上等だ、受けて立つ!」
売り言葉に買い言葉。けれどもお互いに理解しあって『AWO飛行部』との技術提携は結ばれた。
直後にジキンさんから「聞いてませんが?」と怒られたけど。
そう、今回はクランを通さずに個人的に勝手に話を進めさせてもらった。もともとそういう思想はあったのだ。
ただ、個人的にAWO飛行部と連絡を取り合えるほど親しくなかっただけで。
丁度いいとばかりにこの機会にお話しした結果、向こうも乗り気で条件を飲んでくれた。
やっぱり職人は素材をちらつかせて焚きつけるに限る。
山本氏の目は、特殊合金を目の前にしたダグラスさんとおんなじ顔してるんですもん。後で顔合わせしてあげたほうがいいですね。そこら辺も手を打っておきましょう。あの人は一つところにいないから、捕まえておかないと直ぐどこか追っちゃいますし。
「飛空挺と言えばファンタジーの定番です。凄くロマンがありません? ジキンさんはそういうの分かってくれると思ったんですが」
「浪漫は良いですけど、例の鯨のヘイト取りません?」
「そこら辺を整理するのがサブマスターであるあなたの役目でしょ。私はクランとしての企画を打っただけです。頑張ってください。私は少し出かけてきます」
「はいはい、全くこの人は。面倒なことは全部こっちに丸投げするんだから。それで、どこ行くんです?」
ジキンさんからの返しに一瞬考え、人差し指を真上へと向ける。
「いい加減ブログも更新したいですし、ネタ探しにでも」
そう、探索だ。
久しぶりのソロ活動に少しだけワクワクとしながら。
それと並行して『鳥類旅行記』の止まり木の確認もしておきたいというのもあった。
背中越しからの声に片手を上げて応えて、私の足は空を階段の様に登っていく。
スキル『スカイウォーク』
息を止めてる間に限り、足の裏に任意に『空歩』を生み出す。
しかし息を止めてる間にじわじわスタミナが減るおまけ付き。
私のスタミナはもうほとんど減らないくらいに自己回復能力の方が上回っている。反面ENがガンガン減るのが問題か。
「けれど食事は十分に買い揃えた。いざ、未知の領域へ!」
アイテムバッグにほぼ食事のみを詰め込み、ようやく視界は雲の間を抜けた。
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