上 下
126 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き

108.お爺ちゃんと飛空挺

しおりを挟む

「さて、今日ウチがそちらのクランに呼びかけたのは、今後の布石として受け取ってもらいたい」


 クラン協定を結んだ帰りの席。
 私達は一番最初に『AWO飛行部』へと話かけた。
 用件はただ一つ。技術提携しませんかと言うものだ。
 
 彼らは単独で飛行機を作って飛ばす情熱を持つ人達。
 そんな彼らを悩ませるのは、単純に今の技術体系じゃ欲しい素材が手に入らないと言う問題にぶち当たっているらしい。
 じゃあそれらを賄ったら何ができるのだろう?
 ウチならば足りない何かを埋める一助になるかもしれないと相談に乗った。

 しかし飛行部のリーダーである山本氏は話ができすぎていると訝しげな表情でこちらを見つめ返した。
 何度かこの手の話に騙されてきた。そんな反応だ。
 だからこその説得力として私はシステムを開いてとあるアイテムを取り出して提示する。

 記念コインだ。
 これひとつ作るのに馬鹿げた資金をかけている事をウチのメンバー以外は誰も知らない。


「これがなんだって言うんだ」

「なんだと思います?」

「コインだろう? なんの価値もない」


 そう、アイテム詳細に出る価値は全くの無価値。
 そもそも価値なんて求めてないのだ、この手のものに。


「そうです。無価値のコイン。これをひとつ作るのにウチがいくら使ったか聞きたいですか?」

「ハン、大方素人が手を出して大損したってとこだろう。1千万ってところか?」

「惜しい、1億です」

「おい、桁がずれてるぞ? 惜しいも何も……待て? 億も使ったコインが無価値? あんたら価値観がぶっ壊れてるなんてもんじゃないぞ!?」

「壊れてるのはうちの技師ですね、私達は普通です。因みに300枚仕込んで9000万の負担。これでも3割で、もう7割をその技師が負担してます」

「……もうなんて言えばいいかわからんがご愁傷様?」

「お気遣いなく。1億で済んで良かったと皆が安堵してます」

「本当にランクCなのか、あんたら?」

「お金だけは困ってないんですよね、みんなが優秀なので楽させてもらってますよ。それで技術提携の話ですけど」


 相手の疑心を晴らしたところでこちらの提案を持ち出す。


「貴方たちに作っていただきたいのは飛行船です」

「船と来たか! まだ単機ですら浮かすこともままならんと言うのに」


 山本氏は苦々しく表情を顰める。


「勿論、最終的にはってお話ですよ。それまではウチがお金や素材を提供すると言う形です。なんせ記念品のコインに1億もかけるような無謀な経営者が回してるクランですよ? ドーンと頼ってください。それとも他に問題でも?」

「そうだなぁ、問題があると言えばある。そいつが船を覆う素材だ。残念なことに今出回ってる鉱石じゃ重たくて仕方ない。もっと軽く、それでいて頑丈なもんが欲しいが……こればかりはない物ねだりだろう? 金で解決できる問題でもない」

「ほう?」


 つまり素材それさえ解決すれば割と早く出来上がる問題なのか。私は提示したコインを持ち上げて山本氏の前にかざして見せる。


「因みにこれ、なんの素材でできてると思います?」

「素材? そんなもん……」


 無価値であると言うことは分かっても、素材までは言い当てられない。なんせウチの技師の採算を無視して手掛けた最高の物だから。


「あれ? なんだこれ。こんなもん他所じゃ見たことない。コスト3割で30万もかかってる時点でミスリル以上……しかしこの光沢はどう見たって銅やアダマンタイトのような深みがかった茶色に金が映える。だがこの軽さはなんだ? アダマンタイトだったらここまで軽いのもおかしい。銅にしたって脆すぎる。なんだこの素材は! 見れば見るほど訳が分からなくなる!」


 反狂乱に陥る山本氏に、私はにこりとしながら説き伏せる。

 
「正解は合金です。ウチの技師はトップの鍛治クランが一目置く御仁でね、そんな人が軽さだけを求めてこの合金を作り上げた。興味出ません? 既存の鉱石だけでなく、見たこともない素材を作り上げる技師を。私達はそう言う人材も提供できる」


 山本氏はようやく息を呑んでこちらを見上げた。
 そして深々と頭を下げる。


「失礼な態度を取って済まない。まさか結成したてでそこまでのことができるクランだとは思わず」

「顔をあげてくださいよ山本氏。ランクFなんですから舐められるのは分かっていました。だからそう畏まらないでください」

「いや、でも……」

「クランメンバーについては偶然ですよ。偶然幼馴染のお子さんがトップ鍛治クランに居ただけです。偶然ウチの娘婿のクランが生産で中堅だったり、友達のお子さんが情報統括してただけ。そう、すべては偶然です」


 両手を広げながら大袈裟に言ってやる。


「その上あんた自身が情報の爆弾魔。問題児の自覚はあるか?」

「はて、なんのことでしょう? 私はただの素人ですよ。孫と一緒に遊ぶためにゲームをやってるだけの年寄りです」


 とぼけてみせると山本氏の表情にようやく笑みが浮かんだ。
 獰猛な笑みだ。吊り上げた口角から覗いた歯をむき出しにし、くくくと笑う。そしてパンッと片足に平手を落とすと今までの表情を一転させて笑顔を浮かべた。


「気に入った。お望みどおり飛行船は作ってやる。だが遠慮なく素材の申請は出すぞ? 勿論、金だってバンバン飛ぶ。覚悟しておけよ?」

「望むところです。そのかわり半端なもの持ってきたら突き返しますからね。ウチはとにかくディティールに拘る人が多いですから」

「上等だ、受けて立つ!」


 売り言葉に買い言葉。けれどもお互いに理解しあって『AWO飛行部』との技術提携は結ばれた。

 直後にジキンさんから「聞いてませんが?」と怒られたけど。

 そう、今回はクランを通さずに個人的に勝手に話を進めさせてもらった。もともとそういう思想はあったのだ。
 ただ、個人的にAWO飛行部と連絡を取り合えるほど親しくなかっただけで。
 丁度いいとばかりにこの機会にお話しした結果、向こうも乗り気で条件を飲んでくれた。
 やっぱり職人は素材をちらつかせて焚きつけるに限る。
 山本氏の目は、特殊合金を目の前にしたダグラスさんとおんなじ顔してるんですもん。後で顔合わせしてあげたほうがいいですね。そこら辺も手を打っておきましょう。あの人は一つところにいないから、捕まえておかないと直ぐどこか追っちゃいますし。


「飛空挺と言えばファンタジーの定番です。凄くロマンがありません? ジキンさんはそういうの分かってくれると思ったんですが」

「浪漫は良いですけど、例の鯨のヘイト取りません?」

「そこら辺を整理するのがサブマスターであるあなたの役目でしょ。私はクランとしての企画を打っただけです。頑張ってください。私は少し出かけてきます」

「はいはい、全くこの人は。面倒なことは全部こっちに丸投げするんだから。それで、どこ行くんです?」


 ジキンさんからの返しに一瞬考え、人差し指を真上へと向ける。


「いい加減ブログも更新したいですし、ネタ探しにでも」


 そう、探索だ。
 久しぶりのソロ活動に少しだけワクワクとしながら。
 それと並行して『鳥類旅行記』の止まり木の確認もしておきたいというのもあった。
 背中越しからの声に片手を上げて応えて、私の足は空を階段の様に登っていく。


スキル『スカイウォーク』
 息を止めてる間に限り、足の裏に任意に『空歩』を生み出す。
 しかし息を止めてる間にじわじわスタミナが減るおまけ付き。
 私のスタミナはもうほとんど減らないくらいに自己回復能力の方が上回っている。反面ENがガンガン減るのが問題か。


「けれど食事は十分に買い揃えた。いざ、未知の領域へ!」


 アイテムバッグにほぼ食事のみを詰め込み、ようやく視界は雲の間を抜けた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

いや、一応苦労してますけども。

GURA
ファンタジー
「ここどこ?」 仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。 気がつくと見知らぬ草原にポツリ。 レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。 オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!? しかも男キャラって...。 何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか? なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。 お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。 ※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。 ※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。

余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜

双葉 鳴|◉〻◉)
SF
向井明斗25歳。通院中、会社からかかってきた要件は、これ以上業務を休むならもう来なくていいと言う実質上の首切り宣言だった。 就職難で漸く拾ってくれた会社にそれこそ身を粉にして働き、その結果が通院処分。精神と肉体を磨耗した明斗は、通院帰りに立ち寄ったゲームショップで懐かしいタイトルを発見する。 「New Arkadia Frontier」 プレイヤーを楽しませる要素を徹底的に廃し、しかしながらその細かすぎるくらいのリアルさに一部のマニアが絶賛するクソゲー。 明斗もまたそのゲームの虜になった一人だった。 懐かしさにそのタイトルをレジに持っていこうとして立ち止まる。あれ、これって確かPCゲームじゃなかったっけ? と。 PCゲームは基本、公式ホームページからのダウンロード。パッケージ販売などしていない筈だ。 おかしいぞとパッケージを見返してみれば、そこに記されていたのはVR規格。 たった五年、ゲームから離れてるうちにあのゲームは自分でも知らない場所に羽ばたいてしまっていた。 そもそも、NAFは言わずと知れたクソゲーだ。 5年前ですらサービス終了をいつ迎えるのかとヒヤヒヤしていた覚えがある明斗。一体どんなマジックを使えばこのゲームが全世界に向けてネット配信され、多くのプレイヤーから賞賛を受けることになるのか? もはや仕事をクビになったことよりもそっちの方が気になり、明斗は当時のネーム『ムーンライト』でログインする事に。 そこでムーンライトは思いがけずそのゲームの根幹を築いたのが自分であることを知る。 そこで彼が見たものは一体なんなのか? ──これはニッチな需要を満たし続けた男が、知らず知らずのうちに大物から賞賛され、大成する物語である。 ※この作品には過度な俺TUEEEE、無双要素は設けておりません。 一見して不遇そうな主人公がニッチな要素で優遇されて、なんだかんだ美味い空気吸ってるだけのお話です。 なお、多少の鈍感要素を含む。 主人公含めて変人多めの日常風景をお楽しみください。 ※カクヨムさんで先行公開されてます。 NAF運営編完結につき毎日更新に変更。 序章:New Arkadia Frontierへようこそ【9.11〜9.30】19話 一章:NAF運営編【10.2〜10.23】23話 二章:未定 【お知らせ】 ※10/10予約分がミスで11/10になってたのを10/11に確認しましたので公開にしておきました。一話分飛んでしまって申し訳ありません。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

処理中です...