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1章 お爺ちゃんとVR

016.お爺ちゃん、サハギンと遭遇する

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 それじゃあ夕ご飯まで最善を尽くしましょうと言われて集まりを解散する。それぞれに決意を胸にして別々の方向へと歩き出す。


「大変なことになりましたね」

「そうですね」


 ジキンさんだけその場に残ってもらい、語らう。
 彼の瞳には哀愁にも似た何かが漂っているように思えた。


「行かれるのですか?」


 戦場に。周りに追いつけないからと私と一緒にいることを選んでくれた友に呼びかける。


「ワガママばかり言ってられませんし、代役が必要でしょう?」

「私なんかの為にお手数かけます」

「別にハヤテさんの為だけというものではないんですよ?」

「ふむ、何かを決意した男の目をしていますね」

「ええ。最初こそ理解できないとゲームそのものをやめてしまおうかとも思ってました。でもね、あなたと出会い、守るべきものができた。この街然り、ハヤテさん然り」


 ジキンさん……あなたって人は。人としてなんて大きいんだろう。
 そんな貴方とここで出会えたことを嬉しくおもいます。


「それを守ってやりたいって言うのは、持つべきものの特権なんですよ。今までもそうでした。兄弟の中で一番その手の能力に優れているって理由だけで商売を継がされた。最初は嫌々でした。でもね、やっていくと楽しくなってくるんです。あれもこれもと手を伸ばした結果、今がある。気持ちこそ若い時のままここまできてしまいましたが、子供達の将来を考えると席を退くべきかと考えさせられるんです。そんな息子達の頑張りを見てるとね、当時の気持ちが蘇るんですよ。自分にもまだ何かできるんじゃないかって。何ができるかも分からないのにガムシャラになってやってみようと思えたのはひとえにハヤテさんと一緒に行動してからなんですけどね」

「はい。私もね、今の自分にできることを頑張ってみようと思います」

「と、いうと?」


 彼の顔をそのまま撮影してやる。無断撮影なのでこれを使うことはない。


「スクリーンショットですよ。風景ばかり追うのではなく、戦いに赴く彼らの姿を風景と一緒に撮影してやるのも良いかなと」

「ブレないですね。でもだからこそ、貴方らしい」

「ありがとうございます」


 苦笑し、握手を交わす。
 たかがゲームと言えど、多くの人数を巻き込むイベントを引き起こした責任を娘達に任せたままというのは後味が悪すぎる。
 今の自分にできることの再認識をしていくのも大切だと思いなおす。


「ではまた」

「はい、健闘を祈ってますよ」


 ジキンさんと別れる。
 たったの二日一緒に行動しただけだというのに、今生の別れにも似たような雰囲気を醸し出す。なんともはや、馬鹿馬鹿しいものだ。
 女々しいったらありゃしない。妻にこんな姿を見られようものなら指をさして笑われるだろう。たかがゲームに本気になりすぎだって。
 自分でもそう思っているが、ここの暮らしを見てしまうとただのデータのようには扱えないんだよなぁ。まるで生きている人間と接してるような生活が絶え間なく繰り返されてる。その日常の上に今の自分がいるように思えてしまうんだ。

 両頬をピシャリと叩き、気合を入れる。


「さて、自分にやれることをやろうか」


 そんなものは限られている。それこそ地道にクエストを重ねていくことだけだ。人が嫌がるようなクエストを率先してやっていき、日銭を稼ぐような地道な足取り。

 ギルドに行くと、ゴミ拾いのクエストは見る影もなくなっていた。
 娘の流してくれた噂かどうかは知らないが、そこに関心が向けば人は興味を示すものか。
 その中でも相変わらずドブさらいのクエストは売れ残っていた。
 それを手に取り、受付へと持っていく。まるで今の自分のようだとそのクエストに対して親近感が湧いていた。


「頑張りますか」


 蓄えはある。でも自分ばかり動かずにその時を待つというのは性分に合わない。何か理由をつけてでも体を動かしたかった。
 久しぶりのドブさらいは困難を極める。
 ジキンさんと一緒にやっていた楽しさとは違う、地道な作業。
 クリアしたところで手に入るフレーバーアイテムもよく分からないものばかり。こんな時、話し相手がいてくれたらどんなに心強いかと今になって彼に助けられたと思い出す。


「さて、もう一回」


 報酬としては雀の涙もいいところ。それでもパーフェクトには程遠い。どうせやるならばパーフェクトを目指して行こう。
 それが彼と一緒にいる時の私の口癖だった。


「あの」


 そんな時、私の背後より声がかけられた。
 そこにあったのは魚の顔。胴体には手足が生えており、私は振り返った直後に硬直した。


「あ、すいません。サハギンを見るのは初めてでしたか?」

「はい、申し訳ありません。頭が貴方を知的生命体であると理解するのに時間を要しました」

「ああ、いいえ。しょうがないですよ。水生系でも不人気種族ですし」


 なんだかこちらが臆していたのが申し訳ないくらいに萎縮してしまう魚顔の人。私は慌てて居住まいを正して対応する。


「はい、それで私に何か用でしょうか?」

「あ、それです」


 彼の水かきが生えた手に指さされた先にはクエスト用紙。
 そう、これから私が再度受けようと手にしたドブさらいのクエスト用紙があった。


「えっと、今受けようと思っていたクエストですか?」

「はい。僕でもできそうなクエストってこの街じゃそれしかなくてですね。良ければご一緒させてもらえませんか?」

「はい、私と一緒で良ければ」

「良かったです。あ、僕スズキって言います。タイの魚人ですけどね」

「これはこれはご丁寧にどうも。私はアキカゼ・ハヤテと申します。まだこのゲームに参加して間もない素人ですがよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 この名前を出して何も反応がないということは、同年代ではないし、娘達の協力者ではないのだろうと当たりをつける。
 しかしなんだ、話し口調こそ丁寧だけど、お昼ご飯の鮭を彷彿とさせる顔立ちになんだか彼を人類と認めて良いものか判断しかねてしまう私がいた。


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