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二章

(3)決め手はカレー

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 ムーンスレイ大陸に渡ってから、苦労の連続だった。
 正直ね、ここまで苦労するとは思ってなかったわけよ。
 大体アル中のオッサンが足を引っ張ったわけだが、あとはアリエルの顔見知りのお姉さんとの邂逅もあった。

 ドラグネス皇国のお偉いさん。ステータスのアホみたいな高さから将軍クラスの人(龍?)らしい。
 まぁ、今日のところはお互い衝突したところで無駄でしょってお願いして逃げてきた。
 こうして命があるのもガチャによるステータス爆上げの恩恵である。

 やっぱね、争いてろくなのもん産まねーのよ。
 アリエルやシリスを見てれば特にそう思う。
 彼女達は敗北者としてのレールを強いられた可哀想な身の上なのだ。

 だもんで、俺は戦う力を持つことを望まなくなった。
 でも、一度泥をつけた相手がどう思うかまではわからないので抑止力として持っておく。
 みんな飯食って仲良くなってくれりゃ面倒がなくていいのにさ、どいつもこいつも喧嘩っぱやくて困るね。

 なお、ムーンスレイ帝国は弱肉強食が国のルール。
 国民全員がヤクザ、強いてはチンピラのなり損ないで会話よりも肉体言語の方が通じた。
 早くもホームシックにかかったのは言うまでもないだろう。

「俺たちって恵まれてたんだな。もし、こっちの国に呼び出されてたら生きていけたと思うか?」
「僕は無理だね」
「私もね」
「わたくしもです」
「だよなぁ」

 俺たちのステータスの弱さはそれだけで襲ってもお咎めのない理由になっちまう。成長する為の時間が圧倒的に少ないのがこの国の本質だ。
 弱い奴が悪いって言う決めつけ。
 文句があるなら力を見せろと言う脳筋思考。

 国一つとっても特色が変わる物だ。
 酒だけ与えとけばおとなしいオッサンは、この国では割とまともなのではないかとさえ思ったよ。
 正直ね、白昼堂々襲われるって思ってなかった。

「お前がグルストンの勇者か?」
「おじさん達は?」
「問答無用!」

 宿に荷物を置きに行く、そう言って別れた矢先に襲撃されたのだ。どう見てもシグルドのオッサンのお仲間と思われる迷彩の軍服に身を包んだ連中に。
 
 まぁなんとか凌いだけども、事情を聞けば情報の出所はオッサンだった様だ。
 あのオッサン、上官に脅されて俺たちの情報をベラベラ喋ったらしい。
 宿に向かった三人にも刺客が差し向けられ、これを撃退。

 なお、アリエルには手を出さなかった様だ。
 単純にドラゴンを出されたら詰む、そこまで大事にするつもりはないと自白。
 いや、俺たちはどうでもいいんかいとムカムカしたのは記憶に新しい。
 
 そんなこんなでムーンスレイの国も勇者も喧嘩っ早い奴が多くて参る。
 手土産にカレーを持ってきてくれてなかったら速攻縁切ってたぞ、こんな国!
 縁を結んだきっかけがカレーだったのが決定打なんだよ。

 食い意地が張ってるだろ?
 俺もそう思う。
 まぁカレーの嫌いな高校生男子ってあんまりいないからな。
 カレーだけ与えとけば静かになる分お得だ。
 中にはこだわり派もいるらしいが、そういうのは自分で材料揃えてから言え。

 と、熱く語ったが肝心の米が見当たらない。
 カレーにはナンという層も居るが、日本人には米の方が食い慣れてる。当然俺もクラスメイトも米派だ。
 そんな中でムーンスレイ大陸で見つけたのは南国のフルーツ各種と黒糖、蕎麦粉ぐらいだ。

 これだけでも大収穫だとは思うんだが、日本人ていうのは一にも二にも米が先って言うんだよ。
 目先にあるカレーのおかげか、最優先順位の一つに米が上ったままだ。

 つって、普段からコメばっかり食ってるのかと言えばそうでもない。
 でもなきゃ寂しいと今世紀最大のわがままを聞き入れる為、俺たちの素材探求の旅が終わらないことだけは判明した。

 役目を終えたのでグルストンへと帰還する。
 正直ホッとしたね。
 肩の荷が降りた、もう行きたくないという意味で。
 同時に愛国心が強まった。

 役立たずの俺たちも大事に扱ってくれていたと知って、みんなで頑張ろうって気持ちになったよ。
 が、迎えてくれたクラスメイトの第一声が最悪だった。

「阿久津君、お米は?」
「なかった」
「つかえねー」

 このあとめちゃくちゃ喧嘩した。
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