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五章

19_それぞれの進路②

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 杜若さんとドキドキの一日を過ごしてから俺たちは、表面上は特に変わることなく屋台を引っ張って各地の特産品を交換して回る日々である。

 アクセス登録は日毎に増えていくので、タイミングを見てアリエルやロギン、ユースキーやフェルスタ、ササモリさん、三上や木下、水野や姫乃さんペアが屋台の裏口から顔を出した。

 目的はそれぞれで、俺のメシだったり杜若さんの美容院だったり。
 一緒に行動してるので、こっちにくる方が早いとのことだ。

 特に最近アリエルがどこかにいくのか杜若さんのところに寄ってからロギンと共に出かけていく。
 何してるんだろう時にはなるが、あまり首を突っ込んでもなと思い至る。


「で、お前たちは特に目的もなく冷やかしか?」

 三上、木下、水野を見やりながらため息を吐く。
 特に何をすることもなく。ただやってきては駄弁るくらいのことしかしない。
 まぁ男子高校生らしくていいんだが、普通に営業妨害だ、馬鹿野郎。

「何言ってんだ。野菜を持ってきてやってるだろ?」

「ササモリさんには感謝してるよ」

 木下の持ってきた野菜は、数日やそこらで生るタイプのものではない。というか、野菜はそんなに植えてすぐなるもんじゃない。トマトだって数週間はかかる。
 だのに持ってきたのが春キャベツときたら間違いなくササモリさんお手製だろう。

「どどど、どうして俺たちの野菜じゃないって証拠だよ!」

「木下君、その口調だと自分たちの野菜じゃないって自分でバラしてる様なもんだぞ?」

「何だって!?」

 茶番がわざとらしいんだよなあ。
 三人にそれぞれ飯を奢りつつ、新しい食材の味見役を任せる。

「ねぇ、阿久津君俺のだけちょっと少なくない?」

 丼に盛られたおかずの量について水野から異議申し立てが出る。

「自分の胸に手を置いてよく思い出せ。あれ以降杜若さんが俺に目を合わせてくれなくなったんだぞ?」

「オレは助け舟を出してやったんだぜ? あそこまで意識しあってて、まだくっついてないのかって周囲の気が気じゃない感じでお友達のままでいるのは無理でしょ。実際姫乃さんからお願いされるまでオレは放っておこうって側だったんだぜ?」

「そうなのか!」

「何の話だ?」

「杜若さんが何だって?」

 水野の弁解に、三上と木下が食いつく。
 木下は分かるが三上まで食いつくとは。
 こいつら暇なのか?
 しかし水野もお願いされての行動だったのか。

「姫乃さんはどうしてあんなことを?」

「委員長、錦さんから頼まれたらしいよ。見てられないから手助け頼むって」

 まさかの身内の犯行だった。
 じゃあ薫も一枚噛んでたのか?
 あの日、二人して示し合わせた様にいなくなったし。
 ちなみに今日も用事があると出掛けている。

「つまり杜若さんは阿久津にラブって事か。まぁだろうなって感じ。誰が告っても玉砕したって言ってたし、好きな人はいたろって噂あるし」

「むしろ今まで誰ともくっついてないのが不思議なくらいだよな、お前は特に」

 ここにきてグイグイと木下と三上が絡んでくる。
 ええい、モテない同盟が徒党を組んで絡んでくるんじゃねぇ!

「彼女無しのお前らに言われてもなー」

 三上はモテそうでいて束縛彼氏の一面を見せたことから実はモテない事が露呈している。
 そして木下は女子から距離を取られている。
 天性で当たりを引いても、信用を築けなかった手本みたいな奴らである。

 しかしそんな二人が俺の言葉に照れくさそうに俯いた。

「おいおい、もしかしてお前ら……」

「これは遅れてるのは実は阿久津君だけだって露呈したね」

 何てこった! まさか俺以外の全員が恋に浮かれていたなんて。っていうかいつの間に? 全然そんな気配見せてなかったろお前ら!
 うちの屋台に来る時はいつもソロだし。
 絶対暇してると思ってたぞ?

「じゃあ俺も杜若さんとお付き合いしても自然な感じ?」

 周囲からあれこれ言われないんならお付き合いしてもいいか?
 なんて考えるのも向こうには悪い。
 むしろ俺でいいのか? いやいや、まだ向こうの気持ちも聞いてないし、答えを出すのは早計か。
 
 だなんて内心で浮かれる俺を、水野の言葉が現実に戻す。

「と、言っても異世界限定だけどな」

「俺もそれ」

 続く木下の言葉に怪訝な表情を浮かべる。
 どういう事だ?
 急に雲行きが怪しくなってきたぞ。

「ちなみに俺も姫乃さんとは異世界限定のお付き合いだよ」

「マジで? だって教室では仲睦まじく過ごしてたのに」

「こっちにきた時のお話をしてただけで、学校の外では他人同士だぜ?」

「そうなのか……結婚を前提のお付き合いかと思ってたよ」

「そんなわけないじゃん。お互いに保留だよ。単純にこっちでの天性の相性とかだよ」

 ふぅん。

「で、お前らは?」

「俺は坂下さんと」

 三上の奴、いつの間に俺の師匠と付き合い始めたんだ?
 まぁコイツ、顔はいいし。
 意外なのはあの坂下さんが誰かに靡く姿が想像できないくらいか。

「決め手はこれだ」

「野菜?」

 木下が持ってきた春キャベツではなく、見たことないタイプの長芋だ。自然薯の様な細長い感じで、しかし特性は甘味という見た目を裏切るものだった。

「お、俺たちが作付けしてる奴だな」

 木下も知ってるのか、これで釣ったと知って驚いていた。
 同時にその手があったかという顔だ。
 だから作付けしてるからってできた品はお前ら育ててねーじゃんというツッコミは無しなのだろう。

 ちなみに木下は肉食聖女の吉田さんとお付き合いしてるそうだ。絶対にお財布ぐらいの感覚で見られてないだろうが、まぁ頑張れ?

 それはそれとして三上はどんな告白で坂下さんとお付き合いすることになったかだが……


「これの定期提供でおつきあい権をゲットした」

「お前なら無条件でモテると思ってたよ」

「そんなわけ無いだろ。お前ら俺を何だと思ってるんだ?」
 
「「「え? イケメンクソ野郎?」」」

 三上の疑問に、俺と水野、木下の言葉がハモった。
 何でそんな当たり前のことを聞くんだろうなぁ、爽やかイケメン君が。

「お前ら、彼女を持ってもそのイメージをつけるか!」

「だって、なぁ?」

「そうだぜ。それはそれって奴だ」

「あきらめなよ、三上君。非モテの恨みは強いんだぜ?」

「そういうお前は一番最初に非モテ卒業したよな?」

「え、それ俺が姫乃さんと組んで冒険者やってた時のこと言ってる?」

 水野の例えに木下が噛み付いた。
 そうだよ、なんだかんだ水野はこの中でいちばんの勝ち組だ。
 何で非モテ側の代弁してんだ。
 ぶっ飛ばすぞ?

「言ってる」

「阿久津君さー、木下君に冒険者がいかに大変か教えてやってよ」

「え?」

 俺は水野が何を言ってるのかピンと来なかった。
 冒険者の大変な所?

「お前聞く相手間違えたんじゃね?」

「阿久津、お前冒険者やってて苦労したことあるのか?」

「特に無いな」

 記憶を探っても全く思い浮かばない。
 苦労した事はまだガチャのことをよくわかってなかった時くらいだ。後は委員長が何か見つけてみんなで採取して、それを薫が打ち付けて俺がガチャを回すことで解決してきた。
 杜若さんは問題ごとを起こさないスペシャリストだ。
 彼女がいる限り俺たちの旅路は安泰だ。
 後はガチャ回せば何とかなった。
 水野のいう苦労話は全く無いな。

「ちょっとぉお!?」

「まぁお前には表向き勇者として立ち回ってくれたおかげで俺たちが動きやすくなったのは大きいよ」

 アリエルと戦った時、表向きの勇者として前に出たことで王国側の面目を保ったんだよなぁ。
 実行犯が俺たちだが、まぁ懐かしい思い出の一つだ。

「で、結局苦労ってなんだったんだよ?」

「木下君に言ってもわかってもらえないことだよ」

「それを教えろって言ってんだよなー?」

 これが彼女持ちの男たちの会話なのか。
 なんというか、何も変わらないな。
 自分ばかり変に意識しすぎたのがバカみたいな気持ちになり、今度改めて杜若さんと話そうと思った。

 俺も彼女も、まだまだ子供だ。
 すぐに答えを出す必要もないんだなって、周りを見て気がついた。コイツらが教えてくれたと考えるのは考えすぎだとは思うが。



 


 



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