みうちゃんは今日も元気に配信中!〜ダンジョンで配信者ごっこをしてたら伝説になってた〜

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
73 / 87

72話 仮免探索者みうE《注目》

しおりを挟む
「陸君、早速だが当クラン主催のお遊戯会の開催日が決定した。今度の月曜日とかどうだろう? ちょうど全員の検査が午前中に集中しており、午後から暇だ。日、水、金とも被ってないし、本日は金曜日。あと3日ある。なぁに、お遊戯会は名目で本当はみうちゃんのスキル発表会だから練習はそこまでしなくとも……」

「本来はそうなんですけどね、みう達は配信者としてやるので、なるべくなら成功させたいと意気込みを見せてますよ。最初こそやる気のなかった理衣さんまで、探索以外でここまでやる気を示したのは初めてのことだと思います」

「姉さんが? ふむ、続けて」

 どこか事務的に進めていた瑠璃さんの瞳に光が宿る。
 本当にこの人はわかりやすいな。
 理衣さん好きすぎだろ。

「今回の趣旨はこうです」

 俺はみう達と一緒に詰めた今回のお題目を発表する。
 歌うタイトルは三つ。
 リズムが取りやすく、振り付けしても失敗が少ない単調な歌。
 
 ゾウさん、チューリップ、大きな栗の木下で。
 その度に衣装変更もする。
 俺は木の役だ。
 ついでにタンバリンを叩いて音頭取りもする。

「ぜひ、理衣さんの普段見られない姿を拝みにきてください」

「当初は面倒ごと、頭痛の種だと思っていたが、意外なところに着地したな」

「なんでも取り組み次第ですよ。それと、ここ最近探索で活躍できなかった志谷さんがですね、思いの外歌唱力が高かったのが救いです」

「彼女が?」

「みうはよく音程を外すのですが、彼女と合わせたら上手に歌えた気になったとはしゃいでました。コーラスは秋乃ちゃんで、理衣さんも最初は俺と一緒にタンバリン叩く担当だったんですが」

「まさか歌唱に興味を示した?」

「木を隠すなら森の中。志谷さんの高い歌唱力に紛れることで自分は目立たないと思ってくれたんですかね。今ではいろいろアレンジして音頭取りしてますよ」

「それはますます興味深い。陸君、スライムを使ったカメラ撮影は?」

「そこは普通にスタジオ用意してくださいよ」

 スライムがいるってバレたらどう説明するつもりなんだろう、この人。
 まぁ俺がテイマーといえばそれで済む話だが、物問題は数だろう。

「設備は用意できても、ベストアングルを狙う君の腕には負けるよ。と、いうわけで頼むね?」

「流石に残り三日で用意するのは無理ですか。では今回は俺が引き受けます。でも今後続くんなら普通に用意してくださいね?」

「そうだな、撮影を見た上で可能なら進めさせていただく」

「不可能だったら?」

「引き続き君に頼むよ」

 まぁ、みうのためならやぶさかではないが。

「お遊戯会のお披露目は今度の月曜日になった」

「早くない?」

 みうもちょっと困り顔。

「それだけ待ち望んでいるんだろう。失敗はそこまで気にしなくていい、と言っても気にするんだろうな」

「そりゃするよね。初めてのお歌で緊張してる」

「ならば今日と次の配信でそれなりのリハーサルをしたらどうだろうか?」

「リハーサルって?」

「本番を踏まえた練習だよ。探索中にお歌の披露をしてやれば緊張も和らぐんじゃないか?」

「うーん? 歌ってる暇あるかなぁ?」

「兄ちゃんがいくらでも時間稼ぐぞぅ?」

「じゃあ、大丈夫か。お兄たんのサポートは1番だもんね!」

「そういうことだ。それで、みうは納得してくれたけど、他のみんなもいいかな?」

「どちらにせよ、練習は必要よね。私はそれでいいわ」

「ご飯が豪華になるんなら、私は気にしないよ!」

「だいじょぶ、です!」

「ヨシ、決まりだな。じゃあ今日の配信からそれとなく告知してくぞー」

「はーい」

 そういうことになった。


・ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・


 いつものダンジョンにて、ちょっと元気になった秋乃ちゃんの車椅子を押しながら赴く。するとそこには押し寄せたマスコミの影が。

「お兄たん、なんだか人いっぱいいるね」

「大方、当選漏れした人たちだろう。そうだ、みう」

「なぁに?」

「車椅子を用意したので、それに乗って志谷さんに押してもらえ」

「え! あたし一人で歩けるのに?」

「ダンジョンの中で元気だけど、一応病人だからな。本当なら体調不良で理衣さんも乗ってて欲しいところだけど」

「私は一人で歩けるわよ?」

「マスコミに元気なところを撮られてお爺さんに注目されても良いと?」

「それは嫌ね」

 なんだかんだでこの環境が気に入ってる理衣さん。
 そんなこんなで俺は車椅子を魔改造!
 秋乃ちゃん用と理衣さん用を横でくっつけて二人分の車椅子とした。
 気分はベビーカーの様だ。
 これは流石に俺の怪力でないと動かせないので俺が押すこととする。

「よぅし! 今回から出動する時はこれだな!」

「ずっとこれは嫌ね。赤ん坊になった気分よ」

「下手に注目して連れ戻されても嫌でしょ? だったら我慢しなきゃ」

「あなたは露呈する秘密がなくていいわね?」

 あるさ、あんまり表に出せない秘密の一つや二つ。
 仲間にすら言えないから黙ってるだけでな。

 やいのやいの言いながら受付へ。

「すいませーん、通してくださーい」

 雑踏を抜けるようにしながら、受付へ。
 そこには困り果ててる熊谷さんがいた。

「よう坊主、今日は来ないかと思ったぜ?」

「妹が撮影したがってるのに、向かわないわけないでしょう?」

 事前にみう達に本気は出さないように伝えてある。
 本当なら志谷さんは理衣さんを押してもらおうと思ったのだが、あんまりに近くに良すぎて魔力をガン減りさせても威力が弱すぎると九頭竜家から勘当されかねない。
 それは理衣さんも望むところではないだろう。

 なのでそこそこに魔法は使えて、その上でタンクの志谷さんは別に動いて欲しいという思惑があった。

 そして俺は怪力。
 なので車椅子を使っての華麗な回避術を可能! スライム使いのテイマーでもあるので理衣さんも秋乃ちゃんも守れるってわけだ。
 今回は武器の選択はせず、依頼もモンスター討伐だけにとどめる。
 リスナー参加型も難しいかな?

 なんせ自分たち以外のカメラの存在があるからだ。
 それがどこに出回るか、精査する必要があった。

「依頼はモンスターの討伐か。無理するなよ?」

「ええ、いつも無理言ってすいません。今日は随分と賑わってるようですが?」

「ああ、どこかの誰かが奇跡の力を使うと聞いて、ここによく通うという情報を仕入れたんだそうだ」

「人気配信者といい、迷惑な奴らですね」

「全くだ。ここは探索者の登竜門。基礎を学んで次のランクにステップアップするところだというのにな。余計な戦力は持ち込まんで欲しいものだぜ」

 余計な戦力。それは個人の素質も含む。
 武器だけじゃなく、レベル上昇によって鍛え上げられたステータスもそれに含まれるのだ。
 俺みたいにレベルアップしたって対して本人が強くならないテイマーや、レベルアップで体調が良くなってくのみう達みたいなのもいる。
 その分取得スキルがに強くてそれで均等が取れてるだけなんだよな。

「すいません、庵度新聞というものですが」

「はい、なんですか?」

 早速、何かしらの新聞会社が突撃してくる。

「もしかして空海陸さんでしょうか?」

「はい、そうですけど」

「やっぱり! 学園四天王の! ですよね! お会いできて光栄です」

 そっち繋がりできたか。以前どこかで威高さんが全国区で暴露した。そこでみうの存在が表にバレた。
 が、病気の妹がいることぐらいで聖女につながらないはずだ。

「その、四天王というの。俺よく知らないんですよね。すぐに退学しちゃったので」

「あら、そうだったんですか? 威高こおりさん、久藤川ひかりさんはご存知ですよね?」

「ええ、何回か妹の配信でコラボさせていただいてますから」

「そこで話題に出たりなんかは?」

「出ましたけど、全く身に覚えがなくてですね。愛想笑いを浮かべるので精一杯でしたよ」

「そうだったんですね。では単独でブラックドラゴンを退けたというのは?」

「学園で主席を取っていたのは事実ですが、あとは噂に尾鰭がついたんじゃないかって思うんです。実際にいない人間の噂なんて飛躍するものでしょう? それにその学園で三年間勤め上げてトップに立った久藤川さんに失礼ですよ。俺はせいぜい一年の一学期にいい成績を取れてたくらいで」

「ではブラックドラゴンを追い払ったというのは?」

「偶然そこに俺がいただけで、主席というのもあり、俺の成果になっただけじゃないかと思ってます。それがきっかけで理事長と揉めましてね。自主退学しろって言われて今や専業主夫ですよ。こうやって病気の妹の面倒を見て、それで満足しちゃってます」

 これが綺麗な落とし所だろう。

「そうでしたか、ありがとうございます」

 名刺をもらって、懐にしまう。
 庵度イオド新聞か。全く聞いたことないな。
 
 その後も数々の質問の雨霰を潜り抜け、なんとかダンジョンに到達。数名の記者を引き連れながらの配信が始まった。

「お兄たん」

「どうした?」

「名乗り出たら、あれ以上の記者さんから質問攻撃に会うの?」

「そうだな。そして疲れてぶっ倒れるまで何回もお祈りさせられる」

「うぇー」

 心底嫌そうな顔。
 さっきのやり取りでもだいぶ疲れを感じてしまっている。
 自分をよく受け取ってくれる厳選されたリスナー以外を初めて知り、その内側から透けて見える欲望をモロにぶつけられた感じだ。

「名乗り出なくてよかったろ?」

「うん。お兄たんの采配にハズレはないね」

「そう言ってもらえたら何よりだ。収録始めるぞー」

「お椅子に座ったまま?」

「記者の目があるうちはな? それに、歌の練習ならここでもできる」

「なんか違うー」

 やりたいのと違うと言った様子のみう。
 常に身動きの取れない秋乃ちゃんからしたら「これぐらいで文句が出るうちはまだまだだね」とばかりに呆れていた。

 ほら、みう。言われてるぞ。
 実際に俺の脳内補完でしかないがな。

 しかし歌いながらの収録は違う意味で記者から注目を集めることになった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...