劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
136 / 147
最弱種族の下剋上

馬子にも衣装

しおりを挟む
「ん?」

「どうした?」

「いや、きっと気のせいなんでしょうけど。さっき凛華の気配がした気がしたんです」

 本当にごく僅かの反応だ。
 元気な時だったら判別できるが、弱体化中の今、確信できずに情報の提供をした。

「本当かね?」

「先ほど水路を渡っていた時、妙に懐かしい気配を感じたんです。まだちょっとはっきりしないんですけど」

「弱体化の原因がここで出たか」

「そのようです。ちくしょう、こんな時に受信側の俺の判別が定かじゃないなんて……」

「だが、そのおかげでこの場所まで来れた。全ての責任を負おうとするな。僕たちにも任せてくれないか?」

 お義父さん……
 しんみりしながら、ソロでやっていたらきっとこういう状況で詰むんだろうな。という感想を思い浮かべた。
 この人を仲間に誘って、信頼が得られてよかった。

 ちょっとだけ、恨みを買いすぎてルキもしなくはないが。
 不器用なだけで、根はいい人なんだよ。多分。

「普通に念話を試して見たらどう? ボクに伝わったんなら、寧々達にも伝わるよね?」

「それも厳しいです」

「どうして?」

「送った念話を受け取る側に不具合が起きている。不調さえなければどんな状況か分析できるけど今はそれが非常に厳しいんです」

「こう見えて彼のダメージは深刻だ。限界を大きく超えている。常人だったら立って歩くのも難しい状態なのだぞ?」

「そこまでなんだ」

 大袈裟だなぁ、と思いつつも。
 正直気を張ってなきゃ今にでも意識を手放しそうではある。
 今は行動をジェネティックスライムに任せているが。
 俺の本体は半分死んでるくらいの認識でいい。
 もし病院に別府インしようものなら全治一年くらいの重症だ。

 怪我や傷だったらユグドラシルでいくらでも治せるのだが。
 王の扱う血の不足はそれらじゃどうしようもない。
 これがブラッドを扱う上でのネックとも言えた。

「そっか、分身を操るにも体調が関与するのか」

「今にもぶっ倒れそうなほどの疲れが溜まってる時の精密作業くらい、骨が折れる作業ですよ」

「普段からそんなことばかりしてるんじゃないか? 普通なら倒れていてもおかしくないよ?」

「そんなこと言ってられない生活送ってましたからね。そして、今もまた。俺の状況は悪くなるばかりですよ。でも、そんな過去があったから、今が耐えられてる。良いのか悪いのか俺にはわかりませんが」

「不幸中の幸というやつか」

 俺としては経験則だが、若いうちは苦労を買ってでもしろという諺があるようにそれがうまいこと作用した形だ。
 苦労を背負った側から言わせて貰えば、あんなの好き好んでやることはない。むしろ率先してそうならないように立ち回るべきだ。

「ふーん。ボクはそういうの部下に丸投げだからなー。徹夜の行軍ぐらいはしてるけど、そもそもそういう仕事はボクの領分じゃないからねー」

 この人、立派なのは見てくれだけかよ。
 今はその見てくれも非常にちんちくりんでいいところが見つからないときている。
 この人本当に人の上に立てて大丈夫なんだろうか?
 いや、その勢いにあれだけの人がついていってるのも事実か。
 だからギルド長なんてやってられるんだろうし、慕われてもいる。

「というわけで、貝塚さんが頼みです。俺が役に立たないので、寧々に連絡とってもらえませんか?」

 知り合い同士だから、こういう時に役に立つんじゃないかと話を振る。
 凛華や久遠は貝塚さんを一歩引いて見てしまうからな。
 突然連絡をよこすのも不自然だろう。
 何せ、俺とは違う道を歩むと袂を分かった身だ。
 一緒に歩く道を選らんだ凛華達からみれば不穏分子。

 だが、寧々は古い付き合いだ。面倒見のいい彼女から攻略した方がいいだろう。そして彼女を電波塔として俺たちで情報の提供ができれば幸いである。

「僕が娘に直接連絡取れたらいいんだが……」

 ここで、思わぬ方向から意見が飛ぶ。
 そうじゃん、実の親だった。

「連絡を取れる手段はないのですか? その、親子の絆的な」

「あいにくと娘からは嫌われていてね」

「あぁ……はい」

 そりゃ実の親から実験道具のように扱われたら好かれる訳ないか。
 下剋上一歩手前まできてたもんな。
 それをいくらでも握り潰す気満々でいた。
 俺が間に入らなきゃ、血で血を洗う骨肉の争いになっていたことは考えるまでもない。

 こういう時、役に立たない人なのだ、この人は。

「とにかく、今は連絡を取り合うのが最優先事項です。合流できるんだったらそれが一番ですが、問題はその後ですね」

「学園の生徒と教師の世話まで見る必要がある、か」

「まず間違いなく。救難を要求されるでしょう。しかしそれは御堂さんが表に立てばの話です」

「それをせずに交渉の余地があると?」

「そのための作戦会議をここですべきでしょう。特に今回は多くの人質を取られてる状況です。そして俺が表に出れない状況でもあります」

「その理由とは?」

「実はすでにジェネティックスライムを学園内に送り込んでるんです。なので俺が出て行くと、ドッペルゲンガーとして対処される恐れがある。つまり学園内の方をモンスター認定されるか、俺たちの方が偽物と罵られる可能性が……」

「そう言えばそのような報告を受けていたな。つまり、策は尽きたと……」

 お義父さんが遠い目をした。

「表立って動けない状況です。しかし見つけておいてスルーはできない。なんとかして凛華達と情報共有がしたい。そんな時の作戦をですね」

「一応寧々に念話繋げてるけど、微妙に繋がりにくい感じがするよ」

 お義父さんに詳しく説明してる横で貝塚さんが1回目の念話テストを行った。

「距離があるんだろうか? それともダンジョン側が施した結界か?」

「案外、寧々の施したやつかもしれませんね。あいつの結界ってモンスターを消し飛ばす類なので」

「じゃあ、六王君達近づけないじゃん」

「一匹、ジェネティックスライムを潜り込ませてるので、見境なくは仕掛けないと思います。けど……」

「けど?」

「相手が敵か味方かわからない時は、とりあえず攻撃してくるんじゃないかと」

 そういうふうに指導したからな。
 独力で、尚且つスキルに頼らない行動指標。
 凛華や寧々、久遠には徹底的に叩き込んだ。
 それが今になって俺たちの行動を阻害してくるとは思わなかった。

「やっぱり影の中にこもっての移動って愚策だったんじゃない?」

 貝塚さんが呆れたように言う。

「表に出ますか?」

「いや、出るのは一人だけでいい。この場合は貝塚くんが適任だろう」

「ええ、ボクゥ?」

「こちらはジェネティックスライムによる擬態な上、識別はモンスターだ。この中で唯一生身なのは貝塚真琴君、君しかいないだろう」

「それはそうだけど……」

「それに君は彼の仲間と一度顔を合わせている。違うか?」

「確かに顔合わせは済んでるけど……詰め寄られたら困っちゃうよ?」

「何、こちらからうまく指示出しする…矢面には立ってもらうが、全ての交渉をする必要はないさ。なぁ、六濃君?」

「任せてくださいよ。そういうのなら得意です」

「そういうことならするけどぉ……一応ギルド長の姿の方が良さげ?」

「いや、今回は迷子の生徒のていで行きましょう。なまじ力がある人物だと知れると、生徒達が油断しかねませんし。まだ救助の見込みがありません。今安堵されたら総崩れだ。緊張感を持ってもらうには、自分たちより弱い存在の方が好都合です」

「それが無難かぁ。しかし一つ問題があるんだよね」

「どんな問題が?」

「ボク、学校に通ったことがなくて、制服も持ってないんだ」

 そういえばそうだな。
 年齢的には学生に近しいが、ずっと身分を隠していた。
 その上でいまさら生徒になってもと言う感情が付随する。

「制服なら、僕が手配できる」

「え、そんな事業まで起こしてたんですか?」

 驚く俺に、お義父さんは呆れたような顔で呟いた。

「僕は一応あの学園の出資者だよ? それに現役の学生の親でもある。息子も、娘も通学させた。男女の制服の手配ぐらいなら可能さ」

 こう言うところで頼もしいんだよな。
 人間関係の方はまるで役に立たないけど。

「問題があるとすれば、ボクのサイズでの仕立てを足跡でしてくれるところがどれだけあるかだよね?」

「糸と針を用意してもらえれば、俺がサイズ合わせられますよ?」

「君は本当になんでもできるなぁ」

 なぜだか感心されてしまった。
 こんなもん、金がない時に散々自分の服の修復に費やしたからな。
 慣れというものだ。
 妹の洋服なんかも、古着を活用してつぎはぎにして作ったりもしたし、得意な部類だ。


「おかげさまで、苦労するのに適した環境で育ってきましたからね」

 そうこぼす俺に、これ以上の詮索はすべきではないなとお義父さんが黙り込んだ。原因が誰かすぐに思い至ったようだ。
 俺から両親を奪い、妹に酷いことをした当事者である。

 それを知ってる人たちから手を組んだことを知らせたら「頭おかしいんじゃないか?」と疑われても仕方のないことだと思う。
 むしろ仇だろう? 全くも言ってその通りだが……今はこんな状況だ。
 仲間になってくれるだけでありがたいと思わなくてはな。

 しばらくして、俺のジェネティックスライムで擬態させた飛鳥さん経由で制服一式が送られてくる。
 ワープゲートは俺が開けて、地上にいる飛鳥さんが直接持ってきてくれた。ジェネティックスライムでの行き来は確認済みだ。
 問題は制服が無事であるかの方だが……無事じゃなかった。

 今度はジェネティックスライムを制服に擬態させて送ってもらう。
 こっちは成功した。
 服にも化けられるなんて、便利な子だなぁ。
 ホクホク顔の俺に対して、実際に袖を通す貝塚さんはなんとも言えない顔をしている。

「それとこれは生徒手帳だ。北海道支部のものとしたが、大丈夫だろうか?」

 これもジェネティックスライム製。

「ああ、そこら辺の辻褄合わせも必要ですね。貝塚さん、学園の知識は?」

「荒牧やOBを大勢抱えているギルドだよ? 肝心の女子の情報は枯渇しきってるけどね」

 ああ、そう言えば。
 卒業した女子は瀬尾さんのギルドが根こそぎとってっちゃうもんなぁ。

 アロンダイトは男所帯。女子ウケが悪いのだ。
 いないわけではないが、一緒に行動することは限りなく少ない。

 むしろ経理や細かい仕事を丸投げしてる相手だ。
 会話が弾むわけもなく、むしろ距離をとってるのが容易に思い描ける。
 本当に女子力終わってるな、この人。

「それ以前に20歳超えてから着るのはすごく勇気がいるけどね」

「似合ってますよ」

「それ、言われても嬉しくないやつだから」

 そう言いつつも、満更でもない貝塚さん。
 普通に似合ってるんだよなぁ。
 明海みたいに制服に着られてる状態だ。

 馬子にも衣装ってやつだな。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く

ごま塩風味
ファンタジー
人間不信になり。 人里離れた温泉旅館を買い取り。 宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。 世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。 だが主人公はボッチで誰にも告げず。 主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。 宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。 主人公は生き残れるのか。 主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。 タイトルを変更しました

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...