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最弱種族の下剋上
馬子にも衣装
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「ん?」
「どうした?」
「いや、きっと気のせいなんでしょうけど。さっき凛華の気配がした気がしたんです」
本当にごく僅かの反応だ。
元気な時だったら判別できるが、弱体化中の今、確信できずに情報の提供をした。
「本当かね?」
「先ほど水路を渡っていた時、妙に懐かしい気配を感じたんです。まだちょっとはっきりしないんですけど」
「弱体化の原因がここで出たか」
「そのようです。ちくしょう、こんな時に受信側の俺の判別が定かじゃないなんて……」
「だが、そのおかげでこの場所まで来れた。全ての責任を負おうとするな。僕たちにも任せてくれないか?」
お義父さん……
しんみりしながら、ソロでやっていたらきっとこういう状況で詰むんだろうな。という感想を思い浮かべた。
この人を仲間に誘って、信頼が得られてよかった。
ちょっとだけ、恨みを買いすぎてルキもしなくはないが。
不器用なだけで、根はいい人なんだよ。多分。
「普通に念話を試して見たらどう? ボクに伝わったんなら、寧々達にも伝わるよね?」
「それも厳しいです」
「どうして?」
「送った念話を受け取る側に不具合が起きている。不調さえなければどんな状況か分析できるけど今はそれが非常に厳しいんです」
「こう見えて彼のダメージは深刻だ。限界を大きく超えている。常人だったら立って歩くのも難しい状態なのだぞ?」
「そこまでなんだ」
大袈裟だなぁ、と思いつつも。
正直気を張ってなきゃ今にでも意識を手放しそうではある。
今は行動をジェネティックスライムに任せているが。
俺の本体は半分死んでるくらいの認識でいい。
もし病院に別府インしようものなら全治一年くらいの重症だ。
怪我や傷だったらユグドラシルでいくらでも治せるのだが。
王の扱う血の不足はそれらじゃどうしようもない。
これがブラッドを扱う上でのネックとも言えた。
「そっか、分身を操るにも体調が関与するのか」
「今にもぶっ倒れそうなほどの疲れが溜まってる時の精密作業くらい、骨が折れる作業ですよ」
「普段からそんなことばかりしてるんじゃないか? 普通なら倒れていてもおかしくないよ?」
「そんなこと言ってられない生活送ってましたからね。そして、今もまた。俺の状況は悪くなるばかりですよ。でも、そんな過去があったから、今が耐えられてる。良いのか悪いのか俺にはわかりませんが」
「不幸中の幸というやつか」
俺としては経験則だが、若いうちは苦労を買ってでもしろという諺があるようにそれがうまいこと作用した形だ。
苦労を背負った側から言わせて貰えば、あんなの好き好んでやることはない。むしろ率先してそうならないように立ち回るべきだ。
「ふーん。ボクはそういうの部下に丸投げだからなー。徹夜の行軍ぐらいはしてるけど、そもそもそういう仕事はボクの領分じゃないからねー」
この人、立派なのは見てくれだけかよ。
今はその見てくれも非常にちんちくりんでいいところが見つからないときている。
この人本当に人の上に立てて大丈夫なんだろうか?
いや、その勢いにあれだけの人がついていってるのも事実か。
だからギルド長なんてやってられるんだろうし、慕われてもいる。
「というわけで、貝塚さんが頼みです。俺が役に立たないので、寧々に連絡とってもらえませんか?」
知り合い同士だから、こういう時に役に立つんじゃないかと話を振る。
凛華や久遠は貝塚さんを一歩引いて見てしまうからな。
突然連絡をよこすのも不自然だろう。
何せ、俺とは違う道を歩むと袂を分かった身だ。
一緒に歩く道を選らんだ凛華達からみれば不穏分子。
だが、寧々は古い付き合いだ。面倒見のいい彼女から攻略した方がいいだろう。そして彼女を電波塔として俺たちで情報の提供ができれば幸いである。
「僕が娘に直接連絡取れたらいいんだが……」
ここで、思わぬ方向から意見が飛ぶ。
そうじゃん、実の親だった。
「連絡を取れる手段はないのですか? その、親子の絆的な」
「あいにくと娘からは嫌われていてね」
「あぁ……はい」
そりゃ実の親から実験道具のように扱われたら好かれる訳ないか。
下剋上一歩手前まできてたもんな。
それをいくらでも握り潰す気満々でいた。
俺が間に入らなきゃ、血で血を洗う骨肉の争いになっていたことは考えるまでもない。
こういう時、役に立たない人なのだ、この人は。
「とにかく、今は連絡を取り合うのが最優先事項です。合流できるんだったらそれが一番ですが、問題はその後ですね」
「学園の生徒と教師の世話まで見る必要がある、か」
「まず間違いなく。救難を要求されるでしょう。しかしそれは御堂さんが表に立てばの話です」
「それをせずに交渉の余地があると?」
「そのための作戦会議をここですべきでしょう。特に今回は多くの人質を取られてる状況です。そして俺が表に出れない状況でもあります」
「その理由とは?」
「実はすでにジェネティックスライムを学園内に送り込んでるんです。なので俺が出て行くと、ドッペルゲンガーとして対処される恐れがある。つまり学園内の方をモンスター認定されるか、俺たちの方が偽物と罵られる可能性が……」
「そう言えばそのような報告を受けていたな。つまり、策は尽きたと……」
お義父さんが遠い目をした。
「表立って動けない状況です。しかし見つけておいてスルーはできない。なんとかして凛華達と情報共有がしたい。そんな時の作戦をですね」
「一応寧々に念話繋げてるけど、微妙に繋がりにくい感じがするよ」
お義父さんに詳しく説明してる横で貝塚さんが1回目の念話テストを行った。
「距離があるんだろうか? それともダンジョン側が施した結界か?」
「案外、寧々の施したやつかもしれませんね。あいつの結界ってモンスターを消し飛ばす類なので」
「じゃあ、六王君達近づけないじゃん」
「一匹、ジェネティックスライムを潜り込ませてるので、見境なくは仕掛けないと思います。けど……」
「けど?」
「相手が敵か味方かわからない時は、とりあえず攻撃してくるんじゃないかと」
そういうふうに指導したからな。
独力で、尚且つスキルに頼らない行動指標。
凛華や寧々、久遠には徹底的に叩き込んだ。
それが今になって俺たちの行動を阻害してくるとは思わなかった。
「やっぱり影の中にこもっての移動って愚策だったんじゃない?」
貝塚さんが呆れたように言う。
「表に出ますか?」
「いや、出るのは一人だけでいい。この場合は貝塚くんが適任だろう」
「ええ、ボクゥ?」
「こちらはジェネティックスライムによる擬態な上、識別はモンスターだ。この中で唯一生身なのは貝塚真琴君、君しかいないだろう」
「それはそうだけど……」
「それに君は彼の仲間と一度顔を合わせている。違うか?」
「確かに顔合わせは済んでるけど……詰め寄られたら困っちゃうよ?」
「何、こちらからうまく指示出しする…矢面には立ってもらうが、全ての交渉をする必要はないさ。なぁ、六濃君?」
「任せてくださいよ。そういうのなら得意です」
「そういうことならするけどぉ……一応ギルド長の姿の方が良さげ?」
「いや、今回は迷子の生徒の体で行きましょう。なまじ力がある人物だと知れると、生徒達が油断しかねませんし。まだ救助の見込みがありません。今安堵されたら総崩れだ。緊張感を持ってもらうには、自分たちより弱い存在の方が好都合です」
「それが無難かぁ。しかし一つ問題があるんだよね」
「どんな問題が?」
「ボク、学校に通ったことがなくて、制服も持ってないんだ」
そういえばそうだな。
年齢的には学生に近しいが、ずっと身分を隠していた。
その上でいまさら生徒になってもと言う感情が付随する。
「制服なら、僕が手配できる」
「え、そんな事業まで起こしてたんですか?」
驚く俺に、お義父さんは呆れたような顔で呟いた。
「僕は一応あの学園の出資者だよ? それに現役の学生の親でもある。息子も、娘も通学させた。男女の制服の手配ぐらいなら可能さ」
こう言うところで頼もしいんだよな。
人間関係の方はまるで役に立たないけど。
「問題があるとすれば、ボクのサイズでの仕立てを足跡でしてくれるところがどれだけあるかだよね?」
「糸と針を用意してもらえれば、俺がサイズ合わせられますよ?」
「君は本当になんでもできるなぁ」
なぜだか感心されてしまった。
こんなもん、金がない時に散々自分の服の修復に費やしたからな。
慣れというものだ。
妹の洋服なんかも、古着を活用してつぎはぎにして作ったりもしたし、得意な部類だ。
「おかげさまで、苦労するのに適した環境で育ってきましたからね」
そうこぼす俺に、これ以上の詮索はすべきではないなとお義父さんが黙り込んだ。原因が誰かすぐに思い至ったようだ。
俺から両親を奪い、妹に酷いことをした当事者である。
それを知ってる人たちから手を組んだことを知らせたら「頭おかしいんじゃないか?」と疑われても仕方のないことだと思う。
むしろ仇だろう? 全くも言ってその通りだが……今はこんな状況だ。
仲間になってくれるだけでありがたいと思わなくてはな。
しばらくして、俺のジェネティックスライムで擬態させた飛鳥さん経由で制服一式が送られてくる。
ワープゲートは俺が開けて、地上にいる飛鳥さんが直接持ってきてくれた。ジェネティックスライムでの行き来は確認済みだ。
問題は制服が無事であるかの方だが……無事じゃなかった。
今度はジェネティックスライムを制服に擬態させて送ってもらう。
こっちは成功した。
服にも化けられるなんて、便利な子だなぁ。
ホクホク顔の俺に対して、実際に袖を通す貝塚さんはなんとも言えない顔をしている。
「それとこれは生徒手帳だ。北海道支部のものとしたが、大丈夫だろうか?」
これもジェネティックスライム製。
「ああ、そこら辺の辻褄合わせも必要ですね。貝塚さん、学園の知識は?」
「荒牧やOBを大勢抱えているギルドだよ? 肝心の女子の情報は枯渇しきってるけどね」
ああ、そう言えば。
卒業した女子は瀬尾さんのギルドが根こそぎとってっちゃうもんなぁ。
アロンダイトは男所帯。女子ウケが悪いのだ。
いないわけではないが、一緒に行動することは限りなく少ない。
むしろ経理や細かい仕事を丸投げしてる相手だ。
会話が弾むわけもなく、むしろ距離をとってるのが容易に思い描ける。
本当に女子力終わってるな、この人。
「それ以前に20歳超えてから着るのはすごく勇気がいるけどね」
「似合ってますよ」
「それ、言われても嬉しくないやつだから」
そう言いつつも、満更でもない貝塚さん。
普通に似合ってるんだよなぁ。
明海みたいに制服に着られてる状態だ。
馬子にも衣装ってやつだな。
「どうした?」
「いや、きっと気のせいなんでしょうけど。さっき凛華の気配がした気がしたんです」
本当にごく僅かの反応だ。
元気な時だったら判別できるが、弱体化中の今、確信できずに情報の提供をした。
「本当かね?」
「先ほど水路を渡っていた時、妙に懐かしい気配を感じたんです。まだちょっとはっきりしないんですけど」
「弱体化の原因がここで出たか」
「そのようです。ちくしょう、こんな時に受信側の俺の判別が定かじゃないなんて……」
「だが、そのおかげでこの場所まで来れた。全ての責任を負おうとするな。僕たちにも任せてくれないか?」
お義父さん……
しんみりしながら、ソロでやっていたらきっとこういう状況で詰むんだろうな。という感想を思い浮かべた。
この人を仲間に誘って、信頼が得られてよかった。
ちょっとだけ、恨みを買いすぎてルキもしなくはないが。
不器用なだけで、根はいい人なんだよ。多分。
「普通に念話を試して見たらどう? ボクに伝わったんなら、寧々達にも伝わるよね?」
「それも厳しいです」
「どうして?」
「送った念話を受け取る側に不具合が起きている。不調さえなければどんな状況か分析できるけど今はそれが非常に厳しいんです」
「こう見えて彼のダメージは深刻だ。限界を大きく超えている。常人だったら立って歩くのも難しい状態なのだぞ?」
「そこまでなんだ」
大袈裟だなぁ、と思いつつも。
正直気を張ってなきゃ今にでも意識を手放しそうではある。
今は行動をジェネティックスライムに任せているが。
俺の本体は半分死んでるくらいの認識でいい。
もし病院に別府インしようものなら全治一年くらいの重症だ。
怪我や傷だったらユグドラシルでいくらでも治せるのだが。
王の扱う血の不足はそれらじゃどうしようもない。
これがブラッドを扱う上でのネックとも言えた。
「そっか、分身を操るにも体調が関与するのか」
「今にもぶっ倒れそうなほどの疲れが溜まってる時の精密作業くらい、骨が折れる作業ですよ」
「普段からそんなことばかりしてるんじゃないか? 普通なら倒れていてもおかしくないよ?」
「そんなこと言ってられない生活送ってましたからね。そして、今もまた。俺の状況は悪くなるばかりですよ。でも、そんな過去があったから、今が耐えられてる。良いのか悪いのか俺にはわかりませんが」
「不幸中の幸というやつか」
俺としては経験則だが、若いうちは苦労を買ってでもしろという諺があるようにそれがうまいこと作用した形だ。
苦労を背負った側から言わせて貰えば、あんなの好き好んでやることはない。むしろ率先してそうならないように立ち回るべきだ。
「ふーん。ボクはそういうの部下に丸投げだからなー。徹夜の行軍ぐらいはしてるけど、そもそもそういう仕事はボクの領分じゃないからねー」
この人、立派なのは見てくれだけかよ。
今はその見てくれも非常にちんちくりんでいいところが見つからないときている。
この人本当に人の上に立てて大丈夫なんだろうか?
いや、その勢いにあれだけの人がついていってるのも事実か。
だからギルド長なんてやってられるんだろうし、慕われてもいる。
「というわけで、貝塚さんが頼みです。俺が役に立たないので、寧々に連絡とってもらえませんか?」
知り合い同士だから、こういう時に役に立つんじゃないかと話を振る。
凛華や久遠は貝塚さんを一歩引いて見てしまうからな。
突然連絡をよこすのも不自然だろう。
何せ、俺とは違う道を歩むと袂を分かった身だ。
一緒に歩く道を選らんだ凛華達からみれば不穏分子。
だが、寧々は古い付き合いだ。面倒見のいい彼女から攻略した方がいいだろう。そして彼女を電波塔として俺たちで情報の提供ができれば幸いである。
「僕が娘に直接連絡取れたらいいんだが……」
ここで、思わぬ方向から意見が飛ぶ。
そうじゃん、実の親だった。
「連絡を取れる手段はないのですか? その、親子の絆的な」
「あいにくと娘からは嫌われていてね」
「あぁ……はい」
そりゃ実の親から実験道具のように扱われたら好かれる訳ないか。
下剋上一歩手前まできてたもんな。
それをいくらでも握り潰す気満々でいた。
俺が間に入らなきゃ、血で血を洗う骨肉の争いになっていたことは考えるまでもない。
こういう時、役に立たない人なのだ、この人は。
「とにかく、今は連絡を取り合うのが最優先事項です。合流できるんだったらそれが一番ですが、問題はその後ですね」
「学園の生徒と教師の世話まで見る必要がある、か」
「まず間違いなく。救難を要求されるでしょう。しかしそれは御堂さんが表に立てばの話です」
「それをせずに交渉の余地があると?」
「そのための作戦会議をここですべきでしょう。特に今回は多くの人質を取られてる状況です。そして俺が表に出れない状況でもあります」
「その理由とは?」
「実はすでにジェネティックスライムを学園内に送り込んでるんです。なので俺が出て行くと、ドッペルゲンガーとして対処される恐れがある。つまり学園内の方をモンスター認定されるか、俺たちの方が偽物と罵られる可能性が……」
「そう言えばそのような報告を受けていたな。つまり、策は尽きたと……」
お義父さんが遠い目をした。
「表立って動けない状況です。しかし見つけておいてスルーはできない。なんとかして凛華達と情報共有がしたい。そんな時の作戦をですね」
「一応寧々に念話繋げてるけど、微妙に繋がりにくい感じがするよ」
お義父さんに詳しく説明してる横で貝塚さんが1回目の念話テストを行った。
「距離があるんだろうか? それともダンジョン側が施した結界か?」
「案外、寧々の施したやつかもしれませんね。あいつの結界ってモンスターを消し飛ばす類なので」
「じゃあ、六王君達近づけないじゃん」
「一匹、ジェネティックスライムを潜り込ませてるので、見境なくは仕掛けないと思います。けど……」
「けど?」
「相手が敵か味方かわからない時は、とりあえず攻撃してくるんじゃないかと」
そういうふうに指導したからな。
独力で、尚且つスキルに頼らない行動指標。
凛華や寧々、久遠には徹底的に叩き込んだ。
それが今になって俺たちの行動を阻害してくるとは思わなかった。
「やっぱり影の中にこもっての移動って愚策だったんじゃない?」
貝塚さんが呆れたように言う。
「表に出ますか?」
「いや、出るのは一人だけでいい。この場合は貝塚くんが適任だろう」
「ええ、ボクゥ?」
「こちらはジェネティックスライムによる擬態な上、識別はモンスターだ。この中で唯一生身なのは貝塚真琴君、君しかいないだろう」
「それはそうだけど……」
「それに君は彼の仲間と一度顔を合わせている。違うか?」
「確かに顔合わせは済んでるけど……詰め寄られたら困っちゃうよ?」
「何、こちらからうまく指示出しする…矢面には立ってもらうが、全ての交渉をする必要はないさ。なぁ、六濃君?」
「任せてくださいよ。そういうのなら得意です」
「そういうことならするけどぉ……一応ギルド長の姿の方が良さげ?」
「いや、今回は迷子の生徒の体で行きましょう。なまじ力がある人物だと知れると、生徒達が油断しかねませんし。まだ救助の見込みがありません。今安堵されたら総崩れだ。緊張感を持ってもらうには、自分たちより弱い存在の方が好都合です」
「それが無難かぁ。しかし一つ問題があるんだよね」
「どんな問題が?」
「ボク、学校に通ったことがなくて、制服も持ってないんだ」
そういえばそうだな。
年齢的には学生に近しいが、ずっと身分を隠していた。
その上でいまさら生徒になってもと言う感情が付随する。
「制服なら、僕が手配できる」
「え、そんな事業まで起こしてたんですか?」
驚く俺に、お義父さんは呆れたような顔で呟いた。
「僕は一応あの学園の出資者だよ? それに現役の学生の親でもある。息子も、娘も通学させた。男女の制服の手配ぐらいなら可能さ」
こう言うところで頼もしいんだよな。
人間関係の方はまるで役に立たないけど。
「問題があるとすれば、ボクのサイズでの仕立てを足跡でしてくれるところがどれだけあるかだよね?」
「糸と針を用意してもらえれば、俺がサイズ合わせられますよ?」
「君は本当になんでもできるなぁ」
なぜだか感心されてしまった。
こんなもん、金がない時に散々自分の服の修復に費やしたからな。
慣れというものだ。
妹の洋服なんかも、古着を活用してつぎはぎにして作ったりもしたし、得意な部類だ。
「おかげさまで、苦労するのに適した環境で育ってきましたからね」
そうこぼす俺に、これ以上の詮索はすべきではないなとお義父さんが黙り込んだ。原因が誰かすぐに思い至ったようだ。
俺から両親を奪い、妹に酷いことをした当事者である。
それを知ってる人たちから手を組んだことを知らせたら「頭おかしいんじゃないか?」と疑われても仕方のないことだと思う。
むしろ仇だろう? 全くも言ってその通りだが……今はこんな状況だ。
仲間になってくれるだけでありがたいと思わなくてはな。
しばらくして、俺のジェネティックスライムで擬態させた飛鳥さん経由で制服一式が送られてくる。
ワープゲートは俺が開けて、地上にいる飛鳥さんが直接持ってきてくれた。ジェネティックスライムでの行き来は確認済みだ。
問題は制服が無事であるかの方だが……無事じゃなかった。
今度はジェネティックスライムを制服に擬態させて送ってもらう。
こっちは成功した。
服にも化けられるなんて、便利な子だなぁ。
ホクホク顔の俺に対して、実際に袖を通す貝塚さんはなんとも言えない顔をしている。
「それとこれは生徒手帳だ。北海道支部のものとしたが、大丈夫だろうか?」
これもジェネティックスライム製。
「ああ、そこら辺の辻褄合わせも必要ですね。貝塚さん、学園の知識は?」
「荒牧やOBを大勢抱えているギルドだよ? 肝心の女子の情報は枯渇しきってるけどね」
ああ、そう言えば。
卒業した女子は瀬尾さんのギルドが根こそぎとってっちゃうもんなぁ。
アロンダイトは男所帯。女子ウケが悪いのだ。
いないわけではないが、一緒に行動することは限りなく少ない。
むしろ経理や細かい仕事を丸投げしてる相手だ。
会話が弾むわけもなく、むしろ距離をとってるのが容易に思い描ける。
本当に女子力終わってるな、この人。
「それ以前に20歳超えてから着るのはすごく勇気がいるけどね」
「似合ってますよ」
「それ、言われても嬉しくないやつだから」
そう言いつつも、満更でもない貝塚さん。
普通に似合ってるんだよなぁ。
明海みたいに制服に着られてる状態だ。
馬子にも衣装ってやつだな。
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