上 下
93 / 173

93話 ダンジョンブレイク【札幌】2

しおりを挟む
 ダンジョン化した北海道の中にある別空間。そこに札幌地区は存在した。

「キュ(随分とダンジョン化が進んでおる。早く守護者を倒さねば、この地域の復興は諦めねばならぬぞ? 宇都宮のゴーストタウンを思い出すが良い。あれがいい例じゃ)」

 それを言われてハッとした。過去に起きたダンジョン災害、それがダンジョンブレイク。

 多くの死傷者が出た。そこで活躍したのが八尾さんと富井さんだと聞く。

 それでも一部の地域はダンジョン化を免れず、そのままダンジョン内に飲み込まれていた。

 それが今の札幌地区の現状だという。
 今回と60年前では規模があまりにも違いすぎる。その差はなんだ?

「キュー(ナンバリングの差よ。これが第二ダンジョンの支配力。伊達に妾より先に作られておらん。ゴロウでさえ地域一つ飲み込むのだぞ?)」

 じゃあ、もしオリンが俺と契約せずにダンジョンブレイクを起こしたら?

「キュ(聞きたいか?)」

 あえて教えてはくれない。
 ただ、ゴロウより規模が大きくなることは確実だ。

 北海道ほど大きくはならないが、他の地域には第一、第三ダンジョンが控えている。
 ここ以上なダンジョン化が起きたら事だ。

「キュッ(安心せよ。第一は海の中じゃ。あまりに理不尽な難易度なので海の底に封印されたのじゃ。そのせいで海路が封印されておる。この世界で安全圏は空路のみと言われてる理由がそこじゃな)」

 オリンは重要な情報は全く押してくれないんだよな。

 エネルギーの捻出という利害の一致で一緒にいてくれてるけど、ダンジョン事情を明るみにする気はないらしい。

「なんとも薄気味悪い感じですねー」

 車で走行中、そんなセリフを吐きながら収録を進める。

 不思議なことに、こんな環境でもカメラは現実世界に繋がっており、コメントも普通に拾えた。

 <コメント>
 :札幌の映像初公開じゃね?
 :こちら札幌支部、こんなのは知らない
 :あれ? じゃぁここどこ?
 :あれ? 札幌支部はハンドルネームつけてなかったっけ?
 :こちら札幌支部、こんなのは知らない
 :緊張してるのか? 二重送信してるぞ?
 :こち、こちこちこちこちこち
 :落ち着け
 :なんだ、バグった?
 :ブツッ
 :おい、これ
 :書き込みしてるやつ誰だ?
 :なんか回線異様に重くね?
 :書き込み送信がよく失敗する

「どうかしましたかー?」

「見ろポンちゃん同接がおそろしい数値になってる」

 60万人? どうしてそんなことに。
 普段は多くても2~300人なのに。

 函館は一つのスクリーンで見てるから実質一人分だし?

 <コメント>
 :こちら札幌支部、てき、テキ、敵発見。至急向かわれたし
 :でかした
 :今行く
 :首を洗って待っていろ
 :今行く
 :今行く
 :なんかやばい感じじゃね?
 :もしかしてこれ、通信ジャックされてる?

 そんなことがあり得るのか?
 そして数分もしないうちに押しかけてくるモンスター。

 その顔には人が取り込まれていた。
 体はずんぐりむっくりとしている。
 トマトを上下で二つに重ねたようで、手足はトマトの葉っぱだ。

 お腹にある口から声を発している。
 それは囚われた人間の口調なのか、モンスターが発するには随分と流暢な日本語だった。

『敵、敵、敵! モンスターを倒すのはこの俺様だ!』

 これはどう対処したものか。一般市民がモンスターに取り込まれてる状況なんて初めてである。

 <コメント>
 :要救助者が操られてるのはキッツイな
 :ミイラ取りがミイラになったか
 :これ、行方不明者すら取り込んでモンスター化してたらキッツイな
 :無理やり取ったらどうなっちまうんだ?
 :わかんねぇよ

『オラァ! フレイムランサー! 焼きトマトになりやがれ!』

 相手には俺たちがモンスターに見えてるようだ。精神操作系とでもいうのか?

 その上スキルまで使ってくる。

『くそ、すばしっこいトマトだぜ!』

「うるせえ! トマト野郎!」

 ヨッちゃんがトマトに対してトマトと叫んだら、相手のトマトは機嫌悪そうにし始める。

『誰がトマトだ! 俺様は北海道が誇るSランク探索者、キャンサーのズワイだぞ!?』

 <コメント>
 :ゲェ、相手Sランクなのかよ!
 :いや、待て逆に考えろ、Sですら取り込んで操るやつが黒幕だぞ
 :そうじゃん
 :これ勝ち目なくね?
 :ズワイガニで草
 :炙ったら真っ赤になりそうでちゅねー
 :今現在煽って顔真っ赤にしてるもんな
 :トマトは最初から赤いんだよなー

「これ普通に首と胴体カットしたら助けらんねぇ?」

「それ以前にこのトマトはどこから栄養を引っ張ってるんだろうな? トマトって切り離した瞬間から鮮度が落ちていくんだよ。それがこうやって動けて話せる。びっくり人間が出来上がっている」

「おい、それってもしかして?」

「取り込んだ人間を電池として動かしてたら、嫌だなってなんとなく思った」

「それだったら最悪、助けても助からないんじゃないか?」

「相手がもう死んでる可能性もある」

「死人に取り憑いて操ってるって?」

 <コメント>
 :札幌の人、誰かコメントして
 :無理だろ、こんな状況じゃあ
 :さっきまで連絡くれてた人はどうなった?
 :わからん、連絡できない状況になったならいいが
 :配信電波をジャックしてくるようなやつだぞ?
 :ミツケタ
 :? なんだ今の書き込み
 :でかした
 :今行く
 :今行く
 :場所は?
 :東京
 :遠い
 :近場でよろしく
 :なんの話をしてるんだお前ら?
 :おい、これもしかして
 :俺たちの自宅に凸しようとしてる?
 :モンスターの自宅凸はご遠慮願います
 :黙れモンスター
 :トマト野郎!
 :お前ら、こざかしく人間様の叡智を使いやがって
 :一匹残らず駆逐してやるからな
 :覚悟しろ
 :JDSの定期便、見つけた
 :トマトたくさん乗ってる
 :救援求む
 :でかした
 :でかした
 :今行く
 :今行く
 :青森に行ける
 :函館にもいっぱいトマトいるがどうする?
 :仲間のためにとっておく
 :かしこい
 :かしこい
 :俺たちの真似をするな!
 :黙れトマト
 :情報抜いた、拡散ヨシッ
 :でかした
 :でかした

「やばいぞこれ。自分たちを人間だと思い込んだモンスターが地方に出て行こうとしてる。おまけに自分たち以外をモンスターだと思い込んでる最悪の展開だ」

『さっきからぶつぶつと何言ってやがる。大人しく焼きトマトになる相談でもしてたか?』

 トマト怪人が俺たちに向けて槍先を向ける。

「トマトは新鮮フレッシュな方がうまいのに、焼き一択なお前の頭が残念だ、ってそういう相談だよ。なぁ、ポンちゃん?」

「俺は焼いたトマトも好きだよ?」

「ここでハシゴ外すの狡くない?」

「何はともあれ、あんたを倒して美味しくいただくのが俺たちの流儀だ!」

『なんて交戦的なトマトなんだ。倒された仲間の恨み、今日ここで晴らしてやる! チェストーーーー!』

 戦闘技術も探索者時代に培われたそれなのだろう。

 しかし人の体で繰り出されれば必殺のそれは、ずんぐりむっくりとした体から繰り出されることで、必殺にはなり得ないチグハグさがあった。

「見てから回避超余裕でした」

「ヨッちゃん、煽んな」

「オラァ! 俺の飾り包丁で鳳凰に進化させてやんよぉ!」

 鳳凰好きだね、ダイちゃん。

 相手の動きが鈍いからとくりだされる特殊調理。
 見事な活け作りがそこに完成する。

「この美しさの制限時間てどれくらい?」

「は? お客様のもとに提供されるまでだから2分がいいところだろ」

「そりゃ残念」

 俺は取り込まれたトマト以外に『熟成乾燥』を施した。

 こうすることでトマトに栄養を送れないようにするためだ。

『ぐぉおおおおおお』

 トマトは胴体を無力化されてひどく苦しんでいる。
 やはりそこがウィークポイントか。

 しかし、苦しんでるだけで致命傷ではないみたいだ。ちょっと切り傷をつけられた程度なのか?

 はたまた再生すら持ち合わせているとでもいうのか、そこら辺を転げ回っている。

 更にミンサーでドライトマトにした鳳凰をミンチにし、ソーセージを作った。

 それを転げ回ってるトマトに投入する。
 トマトにトマトを食わせたのだ。

 これでどうなるかはわからない。
 パワーアップするか、それとも元に戻るか。

 それは目の前のトマト、ズワイさんが教えてくれるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

超激レア種族『サキュバス』を引いた俺、その瞬間を配信してしまった結果大バズして泣いた〜世界で唯一のTS種族〜

ネリムZ
ファンタジー
 小さい頃から憧れだった探索者、そしてその探索を動画にする配信者。  憧れは目標であり夢である。  高校の入学式、矢嶋霧矢は探索者として配信者として華々しいスタートを切った。  ダンジョンへと入ると種族ガチャが始まる。  自分の戦闘スタイルにあった種族、それを期待しながら足を踏み入れた。  その姿は生配信で全世界に配信されている。  憧れの領域へと一歩踏み出したのだ。  全ては計画通り、目標通りだと思っていた。  しかし、誰もが想定してなかった形で配信者として成功するのである。

処理中です...