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序章 兄弟

ナリアガル、子を思う

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「旦那様、以上がコモーノ様の近況となります」

「世間を知って、己の足りなさを痛感したか?」

 ナリアガル・スグエンキル侯爵は弟に比べて出来の悪い兄に少しでも成長の兆しがあればヨシと考えたが、結果は散々。

 デビュタントで赤っ恥をかかされて、その日から気が滅入る気分だった。

 先日もアルフレッドに報復しに行くと耳に入れた時は何がコモーノをそこまでさせるのかと思った。

 いや、アルフレッドはナリアガルの期待を一度裏切っている。
 その罪は贖った。

 ナリアガルからしてみれば一時の感情で随分と熱を入れてしまったが、コモーノを納得させる為には仕方なかったのだ。

「それで、アルフレッドの方はどうしている?」

「どうしているとは?」

「食事くらいは与えているのであろう?」

「それが……」

 ナリアガルの質問に、執事長ロルフが顔を青くした。
 それだけで事情を察する。
 体を乗り出しながら再度聞き直す。

「まさか、一食も与えてないのか?」

「旦那様は分かっていてあの離宮へ追いやったのではなかったのですか?」

「なんの話だ?」

「わかっておいででなかったのですね。てっきり全てを理解してあの場所をお選びになったのかと思いました。かつてスグエンキル侯爵が最後に息をお引き取られになった場所。以来、あの場所では不可思議な現象が起こると言われています。それを恐れた先々代が距離を取る様に別館を作った。それが今の本館に御座います」

 曰く、災いの森。
 人が寄り付かなくなって久しい離宮には悪霊が住み着く。
 住んでるものに悪戯を仕掛け、モノがなくなったりは当たり前。ライフラインは絶たれ、作物が根を張ることもない不毛の大地。故にモンスターが多く棲みつき、事実確認は済んでないがドラゴンも住み着いているともっぱらの噂だ。

「そんなことが……ではアルフレッドは?」

「本当だったら生きてはいでしょう、ですが先ほど帰還したメイドから虫の息であるとの報告を受けています」

「不味いな。あの子にはコモーノの補佐について貰いたかったのだが。コモーノを納得させる為に距離を取らせたが、それがこんな事になるなんて……」

「あの時の旦那様も人が変わったみたいに恐ろしかったです」

「う、む。確かにあの時は失望と怒りがないまぜになって信じられないくらいに暴力的になっていたな、あんなに可愛がっていた子を、あんな目に遭わせてしまったなんて。その日からアレサは口を聞いてくれないんだ」

「そうでしょうとも。しかし旦那様はこの国を支える高位貴族のお一人。表立って侮蔑の言葉を上げられる人はそう多くありません。家を守るための行いでした。少し、感情的でしたが」

「で、あろうな。だがコモーノにアルフレッドを諦めさせるにはあれくらい演じなければ納得しなかっただろう」

「それで納得したかは甚だ疑問ですが」

「あの子はどうしてアルフレッドにそこまで執着するのだろうか? 私達は平等に愛していたつもりだぞ?」

「多感な時期でございますから、アルフレッド様の持っている物を欲しがったのでしょう」

「だからと言って亡き者にまでしようとするか?」

「その存在がいる限り気になって仕方がないのでしょう。今までが競い合っていたライバルです」

「悪いのは幼少期から競わせた私達であるということか」

「貴族の子息であれば仕方のないことでございます。高位の役職に就けば、その責任も重たくなります。旦那様がアルフレッド様を重宝していたのは、コモーノ様も薄々気が付いていたのでしょい」

「そんなに一方を優遇したつもりはないのだが」

「そう思ってしまう年頃なのですよ。あとは私のメイドの躾がなっておりませんでした。噂好きの彼女達の話題は時期侯爵がどちらになるか、が専らです。そんな彼女らを統制できぬ私にも非があります。旦那様ばかりを責めることなどできません」

「子育てとは難しいものだな」

「私にも6歳の子供がいますが、周囲から見たらきっと我が家の教育は児童虐待だと騒がれることでしょう」

「それほどまでに能力が高いのだな?」

「時が来たらアルフレッド様のサポート役につけようと思っていたものです。が、廃嫡されたので宙ぶらりんですよ」

「ならばコモーノにつけてはどうか」

「アルフレッド様がつく以上、無駄でしょう。うちの愚息はアルフレッド様以上の才を持ちませぬ」

「難しいところだな」

「全くにございます」


 家を守る者同士の話は夜がふけるまで続いた。
 そしてロルフの息子にアルフレッドの見張り番が託されたのは数日後のことだった。
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