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【スバル編】南西国家の忌み子
散り行く連星
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卵を抱いたルディとの早朝散歩は洋一の日課となった。
明かりのない田舎ならではの星空。
その星空の中でも群を抜いて光り輝く星があった。
それを目印にしながら歩くと散歩も、苦ではなかったが、ある日を境にとんと見かけなくなった。
「昴、散り行くか」
「なんのお話です?」
「んー? 俺も詳しく知らないんだが、俺の師匠に当たる人から聞いた話なんだ。生まれながらに短命で、それでもなお明るく輝く星々があるんだって」
「はい、綺麗ですよね」
ルディは上空で光り輝く星を見つめて言った。
「それを、人の夢に準えたって話だ」
「なぞらえる?」
「例えたって意味だよ。俺の居た場所では、あの無数にある星々にひとつづつ名前をつける人がいたんだ」
「暇な人もいるんですねぇ
「本当にな。それで、あそこで六つ連なってた星があったろ?」
「どこです?」
「今はもう見当たらなくなってしまった」
「よく覚えてますね」
ルディはそれがずっと近くにないと忘れてしまうといった。
洋一だってそこまで物覚えは良くない。
けれど……
「その星は、ふとしたはずみで消えてしまう。役目を終えたから。でもそんな希薄な現象に、人は自分の夢はいつしか消えていないかと準える」
「なるほど。星を見て自分を顧みるんですね」
「きっとな」
丘の上に座り込んで、星空を見上げる。
卵に見えるように、可能な限り殻に余計なものを被せずに見せつけた。
「あ、流れ星」
きらきらと、星屑が上から斜め下へと流れ行く。
その中にいくつかみ知った星も混ざっていて、綺麗と言うよりもの悲しい気持ちになった。
「こうやって星々は人知れず役目を終えていくんですね」
「だが、これを見て自分は頑張ろうって思う人もいたんだな。俺のいた場所では流れ星を幸運の知らせと捉える風習もあった。この卵にもきっといい知らせがあるさ」
「だったら良いですね」
「俺たちがそれを見届けるんだ。さぁ、今日はもう帰ろうか。少し冷えてきた」
洋一が卵を抱え、ルディを起こす。
「あ、また蹴った」
「本当?」
洋一の掛け声にルディは笑みを浮かべて卵の反応を示した。
「お星様を見て、自分も誰よりも負けない一番星になろうって思ったのかな?」
「そうかもな。きっと良い子が生まれるぞ」
「だと良いねー。あ、そうだ」
「どうした?」
唐突に何かを思いついたルディ。
洋一にしゃがむ混むように指示し、そのまま耳打ちした。
「うん、良いんじゃないか?」
それは名付け。卵から生まれてくる子へ、親が一番初めにつける儀式だ。
ルディが愛情いっぱいに育てた子供だ。
自分の子供と言って差し支えないだろう。
「ベア吉がお兄ちゃんで、この子は弟かな?」
「そもそも性別があるのか?」
「あ、そうだね。そして女の子の可能性もあるのと」
「どんな種族かわからないから、まだはっきりとはわからないけど」
「男でも女でも大丈夫そうな名前だから、きっと平気だよ」
「そうだな」
ルディの頭に手を置いて、洋一達は帰路につく。
「今日もゴーストパーティだ」
「ゴーストタンメン美味しいですよねー」
道中に卵に寄ってくるゴーストを乱獲しながらの帰還。
朝食に彩りを与えるのもあって洋一もルディも楽しくなってきている、
普通、ゴーストが連日襲いかかってくる環境は恐ろしいとさえ考えるのだが、それが美味しいご飯に変わるというなら話は別だ。
普段弟子達に自分は要らなくないなんて説いておきながら、一番いなくなってはいけない存在が洋一なのはルディ以外の目から見ても明らかである。
帰宅後に朝食の支度。
仕留めたゴーストを薄く伸ばしてワンタンの準備だ。
今回も持ちきれない分はミンチ肉に加工している。
その工程は洋一以外目視することができないので、何をしてるのかは本当に謎だった。
「なんか今日はやたら多くない?」
「ゴーストですか?」
「うん。ちょっと変わったゴーストまで来てて。今までは人間や獣人のゴーストだったけど、今回はドラゴンのゴーストだった。まぁワンパンなんだけどさ」
「相変わらずですねー」
ルディはよってきたゴーストにそんな大物までいたのかと今になって驚く。
どちらにせよワンパンらしくて驚いた分、損した気持ちになった。
「そこで少し趣向を凝らしてこんなものを作ってみた」
「ハンバーグです?」
「ハンバーグサイズのワンタン」
「ちょっと想像つきませんね」
卵をあやしながらルディが首を捻る。
「味見をどうぞ」
「あ、美味しい。中身は普通にハンバーグです」
「そりゃよかった。刺身にして食べたんだけど、こっちも当たりだ。ドラゴンゴーストは一般ゴーストよりも旨みが凝縮してるっぽいな」
「僕、天ぷらバージョンも食べてみたいです」
「よーし、材料だけはいっぱいあるからたくさん作っちゃうぞー」
「わーい」
そんな風景を少し離れたところで目撃したヘイトスは。
「あばばばばば、ドラゴンの霊体まで捌いて食べちゃってますーー!?」
なんて声を上げながら、ちょっとだけ味の想像をした。
すっかり村に飼い慣らされた飼い猫の様。
猫獣人ヘイトスの受難はまだ始まったばかりである。
明かりのない田舎ならではの星空。
その星空の中でも群を抜いて光り輝く星があった。
それを目印にしながら歩くと散歩も、苦ではなかったが、ある日を境にとんと見かけなくなった。
「昴、散り行くか」
「なんのお話です?」
「んー? 俺も詳しく知らないんだが、俺の師匠に当たる人から聞いた話なんだ。生まれながらに短命で、それでもなお明るく輝く星々があるんだって」
「はい、綺麗ですよね」
ルディは上空で光り輝く星を見つめて言った。
「それを、人の夢に準えたって話だ」
「なぞらえる?」
「例えたって意味だよ。俺の居た場所では、あの無数にある星々にひとつづつ名前をつける人がいたんだ」
「暇な人もいるんですねぇ
「本当にな。それで、あそこで六つ連なってた星があったろ?」
「どこです?」
「今はもう見当たらなくなってしまった」
「よく覚えてますね」
ルディはそれがずっと近くにないと忘れてしまうといった。
洋一だってそこまで物覚えは良くない。
けれど……
「その星は、ふとしたはずみで消えてしまう。役目を終えたから。でもそんな希薄な現象に、人は自分の夢はいつしか消えていないかと準える」
「なるほど。星を見て自分を顧みるんですね」
「きっとな」
丘の上に座り込んで、星空を見上げる。
卵に見えるように、可能な限り殻に余計なものを被せずに見せつけた。
「あ、流れ星」
きらきらと、星屑が上から斜め下へと流れ行く。
その中にいくつかみ知った星も混ざっていて、綺麗と言うよりもの悲しい気持ちになった。
「こうやって星々は人知れず役目を終えていくんですね」
「だが、これを見て自分は頑張ろうって思う人もいたんだな。俺のいた場所では流れ星を幸運の知らせと捉える風習もあった。この卵にもきっといい知らせがあるさ」
「だったら良いですね」
「俺たちがそれを見届けるんだ。さぁ、今日はもう帰ろうか。少し冷えてきた」
洋一が卵を抱え、ルディを起こす。
「あ、また蹴った」
「本当?」
洋一の掛け声にルディは笑みを浮かべて卵の反応を示した。
「お星様を見て、自分も誰よりも負けない一番星になろうって思ったのかな?」
「そうかもな。きっと良い子が生まれるぞ」
「だと良いねー。あ、そうだ」
「どうした?」
唐突に何かを思いついたルディ。
洋一にしゃがむ混むように指示し、そのまま耳打ちした。
「うん、良いんじゃないか?」
それは名付け。卵から生まれてくる子へ、親が一番初めにつける儀式だ。
ルディが愛情いっぱいに育てた子供だ。
自分の子供と言って差し支えないだろう。
「ベア吉がお兄ちゃんで、この子は弟かな?」
「そもそも性別があるのか?」
「あ、そうだね。そして女の子の可能性もあるのと」
「どんな種族かわからないから、まだはっきりとはわからないけど」
「男でも女でも大丈夫そうな名前だから、きっと平気だよ」
「そうだな」
ルディの頭に手を置いて、洋一達は帰路につく。
「今日もゴーストパーティだ」
「ゴーストタンメン美味しいですよねー」
道中に卵に寄ってくるゴーストを乱獲しながらの帰還。
朝食に彩りを与えるのもあって洋一もルディも楽しくなってきている、
普通、ゴーストが連日襲いかかってくる環境は恐ろしいとさえ考えるのだが、それが美味しいご飯に変わるというなら話は別だ。
普段弟子達に自分は要らなくないなんて説いておきながら、一番いなくなってはいけない存在が洋一なのはルディ以外の目から見ても明らかである。
帰宅後に朝食の支度。
仕留めたゴーストを薄く伸ばしてワンタンの準備だ。
今回も持ちきれない分はミンチ肉に加工している。
その工程は洋一以外目視することができないので、何をしてるのかは本当に謎だった。
「なんか今日はやたら多くない?」
「ゴーストですか?」
「うん。ちょっと変わったゴーストまで来てて。今までは人間や獣人のゴーストだったけど、今回はドラゴンのゴーストだった。まぁワンパンなんだけどさ」
「相変わらずですねー」
ルディはよってきたゴーストにそんな大物までいたのかと今になって驚く。
どちらにせよワンパンらしくて驚いた分、損した気持ちになった。
「そこで少し趣向を凝らしてこんなものを作ってみた」
「ハンバーグです?」
「ハンバーグサイズのワンタン」
「ちょっと想像つきませんね」
卵をあやしながらルディが首を捻る。
「味見をどうぞ」
「あ、美味しい。中身は普通にハンバーグです」
「そりゃよかった。刺身にして食べたんだけど、こっちも当たりだ。ドラゴンゴーストは一般ゴーストよりも旨みが凝縮してるっぽいな」
「僕、天ぷらバージョンも食べてみたいです」
「よーし、材料だけはいっぱいあるからたくさん作っちゃうぞー」
「わーい」
そんな風景を少し離れたところで目撃したヘイトスは。
「あばばばばば、ドラゴンの霊体まで捌いて食べちゃってますーー!?」
なんて声を上げながら、ちょっとだけ味の想像をした。
すっかり村に飼い慣らされた飼い猫の様。
猫獣人ヘイトスの受難はまだ始まったばかりである。
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