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告白

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「四鬼千秋はお前の運命の相手なのかもしれない。キザったらしくて格好つけたがりでいけ好かないが、桜子を大事に想ってる」

 わたしは頷く。涼くんがここ来られたのは四鬼さんの助力があったからだろう。

「それでも俺は四鬼千秋にお前を渡せない」

「わたしだって高橋さんに涼くんは渡せないよ。涼くん、高橋さんとキスしたの?」

 わたしも袖で拭おうとすると、指先に頬を擦り寄せてきた。

「してねぇ、振りだけだ。高橋とは別れたというより、お前を忘れちまったよ。俺を好きな気持ちは残ってるみたいだけど」

「……本気であればある程、好きな気持ちはなかなか消えたりしないよ」

「そうだな」

 涼くんは自分の心はわたしにある、とでも言うように抱き締め直す。

「これから先、今までよりもっと面倒をかけちゃうかも。本当にいいの?」

「あぁ」

「鬼でいいの? 血を飲むんだよ?」

「いい」

「涼くん、好き」

「俺も」

 短い切り返しが涼くんらしい。

「不安になる度、同じ事を聞いちゃったらごめんね?」

「聞かずに勘違いされるくらいなら、しつこく確かめてくれ」

「怒らない?」

「……怒らないようにする」

 わたしの選択に歴代の鬼姫は失望するだろうか。
 どんなキレイな言い回しをしようと、わたしには血を求める凶暴な部分がある。いつか誤魔化せない鬼の性に挫けてしまう日が来るかもしれない。だからーー。

「ねぇ、涼くん。約束してもいいかな?」

 指切りのポーズをする。

「どんな約束?」

「約束をしない約束」

「なんだそれ」

「涼くんとは約束しなくても一緒に居たい、運命じゃなくても側に居たい。わたしはわたしの意思でここに居るの」

 涼くんは少し間を開けた。こんな約束などしたくないのかもと様子を伺うと、彼は仕方ないなと眉を下げる。

「約束や運命って言葉で桜子を縛り付けるつもりはないが、俺もそういうのに少しは憧れがあるんだけどな。いわゆる王子様ってやつ」

 照れ隠しで襟足を掻く。
 知る限り、ロマンチックな分野には全く興味がなさそうだった涼くん。それが王子様に憧れているなんてニヤけてしまう。

「な、なんだよ、似合わないって言いたいのか?」

「ううん、違う。涼くんは王子様だよ、わたしだけの王子様。それと騎士様だね。助けてくれてありがとう」

 小指がふんわり温かくなる。涼くんが絡めてくれていた。

「王子様で騎士様ね、そりゃあ忙しくて他の女に目移りする暇もないな」

「他の人って、もうーー」

 小言は最後まで続かなかった。悪戯なキスを仕掛けられ、言わせて貰えなかったから。

 凪いだ水面に月が浮かぶ。幼いわたし達の誓いを祝福するみたいに輝き、更に内なる声が響いてきた。

 ーー幸せになってね。

 わたし、鬼姫は約束に囚われ、いつしか幸せの意味を見失っていたんだよね。自由に、それこそ頬を掠めていく風みたいに生きていこう。
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