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クレープの味は

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「似合ってる、最高、可愛い、僕の想像以上だよ! 可愛い! 最高! 似合ってる!」

 着替えて四鬼さんの前へ立つと、彼は盛大な拍手をしてくれる。可愛い、最高、似合ってるを連呼され恥ずかしい。

「ありがとうございます。そんなに褒められたら照れます」

「照れることなんてない。最高に似合って可愛いのは事実なんだ。ねぇ?」

 同意を店員さん達に求め、それぞれが頷いてくれた。鏡に映るわたしはわたしじゃないみたい。ワンピースに合わせメイクと髪のアレンジを施してもらい、大人っぽく仕上がっている。

「これならわたしだと気付かれませんね」

「僕は見逃さないけどね。桜子ちゃんがどんな格好をしていても見付ける自信がある」

 こんな事をさらりと言えてしまうのが四鬼さんだ。

「それと桜子ちゃんの荷物だけど、自宅に届けるよう手配したから」

「あっ、そうだ! お見舞いに来てくれた後から思ったんですが、わたしの家の住所を何処で?」

 わたしの疑問にしばし間が置かれた。

「……ごめん、桜子ちゃんの身辺を調べさせた」

 だろうと勘付いていたが、わたし相手なら誤魔化せるのに正直に告げられる。

「嫌いになった?」

 一気に表情と声音が沈む。

「四鬼さんの立場だと仕方ないかもしれませんね」

「ごめんね」

 言い訳をせず謝罪した四鬼さん。交流を持つ相手を精査するのは危機管理のひとつであり、これは立場が立場だけに責められないだろう。やはり良い気分じゃないけれど。

「嫌いになった?」

 不安気に繰り返され、わたしは首を横に振る。

「なってません。調べた結果、合格というか、クレープを一緒に食べてもいいって判断してくれたんですよね?」

「合格どころか、桜子ちゃんをお嫁にしたいという結論に至ったね。たとえ四鬼家に反対されようと、僕は桜子ちゃんの側に居られる行動を取るだろう。ま、反対なんてされないから大丈夫」

「またまた」

「本当なのに」

 わたしの手を引いて肩を抱く。それから鍔の広い帽子、いわゆる女優帽を被せてきた。
 ヘアメイクとも調和したこの帽子は最初から用意してあったのかもしれない。

「可愛い顔が見えにくいデメリットはあるけど、いちいち覗き込むのもいいなって。あと桜子ちゃんも周りの視線を気にしないで楽しめるでしょ?」

 言った側から息が触れる距離で覗かれ、頬を熱くしてしまう。
 四鬼さんも着替え、シンプルな装い。しかし圧倒的なビジュアルで色気が増し、四鬼さんと判別可能である。

「じゃ、行こう」

 そして店を出るなり、四鬼さんは注目を集めた。

「うーん! 今日はいい天気。デート日和だね、桜子ちゃん」

「四鬼さん、手を……」

「駄目、離さない。こうしたくて制服デートを諦めたんだ。でも制服デートもしようね。
あぁ、桜子ちゃん、本当に可愛い! 似合ってるよ」

「褒め過ぎですよ」

 四鬼さんは可愛いとか、キレイとかの褒め言葉を全く惜しまない。
 道行く人が振り返ってまで2度見する彼に言われ続けると、なんだかその気になってしまいそう。お姫様みたいな気分になる。

「桜子ちゃんは何にする? 僕はチョコバナナにしようかな」

 夢見心地で歩いているうち、クレープ店へ着いてしまったようだ。メニュー表を差し出され、ハッと我に返った。

「四鬼さん、ここはわたしが!」

 帽子や洋服のお礼としては遠く及ばないだろうがお財布を出そうとするーーが。

「しまった。鞄に入れたままだった」

「ご馳走してくれようとする気持ちで充分。さぁ、どれにする?」

 後ろに他のお客さんが並ぶ気配がし、財布がないのだから代金の支払いを巡って遠慮しても意味はない。

 早く選ばなきゃ。豊富なメニューへ視線を滑らせるも商品名と値段しか記載されておらず、焦ってしまう。

(奢って貰うんだし、四鬼さんが頼むものより安いやつの方がいいよね。あぁ、それだと逆に恥をかかせちゃうのかな)

「ねぇ、桜子ちゃん。季節限定のイチゴにしてみない?」

「え、あ、はい!」

「じゃあ、チョコバナナとイチゴクレープをひとつずつ。ごめんね? どれも美味しそうで迷っちゃった」

 四鬼さんは注文時に言葉を添え、わたしの優柔不断を気遣う。繋いだ手を握り直し、大丈夫だよと示してくれた。

「ありがとうございます。今日はカップルデーなのでクリームを増量しておきますね!」

「ありがとう」

 注文が入るなり、滑らかな作業が目の前で繰り広げられた。

 薄く焼いた生地の上にたっぷりのクリームが盛られ、宝石みたく艷やかなイチゴを行儀よく並べる。それをくるくる手早く巻き込み、わたしへ手渡す。ものの数分の職人技だった。
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