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鬼の花婿

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 わたしはいつまでこの立ち入った話を聞かされるのか。
 これ以上聞きたくない、聞いてしまえば考えなきゃいけなくなる。頭まで布団を冠ろうとした時、シャッと目の前が開かれた。それと同時に四鬼さんも見開く。

「お聞きになりました? 千秋君は君にぞっこんでしたね!」

「柊! 桜子ちゃんが起きているのを分かった上で言ったの?」

「千秋【君】、2人きりの時は柊【先生】と呼ぶ約束でしたよね? あぁ、そうだ! 放課後にクレープを食べに行かれるのはどうでしょう? お互いの理解を深めるのに宜しいかと。浅見さんは甘い物好きですか?」

 柊先生は交互に話し掛け、自分の言いたい旨だけ伝えてきた。わたしをベッドから起こし、四鬼さんの手を取らせると廊下へ出されてしまった。

「2人とも次の授業は出てくださいね。私も着任したばかりで忙しいので、これで失礼しますよ」

 抗議は受け付けないとばかりドアが閉められ、四鬼さんと顔を見合わせる。

「あ、あの……」

 四鬼さんの頬は照れからなのか、少し赤い。

「具合は大丈夫なの?」

「え、あっ、はい。横になったら楽になりました」

「なら良かった。心配したんだ、本当だよ」

「……はい」

 かなり気まずい。不可抗力だが柊先生との会話を聞いてしまい、どうリアクションしてよいものか。
 モジモジしていると四鬼さんがふふ、と笑う。 

「僕の気持ちはさっき言った通り。噓や悪戯じゃない」

「柊先生の妹さん、美雪さんは?」

「嫉妬してくれてるの? それとも桜子ちゃんが責任感じて言ってるのかな? 多分後者だよね」

「……」

「美雪との事も含めて話したい。どうだろう? 柊先生のアドバイスを実践してみない? クレープ食べに行こう」

 手を握りながら、もう片方で俯くわたしに触れるか、触れないか迷う四鬼さん。
 触れられと最初は緊張でビクついてしまうが、不快な訳じゃない。むしろ心地良くなる。
 前髪を撫でるに留まった指を残念に追ってしまい、それが四鬼さんを誤解させた。

「あっ、クレープは嫌? 甘い物が苦手であればレストランはどう? よく食事をする店なら貸し切りに出来る」

「貸し切り?」

「その方が気兼ねなく話せるでしょう? フレンチ? イタリアン? もちろん和食でも美味しい所を手配する。桜子ちゃんが食べたい料理を言ってみて」

「そんな困ります!」

 四鬼さんが出入りするお店となれば高級店であると察せられ、庶民のわたしは怯む。

「僕と出掛けるのが嫌?」

 予約をしようとする四鬼さんがしょげた顔をする。そんな顔をされると断わりづらくなり、ひとまず折り合える案を出すしかない。

「わたし、クレープがいいです! 駅前に可愛いクレープ屋さんがあるって雑誌で読んだんですよ」

「駅前? 知らないなぁ。よし、貸し切りにしよう」

「キッチンカーで販売しているので貸し切りは出来ませんよ!」

「テイクアウト専門? じゃあ、どうやって食べるの?」

「あ、四鬼さんは食べ歩きはしないですね」
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