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転校生は突然に

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「これでよし!」

 問題集の空欄を埋め終え、わたしはガッツポーズ。退院後続く自宅療養も1週間目、そろそろ復帰の目処が立つ。

【ピンポーン】ちょうど良いタイミングで涼くんの来訪が知らされる。壊れたインターホンもしっかり直された。

 リズムカルに1階へ降りる途中、今朝お母さんが言っていた事を思い出す。

「家庭教師のお礼にケーキよね」

 とりあえず勉強を見てもらうのは今日まで。涼くんは授業内容を欠かさず教えてくれた。
 ケーキがその対価にしては少しチープな気もするが、わたし達で作ったモンブランを用意する。

「いらっしゃい!」

「……あ、あぁ」

 涼くんは玄関から入ってくるのに慣れない様子で、迎えの挨拶へ目を合わせない。

 お父さんが単身赴任先に戻り、お母さんはパートの時間を伸ばしたので家の中は静かだ。通り魔事件関連のニュースが報道されるテレビはつけられない。

「聞いてるかもしれないけど、来週あたりから学校にへ行けそうなの」

「良かったな」

「うん、涼くんがこうしてノートを見せてくれるから授業に遅れないで済みそう。ありがとう」

「別に」

 涼くんをリビングへ通す。わたしの部屋を使っても構わなかったが、涼くんが嫌がったのだ。

「あっ、問題集持ってくるね。適当に座ってて」

「あぁ」

 直に床に座り、ソファーやクッションを使わない。そりゃあ自分の家じゃないので快適な居心地とはいかないだろうが、涼くんは明らかに身の置き場に困っている。
 わたしと過ごす時間にそわそわ何処か落ち着かず、会話を投げかけてみても短く打ち切られてしまう。

 それから授業内容は教えてくれるものの、教室の様子や高橋さんについては語らない。

「あっ、喉乾いてない? 麦茶ならあるよ。だんだん日射しが強くなってきたね」

 ブラインドを下ろしつつ、尋ねる。

「飲み物持ってきた、いらない。相変わらず暑いの苦手なのか?」

「暑いのが苦手というか、日射しかな。日焼けすると痛くて」

 涼くんは通学鞄の中からスポーツドリンクとノートを取り出す。ノートはテーブル越しにこちらへ滑らせ、ペットボトルをわたしとの間に置いた。

「? それ、見慣れないスポーツドリンクだね」

「だろうな、市販はされてない」

「へぇ、そうなんだ。美味しい? ひとくちちょうだい」

 市販されていないスポーツドリンクと聞けば、味見したくなる。

「だ、駄目に決まってるだろう!」

 けれど涼くんは露骨な拒絶をした。さっとペットボトルを引いてしまう。

「あ、ごめん、飲みかけに手を付けられたら嫌だよね」

「……そんなに飲みたければ、新しいのを家から持ってくるけど?」

「ううん、そこまでじゃない」

 気まずい空気となり、わたしは笑顔を必死に保つ。

「さて今日も勉強しますか! 涼先生、よろしくお願いします」

 気を取り直すよう、明るく言う。

「……高橋も来週から学校に来るってさ」

 ふいうちで高橋さんの話題をだされ、間を開けてしまった。涼くんはタイミングを見誤ったかと眉を寄せるが、わたしは首を横に振る。

「良かった」

「本人から携帯にメッセージきた。あと転校生も来るらしいな、ちょっとした騒ぎになってる」

 続けざまに転校生の話をされ、情報量の多さでわたしは固まった。
 まず高橋さんが学校へ来るのは良い話だ。が、涼くんはそれを本人から伝えられたとのこと、つまり2人で連絡を取り合っている。

 涼くんはあまり連絡先を教えたがらないタイプで、わたしがメールしてもマメな返信はしてくれない。なのに高橋さんとはやりとりするのか。
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