19 / 119
レモンのはちみつ漬け
3
しおりを挟む
「相手はあの鬼月学園! あちらの生徒会長が申込みにきたんだって。夏目君はサッカー推薦を断ったんでしょう? ひょっとしたらそれが切っ掛けかもね」
涼くんが来るのを待っていたみたい。小走りで駆け寄って、わたしの存在は意に介さず話を続ける。
「文化部はそれなりに交流があるけど、サッカー部は練習試合をここ何年かやってないとコーチが言ってた! 鬼月学園の生徒、プライド高そうだもん。推薦を断ったのを後悔させたいとか?」
きらきらした眼差しを浴びせ、憧れや好意を隠そうとしない高橋さん。
「……そんな事あるはずない。あっちは全国から選手を集めて、練習設備も数段上だぞ。そもそも俺の入部前から試合は決まってた」
涼くんは眉を動かず伝える。
「マネージャーやりたいなら全選手を把握しろよな。今の俺の力じゃ、今度の試合は出られない」
進学先に鬼月学園ではなく葉月高校を選んだ理由を涼くんは教えない。わたしは推薦がきていたのすら本人の口から聞いてなかった。
家から近く、お祖母ちゃんと同じ制服を着てみたいという志望動機を鼻で笑う位なので、人様には語らない決断理由があるんでしょと言っても無視される。
挑発しようと褒めようと、涼くんは相手のペースに決して飲まれない。
「そ、そうだね気をつけるよーーじゃあ、レモンのはちみつ漬け? あたしが選手みんなの分を作る!」
「高橋が?」
「だって部外者は鬼月学園へ入れないよ? セレブ学園だけあってセキュリティがしっかりしてる。ねぇ? 浅見さん」
高橋さんはわたしをこれみよがしに部外者と位置付けるくせ、話に巻き込む。
「レモンのはちみつ漬けはマネージャーのあたしが作るよ」
そう断言されてしまえば口を挟む余地などなく、頷いた。高橋さんが勝ち誇ったような笑みを一瞬だけ覗かせる。
「作るのは構わないが、あんまり目立った真似をするなよ? 高橋はまだ正式なマネージャーじゃないんだ」
「えぇ? でもマネージャー候補じゃない浅見さんが差し入れする方が目立たない?」
「……」
忠告をさらりとかわし、頭の回転が速いのを証明した。これには涼くんも返す言葉がないだろう。
後ろ手を組み、高橋さんは正論を展開する。
「夏目君と浅見さんが内緒で付き合っているとしてよ? 新入部員が彼女に差し入れをさせたら、それって悪目立ちじゃないのかな?」
半ば脅し文句じゃないか。わたしはスカートを握る。
涼くんのサッカーへの取り組みは真剣そのもので、小さな頃からずっと、ずっと努力をしてきたのを知っている。だからわたしのせいで部内の立場が悪くなるなんて絶対嫌だ。
「な、なに? 睨まないでよ、怖いなぁー」
煽られてるって分かっているけれど我慢ならない。涼くんが好きなら涼くんの迷惑になる事をしないで欲しい。
「ーーいし」
「え? なに? 浅見さん」
「付き合ってないし! そういうの、止めてくれない?」
わたしの声は思いの外、大きかった。でも撤回するつもりはなく、なんならみんなに聞かせたい。どうせなら二度と誤解されない言い分を披露しておこう。
「わたし、好きな人がいてその人と付き合ってる」
涼くんが来るのを待っていたみたい。小走りで駆け寄って、わたしの存在は意に介さず話を続ける。
「文化部はそれなりに交流があるけど、サッカー部は練習試合をここ何年かやってないとコーチが言ってた! 鬼月学園の生徒、プライド高そうだもん。推薦を断ったのを後悔させたいとか?」
きらきらした眼差しを浴びせ、憧れや好意を隠そうとしない高橋さん。
「……そんな事あるはずない。あっちは全国から選手を集めて、練習設備も数段上だぞ。そもそも俺の入部前から試合は決まってた」
涼くんは眉を動かず伝える。
「マネージャーやりたいなら全選手を把握しろよな。今の俺の力じゃ、今度の試合は出られない」
進学先に鬼月学園ではなく葉月高校を選んだ理由を涼くんは教えない。わたしは推薦がきていたのすら本人の口から聞いてなかった。
家から近く、お祖母ちゃんと同じ制服を着てみたいという志望動機を鼻で笑う位なので、人様には語らない決断理由があるんでしょと言っても無視される。
挑発しようと褒めようと、涼くんは相手のペースに決して飲まれない。
「そ、そうだね気をつけるよーーじゃあ、レモンのはちみつ漬け? あたしが選手みんなの分を作る!」
「高橋が?」
「だって部外者は鬼月学園へ入れないよ? セレブ学園だけあってセキュリティがしっかりしてる。ねぇ? 浅見さん」
高橋さんはわたしをこれみよがしに部外者と位置付けるくせ、話に巻き込む。
「レモンのはちみつ漬けはマネージャーのあたしが作るよ」
そう断言されてしまえば口を挟む余地などなく、頷いた。高橋さんが勝ち誇ったような笑みを一瞬だけ覗かせる。
「作るのは構わないが、あんまり目立った真似をするなよ? 高橋はまだ正式なマネージャーじゃないんだ」
「えぇ? でもマネージャー候補じゃない浅見さんが差し入れする方が目立たない?」
「……」
忠告をさらりとかわし、頭の回転が速いのを証明した。これには涼くんも返す言葉がないだろう。
後ろ手を組み、高橋さんは正論を展開する。
「夏目君と浅見さんが内緒で付き合っているとしてよ? 新入部員が彼女に差し入れをさせたら、それって悪目立ちじゃないのかな?」
半ば脅し文句じゃないか。わたしはスカートを握る。
涼くんのサッカーへの取り組みは真剣そのもので、小さな頃からずっと、ずっと努力をしてきたのを知っている。だからわたしのせいで部内の立場が悪くなるなんて絶対嫌だ。
「な、なに? 睨まないでよ、怖いなぁー」
煽られてるって分かっているけれど我慢ならない。涼くんが好きなら涼くんの迷惑になる事をしないで欲しい。
「ーーいし」
「え? なに? 浅見さん」
「付き合ってないし! そういうの、止めてくれない?」
わたしの声は思いの外、大きかった。でも撤回するつもりはなく、なんならみんなに聞かせたい。どうせなら二度と誤解されない言い分を披露しておこう。
「わたし、好きな人がいてその人と付き合ってる」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる