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幼馴染みと学級委員

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「おー、聞いてるぞ浅見! 大変だったな、身体は平気か?」

 先生もわたしを認識し、大股で寄ってきた。煙草の臭いにうっとなり頭を下げ、避ける。

「俺、先に行く」

 話を振られる前に涼くんは先生の脇を通り抜ける。あの大声でわたしの送迎を引き受けた件を褒められたくないんだろう。

「夏目とはご近所なんだって? 頼りがいがある幼馴染みがいて良かったな」

「……はい。休んでいた分のノートも貸して貰いました。先生が夏目くんにお願いしてくれたんですよね? ありがとうございます」

「ノート? うーん、頼んだっけ。まぁ、浅見の事は夏目に任せておけば安心だな!」

 がっはっは、豪快に笑う。みんなは朝から教師に呼び止められるわたしを横目に校舎へ入っていく。
 先生まで涼くんを頼るようにと言い、複雑な気持ちだ。

「親御さんからあまり大事にしたくないって話だが、無理はするな。あんな目に遭えば休んだっていいんだ」

 体育会系、いわゆるお兄さん的な先生はカジュアルな雰囲気で接してくる。声だけでなく身振り手振りも大きい。

「はい、それじゃあーー」

「あ、そうだ!」

 予令の気配がするので話を切り上げたいところ。しかし、まだ引き止められる。

「放課後、保健室へ行ってみろ。今日はカウンセラーが来る日で、浅見を診てもらうよう手配してある。例の件を話してみたらどうだ?」
 
 カウンセリンか。身体が弱いわたしへの配慮は他の生徒からすれば特別扱いとして映るし、火種となるので遠慮したい。
 しかし、これは受け持つ生徒へ寄り添った行動ーー先生の目はありありと語っている。

 わざわざ予約をしたと伝えたくて、ここで待っていたのかもしれない。

「ありがとうございます」

 辞退しきれず、わたしは曖昧な笑顔を作る。先生は照れて襟足を掻き、頷いた。




「練習終わったら鳴らす。鳴ったら校門で待ってろ。いいな?」

 ーー放課後、涼くんは自分の携帯電話を渡してくる。言い付けを守る律儀さと、わたしが先に帰ったりしないよう携帯を預ける計算高さに返す言葉がない。
 というよりこちらの返事など不要で、さっさとグラウンドへ行ってしまう。

 涼くんの携帯はクラブチームのエンブレムがプリントされたケースに入り、サッカー好きが表れている。
 部屋にもユニホームや旗を飾っていて、定期購読する雑誌は数種類に及ぶ。涼くんのおばさん曰く、サッカー小僧だ。

「浅見さん」

 携帯を眺めていると、ディスプレイを高橋さんが覗き込んできた。

「ねぇ、今日はこれからどうするの?」

 高橋さんは涼くんの携帯電話について触れてこない。ただし、それを鞄へ仕舞う動作は目線で追われる。

「この後? あぁ、保健室に行こうと思ってるの」 

「え? 体調悪いの?」

「ううん、そうじゃなくて」

 言い淀む理由に思い当たる節があるのか、高橋さんはポンッと手を打つ。

「もしかしてスクールカウンセラー?」

 教室にはまだ何人か残っており、わざとじゃないにしろ高橋さんの声は彼女等の関心を引く。

「うちのスクールカウンセラーって鬼月学園の保健医で、すっごいイケメンらしいよ!」

 荷物をまとめ席を立とうとしたが、高橋さんは机に両手をついて力説を始め、押し戻される。

「先輩が言うには芸能人みたいだってさ! イケメンみたさに仮病する子が多くて、校長先生を介さないとカウンセリングの予約出来ないらしいの」

「そ、そうなんだね」

「予約取れるとか、浅見さん凄い!」

「いや、予約は先生が……」

 高橋さんの手の下に鞄が挟まって動けない。それとなく引っ張ってみると高橋さんの顔ごと寄せられた。

 高橋さんは近い距離で微笑む。

「もう先生に取り入ったんだ? 浅見さんって夏目君といい、イケメン好きでしょ? スクールカウンセラーもチェックしておく?」

 言われた瞬間は意味が分からなかった。傾げたわたしに高橋さんは笑顔を崩し、単刀直入に尋ねてくる。

「あたし、サッカー部のマネージャーになろうと思ってるんだ。浅見さん、夏目君と付き合ってるの? 今朝、一緒に登校してたでしょ? それに彼の携帯を預かってたし」
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