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死なばもろとも

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 徳増は言葉を続ける。

「私は身を持って血の繋がりが無意味であると知っていますし、恋情の脆さも味わいました。貴女を想う心はそういった不確かな情と違う。優子様が大切、優子様の側に居られるだけでいい」

 優子は髪を梳かれ、これまで注がれてきた献身的な姿を思い起こす。身内でもなく、男と女でもない結び付きが特別、信頼してこなかったと言えば噓だろう。

「何故、わたしなの? わたしは徳増に想われる価値なんてない!」

「価値があるか、ないかは私が決めるものです。私は呪われているのでしょうね。先代の血を憎み、抗ってきたはずが、綺麗で美しい存在を前にすると堪らなくなるんです。あなたがいい、あなたでなければ意味がない」

 【あいつ、徳増はーー丸井家の業を背負った男だよ】と言っといた立花が咳き込み、血を吐き出す。

「綺麗で美しい貴女の側にいたら私も清められるのと救いを求めたのでしょうか? そんな気もします。
実際、優子様は十分な安らぎを与えて下さった。だから時がくれば遠くから幸せを祈ろうとしたのですが……どうしても、どうしても離れられなかったのです」

 徳増の目尻が赤らみ、滲む。

「貴女の為ならばどんな事もしますが、貴女のせいにするつもりは誓ってありません。側に置いて欲しい、優子様の側でないと私は生きられない」

 泣き方を忘れた顔をする徳増。惨めたらしく同情を誘うとは狡くて賢いやり口で、代わりに泣けば狙い通りになってしまう。徳増は悲しむ優子をひたすら慰めたいのだから。

「徳増」

 優子はあえて低い声音で名を呼び、す、と短剣を自らの首に当てた。

「うわぁ!」

 すると、ここまで黙っていた敬吾が刃物を見ると場違いな歓声を上げて、優子達と同じ目線で事態の鑑賞をする。

「ふふ、残念。君が丸腰でここへ来ているとは考えてない。着衣を脱がせてまで回収しにくかっただけさ。自分から出してくれて手間が省ける、ありがとう」

 素手で短剣を奪おうとしてきた。怪我するのを恐れておらず、優子が拒んだ拍子に擦り傷がついても痛がらない。

「どうせ僕や義兄さんを刺し殺す度胸はないんだ。ほら、大人しく渡して。そしてもっと茶番を楽しませて?」

 当人等が真剣であろうと、一向に噛み合わない具合は茶番と映る。

「わたしは本気です! 立花さんを秀人様の所へ連れて行って! 早く!」

「……早く? 優子ちゃんさ、何様なの? 僕も義兄さんも優しくしているうちに言うことを聞いたほうがいいよ。
君はこれまでと同じく義兄さんに世話されて、僕は義兄さんと丸井家を繁栄させていくんだ」

 先代の血を忌み嫌うのに、家を存続させていこうとする矛盾。憎むあまり執着してしまうのか、それとも心は既に壊れてしまっているのか。
 徳増と同じく心が置き去りにしていても、敬吾には生命線はないのだろうか。

 優子は巡らせ、徳増を見詰めた。と、あちらも見詰め返す。あぁ、この仄暗い瞳に飲み込まれてはいけない。
 警戒しつつ立ち上がって刃先を徳増へ向けた。

「自害する前に徳増を逝かせてあげると言えば、抵抗しないでくれる? 一緒に死んで、徳増」

 先に徳増を刺し、その後を追うと言う優子。

「徳増はわたしの側でないと生きられないのでしょう? わたしは生き長らえて人形みたいな生活に戻るのはーー死んでも嫌」

「……」

「また籠に押し込め、ひばりのような娘を連れてこようと無駄。手足を拘束されようと、何をされても綺麗で優しい聖女は演じない。絶対によ!」

 その時、敬吾が優子を封じようとした。それを制したのは徳増だった。

 徳増は刃物が優子へ間違っても当たらぬよう、自らへ引き寄せる。

「徳増、あ、あなた」

 腹を突き刺す感覚に優子は怯み、見開く。

「お怪我はありませんか? あぁ、この程度で死にはしませんよ。優子様が私と共に死んで下さる?ーーそうであれば幸せです」
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