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刹那の熱

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 そのまま引き寄せられ、秀人の腕の中へ。秀人は燃えるほど熱かった。

「お願い、抱いて下さい」

 優子は溶けてしまう抱擁に掠れた声で唱える。

「今だけでいい、この一瞬でいい、わたしを秀人様の物にして下さい」

「あのな、お前は物じゃない! 強いて言うならーー優子は俺の宝物だ」

 秀人は優子が涙する前に口付け、舌を入れる。優子に巣食う罪を絡め取る動きに、優子の方もぎこちなくだが応えた。
 舌先をつつかれ、くぐもった声を出す。

「秀人、さまぁ」

「口付けだけで腰を抜かすとは先が思いやられる。お前が誘惑した男はなんだかんだ言っても、お前を欲しくて欲しくて堪らない。煽った分、ちゃんと責任をとれ」

 垂れた唾液を舌で拭われ、優子は爪先から痺れる。

「誘惑、できてましたか? なら良かった」

「馬鹿か」

 百戦錬磨を自負する秀人も優子相手では牙を抜かれた獣。悔しげに鼻で笑い、降参だと肩を竦めた。
 寝室へ移動するのも待てなくて、2人は長椅子へ重なって倒れる。

「今だけは全て忘れて、わたしを愛して下さい」

 優子が秀人の頬に手を添え、微笑む。
 秀人は何も言わなかった。

 秀人は優子の衣装を脱がすと、誓いを立てる風に様々な箇所へ口付けを落とす。

 優子はこういった行為の比較対象が以前の秀人と丸井の先代しかなく、ぎゅっと目を閉じてしまう。

「優しくするから大丈夫だ。あと誰かと比べたりするな、それが自分であっても殺したくなる」

 あえて殺すと表現をするのだろう。優子は全身の力を抜き、身を委ねる。拙いながらも自分も何かしようか瞳を彷徨わせていたら、秀人の髪に糸くずがついていると気付く。

 それを取り除こうと半身を起こした際、夢中で肌を吸う秀人を胸の頂きへ導いた。ぷっくり立ち上がりつつある部分を愛撫され、優子は背をそらす。

「あ、っ、待って、ください。糸くずが」

「自分から舐めてほしくてやってきたのに、何を言うか」

「違います、あっ、本当に」

 赤子がするみたいで、そうではない胸への刺激。秀人の唇や指先は優子に快感を授けるため動いている。

「そんないい訳しなくても触ってやるから。次は? 何処を触って欲しいんだ?」

 もう片方が股を撫でた。優子の意思で開かれるそこは湿り気を帯び、秀人の指を迎える。

 秀人の指で奥を開かれる感覚に優子は天井を仰ぐ。目尻に雫がたまり頬を伝う。
 比べるなと釘を刺されたが、これまで組み敷かれて見上げた絶望の天井が今、塗り替えられていく気がする。

「おい、痛いのか? それともやっぱり嫌か?」

「いえ、そうではなくて。わたしも秀人様に何かをしたいです」

「お前が?」

「いけませんか?」

 傾げる優子は血の気が戻り、潤んだ瞳も相まって秀人の雄の質量を増させた。
 秀人の脳内はあれやこやが一気に飛び交い、喉を鳴らす。
 優子はあらゆる意味で硬くなる秀人から糸くずを除く。

「……なぁ、なんでもいいのか?」

「はい、わたしに出来る範囲でしたら」

 ただし、あまり難しいことはーーと付け加えようとした優子は手首を掴まれる。もう拒んだり、怯えたりしないせず、薬指へ唇を寄せられるのを見守った。

「俺を、愛していると言ってくれないか? 優子がそう言ってくれたら、これから待ち受ける困難を乗り越えられると思う」

「秀人様」

「臆病と笑ってくれていい、お前を抱けるのが嬉しいと同時に怖い。優子の覚悟を疑ってるんじゃなく、後悔させないか不安だ。誰かを大事に想うと、こんなに弱くなるんだな」

 優子を抱き締め、ここに存在するのを確認している。

「後悔などしません。秀人様、愛していますーー」

 優子が抱き返し告げ、2人は改めて互いの熱に呑み込まれていった。
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