上 下
17 / 120
籠の中の鳥

しおりを挟む
「やめて、徳増がわたしを傷付けるなんて、ありえないでしょ!」

 優子が即座に否定したのに対し、徳増はゆっくり首を横に振った。

「ーー本当にそうでしょうか? たとえば、お茶に細工がされているかも知れませんよ?」

「細工? まさか毒でもいれてると?」

「はい。お嬢様が気付いていないだけで」

「ふーん、なら毒が入っていないって証明するわ」

 優子は鼻で笑う。徳増がそんな真似するはずがないのだ。徳増はいつも優子を大切に扱い、味方でいてくれる。この先もずっと。

 きっと秀人を悪く言わない自分が面白くないのだろう、優子は判断すると手を掴まれたままカップを口にする。

 ごくごくと飲みきる優子。

「美味しいわ!」

 空になったカップを徳増へ見せる。徳増にいつまでも厳しい顔をされたくないので、笑顔を添えて。

 しかし徳増は表情を変えない。

「徳増、怒らないで」

 優子はなにやら急に寂しくなってくる。徳増に突き放されるのが堪えられなくなり、わざと幼い子のような物言いをした。 

 一気に流し込んだせいか、胃からこみ上げてくるものがある。優子は徳増の手を背中へ回そうと突っ伏し、撫でて欲しいと合図した。
 こういう露骨な甘え方をされれば結局この男は弱く、眉が動く。

「吐き気がしますか? 空腹に流し込むからですよ。夕食をきちんと召し上がらないから」

「食欲がわかないの」

「クッキーは別腹ですか?」

「そうよ、クッキーはあなたが作ってくれたんだから食べるに決まってるじゃない」

「……そうですか」

 呆れた声でも優子を心地よくさせる。徳増は優子の背中を優しく擦った。

「徳増、わたしはね、お父様に誇りだと言われて嬉しかった反面、いつか期待を裏切ってしまうのではないかと怖いの」

 撫でられ安心する優子から珍しく弱音が吐き出される。本人は優等生を演じるつもりはないが、根を上げる事で周囲の信頼を損なうんじゃないかと常に顔色を窺う。単純に自信がない。

「お父様、お母様やお姉様に見捨てられ、暁月様にも愛して貰えない、そんな姿が過ると不安で仕方ない。どうしたら上手く行くのかしら? 皆が幸せになれるのかしら?」

「残念ですが、そんな魔法ありませんよ。けれど、旦那様達がお嬢様から離れていこうと私が側にいますし、皆が不幸になろうとお嬢様が幸せであれば問題ありません」

 徳増の手は背中から優子の髪へうつり、丁寧にすく。家長は優子を誇りと言い表すが、徳増は違う。

「貴女は私の理想。私のような者が触れてはならない芸術品です。だからこそ私に貴女は傷付けられない、壊せないのでしょう」

 優子は目を瞑る。だんだんと眠気に包まれ、徳増の声が子守唄みたく遠い。そして心地よい。

「さて、薬がまわったようだな。最近は効きがいい、それだけ疲弊しているのか。お可哀想に」

 優子が抱き上げられる。すると徳増の心音を無意識に探し当てて頬を寄せていった。

「芸術品とは価値が分かる者の手元にあってこそ、だ」

 徳増の足は彼の私室へ運ばれていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~

一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが そんな彼が大好きなのです。 今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、 次第に染め上げられてしまうのですが……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

処理中です...