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暁月という男

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 着替えを済ませ優子が庭へ行くと、話し声が聞こえてきた。徳増と先日辞めた使用人の女性が顔を近付け、親しげに言葉を交わす光景は優子の足を止める。

「庭仕事までさせられるなんて割に合わないでんじゃない? あたしが口をきいてあげるからこっちに移っておいで、また一緒に働こうよ」

「悪いが興味はない」

「旦那様に義理立てかい? やめときな、この家はおしまいさ、みんな言ってる。優子お嬢様さえ、もっとまともな男に嫁いでくれれば持ち堪えたろうに。
暁月って奴、女関係が相当酷いらしいじゃないか? まぁ酷い男はここにもいるけど、ねぇ?」

「おい、べたべた触るな、気色悪い。一度寝たぐらいで何を勘違いしている? こちらは君が抱いてくれとしつこく強請るから仕方なく抱いただけだ」

 徳増の頬に乾いた音が落ち、女性が優子の方へ飛び出してくるまで一連の流れは早かった。
 すれ違う際、女性は優子にぶつかって尻もちをつかせるも、振り返らず謝罪もせず去っていく。

「お嬢様! 大丈夫ですか?」

 呆然と女性の足音を見送る優子。白い手袋をつけた腕が差し伸べられても反応しない。

「えっと、その、彼女は徳増の恋人なの?」

 優子は笑顔を繕い、ふらつきつつ自力で立ち上がった。徳増に触れたがらない。

「いえ、違います。下らない話を聞かせてしまいましたね。すいません」

 悪びれることなく徳増は話題を切ろうとした。早くお茶会を始めたいようだ。

「……」

 徳増の私的な部分へ介入するのは良くないと分かっていても、優子は沈黙に非難を込めてしまう。

「お嬢様が怒る事はないでしょう」

 徳増は肩を竦めた。
 徳増としては優子と過ごす残り少ない時間が大切であって、女性の件はかたをつけた気でいる。転職する気もなければあの女性と交際するつもりも更々ないのだ。
 優子も話を聞いていたなら、徳増の意思は承知しているはず。どうせまた無闇に同情しているのだろう、眉間へ皺を寄せる。

「仕方なく関係しただけです。お嬢様が気にかける必要はありませんよ」

「仕方なくって何? あの人は徳増が好きで、また一緒に働きたくて誘いに来たんでしょう? それなのに、そんな、かわいそうだわ」

「私も男ですので欲情することもありますし、恋情抜きで女性が欲しくなることもあります。しかし、優子様にこういった醜く浅ましい所を見せませんでした。私は貴女にだけは嫌われたくありませんので」

 徳増の言い分は裏を返せば優子以外どうでもいい、である。そして、なにより嫌わないで欲しいと訴えている。

 欲情などという刺激的な言葉が徳増より発せられ、優子は気取った。世の女性達がどうして徳増を放っておくのか疑問視してきたが、やっと理由が判明する。
 結論、徳増は優子限定で優しいだけなのだ。

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