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第2章 暗闇の中の光

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 会議の次の日から、慌ただしくなった。
 わずか十日後には、王女と革命軍リーダーの婚約の儀。二週間後には民へのお披露目がある。諸外国に発表もしなければいけない。詰め込みすぎのスケジュールになっており、当然、寝る間も惜しみながら準備するほかない。廊下を少し歩いただけで、たくさんの荷物を持ちながらかけていく人とすれ違う。
 もちろん、当事者のミリアーナが暇なはずもない。正確に言うとミリアーナの周りが暇なはずがない。本来三か月から半年、場合によっては一年かけて準備することをたった数日で行わなければいけないのだから。
 今日もまた、朝からひっきりなしに人が部屋に押しかけ、ドレスの採寸、式の段取りの確認を行った。今もまた、国内の貴族や諸外国についての講義を受けている最中だ。市井では不必要だった知識をひたすら詰め込まされた。



 午後になり、ようやく来客者が途切れた。

「次の予定は何ですか?」

 目が覚めてから一息つく間もなかったのだ。少しぐらい休みたい。

「次は、ダンスのレッスンになりますので、部屋を移動しなくてはいけませんね」

 手に持ったボードを確認しながらエレノアは答える。休ませてくれる気はさらさらないらしい。 
 簡素な服に着替え、部屋を後にした。



 久しぶりすぎてもう動きなんて覚えていない。そんな不安を抱えながら練習に臨む。
 しかし、意外と体は覚えているもので、少し練習していると足はこびなどを思い出してきた。
 もっと優雅な笑みを浮かべなさい。重心移動はもっと滑らかに。ミリアーナがダンスを出来ることが分かると講師はこれ幸いとばかりに要求を増していく。
 注意されたところをひとつひとつ直していく。
 もう何曲踊ったか分からなくなった頃、扉がノックされ、エレノアが入ってきた。それに気がついた講師がやっと終わりの合図を発した。
 ダンスレッスンから解放され、壁際へ寄って行き、水を飲む。喉が渇いていたらしく、喉を潤す水がとても美味しい。
 窓の外を見ると、陽は傾いていて、部屋に差し込む光も赤みを帯びてきている。
 どうりで喉が渇いているわけだ。ダンスを始めたのがお昼頃だったので、もう数刻が経過している。
 ずっと一緒に踊っていたはずの講師を見ると、特に息が上がっているようにも、疲れているようにも思えない。エレノアが中断させに来なければ、まだまだ練習は続いていただろう。

「進捗状況はどのくらいですの?」

 スケジュール管理のため、エレノアが問いかける。

「基本的なことは出来ておりますので、あとは婚約披露パーティーの一週間ほど前から再確認するぐらいでよろしいかと」

 気のせいか、私に話すときよりも講師の声が柔らかい気がする。
 ミリアーナは王女で、最近城に来たばかりで、悪虐の限りを尽くした王の娘。気楽に接してもらえる要素なんてひとつもない。周りのものが堅苦しく接しても、腫れ物に触るように接しても文句は言えない。しょうがないこととはいえ、同じく罪人の娘でありながら、親しみを持ちながら話してくれる人がいるエレノアが羨ましく感じられた。


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