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第七話

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「わたしはその後、貴方に復讐することだけを心の支えに生きてきました」

 王は王女に神性力が備わっているということを聞いてももう喜ぶことはなかった。

 自分が置かれている状況というのを理解し、がっくりと膝をついた。

「す、すまなかっ」

「謝らなくて良いです。

今さら言ったところで何も変わりませんわ」

王の謝罪の言葉を遮って吐き捨てるように王女は言う。

「わたしは復讐の機会を狙っていることを貴方たちに悟られることのないよう、必死に隠し、何も知らない王女として13年間演じましたわ。

貴方を見るたびにその心臓に刃を突き立てたい衝動を抑え、貴方を尊敬する父として見ているように見せることは想像以上に心を蝕んでいった。
 日に日に増す憎悪。わたしはお前を最も幸福なときに地獄に叩き落としてやろうと決めていた。

それが今日。

この記念すべきディニテイアの日にお前が誇りに思い、愛しているこの美しい大陸を地獄にしてやったのだ。

ふふ。

そろそろタイムリミットね。

さようなら、オウサマ」
 

 憎悪の色を引っ込め、楽しげに笑いだすと王女は短剣を取り出した。

 その短剣こそ彼女の母の命を奪った短剣であった。

「ま、待ってくれ。わしの命は何しても良い。

 だが、この大陸のことはどうか、どうか……」

「安心してください」
 
 そう言い、王女は短剣を握りなおすと王に向かって振り上げ、刺した。

 返り血を浴びる王女を見て王は自分が殺されかけているのに疑問を感じる。

何故心臓を外したんだ。

「安心してください」

王女は先ほどと同様の言葉を今度は王の耳元で囁く。

「この大陸はしっかり滅ぼしてあげますわ」

「っ……」

王は理解した。

 彼女は自分を楽に死なせる気はないのだと。

 近くで水の音が聞こえる。

気を失いそうなほどの鈍い痛みが襲うなか、第十三王女が精霊であった母とそっくりの笑みを浮かべ、消えた。


◇◇◇

 北の塔の屋根の上から眼下を見下ろす1人の少女、この大陸に存在する唯一の人間であり、最後の王女。

ただしそこには精霊達もいた。

「オウサマシンダネ」
 
「ウレシイ?」

「アメモアガリソウダヨ」

 混血を認めない精霊族は、長となる人間ほどの知能を持つ精霊以外総じて知能が低かった。
 しかし彼らはその分、憎悪、嫉妬といった負の感情を抱くことはない。知能が他の精霊より高い長でさえもあまりそのような感情に敏感ではなかった。

「ええ、そうね。虹が見えるかもしれないわ」

王女は空を見上げることなく精霊達に言葉を返す。彼
女は濁流に飲み込まれている王城を見下ろしていた。

「アメガフッタホントノリユウ、イワナクテヨカッタノ?」

「彼らが知る必要もないわ。二度と蘇ることはないもの」
 

 この惨事を引き起こした真の兇徒は王女ではなかった。

 正確には、彼女はキッカケにすぎなかったのだ。
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