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8、ブレーメン『ズ』結成

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「ほい」

「え?」

あの後、依頼人に目当てのものを渡し、依頼を達成………どこに行こうにも、今手持ちが少ない、まずは何とか路銀を稼ごうと彼と一緒にムスティン国へ移動、ハルバートは金が入った小袋を渡して来る。

「半分やるよ、手伝ってもらったしな」

「………まぁ正直助かるよ」

……今の私に遠慮している余裕はない、どうせ断っても彼に言いくるめられそうだ……。

「一緒に飯行かねぇか?、結構良い時間だし、俺持ちでいいからよ」

「悪いけどーーー」

流石にそこまでお世話にはなりたくないと断ろうとした瞬間、鳴り響く腹の虫……そういえば森の中では大した物は食っていなかった……。

「ーーー悪いけど?」

「……ご一緒させていただきます\\\」

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるハルバート、私は羞恥心に従い、顔を背けながら言い直す………。

「ーーーって事があったの」

「そりゃ災難だったな」

彼との食事は思いのほか楽しかった、何だか聞き上手だったので、いつの間にかあの森で行き倒れていた経緯まで話してしまった。

「………なぁ良かったらウチで働かないか?」

「え?」

「いく所ねぇんだろ?、見たとこ、腕は立つみたいだしな」

「…………」

………悪くない提案だ、聖剣があるとはいえ、私は魔力が無い、ほとんどの国で、魔力は絶対の指標、腕っ節がものをいう仕事に就こうとしても、門前払いされ、そもそも実力を見せる場にすらたどり着けないだろう………だが……。

「……………」

「………信用できないか………」

………ダメだ、妹達という理由もあるが…………それ以上にまた裏切られたらという不安が拭い切れない………話している感じでは彼はそんな事をしないと思うが、所詮ついさっき会ったばかりの他人、腹の中まではわからない………だって、家族や婚約者の本音すら見抜けない間抜けが私なのだから……。

「………ま、即答じゃないって事は少しは脈ありなんだろ?、返事は今すぐじゃなくて良いから、一晩でも一週間でも好きにじっくり考えてからで良いぞ」

「………なんで?」

「ん?」

「なんで私なんかの返事をそんなに待ってくれるの?」

「そりゃ………泣いてる女をほっとけるかよ」

「ーー!!、べ、別にこれはその………」

自分の話をしての思い出し涙だったかもしれないし、ガルシア国を出て初めて私を受け入れてくれる、認めてくれる人がいた事に対しての嬉し涙だったかもしれない、どちらかわからない、もしかしたら両方の意味の涙かもしれない、ともかく私はいつの間にか涙を溢していた。

「………ほら、これで拭け」

「あ、ありがと\\\」

「…………俺もうそろそろ行くわ、ちょいと急用ができたんでね」

「ーーえ、ちょ、ちょっと………」

彼は二人分の代金を置いて、店を出て行った………。

「返事するにも、どうやって……ーーー?」

待ち合わせの打ち合わせもなしでどうやって返事をしろというのかとぼやいていると、何かが床に落ちる。

「……………なるほど」

拾い上げると、それは小さく折り畳まれたチラシだった、何でも屋『ブレーメン』と書かれた裏側に、店までの簡単な地図が記載されている、気づかなかったが、どうやらハンカチの中に包んであったようだ。

「………どうしたもんかな」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

「…………」

「悪いねぇ、まだ閉店中ですぜお客さん」

貰った金で宿屋に泊まり、一晩じっくり考え、待たせるのも悪いし朝一に返事をしにいく………なぜか看板がなかったので、少し見分けづらかったが、店の前で何か作業しているハルバートを発見、足音で誰かが来たことを察知するも、私だとは気づいていないようだ、軽口を叩きながら、作業を継続する彼。

「………こんな朝っぱから何してんの?」

「お?、おおミレイ、ど、どどどうした?」

声で私だとわかり、振り向き、手を止めるハルバート、私だとわかるや否や、慌てふためく。

「?………ハンカチ返しにきた」

「こりゃご親切にどうも」

「………………」

「………………」

ハンカチを即座に返す、飄々と笑う彼、その後訪れる沈黙………用意していた、話題を一瞬で使い切ってしまった私………。

「………私と一緒にいると、聖女達に狙われるよ?」

「………関係ねぇよ」

「不器用だよ?」

「関係ねぇ」

「………魔力無しだし………」

「関係ねぇって、無問題モーマンタイだ」

「……………」

「それだけか?」

「え?」

「お前の不安はそれだけかって聞いてんだよ」

「…………本当に良いの?」

「当たり前だ、お前がそれを望むならな」

「それじゃあ、お世話に…………なろうかな」


一晩じっくり考え、決めた答えも直前でぐらついてしまう私、不安を吐露するも、全て間髪入れず関係ないと言ってくれる彼…………覚悟を決め、加入を表明する。

「そっか、良かった良かった………これ無駄にならなくて済んで……」

「………そういえばそれ何?」

「あーー、えっと………これはその………\\\\」

さっきいじっていたのはどうやら長い板のようだ、彼はバツが悪そうに目を泳がせて、言葉を濁す。

「………俺が良いっていうまで目を閉じてろ」

「え?、な、なんで?」

「良いから!!\\\」

「わ、わかった……」

なぜかいきなり目を閉じろと言われ、謎が深まるばかりだ……彼の勢いに押され、言われた通りに目を瞑る………。

「………もう開けてもいい?」

「ま、まだ五秒ぐらいしか経ってないだろ!!ダメだ!!」

「………ねぇ~まだなの~♪」

「わ、わかってて言ってんだろお前………」


ガサゴソと作業音聞こえる、私は暇なので目を開けて良いかと何度も彼に問いかける、だがまぁ当たり前だがそんな早く終わるなら目を瞑る必要もあるまい、当然のごとく拒否される。

「ーーーよし、もう良いぞ」

「………………?」

目を開けると、先ほどと何も変わらない風景が視界に広がる、ただ一点違う所があれば、先ほどと違って彼の店に看板が立てかけてあった事だ、その看板には少し違和感があった……。

「………あれ?、ブレーメン……『ズ』??」

「ああ、だってもう俺一人じゃないからな」

「ーーー!!」

チラシを確認するも、やはり『ブレーメン』と書かれている………字を間違えたのかと思い、ハルバートに問いかけるが、思わぬ返答が返ってきて、呆気に取られる。

「………それを朝から作業してたんだ、だけど、まだ私が首を縦に振るとはわからなかったのに……………どうして?」

「………何となくだ、何となく、アンタは断らないと思ったんだよ………」

どうやらさっきしていた作業は看板を書き直していたようだ……。

「そっか、だからさっきあんなに慌ててたんだ♪」

「ーーッッッ\\\、いや、その、ま、まさか朝イチで来るとは思わなかったんだよ!!!\\\」

私の揶揄いに赤面するハルバート………普段飄々としている彼が慌てふためているのは何だか唆るものがある、癖になりそうだ。

「……一つだけ聞いても良い?」

「なんだよ?」

「………何で私を誘ってくれたの?」

「そりゃ困ってる奴をーーー」

「なら、何で他に仲間がいないの?」

「…………」

………そこだけがわからなかった、他にメンバーがいるのかと思えば、一人だけだという、困っている人を誰彼構わず誘っていたら、少なくとも二、三人はいるはずだ、だが、実際は一人、明らかにおかしい。

「そりゃ、何でも屋なんて胡散臭い仕事、誘った所で誰も入ってくれないさ」

「まぁ………言われてみれば確かに…………」


なるほど………納得、なんか安定しなさそうな職業だし…………。


「……………あーーー、いや違う」

「違う?」

「勇気を振り絞ったお前に本心を隠すのは男が廃る、嘘だ………いやまぁ嘘ではないが、本心でもない、何でも屋なんか胡散臭い仕事、誰もやりたがらないし、困ってる奴を助けたいという気持ちもある……が」

「が?」

「それは理由の半分くらいだ………決定打じゃない」

折角、私を納得させられたのに、彼は自身の言動を否定する、照れ隠しに首をポリポリと掻く………どうやら今言ったのは建前だったらしい。

「………なら、決定打は何なの?」

「…………それは、その………\\\\\\」

「その?」

「ーーーお、お前に一目惚れしたからだよ!!\\\」

「………………はい?」


聖剣を狙って誘ってるとか、聖霊獣目当てで狙っているとか、元聖女というのを好む変態に奴隷として売るとか、色々考えていたが、彼の最後の言葉で私の思考は全て吹っ飛ぶ…………その瞬間、私達の時間が止まった………。



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