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即ざまぁ編
6、sideとある剣士の初恋2
しおりを挟む「ーーーッッッッ、こ、ここは………」
「あ、気がつきましたね……貴方の家です……」
「あ、アンタは……」
「私はマリア・クロス、怪しいものではありません」
家のベットで目が覚めた俺に話しかけてくるのはさっきの女改め、マリア・クロス、彼女はやさしく微笑んでくる。
「言っとくけど、俺なんか助けたところで金なんかないぞ」
「?、お金なんか取りませんよ、私が勝手に貴方を助けただけですからね」
「………」
今まで助けてくれる大人は全員金目当てだったので先に牽制をかける、金狙いならどんなに隠したところでどこかガッカリ感が出る、虎人族の優れた五感で見抜ける、しかし、彼女からはそのガッカリ感は出ていなかった。
「それより……これを食べてください」
「これは……」
「見たところ、外傷はそこまでひどくありません、本当に問題なのは栄養失調の方です、お口に合うかわかりませんが、よかったらどうぞ」
出てきたのはご馳走だった、いつも食っている硬い黒パンとは訳が違う、見ただけで柔らかさが伝わってきそうなパン、いろんな野菜が入っているシチュー、控えめに言って滅茶苦茶美味そうだった。
「…………ーーーだめだ!!!」
「ど、どうしたのですか?」
「……今日は稼ぎが無い、これ、弟達に渡してもいいか?」
「……え?」
腹の虫が鳴り響き、涎を垂らしてしまう、無意識の内に手を伸ばしてしまうが、脳裏に弟達の顔が思い浮かび、逆の手で押さえ込む、今日はヘマをしてしまったため、稼ぎが無い、この食事は弟達に渡そうと思う。
「「「ーーー俺達は食わなくても良いから食べてお兄ちゃん!!」」」
「お、お前ら……」
部屋にいきなり入ってきたのは弟達、自分達に構わず食べてくれと言ってくる。
「ぜ、全然お腹なんか減ってーー」
瞬間、弟達の腹が鳴り響く、空腹の大合唱だ。
「や、やっぱりお腹空いてるじゃないか、俺のことは気にせずーーー」
「ーーーッッッ、こ、こんなの大丈夫だから!!」
「いつも兄ちゃんに食わせて貰ってるから!!、今度は俺たちが我慢するよ!!」
「……………」
弟達は自分達のことは気にせず、飯を食ってくれと言ってくる、自然と涙が溢れて溢れる。
「ふふ、大丈夫ですよ、量はかなり作ったので最低で四人分はあるはずですので、兄弟で分け合って食べてください」
「「へ?」」
俺と弟は異口同音で間抜けな顔と声を晒す、俺達は恥も外聞も捨て飯にかぶりつく。
「……やっと見つけました」
マリアが何か呟いたような気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それで、いきなり庭に連れ出してなんのつもりだ?」
「アレス、私と一緒に魔王を倒し、世界を救いませんか?」
「ーーーッッッ??!!、何言ってんだアンタ!!!」
弟達が寝静まった後、庭へと誘われついていく俺、マリアはいきなり魔王を倒さないかと誘ってくる、いきなりだったので驚愕する俺。
「実は私は魔王を倒すため、この『七罪武具』を扱える戦士を探していたのです、貴方ならきっと使いこなせるはずです」
言葉と共に現れるのは禍々しい刀身の剣。
「な、なんだその剣」
「この剣の名は『暴食魔剣』、その昔、初代魔王軍の幹部、七大罪が一人、九頭竜犬狼の中でも特に食欲旺盛なものが与えられる称号、ベルゼブブ・ヒュドロニーという名の悪魔を封じ込めた剣です、剣はベルゼブブの魔力によって魔剣へと姿を変えました」
「そ、そんな、七大罪の悪魔なんて、おとぎ話じゃなかったのか?」
「いえ、実在します」
衝撃の事実をこれでもかと畳み掛けてくるマリア。
「な、なるほど……大食いの虎人族なら扱えるってことか」
「いえ、そういう事ではありません、そもそも食欲を我慢できない輩が使ったところで胃袋が破裂してもなお食べて、死ぬだけでしょう」
「どういうことだ?」
「貴方はあれほど空腹だったのに弟達にご飯を譲ろうとしましたね?」
「そ、それがなんだよ」
「貴方の節制の心ならこの剣の暴食に飲まれずに扱えるはずです」
「……俺の、節制の心?」
「はい………ですが、もちろん嫌だというなら断っても構いません、下手をすれば魔剣に精神を飲まれ、廃人コースは確定でしょうから……」
「は、廃人……」
「……どうしますか?、もし、了承してくれるのなら剣を手に取ってください、貴方が魔剣の食欲に打ち勝つことができれば契約は完了します」
「一つ聞きたい、俺がアンタについてって、魔王討伐の旅をした場合、弟達はどうなる?」
「国からの援助金が出され、治安の良い地域へと移されるのでまず大丈夫でしょう」
「そうか………なら俺の答えはこれだ!!!」
剣を掴む俺ーーーー瞬間、雪崩込んでくるのは耐え難い飢え、飢餓感だった。
「ーーーーッッッ??!!なーーーんだこれ!!!」
いつもの空腹感など比較にならない飢餓感、目に映るもの全てが美味そうに見えた、思わず噛みつこうとしてしまう。
「ーーー思い出してくださいアレス!!貴方は何の為に食事を我慢していましたか!!??、誰の為に節制していましたか??!!、何を守りたかったのですか??!!」
「ーーー弟達の為ッッッ、弟達の食事のため、弟達を守りたかった!!!」
「そうです!!!、人は大切の人のためだったらどこまでも強くなれる!!!、魔剣なんかに負けないはずです!!」
「ッッッ負けるかッッッ」
彼女の言葉で脳裏に思い浮かぶのは弟達…………一瞬、マリアの顔も浮かんだ気がした、瞬間、魔剣から流れ込んでくる黒い食欲を打ち消すような感覚を覚える。
「ハッッ、ハッッ……」
「……ここに契約は完了しました、よく頑張りましたね………よろしくお願いします、剣士アレス……」
「………よ、よろしく……」
彼女は倒れ込む俺を抱き抱えて支える、にこりと微笑しながら俺を褒めてくれる、さっきの契約とやらのせいか、胸の動悸が止まらない。
ーーーーーーーーーーーーー
「……また懐かしい夢を見たな……」
昨日マリアに告白したからか、彼女に恋心を抱いた時の事が夢に出てきた、一人呟く俺。
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