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2、職も失う

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「お前クビ」

不運というのは続くものなのか、妹と元婚約者の薄汚い本性を見せられ、帰る家を失うというかなり精神的にくるダブルパンチを貰ったが、それでも仕事と割り切って使用人の仕事をしていた私………いくら妹のサポートをしてるからと言っても、家で何もしてないのは心が痛むと言ったら、義父母が貴族のツテでなんとかフィレス家の使用人の仕事を与えてくれた、メイド服に着替え、家事洗濯掃除などをしていると、五大貴族の一角、フィレス家の執務室に呼ばれる、フィレス家次期当主リベルタス・フィレス様はなんの脈絡もなく一方的な解雇通告を告げた。

「はい?」

 一瞬頭が真っ白になった、否、理解することを拒んだ。

 しかし感情なんてものは時間が経てばたやすく冷やされ、冷静にさせられる。

 冷静になってしまえば必然、相手の言うことを論理的かつ合理的に受け止めれてしまう、それが人間というものだ。

 事実、私、コトハ・サンセット……いや、今はただのコトハか、ともかく私はリベルタス様の言葉の意味を把握した。

 だが、理解するのと解決するのはわけが違う、
 理解したところで打開策がなければ破滅的未来しかない。

 しかしそんな都合のいいものたかがいち使用人でしかない私に用意できてるわけもなく、額に脂汗をかきながら必死に頭を回転させるが時すでに遅い。

「だからクビだって言ってんの」

使用人の都合などどうでもいいのだろう、容赦なく追い討ちをかけてくるリベルタス様、もちろん納得できるはずもなく猛抗議する私。

「い、意味がわからないです!!なんでいきなり………」

 さも面倒そうに眉を寄せるリベルタス様。

こちとら住む家をなくしていて、給料は安いが、現状この仕事だけが命綱なのだ、説明ぐらいされなきゃ辞めるに辞められない。

「はぁ……今、フィレス家は財政難でな、とりあえず不要な経費を削っているわけだ」

………リベルタス様の説明を噛み砕くとつまり…………。

「………その一環として使用人を何割か解雇する……ということですか?」

「そういうことだな」

「そんな!」

「運が悪かったと思って諦めてくれ」

「ですが!なぜ私なのですか?!私は何年も真面目に働いてきました!、寧ろ私よりサボっている人はいくらでもいるはずです!!」

もちろん私はサボりなんて一切せず、義父母に迷惑をかけるわけにも、働かせてくれてるフィレス家の少しでも役に立てるよう、真面目に仕事をしてきた、むしろここの使用人達は見えない所でサボりを結構してる人が多く、そのせいで終わらない仕事なんかを陰ながら処理していた、一人じゃどうにも終わらない時は作業効率の悪い使用人達に式神を憑依させ、妹のように強化させ、無理やり効率を上げたり、むしろ人一倍働いてきたのだ。

一週間不眠不休で仕事させられたり、過酷な仕事を押し付けられても挫けずに働いてきたのだ。

必死に仕事をこなしてきた末、こんな風にクビにされるなど冗談にしても酷すぎる。

「あのさ、お前なんか勘違いして無いか?、どうしてもって言われたから入れてやってただけの他人だろうが、今まで給料払ってやった事に感謝するのが普通だろ」

リベルタス様の言葉を聞いた瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。

「「長年働いてきましたぁ~」って言ってもお前雑用以外なんかしたっけ?誰でもできることやってただけだろ?」

…….そうだな、そうだよな、誰でもできることを長年やってただけの私なんてただのサボリ魔だと思われていたのだろう。

「大体、おまえ、サンセット家を追放されたんだろ?、魔力無しで、能無しの平民をなんで今まで通りに使ってやらなきゃいけないんだ?」

「………………」

………完全に心が折れた私は投げやりに返答した。

「…………わかりました」

「よし、魔力なしの能無しにしては物分かりがいいな、ほら、最後の給料だ」

「………はい、ありがとうございます…………」

何も感情を挟まず返事をした。

「………あの、リベルタス様………実は私、かなりここの使用人達をサポートしていたので、きっと私がいなくなったらたちゆかなくなります、人員を今の内からアツくしといた方が良いかと……愚考します」


「は、なんだそれは、もうちょっとマシな脅しは思いつかなかったのか?、わかったわかった、とっとと出ていけ」

「…………はい、分かりました………すみません、適当なことを言ってしまって」


確かに非道い辞めさせられ方だが、それでも今の今まで働かせてくれた温情がある、私は最後に人としての優しさを振り絞り、一応は忠告する、しかしリベルタス様は聞く耳を持たない………私は金が入った小さい袋を持ってトボトボ退室する。

「………ん?」

部屋の前で呆然と立ち尽くしていると、部屋の中から何か聞き慣れた声が聞こえたので、締まり切っていないドアの隙間から部屋を覗き込む私。

「………これで良いかな、サンセット家当主、アイシャ・サンセット殿?」

「ありがとうございます、次期フィレス家当主、リベルタス・フィレス様」

「………にしてもなぜ?、義理とはいえ一応姉だったんでしょう?、ここまでする事はないのでは?」

「目障りで仕方ないからよ、この国から早く出ていって貰わないとね、ババァとジジィがなんとか見つけてくれたここの仕事がなくなれば次に就ける仕事なんてもうないでしょうからね」

「フフフ………何とも非道いお方ですねあなたは……」

「そんな事言って、お金欲しさに従ってるあなたも同類よ」

「…………これは一本取られましたね」

………どうやらさっきの話は全部口から出まかせで、アイシャに金を積まれたから私を解雇したようだ………。

「ーー!!………にしてもさっきのあいつの顔を見た??!!、脂汗浮かせて必死に抗議した後、正論言われて心底ショックそうなあの間抜けヅラ!!、もう可笑しくて可笑しくて吹き出しちゃう所だったよ!!」

「そうですねぇ、傑作でした」

………一瞬、アイシャと目が合った、一層笑みが深くなり、わざとらしく大声で、私の目を見ながら馬鹿にしてくる彼女。

「~ーーーッッッッ」

私はそれ以上その場にいられる事が耐えられず、早足でその場を離れる、しかしアイシャとリベルタス様の嘲笑の笑い声はいくら離れても耳に残り続けた。




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