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第12章 嵐は東の彼方からくる
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預かり処の玄関内から外へ吹き飛ばされたクキを追って、ツバキとサザンカも外へ飛び出していく。
そこらにある物を適当に武器にしたり、拳や蹴りを連続でお見舞いしてくるツバキを、クキは紙一重で交わしながら右へ左へ身軽に逃げる。
しかもクキがシロと呼ぶサザンカと似た従魔が、うまいことその場を撹乱し、ツバキにクキへのクリティカルヒットを許さない。
「勢いがあるのは口だけだな?」
「ちっ、この……!」
クキの余裕のある一言に、ツバキの頭に血が昇る。
「聞いたぞ。お前、この地で従魔を集めているらしいな?」
「それが何!」
「言っただろう……何度でも、お前を追って、島に連れ帰る、と」
「応じるとは言ってないでしょうが!」
「誰がお前の都合を考慮すると言った。手段は選ばんぞ!」
『ツバキ!』
「え?」
激しく動き回り戦闘をしている内に、気づけば預かり処の庭の中に侵入を許していた。
周囲には、息を殺してこちらの様子を伺っている預かり処の従魔達。
「……お前、おれの能力を知っているだろう?」
「はあ?」
「こちらでは、従魔術というのだったか」
「!」
ツバキの脳裏に、アリオスの指示を無視してクキに従っていたジョゼフィーヌの姿が浮かぶ。
「どうしようか。お前を襲わせるのもいいが……先ほど逃げていった奴を襲わせるのもいいな。それともこの村の奴らを襲わせようか?」
「あんた……っ!!」
クキの言葉に、ツバキは怒りに肩を震わせる。
『ツバキ。はったりだ。こいつの能力は知らねえが、うちにいる従魔全員を操る能力なんて持ってる筈がねえ」
「ふぅん。出来ない確率に賭けるのか? お前がその気なら、その駆けに乗ってやってもいい。でもおれが勝った時には、もう全てが遅いぞ」
『ツバキは戻らねえって言ってんだろうが!』
揺れるツバキに代わり、サザンカが吠える。
ツバキがサザンカの力強い咆哮に背中を押され否と答えようとしてしかし。流石に庭が気になったのか、預かり処からラーハルトがシシーと共に現れた。
「ツバキ師匠! 大丈夫ですか!?」
『なんじゃなんじゃ、トラブルかっ!?』
ラーハルトの頭上を飛ぶシシー、不死鳥を見たクキは驚きにほんの僅か目を見開くが、すぐににんまりと口角を上げる。
「ほう……これはまた、神の獣か」
「!」
「あの従魔1匹だけでも、おれの勝ちの線が強くなるな?」
正直に言って、流石のツバキも預かり処にいる魔物と一度に全ての従魔契約を行うことは単純に数が多くて荷が重い。
サザンカの言う通り、クキの言葉ははったりだろうと思っていたが、不死鳥を操れるのなら話が変わってくる。
不死鳥の強さは身をもって実感済みだ。これがラーハルトの手を離れ暴れまわろうものなら収拾がつかなくなる。
ラーハルトにシシーを遠くへ連れて行けと指示を出すか、それともクキを瞬時に制圧するか。ツバキがぐるぐると思考を巡らせていると、クキが口を開いた。
「……例え今おれを奇跡的にどうにかできたとしても、島からの追手はおれだけで終わると思うのか?」
「……」
「おれも島の人間として、巫女であるお前に同情しないわけでもない。お前が素直に島に帰ってくるなら、しばしの時間をやるつもりだ」
「どういうこと」
「七日だ。七日だけくれてやる。時が来たら──」
突然、何かの破裂音と共に辺りが真白い煙で包まれる。
煙が晴れ、周囲を見渡せるようになった頃には、クキもクキの従魔も姿を消していた。
「……な、な、なんだったんですか一体!? え!? あの不審者とちっこいサザンカは!?」
『おい、誰がちっこいサザンカだ! 俺よりも遥かに小粒で遥かに弱っちく、ちっっっとも俺に似てなかっただろうが!!』
『けほっ、けほっ、そんなんどうでもいいのじゃ! けむたいのじゃーっ!』
いつもの預かり処の雰囲気が戻ってきて、ラーハルトはツバキへ再度質問をする。
「それで、さっきの人達はなんだったんですか? あの人が、ギルドに報告していた不審者ですよね? 師匠はなんか知ってる相手みたいでしたけど……」
流石にこれで何も知らないは無理があるか、とツバキは1度閉じた口を開く。
「名前はクキ。まあ、従魔術師といっていいと思う。連れてるのは従魔で……」
ツバキはそこで1度区切り、少しの間逡巡した後に告げる。
「サザンカと同種の魔物。クキも私と同郷で、私を追っているみたい」
「え!? そ、そもそもサザンカって何の魔物……っていうか、師匠と同郷って!? え!? 待って待って下さい、師匠を追ってる!? え、なんで!?」
聞いた分だけ更に謎が増しましたけど!? と取り乱すラーハルトにツバキは曖昧に笑って返す。
「それはまた後でね。ちょっと疲れちゃった」
「あ、そ、そうですよね。すみません。片付けは俺がしますから、師匠は中で休んでてください」
「うん、ごめん。ありがと」
ラーハルトに礼を伝えると、ツバキはサザンカと共に預かり処の中へと先に入っていく。
「はあ……師匠を追ってるって……? なんなんだ一体」
ラーハルトはハテナしか浮かんでこない頭を降って、ひとまず片付けに集中した。
ラーハルトがところどころ荒れた庭と家の周囲を片付け家の中へ戻ると、やけに鼻で鳴く毛玉猫達。
「ん? どうしたお前達? お腹でも空いた?」
『みゃーあ、みゃお~んっ!』
『にゃああああああ!』
『みゃああああああああ!!』
「どうしたどうした!? 師匠ぉ! ツバキ師匠おお! 毛玉達の様子が……師匠?」
中で休んでいる筈のツバキに助けを求めるも、返ってくる反応はない。
「ツバキ師匠?」
そうして、ツバキはサザンカと共に預かり処から消えた。
そこらにある物を適当に武器にしたり、拳や蹴りを連続でお見舞いしてくるツバキを、クキは紙一重で交わしながら右へ左へ身軽に逃げる。
しかもクキがシロと呼ぶサザンカと似た従魔が、うまいことその場を撹乱し、ツバキにクキへのクリティカルヒットを許さない。
「勢いがあるのは口だけだな?」
「ちっ、この……!」
クキの余裕のある一言に、ツバキの頭に血が昇る。
「聞いたぞ。お前、この地で従魔を集めているらしいな?」
「それが何!」
「言っただろう……何度でも、お前を追って、島に連れ帰る、と」
「応じるとは言ってないでしょうが!」
「誰がお前の都合を考慮すると言った。手段は選ばんぞ!」
『ツバキ!』
「え?」
激しく動き回り戦闘をしている内に、気づけば預かり処の庭の中に侵入を許していた。
周囲には、息を殺してこちらの様子を伺っている預かり処の従魔達。
「……お前、おれの能力を知っているだろう?」
「はあ?」
「こちらでは、従魔術というのだったか」
「!」
ツバキの脳裏に、アリオスの指示を無視してクキに従っていたジョゼフィーヌの姿が浮かぶ。
「どうしようか。お前を襲わせるのもいいが……先ほど逃げていった奴を襲わせるのもいいな。それともこの村の奴らを襲わせようか?」
「あんた……っ!!」
クキの言葉に、ツバキは怒りに肩を震わせる。
『ツバキ。はったりだ。こいつの能力は知らねえが、うちにいる従魔全員を操る能力なんて持ってる筈がねえ」
「ふぅん。出来ない確率に賭けるのか? お前がその気なら、その駆けに乗ってやってもいい。でもおれが勝った時には、もう全てが遅いぞ」
『ツバキは戻らねえって言ってんだろうが!』
揺れるツバキに代わり、サザンカが吠える。
ツバキがサザンカの力強い咆哮に背中を押され否と答えようとしてしかし。流石に庭が気になったのか、預かり処からラーハルトがシシーと共に現れた。
「ツバキ師匠! 大丈夫ですか!?」
『なんじゃなんじゃ、トラブルかっ!?』
ラーハルトの頭上を飛ぶシシー、不死鳥を見たクキは驚きにほんの僅か目を見開くが、すぐににんまりと口角を上げる。
「ほう……これはまた、神の獣か」
「!」
「あの従魔1匹だけでも、おれの勝ちの線が強くなるな?」
正直に言って、流石のツバキも預かり処にいる魔物と一度に全ての従魔契約を行うことは単純に数が多くて荷が重い。
サザンカの言う通り、クキの言葉ははったりだろうと思っていたが、不死鳥を操れるのなら話が変わってくる。
不死鳥の強さは身をもって実感済みだ。これがラーハルトの手を離れ暴れまわろうものなら収拾がつかなくなる。
ラーハルトにシシーを遠くへ連れて行けと指示を出すか、それともクキを瞬時に制圧するか。ツバキがぐるぐると思考を巡らせていると、クキが口を開いた。
「……例え今おれを奇跡的にどうにかできたとしても、島からの追手はおれだけで終わると思うのか?」
「……」
「おれも島の人間として、巫女であるお前に同情しないわけでもない。お前が素直に島に帰ってくるなら、しばしの時間をやるつもりだ」
「どういうこと」
「七日だ。七日だけくれてやる。時が来たら──」
突然、何かの破裂音と共に辺りが真白い煙で包まれる。
煙が晴れ、周囲を見渡せるようになった頃には、クキもクキの従魔も姿を消していた。
「……な、な、なんだったんですか一体!? え!? あの不審者とちっこいサザンカは!?」
『おい、誰がちっこいサザンカだ! 俺よりも遥かに小粒で遥かに弱っちく、ちっっっとも俺に似てなかっただろうが!!』
『けほっ、けほっ、そんなんどうでもいいのじゃ! けむたいのじゃーっ!』
いつもの預かり処の雰囲気が戻ってきて、ラーハルトはツバキへ再度質問をする。
「それで、さっきの人達はなんだったんですか? あの人が、ギルドに報告していた不審者ですよね? 師匠はなんか知ってる相手みたいでしたけど……」
流石にこれで何も知らないは無理があるか、とツバキは1度閉じた口を開く。
「名前はクキ。まあ、従魔術師といっていいと思う。連れてるのは従魔で……」
ツバキはそこで1度区切り、少しの間逡巡した後に告げる。
「サザンカと同種の魔物。クキも私と同郷で、私を追っているみたい」
「え!? そ、そもそもサザンカって何の魔物……っていうか、師匠と同郷って!? え!? 待って待って下さい、師匠を追ってる!? え、なんで!?」
聞いた分だけ更に謎が増しましたけど!? と取り乱すラーハルトにツバキは曖昧に笑って返す。
「それはまた後でね。ちょっと疲れちゃった」
「あ、そ、そうですよね。すみません。片付けは俺がしますから、師匠は中で休んでてください」
「うん、ごめん。ありがと」
ラーハルトに礼を伝えると、ツバキはサザンカと共に預かり処の中へと先に入っていく。
「はあ……師匠を追ってるって……? なんなんだ一体」
ラーハルトはハテナしか浮かんでこない頭を降って、ひとまず片付けに集中した。
ラーハルトがところどころ荒れた庭と家の周囲を片付け家の中へ戻ると、やけに鼻で鳴く毛玉猫達。
「ん? どうしたお前達? お腹でも空いた?」
『みゃーあ、みゃお~んっ!』
『にゃああああああ!』
『みゃああああああああ!!』
「どうしたどうした!? 師匠ぉ! ツバキ師匠おお! 毛玉達の様子が……師匠?」
中で休んでいる筈のツバキに助けを求めるも、返ってくる反応はない。
「ツバキ師匠?」
そうして、ツバキはサザンカと共に預かり処から消えた。
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