捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

文字の大きさ
上 下
50 / 53
第12章 嵐は東の彼方からくる

12

しおりを挟む
 急遽キャンセルとなった従魔術についての催しのその後の対応や、ガリアからの再度の事情聴取。
 それらだけでも忙しい日々を過ごしていた預かり処だったが、従魔術師協会と冒険者ギルド連名で出されたあるお触れが、更に忙しさに拍車をかけていた。
 いわく、従魔契約に干渉し得る何らかの手段を持った不審者が出没しているという事。
 いわく、ルルビ村のある鍛冶屋も被害にあったが、民間の協力者のおかげもあり事なきを得た事。
 必ずしも対処不可能な事態ではないため、警戒はしつつも落ち着いて行動するよう──
 「いや、余計な情報載せるなっつーの!!」
 冒険者ギルドで配られたいたその注意書きを思わずぐしゃぐしゃにしてツバキは叫ぶ。
 「民間の協力者って、もう思いっきり特定されてるんだけどおおお!!」
 ツバキの言う通り、預かり処の名前こそ伏せられていたものの、噂やちょっとしたヒントから”民間の協力者”が預かり処であると知られ、不審者に対して不安に駆られた従魔術師達が連日預かり処に押しかけていた。
 「なんか尾ひれ背びれ付いて、不審者を撃退したことになってるし! どんな方法でって聞かれても知らないし!」
 『従魔の預かり処じゃなくて、護衛屋だと思ってる奴もいるしな』
 「クレーム入れてやる……従魔術師協会と冒険者ギルド両方にクレーム入れてやる……!」
 隈がくっきりと主張する虚な目で、冒険者ギルドの方向を睨むツバキに、疲れて毛艶が若干落ちているサザンカは「その暇があるなら俺は寝たい」とぼやく。
 と、預かり処の玄関から豪快に扉が開かれる音がする。
 次いで、ドタバタと廊下を走る騒音と、ラーハルトの叫び声。
 「──っ、師匠っ! 大変です大変です大変ですうううう! ツバキ師匠おおおおお、ぶべらっ!!」
 「あっ」
 『うおっ』
 ツバキとサザンカの居る居間へと駆け込んできたラーハルトは、走ってきた勢いを殺し切れずにほとんど突撃するように床へと転げる。
 赤くなった額を心配するツバキ達にそれどころではない! とラーハルトは手にしたある物を広げてみせる。
 「これっ! これを見て下さいっ!!」
 「へっ?」
 ラーハルトが掲げてみせた物。それは、少しの写真と文字がびっしりと踊る大きな紙。
 「……新聞?」
 「そうです! ここです、ここ読んで下さい!」
 「ん?」
 ラーハルトが穴が開くんじゃないかというほど強い力で指し示した記事の1つを、ツバキとサザンカは頭を寄せて読む。
 「『話題の従魔預かり処の黒い疑惑……?』」
 でかでかと書かれた見出しと共に載っている写真には、目元に黒い線が引かれているものの、がっつりツバキと分かる人物が写し出されている。
 「なにこれっ!?」
 『えー……近頃何かと話題の従魔預かり処。善意の保護施設と銘打ってはいるが、実際は従魔術師協会のルール違反に、従魔への虐待疑惑、不当な金銭の要求を繰り返し行う……誰の話だ!?』
 「この前の新聞記者覚えてますか? 冒険者ギルドまで追いかけてきた記者!」
 『なんかすげえ感じ悪かった奴だろ?』
 「そいつが書いた記事なんですよ! あいつ、出鱈目ばっか書いて……!」
 酷いですし、悔しいです、と全身を使って感情をあらわにするラーハルトに、逆に冷静になったツバキがその背を叩いて慰める。
 「ま、こうなるだろうとは思ってたじゃない。大丈夫よ、こんな三流新聞。ほとんど嘘っぱちなんだし、その内噂なんて忘れられるわよ!」
 「そ、そうですかね……ん? ほとんど?」
 「あ」
 「え?」
 「……」
 「ツバキ師匠!? そういえば、前もなんか誤魔化してましたよね!?」
 目を逸らし続けるツバキだったが、どれだけ逃げてもしつこく目の前に回り込んでくるラーハルトに根負けしたツバキがため息を吐く。
 「いや、あの、従魔術師協会のルールがうんたら~っていうのだけど…………まあ、ルールは破ってる」
 「は!?」
 ツバキの爆弾発言を聞いたラーハルトは、一体どういう事だとツバキの肩を揺らす。
 「いやほら、あのー、ここにいる魔物全てとは従魔契約してないっていうだけ」
 「従魔契約してない魔物いるんですかここ!? ツバキ師匠が預かる時にみんな従魔契約してるんじゃないんですか!?」
 「いや、爆弾鼠とか妖精兎とか、群れのリーダーとは従魔契約してるからいいのかなって……私、出身、違う、ここ。協会ルール、よく知らない」
 「なんで急に片言!? ちょっと! そんな言い訳通用しませんよ!?」
 「うーん……駄目か。でも協会のルールをよく知らなかったっていうのは本当なんだよね。ラーハルトが来て、預かり処の看板を掲げて、暫くしてから協会にルールがあるっていうのも知ったし……」
 「そうだったんですか!?」
 ツバキは決まりが悪そうにぽりりと頬をかく。
 どうしましょうか、とラーハルトは顔を青くする。
 「従魔術師協会にきちんと申告しよう。何らかのペナルティはあるかもしれないけど、記事にされた以上下手に隠したり言い訳を重ねるのは良くないわ」
 「1番最初に言い訳したのは師匠、」
 「うるさいっ」
 善は急げと、まだルルビ村に留まっている筈のガリアを訪ねよう、とツバキとラーハルトは玄関へ走る。
 ラーハルトが玄関扉に手をかけようとして、「あ、そうだ。毛玉猫達のおやつを置いていかないと」と振り返り一歩戻る。
 その瞬間。
 ──ドガアアアアアン!!
 一瞬前までラーハルトが居た玄関が扉ごと吹っ飛んだ。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜

鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。 だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。 これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。 ※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

そして、彼はいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたとの婚約を破棄するっ!」 王都、社交シーズン終わりの王宮主催の舞踏会。 その会場に王太子のよく通る声が響きわたった。 王太子は婚約者がいかに不出来かを滔々と述べ立てて、だから自分には、将来の王妃には相応しくないと彼女を断罪する。そして心当たりがあり過ぎる彼女は特に反論もしない。 だが自分の代わりに婚約すると王太子が告げた人物を見て唖然とする。 なぜならば、その令嬢は⸺!? ◆例によって思いつきの即興作品です。 そしてちょこっとだけ闇が見えます(爆)。 恋愛要素が薄いのでファンタジージャンルで。本当はファンタジー要素も薄いけど。 ◆婚約破棄する王子があり得ないほどおバカに描かれることが多いので、ちょっと理由をひねってみました。 約6500字、3話構成で投稿します。 ◆つい過去作品と類似したタイトル付けてしまいましたが、直接の関係はありません。 ◆この作品は小説家になろうでも公開しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

追放ですか?それは残念です。最後までワインを作りたかったのですが。 ~新たな地でやり直します~

アールグレイ
ファンタジー
ワイン作りの統括責任者として、城内で勤めていたイラリアだったが、突然のクビ宣告を受けた。この恵まれた大地があれば、誰にでも出来る簡単な仕事だと酷評を受けてしまう。城を追われることになった彼女は、寂寞の思いを胸に新たな旅立ちを決意した。そんな彼女の後任は、まさかのクーラ。美貌だけでこの地位まで上り詰めた、ワイン作りの素人だ。 誰にでも出来る簡単な作業だと高を括っていたが、実のところ、イラリアは自らの研究成果を駆使して、とんでもない作業を行っていたのだ。 彼女が居なくなったことで、国は多大なる損害を被ることになりそうだ。 これは、お酒の神様に愛された女性と、彼女を取り巻く人物の群像劇。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。