捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

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第12章 嵐は東の彼方からくる

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 冒険者ギルドでラーハルトと別れて預かり処へ戻ってすぐ、ツバキはサザンカの背に跨りアリオスが素材採取を行っていた山へとやって来た。
 ひづめの跡や燃えかす、もしくは直接的に炎がないか、それなりの速度を出しながらくまなく探して回る。
 『煙で炎馬やつの匂いがよく分からないが……ひとまず煙の匂いが濃くなる方へ行くぞ!?』
 「うん!」
 普通の犬でも人間より鼻が利く。言うまでもなく、普通の犬ではないサザンカなら尚のこと。けれどそれでも中々匂いを辿れないのか、サザンカは苛々と舌を打つ。
 『くそ! 中々匂いが……んっ!?』
 と、突如サザンカが急ブレーキをかけて止まる。
 「わっ! どうしたの!?」
 サザンカの背の上で思わず前に転げ落ちそうになったツバキはなんとか体勢を整える。
 『匂いが……』
 「ジョゼフィーヌを見つけたの!?」
 『いや、ジョゼフィーヌじゃねえ、でも』
 サザンカはすんすんと鼻をひくつかせる。
 『急に、知らない匂いが……』
 「え?」
 「──見つけた」
 「っ!?」
 突如、第三者の声が空気を割いた。
 ハッとしたツバキとサザンカが声の方へ顔を向ければ、そこにはいつの間にか頭から黒いマントを羽織った人物が1人立っている。
 『っ誰だ、てめえ!』
 すかさずサザンカはツバキを隠すように構えて牙をむく。
 形相も圧も恐ろしいサザンカを前にして、しかし謎の人物は表情ひとつ変えずにただその場に突っ立ったままでいる。
 サザンカが更に相手を詰めようとして咆哮を上げる。が、勢い良く立ち上がる炎の渦が現れサザンカの咆哮を掻き消した。
 『なんだっ!?』
 恐ろしい熱気が肌を舐める。熱さに細めた目をなんとか開ければ、謎の人物にはべるようにしている燃えるたてがみ
 『なっ、どうしてジョゼフィーヌがアリオス以外の奴に従ってんだ!?』
 「……もしかしなくても、あんたがアリオスが会ったっていう不審者かしら」
 「……」
 「ていうか、従魔術師協会から注意喚起の出てた不審な事件の犯人?」
 「……」
 謎の人物は一言も発さず、両者の間にぴりぴりと緊張が走る。
 とりあえず謎の人物も、それに従っているように見えるアリオスの従魔ジョセフィーヌもどちらも確保しなければ、とツバキはどうにか思考を巡らせる。
 具体案が思い浮かばぬまま、もうここはいつも通り力技で押し通すか、とツバキが動こうとした瞬間。
 謎の人物が口を開いた。
 「我らが島から逃げたは、お前だな」
 「っ!?」
 ツバキの動きがぴたりと止まり、その瞳は大きく開かれる。
 「……な、んで」
 「逃げられると思っているのか、本当に」
 一歩、謎の人物が前に出る。
 ツバキの瞳が揺れる。
 「たとえ逃げ出しても、どこまでも追いかけるぞ。我らの秘術を深く知り過ぎている上に、なら、尚更どこへ行こうと逃げ切れる筈がないだろう」
 『おい、ツバキ! こいつ、島の──』
 サザンカが吠えるが、ツバキの体はまるで凍ってしまったかのように動かない。
 「4本脚の獣を狩っていれば、いずれ貴様に辿り着くと、労した甲斐があった」
 深く被ったマントの下で、無表情だった人物の口元が初めてにやりと上がる。
 「さて、では貴様を連れて帰ればおれの任務は完了だ」
 マントの下からぬるりと女性らしい生白い手が伸びる。それに呼応するように、再び燃え上がるジョゼフィーヌの鬣。
 『──ッツバキ!!』
 サザンカがツバキの衿首を咥えて、後ろへ大きく飛び退く。
 『おい! しっかりしやがれ!』
 「ぁ……ご、ごめん」
 『あいつが誰だか知らねえし、ジョゼフィーヌがどうなってんのかも分からねえが、やる事は決まってるだろうが!』
 サザンカの喝に、ツバキも頭を振って気持ちを入れ替え頷く。
 「え、ええ、そうね。とにかく、あいつをふん縛ってギルドまで連れ帰る! 細かい事は、全部後!!」
 ツバキに呼応するように、サザンカが吠えた。
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