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第12章 嵐は東の彼方からくる
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極彩鳥の鳴き声が響き渡る朝。天気は晴天、風も少ない。
「うーんっ! まさに青空教室日和ね!」
庭に出たツバキはぐぐっと伸びをして深呼吸をすると、よしっと気合いを入れる。
「従魔を簡単に飼育放棄するような人が少しでも減るように、従魔術講座を成功させましょう!」
朝一番の極彩鳥の世話を終えたラーハルトも、パンパンと自身の両頬を叩いて気合いを入れる。
「今日はこの村以外からも来る方がいるらしいですよ。ポスターを貼らせてもらった冒険者ギルドの受付に問い合わせがきてたそうです」
「え、うわ。本当? え、ちょっと緊張してきた……」
「ちょっと、しっかりして下さいよ。大丈夫ですって、ツバキ師匠なら!」
『おーい、なんかもう玄関の方に人きてんぞ』
「えっ!? もう!? じゃ、じゃあ俺が庭に案内しますんで、師匠はここで参加者の受付お願いします!」
「うん、お願いね!」
緊張と高揚で気持ち頬を赤くしたラーハルトは、ばたばたと玄関まで走っていった。
預かり処の庭に、青空教室として準備した椅子は十脚。
それらは全て埋まり、立ったままの状態の人もちらほら。
「……予想よりも人多くない!?」
参加者で賑わう預かり処の庭の一角。そこに設置した黒板の裏側で、ツバキとラーハルトはひそひそと小声で話す。
「なんか装備を見るからに、ランク高そうな人とか結構居るんだけど!?」
「えーっ!? あ、あくまで初歩的な内容をやる予定ですよね……!?」
参加者の面々を見て、ツバキとラーハルトは圧倒される。これが失敗すれば預かり処の評判も悪くなるかもしれないし、従魔の飼育放棄を減らしたいという目標が遠のくかもしれない。
朝に入れた気合いがどこかへ旅立ってしまった2人だったが、いち早く旅立った気合いを帰宅させてツバキが喝を入れる。
「やる前から怯んでちゃ話になんないわよ! いい!? 当たって砕けろよ!」
「いや、砕けちゃ駄目じゃないですか!?」
『……いや、早く裏側から出てきて始めろよ』
サザンカのぼやきに、2人はハッとしてそそくさと参加者の前に立った。
ツバキが黒板の前に立つと、ざわついていた参加者達のお喋りがぴたりと止み、視線が集中する。
流石に少し緊張しつつも、ツバキは挨拶をするべく口を開く。
「えーっと、今日は預かり処の催しに参加していただいてありがとうございます!」
当たり障りのない挨拶をしてから、まずは自己紹介をする。
「預かり処のツバキです。それと弟子で従魔術師のラーハルト、そして私の従魔であるサザンカです」
ツバキから紹介されたラーハルトは会釈してから、この日の為に作成した小冊子を参加者達へ配って回る。
参加者全員に小冊子が回った事を確認したツバキは、さて、と早速講座の開始を告げる。
「それでは、従魔術講座を──」
「……あのー」
「えっ?」
が、狙ったようなタイミングで、ツバキの言葉を遮るように声が投げられる。
声が上がった方を見てみれば、1人の男性が立ち見参加者の中から手を挙げている。
「あの、早速なんですけど、ツバキさんにお尋ねしてもいいですか?」
「え? ええ、どうぞ」
まだスタートしてすらいないけど、というツバキの戸惑いを意に介さずに男性は質問を続ける。
「こちらの従魔の預かり処、ですか。全ての従魔はツバキさん、もしくはそちらのお弟子さんと従魔契約を交わしているのでしょうか?」
「え? いや、それは、」
「従魔術師協会による従魔術師ルールッ! その第1条ォッ!!」
「っ!?」
突然大声を発した男性に、ツバキも周囲の参加者もびくりと肩を揺らす。
「従魔術師は従魔契約を交わしていない魔物を連れ歩くべからずッ!! なぜならば、魔物は人間にとって脅威となる存在であり、従魔契約によって服従させられる魔物のみに人間の生活圏への侵入を許可するものとする!!」
「な、なんなんですか、いきなり」
「預かり処さんっ!!」
いつの間にかメモとペンを手に、男性はぐいぐいと周囲の参加者を押し除けて前へ出る。
「こちらには従魔がかなりの数おられますよね!? その全てと従魔契約するのはとても難しい事なのではないですか!? 凄腕の高ランクの従魔術師でさえ、従魔契約できる数はせいぜい10匹程度だと聞いておりますが!?」
「そ、それは、」
「もし! もしお二方がこちらにいる従魔……魔物と従魔契約を交わさずに、預かり処なんて施設を運営していらっしゃるのなら、それは従魔術師協会のルールに違反している事になるんじゃないですかねぇ?」
「ええっ!?」
ざわざわと、参加者の間に動揺が走る。
突然の事態に狼狽えるラーハルトを下がらせて、ツバキが男性に対峙する。
「質問に答える前に、そもそもあなたは誰なの?」
「これは失礼いたしました。わたくし、中央新聞の記者ライリーと申します」
被っていた帽子を脱ぎ、名刺を差し出した男性、ライリーはにこりと笑う。
「そう、新聞社の記者さん。ところで、あんたうちの催しものをぶち壊してる自覚ある? うちに質問があるなら、普通に来なさいよ」
「いやあ、黒い疑惑のある所って、事前にお尋ねすると色々と隠しちゃうところがありまして……」
「黒い疑惑って何?」
一触即発な雰囲気が辺りに漂い始め、ツバキとライリー以外はみな口をつぐんでやり取りを見守る。
微かにサザンカも唸り声を発し出し、どうにも居心地の悪い空間となってしまった青空の下、それは突然舞い込んできた。
「──ツバキさん! 大変です!!」
まるで転がる勢いで庭に駆け込んできた人物が叫ぶ。
「鍛冶屋が、アリオスが素材収集から大怪我を負って帰ってきました!!」
「うーんっ! まさに青空教室日和ね!」
庭に出たツバキはぐぐっと伸びをして深呼吸をすると、よしっと気合いを入れる。
「従魔を簡単に飼育放棄するような人が少しでも減るように、従魔術講座を成功させましょう!」
朝一番の極彩鳥の世話を終えたラーハルトも、パンパンと自身の両頬を叩いて気合いを入れる。
「今日はこの村以外からも来る方がいるらしいですよ。ポスターを貼らせてもらった冒険者ギルドの受付に問い合わせがきてたそうです」
「え、うわ。本当? え、ちょっと緊張してきた……」
「ちょっと、しっかりして下さいよ。大丈夫ですって、ツバキ師匠なら!」
『おーい、なんかもう玄関の方に人きてんぞ』
「えっ!? もう!? じゃ、じゃあ俺が庭に案内しますんで、師匠はここで参加者の受付お願いします!」
「うん、お願いね!」
緊張と高揚で気持ち頬を赤くしたラーハルトは、ばたばたと玄関まで走っていった。
預かり処の庭に、青空教室として準備した椅子は十脚。
それらは全て埋まり、立ったままの状態の人もちらほら。
「……予想よりも人多くない!?」
参加者で賑わう預かり処の庭の一角。そこに設置した黒板の裏側で、ツバキとラーハルトはひそひそと小声で話す。
「なんか装備を見るからに、ランク高そうな人とか結構居るんだけど!?」
「えーっ!? あ、あくまで初歩的な内容をやる予定ですよね……!?」
参加者の面々を見て、ツバキとラーハルトは圧倒される。これが失敗すれば預かり処の評判も悪くなるかもしれないし、従魔の飼育放棄を減らしたいという目標が遠のくかもしれない。
朝に入れた気合いがどこかへ旅立ってしまった2人だったが、いち早く旅立った気合いを帰宅させてツバキが喝を入れる。
「やる前から怯んでちゃ話になんないわよ! いい!? 当たって砕けろよ!」
「いや、砕けちゃ駄目じゃないですか!?」
『……いや、早く裏側から出てきて始めろよ』
サザンカのぼやきに、2人はハッとしてそそくさと参加者の前に立った。
ツバキが黒板の前に立つと、ざわついていた参加者達のお喋りがぴたりと止み、視線が集中する。
流石に少し緊張しつつも、ツバキは挨拶をするべく口を開く。
「えーっと、今日は預かり処の催しに参加していただいてありがとうございます!」
当たり障りのない挨拶をしてから、まずは自己紹介をする。
「預かり処のツバキです。それと弟子で従魔術師のラーハルト、そして私の従魔であるサザンカです」
ツバキから紹介されたラーハルトは会釈してから、この日の為に作成した小冊子を参加者達へ配って回る。
参加者全員に小冊子が回った事を確認したツバキは、さて、と早速講座の開始を告げる。
「それでは、従魔術講座を──」
「……あのー」
「えっ?」
が、狙ったようなタイミングで、ツバキの言葉を遮るように声が投げられる。
声が上がった方を見てみれば、1人の男性が立ち見参加者の中から手を挙げている。
「あの、早速なんですけど、ツバキさんにお尋ねしてもいいですか?」
「え? ええ、どうぞ」
まだスタートしてすらいないけど、というツバキの戸惑いを意に介さずに男性は質問を続ける。
「こちらの従魔の預かり処、ですか。全ての従魔はツバキさん、もしくはそちらのお弟子さんと従魔契約を交わしているのでしょうか?」
「え? いや、それは、」
「従魔術師協会による従魔術師ルールッ! その第1条ォッ!!」
「っ!?」
突然大声を発した男性に、ツバキも周囲の参加者もびくりと肩を揺らす。
「従魔術師は従魔契約を交わしていない魔物を連れ歩くべからずッ!! なぜならば、魔物は人間にとって脅威となる存在であり、従魔契約によって服従させられる魔物のみに人間の生活圏への侵入を許可するものとする!!」
「な、なんなんですか、いきなり」
「預かり処さんっ!!」
いつの間にかメモとペンを手に、男性はぐいぐいと周囲の参加者を押し除けて前へ出る。
「こちらには従魔がかなりの数おられますよね!? その全てと従魔契約するのはとても難しい事なのではないですか!? 凄腕の高ランクの従魔術師でさえ、従魔契約できる数はせいぜい10匹程度だと聞いておりますが!?」
「そ、それは、」
「もし! もしお二方がこちらにいる従魔……魔物と従魔契約を交わさずに、預かり処なんて施設を運営していらっしゃるのなら、それは従魔術師協会のルールに違反している事になるんじゃないですかねぇ?」
「ええっ!?」
ざわざわと、参加者の間に動揺が走る。
突然の事態に狼狽えるラーハルトを下がらせて、ツバキが男性に対峙する。
「質問に答える前に、そもそもあなたは誰なの?」
「これは失礼いたしました。わたくし、中央新聞の記者ライリーと申します」
被っていた帽子を脱ぎ、名刺を差し出した男性、ライリーはにこりと笑う。
「そう、新聞社の記者さん。ところで、あんたうちの催しものをぶち壊してる自覚ある? うちに質問があるなら、普通に来なさいよ」
「いやあ、黒い疑惑のある所って、事前にお尋ねすると色々と隠しちゃうところがありまして……」
「黒い疑惑って何?」
一触即発な雰囲気が辺りに漂い始め、ツバキとライリー以外はみな口をつぐんでやり取りを見守る。
微かにサザンカも唸り声を発し出し、どうにも居心地の悪い空間となってしまった青空の下、それは突然舞い込んできた。
「──ツバキさん! 大変です!!」
まるで転がる勢いで庭に駆け込んできた人物が叫ぶ。
「鍛冶屋が、アリオスが素材収集から大怪我を負って帰ってきました!!」
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