捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

文字の大きさ
上 下
91 / 92
第11章 サザンカの長い一日

2

しおりを挟む
 『た~~~のし~!!』
 『う、ぎゃあああああああ!?』
 謎の穴から続いていたまるで滑り台のような急な坂道を、毛玉猫三匹とサザンカは転がり落ちていく。
 体感的にかなり長い距離を落ち続け、ふいに坂が緩やかになったかも、と思った次の瞬間に下り坂が上り坂になり、毛玉猫達とサザンカの体は空中へ投げ出され、勢いそのままべしゃりと地面に落っこちた。
 『ぶっ!!』
 『みゃあっ!』
 『うわあっ!』
 『みっ!』
 顔面から地面に落ちたサザンカは前脚で自身の鼻を押さえて悶える。
 一方、毛玉猫達はふわふわな毛のお陰か特に落下のダメージはなかったようで、楽しかったーと跳ねている。
 『……お、お前達! わけの分からん場所へ無闇に突っ込んで行くなっ! ……ん?』
 じんじんと痛む鼻を堪え、毛玉猫達を叱る為に顔を上げたサザンカだが、その視界にはふわふわの毛玉の姿はなく。
 サザンカは慌てて立ち上がり周囲を見渡す。
 ごつごつとした岩肌の薄暗い洞窟のような空間。
 どうやらサザンカ達はその洞窟のような空間の、ある程度開けた場所に上から滑り落ちてきたらしい。
 そして奥に続くような一本道、をずんずんと進んで行こうとしている三匹の毛玉。
 『……ぉおお──い!!』
 サザンカは一足飛びで毛玉猫達の前に立ち塞がる。
 『勝手に動き回るな!』
 『ええ~っ! けち!』
 『でもでもだって、ここ、おやつないよぉ。おやつ探しに行きたいよおっ』
 『だからって何故奥に進んで行こうとするっ! 帰るぞ!』
 『みゃあ~っ!!』
 喚く毛玉猫達をサザンカはがぶっ、と口に咥える。
 まあ、ちと骨は折れるだろうが、落ちてきた穴というか坂道をなんとか登るか、と気合を入れるサザンカだったが、キナコの涙交じりの言葉に脚を止めることになった。
 『ぅええ~ん……帰り道どこお……ふえええんっ!』
 『ふぁ?』
 サザンカは毛玉猫達を咥えたまま、勢いよく振り返る。
 振り返ったそこには、落ちてきた穴がある──筈だったが、目に映るのは何の変哲もない岩壁。
 『……はっ?』
 ぽと、ぽと、ぽとっとサザンカの口から毛玉猫達がこぼれ落ちる。
 サザンカが呆然としているのをいいことに、すかさず毛玉猫達は奥へ続いているだろう一本道へ戻ろうと元気良く跳ねて行く。
 『探検だ~っ!!』
 『ねえ~おやつあるかな~?』
 『ふええん……おうち帰りたいよお~』
 『……はっ! こらあっ!! だから待たんかって……んっ!?』
 はっと我に帰ったサザンカが急いで毛玉猫達を追いかけようと顔を向ける。
 と、毛玉猫達の前方にうごめく影。
 『──っ危ねえ!!』
 『みゃっ?』
 突然ナニかが飛び出して毛玉猫達に襲いかかる。
 毛玉猫達に覆う影。
 前方へ跳ねていた小さな体は止まれない。
 ぱっくりと大きく開かれた口が、毛玉猫達を飲み込もうと──
 『……っさ、せるかあ!!』
 『ギイイイイイイッ!』
 遥か後ろから風のように駆け抜けてきたサザンカの鋭い爪が、毛玉猫達に襲いかかろうとしていた影を切り裂いて吹き飛ばす。
 『みゃあ~……びっくりした~!』
 『わっ、これ知ってるー! すらいむだあ!』
 『ふえっ! こここ怖いよおおおお! ツバキー! ラーハルトー!!』
 『……スライム? 魔物っ!?』
 サザンカは自身の爪に僅かに引っ付いて残ったベトベトの液体と、吹っ飛ばされたスライムの残骸を交互に見て真っ青になる。
 『ここダンジョンじゃねえかああああああ!!』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

【完結】ごめんなさい?もうしません?はあ?許すわけないでしょう?

kana
恋愛
17歳までにある人物によって何度も殺されては、人生を繰り返しているフィオナ・フォーライト公爵令嬢に憑依した私。 心が壊れてしまったフィオナの魂を自称神様が連れて行くことに。 その代わりに私が自由に動けることになると言われたけれどこのままでは今度は私が殺されるんじゃないの? そんなのイ~ヤ~! じゃあ殺されない為に何をする? そんなの自分が強くなるしかないじゃん! ある人物に出会う学院に入学するまでに強くなって返り討ちにしてやる! ☆設定ゆるゆるのご都合主義です。 ☆誤字脱字の多い作者です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。